追憶のエピローグ
キンレイの依頼で始神家の一家【神夜】でありながら、同時に国の防衛の要ともいえる組織、シックス&ナイツの一つN•Gのマスターをしている現神夜家当主、神夜結夜の実の娘、神夜結菜の護衛をすることになった、七実と九実は、二人揃ってキンレイと共に【神夜】の屋敷へ向かっていた。
「わーぉ。おっきーねぇー」
「……巨大」
【神夜】の屋敷に辿り着いた時、七実と九実が最初に発したのは、その屋敷の広さへの驚きだった。
七実はワクワクとした表情を浮かべ、九実は相変わらずの無表情だったが、パッと見ではわからないくらい、ほんの少しだけ、口元が釣り上がっていた。
(おっ?やっぱり九実も結構乗り気だねー)
九実が微かに笑っていることを即座に見抜いた七実は、心の中でガッツポーズをしていた。
「さて、ここにいるのはこの国、刀和国のトップスリーの一人だがらな?くれぐれも失礼のないようにするんだぞ?」
「わかってるよーだ。【神夜】の主でしょ?……強いのかな?」
キンレイが二人、というより、主に七実に向かって注意すると、七実は口ではわかっていると言っているが、最後のつぶやきには戦闘狂と言ってもいい七実の本性が見え隠れしていた。
「ほ、本当に大丈夫だよな?いきなり襲いかかったりしないよな?な?」
七実の笑みに嫌な予感がしたキンレイが、不安そうな表情を全力で出しながら確認していた。
「わかってるわかってる。そんないきなりなんてしないってー」
「そ、そうか?わかってるなら良いが……」
キンレイは今だに不安そうな表情だったが、これ以上ここで論議を交わしていたとしても、結果は変わらないと思い、屋敷の敷居を跨いだ。
「おっ?」
「……何?」
「さっそくか……」
キンレイたちが敷居を跨ぐと、突然地面が盛り上がり、バスケットボール程度の大きなの球体がいくつも飛びてで来た。
球体にはいたるところに穴が空いており、その穴はまるで銃口のようにも見えた。
球体がキンレイたちを包囲するように展開すると、突然、メッセージのようなものが聞こえた。
『侵入者に告ぐ、繰り返す。侵入者に告ぐ。ここは偉大なる【神夜】が者が住まう神聖な屋敷である。侵入者は即刻立ち去ること。これから五秒のカウントダウン後に出て行かなければ、敵対者と判断し、一斉射撃を始める。カウントダウンを開始する。五ーーー』
「金欠ー。どうすんの?壊す?」
七実が少量の幻力を纏いながら刀を取り出すと、七実にとっては少量でも、キンレイからしたらあまりにも膨大過ぎる幻力を纏った七実に焦りを見せていた。
「こらこらこらこらっ!やめろって!俺に任せろ!」
「んー。りょーかーい」
どうにか七実の矛を収めることに成功したキンレイは、大きなため息をつきながらも、懐から一枚の紙を取り出した。
「俺はギルドから派遣された遠山キンレイという者だ。こちらの二名は今回の護衛依頼を受けたギルドの者だ。俺がギルドの者だという証明だ。これを見てくれ」
キンレイはそういうと、先ほど取り出した紙を掲げた。
宙に浮かんでいる球体の内、一つがキンレイの目の前まで移動すると、表明にたくさん空いている穴の一つをまるで目のように使い、キンレイの掲げた紙を確認していた。
『ギルドの紋章を確認。カウントダウンを停止する』
「ふー。どうにか穏便に終わりそうだな」
カウントダウンが停止したことで、キンレイが安堵の息を漏らしていると、メッセージはそれで止まらなかった。
『これより、護衛依頼受託者の適性テストを行います』
キンレイが安堵したのも束の間。
キンレイの安堵を消し飛ばすようなメッセージが流れた後、突然『スタート』というメッセージが流れた。
「よっとっ!」
「……斬る」
「うおっ!!」
メッセージが終わった瞬間、七実たちを包囲していた空飛ぶ球体たちが空いている穴から一斉射撃を開始すると、七実は先ほど取り出していた刀を振るい、後ろから飛んで来る弾丸たちを斬り落としていた。
九実も九実で、刀を手元に出現させると、刀を一閃。
たったの一振りで正面から飛んでくる弾丸たちを全て細かく刻んでいた。
「おいおい。嘘だろこいつらこんな強いのかよ」
二人の技術を始めて見たキンレイは、思わず感嘆の意を漏らしていた。
一見、何度も刀を振るっている天真爛漫、大胆不敵な少女、七実よりも、たった一度で全ての弾丸を微塵切りにしたクールっ子こと、九実の方が、凄いように見えるが、実際には二人とも同等だ。
まずは七実だが、銃弾の速度は亜音速だ。
それ程のスピードで数十数百と、ほぼ同時に飛んでくる弾丸をほぼ同時に斬り裂いた七実の斬撃の速さは、正に脅威だ。
それだけではなく、弾丸は一つ一つ、斬り方が違かった。
この世界でも弾丸を作るのは手作業ではなく、機械だ。
そのため、弾丸の一つ一つにはムラがあるのだが、七実はそれをあの刹那で見極め、弾丸一つ一つを最も効率的に、楽に斬れる方向から適切な威力で斬り裂いていた。
七実が弾丸を斬り裂くとき、刀の斬れ味が凄いことを除いても、手応えはまるで豆腐を斬るかのように軽かっただろう。
七実の強みは、対象者の弱点を一見で見極め、かつそれを戦いに活用する柔軟な思考と素早い処理能力。
何よりそれを実際に行うだけの技術だ。
対して、九実はたったの一振りで全ての弾丸を斬り裂いたのだが、幻力は割と単純だ。
九実は刀を振り抜く時に、幻力を刀に纏わせ、まるで網目状の団扇のような形にしたのだ。
しかし、網目状になった幻力は、全てがあまりにも細く、結果、幻力を見れば大きな団扇を振るったことになるのだが、それを目視出来たのは七実と九実だけだった。
「さて、次は本体だね」
七実はニヤリと笑うと、刀を空飛ぶ球体に向かって振るわずに、アイコンタクトを九実と交わしていた。
七実とアイコンタクトを交わした九実は小さく頷くと、キンレイを守るように移動すると、全方位、どこから攻撃が来ても大丈夫なように、幻力で自分とキンレイの周囲を覆っていた。
九実は自分の願い通り、キンレイの守りをやってくれてるのを確認した七実は、空飛ぶ球体を全て華麗にスルーすると、屋敷の門まで向かった。
「おいっ!七実っ!どこ行くんだよ!」
「大丈夫。七実は言った。次は本体だと」
七実の突然の行動に、慌てるキンレイだったが、九実がそんなキンレイを静かに窘めていた。
「さて、ぶった斬るよーっと!」
七実はそのまま門に突撃すると、刀を振り上げ、多量の幻力を刀に纏わせた。
「な、なんだこの量はっ」
「七実ちょっと本気みたい?」
「あ、あれでちょっとなのかっ!?」
七実の感覚で多量に放出された幻力は、一般的なキンレイからすれば、あまりにも膨大な量だ、
九実の発言を聞いたキンレイは、七実の本当の力に驚き、それを特になんとも思っていない九実にもまた、脅威を覚えていた。
(この二人は絶対、敵に回したらダメだな)
心の中で静かに誓うキンレイだった。
「てりゃりゃーっ!」
七実はそのまま刀を振り下ろすと、門を綺麗に真っ二つにしていた。
「鬼さんみーけっ」
七実はそう言って、斬った門の中を指差すと、そこから現れたのは、一人の少年だった。
「凄いですね。完璧に気配は消していたはずだったのですが……」
「君は?」
「初めまして。僕の名前は結宵。神夜結宵といいます」
『ゆう』のほうにアクセントをおく、結宵と名乗った少年は、七実たちよりも二つ三つ年上だろう。
見た目としてはごくごく普通であり、全体的に細く、優男に見える。
顔付きも優しそうであり、いそうで中々いない、平凡な優しいお兄ちゃんって感じだ。
「ゆ、結宵様ではありませんかっ」
「ん?あっ……金欠……」
七実が結宵を見つけたことで、空飛ぶ球体は全て動きを停止しており、空飛ぶ球体ではなく、地面に落ちてただの穴の空いた球体になっていた。
後ろから現れたキンレイに七実が反射的に悪口?を言うと、キンレイは「金欠じゃねえ、キンレイだ!」っと反論しつつも、結宵のことを気にして、声量が小さかった。
「結宵様って?こ人誰?」
「今自己紹介して下さっただろ!?このお方は神夜結宵様。次期【神夜】の当主様だっ!」
何やらテンションがいつもの三割増しで暑苦しく説明するキンレイに、七実は「へー」っと冷たく返事すると、結宵に視線を向けた。
「流石は次期当主ってとこ?その年であれだけの量の仕込み球体を浮かべされるなんてね」
「凄いですね。まさか今の戦い、最初から見破っていたんですか?」
「とうのぜんだねっ!あれって、【神夜】の十八番、【重力操作】でしょ?」
「……参りました。ご明察通りです」
【神夜】の秘術【重力操作】の力を使い、複数の仕掛け仕込みの球体を複数操作し、引力を使って球体の中の仕込みを操作して敵を攻撃する、それが結宵の戦い方だ。
この世界にとっても大切とも言える始神家の一角を担っている者としては、身を隠し、防御と攻撃を同時に出来るこの能力は良いと言っていいだろう。
七実はあの空飛ぶ球体を見て、それが何か別の力で動いていることを見破り、幻力を探ることによって結宵の居場所を突き止めていたのだ。
「男?娘じゃなかった?」
「あっ、今回の護衛依頼は僕じゃないですよ?……結菜、隠れてないでおいで」
男である結宵を見て、娘だと聞いていた九実が首を傾げていると、結宵がさっきから物陰に隠れている少女を手招きしていた。
「はっ、はいっ!お、お兄様」
結宵に言われ、隠れていた少女は緊張を声に幾分に含めながらトコトコとやってくると、ガチガチに固まりつつ七実たち三人に頭を下げた。
「は、はじめまして。今回お世話になる、ゆ、結菜です!よろしくお願いします!」
これにて、第五章は終了となります。
どうぞ、これからも天使達の策略交差点をよろしくをお願いします。




