表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/358

5ー50 義妹登場!


 あの事件で雪乃は死に掛けている。


 奏がいなければ、今頃雪乃のここにいなかっただろう。


 そのため、零王と同じ姿をしている結のことを、潜在意識で恐れているのだ。


 普段はいつも通りのように見えるし、結にも軽口をたたくが、結の怒りを買ったと思った途端、恐怖で震え上がってしまうのだ。


「雪羽、そろそろ終わりにしてください」


「む。これからが面白い所なのだよ」


「……はぁー。結いいですよ」


 奏は雪羽の邪魔をしないように捕らえていた結を解放すると、今度は雪羽を止めるために結を発進させていた。


「おーい。雪乃ー、それ俺じゃなくて雪羽だぞー」


「ごめんなさい…………へ?」


「む。余計なことをなのだよ」


 雪乃のことを踏み付けているのが結ではなく、雪羽だとやっとのことでバラすことが出来ると、今までずっと謝罪を続けていた雪乃の目に一気に光が戻ると、踏み付けから逃げるべく、体を動かそうとするが、雪羽にそのまま踏み付けにされていた。


「雪羽ーっ!はーなーせー!」


「自力で頑張るのだよ。雪乃」


「……あたしを、あたしを舐めるなっ!」


 ニヤニヤとした、嫌な言い方をした雪羽にキレた雪乃が、無理やり体を起こすと、その反動で雪羽を小さな悲鳴と共に、後ろに転けていた。


「ふふふ。雪羽ー。よくも踏み付けにしてくれたなー!」


「ま、不味いのだよ」


 身軽に飛び上がった雪乃は、尻餅をついている雪羽の前まで歩み寄ると、今度は雪乃が嫌な笑みを浮かべていた。


 さっきとは完全に逆の状態に、今度は雪羽が冷や汗を流していた。


 雪乃の両手の指をウヨウヨで動かすと、ゲスな顔で雪羽に近付いた。


「へへへ。雪羽ちゃーん。ちょっとおじさんと遊ぼっかー」


「や、やめるのだよ。その手はすごく嫌な予感がするのだよっ」


「問答ー無用っ」


 雪乃は雪羽に飛び付くと、雪羽の全身を全力でくすぐっていた。


 雪羽はそれに我慢できずに、いつも冷静な雪羽とは違い、大声で笑続けていた。


「はぁー。なんつうか、残念だよな。いろいろ」


「クスクス。今更ですよ?」


 結がため息混じりにつぶやいていると、それを隣で聞いていた奏は手を口元に当てて、小さく笑っていた。


 結たちがまったりとした時間を過ごしていると、来客を表すとランプが点灯していた。


「あっ。来客のようですね」


「俺がいこうか?」


「いえ。たまには体を動かしたいので、私が行きます」


「そうか?んじゃ、いってらっしゃい」


 奏は「いってきます」っと小さく微笑むと、来客人を迎えに、地下一階。玄関ホールへ向かった。


 雪乃と雪羽はいつの間にか、くすぐり合いへと発展しており、互いが互いを絶えずくすぐりあっていた。


  二人とも和服で絡み合っているため、徐々に和服がズレて、放送してはいけないのではないかと思うくらい、ギリギリの格好になっていた。


 最初は二人の絡み合いを見世物感覚で見ていた結だったが、二人の服が乱れ始めた頃から目線を外していた。


「戻りました」


 奏が戻ってくると、絡み合いをしている二人を覗いたメンバーが「おかえりー」っと一斉に返した。


「二人はまだやっていたんですか?」


「奏、二人の格好がアレだからそろそろ止めてくれ」


「……別にいいんじゃないですか?今更結に体を見られようと、気にしないと思いますが?」


「俺が気にするんだよ!」


 さも当然のことを言うように言う奏に結が反論をしていると、結はふと奏の後ろに誰かがいることに気付いた。


「ん?後ろ誰いるんだ?」


「先ほどの来客人ですよ」


「へぇー。誰の客人だ?」


「あなたですよ。結」


 奏の言葉に、結が「へ?」っと驚いていると、奏はずっと後ろに隠れていた人物をやや強引に前に出した。


「あっ、お前は……」


「お、お久しぶりです。お義兄様」


「……結菜」


 そこにいたのは結の義妹だった(・・・)神夜結菜だった。


 結菜は義兄に久し振りに会ったため、いつものじゃじゃ馬っぷりはなりを潜め、少し頬を赤くして緊張をありありと表していた。


「お、お義兄様。結菜はーー」


「結菜。もう、俺のことは義兄(あに)って呼ぶな」


「で、でもお義兄様ーー」


「俺はもう【神夜】じゃない。コードを無くし、音を失った者。音無結だ」


「……お義兄様」


 何かを言おうとした結菜を遮るように結が大声を出すと、結菜は戸惑いながらも、もう一度、結の事をお義兄様と呼んだ。


 結は、もう【神夜】の人間ではなかった。


 結が【神夜】に入った上で、【A•G(エンジェル・ガーデン)】の一員であるために【A•G(エンジェル・ガーデン)】のトップ、如月奏と、【神夜】のトップ、神夜結一の間に交わされた契約。


 それは、【A•G(エンジェル・ガーデン)】の手で反乱分子になりうる組織を合計一○○殲滅すること。


 しかし、最後の一○○個目であった【ノーンマギカ】で、担当となった結と雪乃は実行する前に失敗してしまった。


 失敗の原因となったのはもちろん、結の暴走だ。


 その時の暴走は今までの暴走とはレベルが違い、その時は奏の手によって即座に封じられたものの、その後、結は目覚めると同時に暴走を、零王化を始めていた。


 二度の連続暴走によって、結の身体には大きな負荷が掛かっており、これ以上の暴走は下手をしたら命を縮めかねないと判断された。


 奏たちは結の暴走の原因を調べていた。


 確かに、前々から結の力は不安定であり、幾度も暴走をしてきたが、それでもこれほどの短い期間で二度も暴走するのはおかしいと考えられていた。


 そして、調べる中で、結の暴走を促進させていたのは、結が新たに得た力。【神夜】の力だと判明していた。


 【神夜】の力。


 つまり、【記号持ち(コーズ)】の力とは、通常幻操が法具に刻まれた式を主に利用するのに対して、幻操師の無意識領域に直接刻まれる。


 無意識領域とはつまり、意識を必要とせずに起こる行動や記憶などを司る部分だ。


 言い換えれば、この無意識領域とは心の一部であり精神と深い結び付きがある。


 ここに外部、【神夜】の力を後から付け加えたため、結の精神に負荷を与え、それが幾度の暴走へと繋がった。


 そう判断した奏は、再び【神夜】当主、結一の元に訪れた。


 そして、【神夜】であり【A•G(エンジェル・ガーデン)】に所属するという契約を、結を【神夜】から脱退させた上で、結を始末しないという契約に変更させた。


 結を元に戻すには、当然、原因である【神夜】の力を抜かなくてはならない。


 しかし、これが出来るのは力を与えた結一だけだ。


 そして、【記号持ち(コーズ)】の秘術を一度与えられた物がそれを捨てたとしても、【記号持ち(コーズ)】の秘密を守るために、脱退者、言い換えれば、裏切り者は始末するのが通常だ。


 だからこその新しい契約だった。


 もちろん、まだ殲滅していない【ノーンマギカ】の代わりに、奏は別の組織を潰していた。


 本来ならば契約の変更なんて無理。


 特にコードは抜かれたとは言え、一度でもコードを身体に刻まれた者を野放しにするのは【記号持ち(コーズ)】としてあり得ない。


 ここは奏が割と強引な方法を使って解決したのだが、結一としても、どうやら結のことを気に入ってるようで、あえて見逃したらしい。


「確かに、お義兄様はもう、お義兄様ではないかもしれません。でも、結菜はお義兄様のことをお義兄様とお呼びしたいんです。お願いします」


「結菜……」


 結菜はほぼ泣いてるのと同義だった。


 目は赤く腫れており、恐らくここに来る前に、たくさん泣いたのだろう。


 結が【神夜】に入った後、結は【A•G(エンジェル・ガーデン)】で暮らしていたが、よく【神夜】にも足を運んでいた。


 その時は、いつも結菜は結のことをお義兄様っと何度も呼び、よく甘えていたものだ。


 たとえ、血のつながりが無くても、結菜にとって結は大切な、とても大切な家族なのだ。


 結菜は結よりも背が低い、そのため見上げるように結を見つめる結菜は、わざとではないのだが、自然に上目遣いになっていた。


「……はぁー。わかったよ。俺は本当のお義兄ちゃんになれないけど、お義兄ちゃんのフリはしてやるよ」


「お義兄様っ!」


 結が頬をかきながらそう言うと、結の言葉を聞いた結菜はパッと花が開いたような満面の笑みになると、そのまま結の胸の中にダイブした。


「おいこらっ!いきなり抱きつくなってっ!危ないだろ!?」


 結が注意しても、結菜は頭を結に擦り付けて、ずっと「お義兄様ー、お義兄様ー」っと言っていた。


「だから、やめろ……あっ……結菜」


 結菜の声が泣き声になっていることに気付いた結は、結菜を拒否せずにそのまま結菜のことを優しく、まるで本当の兄のように抱き締めていた。











「それで?結菜様はどうしてこちらに?」


「にゃ?結にゃんは結にゃんに会いに来たんじゃないのにゃ?」


「私もそう思ったのですが、そうだとしたら結が【神夜】を抜けて既に半年ですよ?不自然じゃないですか」


「本当だにゃ!さすが姫なのにゃ!頭良いにゃ!」


「いやいや、今のは小雪がアホの子なだけでしょ?」


「ほう、雪乃はわかっていたのか?」


「……と、当然にゃ……」


 雪羽が疑いの目を雪乃に向けていると、雪乃は思いっきり目を逸らしていた。


「小雪の真似をしても誤魔化せないのだよ」


「そうだにゃ!雪乃のにゃにゃ(私)と同じアホの子だにゃ!」


「……小雪は自分がアホの子だということは否定しないのですね」


 自分がアホの子だと否定しない小雪に、美雪は呆れ半分の表情を浮かべていた。


「……それで、結局結菜様の御用はなんですか?」


 六花衆が勝手に盛り上がっているのを横目に、奏はため息を一つ、やれやれといった風に、結菜に同じ質問をした。


「あっ、えーとですね。【A•G(エンジェル・ガーデン)】で闘技大会が開催されると聞いて、お父様に結菜も参加するようにと言われまして」


 結と初めて会った時は、落ち着きが無いというか、年齢に相応な子供らしい子供だった結菜だったか、結が結菜のために【再花】を発動し、力を失ってから、結菜の精神面は飛躍的な成長を遂げ、たったの半年しか経っていないにも関わらず、言葉遣いも丁寧になり、アホの子がほとんど抜けているようだった。


「闘技大会?確かにあるけど、結菜様も出るの?」


「はい。そうしたいのですが、ダメですか?」


「そうですね。本来なら外部の人はご遠慮するのですが、相手は結菜様ーー」


 奏はそこで一度止めると、ちらりと結を見た。


「ーー結の義妹(いもうと)ですしね」


 結菜は、奏が外部の人と言った瞬間に、さみしそうな表情を見せるものの、最後の結の義妹(いもうと)宣言で、一気に満面の笑みへと変わっていた。


「やった!やった!お義兄ちゃんと戦えるーっ!わーい、わーい」


 結菜は嬉しそうに、バンザイをするように、その場でピョンピョンと飛び跳ねていた。


「……えーと」


「……まぁ、そうだよな」


 結菜の突然の変貌に、一同は結を除いて驚いた顔になっていた。


 結の場合、そんなすぐに変われる訳がないと内心思っていたため、驚きよりも、むしろ呆れに近い心情だった。


(でも、簡単に淑女のメッキが剥がれるとしても、半年でよくここまで落ち着いたな)


 心の中で結菜を賞賛する結だった。


「……結菜。剥がれてるぞ」


「ふぇ?何がーお義兄ちゃーん。…………あっ」


 テンション上がりまくりで絶えず飛び跳ねている結菜に、結が呆れながら声を掛けると、結菜は完全に前の結菜の状態で結に甘えていた。


 結に抱き付き、結の胸に頬擦りをしながら甘い声を出す結菜は、ハッとしたように我に変えると、凄まじいスピードで結から離れ、顔を真っ赤にしながら「あぅー」っと俯いていた。


「へぇー。なんか、結菜様って言うよりも、結菜ちゃんって感じ?」


「そうだにゃー。結にゃんだにゃー」


 元気が取り柄の少女、雪乃と、猫耳のように見える髪型が特徴的な少女、小雪は、二人でわざとらしく内緒話をしていた。


 もちろん、話し声は丸聞こえだ。


「あぅー」


 二人のひそひそ話を聞いて、結菜はさらに小さくなっていた。


「こら。二人ともいい加減にしろ」


「うにっ」

「にゃうっ」


 結が二人の頭にチョップをすると、小雪は猫耳キャラのためまだわかるが、雪乃の場合は何故そうなったのかわからないような鳴き声をあげていた。


「痛いなーなにするのさ!」


「そうだにゃー。痛かったにゃー」


「うるさい。二人とも俺の可愛い可愛い義妹(いもうと)で遊びやがって」


 結菜のためという訳ではないが、結菜のお義兄ちゃんのフリをすると決めた結は、完全に結菜のことを義妹(いもうと)として扱うことにしていた。


 結はそう言いながら庇うように結菜を抱き締めると、結に正面から抱き締められた結菜は、顔をまた別の意味で真っ赤にしていた。


「はふぅー」


 結がそのまま結菜の頭を撫でていると、結菜は気持ち良さそうに目を細めていた。


「……最近。私のヒロイン力が少ない気がします」


「……まぁまぁ。義兄と義妹の恋愛って需要高いし?」


 奏が不服そうに呟くと、偶然それを隣で聞いていた雪乃は、あははと乾いた笑い声を漏らしながら、奏にフォローを入れていた。


 明日は午後九時を更新予定にしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ