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5ー49 閉ざされる結末


(消えただと?)


 零王が大鎌を振り下ろした瞬間、ついさっきまで目の前にいた雪乃の姿がまさに消えたかのように、消滅していた。


 これは、零王の仕業ではなかった。


 突然目の前から人気が消えたことで、零王は動揺していた。


(違う。これは消えたのではない。移動したのだ。余の目ですら追えぬほどのスピードで)


 零王が辺りに注意を広げると、突然、綺麗な声が部屋の中に響いていた。


「はぁー。まったく、暴走の次は零王化ですか……。仕方がない子ですね」


「……貴様は」


 零王が声の聞こえたほうに振り向くと、そこにいたのは、


「あなたと会うのは初めてですね。零王」


「……如月、奏」


 【A•G(エンジェル・ガーデン)】創立者。


 如月奏だった。


「ほう。貴様の仕業だったか。ならば余の目で追えぬのも当然か」


 零王が奏の手に意思を向けると、そこには奏に抱かれている雪乃の姿があった。


 どうやら雪乃は今のショックで気絶してしまったようで、奏の腕の中でぐったりとしていた。


「……それはどういう意味ですか?」


 奏は怪訝な表情を浮かべていた。


「わかっているのだろう?今の余では貴様には勝てぬと」


「……そう思うのでしたら、何故出てきたんですか?」


 奏は零王にジト目を向けていた。


「ふん。貴様には関係なかろう」


「そういう訳にはいきません。その体の持ち主、結は私の大切な家族ですから」


 奏が小さく首を横に振りながら話すと、零王は鼻を鳴らしていた。


 その顔は不機嫌そうに歪んでいた。


「家族だと?貴様に何がわかる!余が、結が何を見てきたのか!家族など余にはいらぬ!大切なものなど余にはいらぬのだ!」


 零王は奏の言う『家族』という言葉に、あまりにも過剰に反応を示していた。


(家族……。私たちと出会う前のトラウマか何か。それが強く家族を、いえ、大切なものを拒絶しているようですね)


 零王の瞳に映るのは、怒り、そして悲しみだった。


「はぁー。聞いていた話しとはだいぶ違いますが、取り敢えずは結を取り戻すとしますか」


 奏がそうため息をつくと、零王は静かに笑いを漏らしていた。


「……何がおかしいんですか」


「滑稽だな。小娘」


「……」


「小娘。貴様はどこまで知っている

。余という存在に、調べたのであろう?」


 零王の問い掛けに、奏は黙りこくっていた。


「姫っ!」

「お嬢様!」

「姫ぇー!」

「奏様!」

「お嬢様ぁー」


 病室の扉が大きな音を立てて開かれると、そこからは雪乃を除いた五人の六花衆、雪羽、美雪、小雪、雪、リリーが現れた。


「……みんな」


 皆が来たことに気付いた奏が皆の方に振り向くと、奏の表情を見た六花衆は、目を大きく見開らいていた。


 奏は、涙を流していた。


「お嬢様っいったいなにがあったのですか」


 気絶している雪乃を一瞥した美雪が、珍しく慌てた様子で奏にそう詰め寄ると、奏は弱々しい声で一言「ごめんなさい」っとつぶやいた。


「ほう。全員集合という奴だな」


 奏が結を取り戻すといった瞬間、突然それまで瞳に映っていた怒りや悲しみが消失した零王は、【A•G(エンジェル・ガーデン)】の全隊長がこの部屋集まったことで、口元を僅かに上げていた。


「お、お師匠様!?いったいここでなにがあったのですか!」


「リリー!いつもの主とは様子が違うのだよ!」


 眠っていたはずの結が起きていることで、リリーが喜びを表すと同時に今の状況に混乱していると、そんなリリーに雪羽が一喝した。


「っ!?こ、これってもしかして、お嬢様……?」


 雪羽に言われ、改めて結の様子を見たリリーは、表情を一気に真っ青にしていた。


 リリーに問われた奏は、抱き締めていた雪乃を小雪に預けると、周りにいる六花衆の皆を手でどかし、結の前に詰め寄った。


「姫!危ないです!」


「そうにゃ!今の主様は普通じゃないのにゃ!」


「これは結ではありません。結の中に秘められし、もう一つの存在。名は零王」


「っ!これが!」


 奏が皆に今の結がなんなのかを言うと、それを聞いた皆は、それぞれ違うことを感じていた。


「六花衆。命令です」


「っ!」


 突然の奏の命令発言に、それぞれ違いはあれど、共通して動揺していた六花衆の面々は、驚き、奏へと視線を向けていた。


 【A•G(エンジェル・ガーデン)】のルール。


 各隊員は己の所属する部隊の隊長が命令には絶対。


 しかし、命令以外には従わなくても良い。


 これは、【A•G(エンジェル・ガーデン)】創立時からのルールの一つだ。


 隊長の言葉が命令か否かの判断は、命令の最後、または最初に命令だと明言する言葉があるか無いかで判断される。


 本来、このルールは各隊の規律を守るためなのだが、このルールは奏と六花衆の間にも適用される。


 つまり、奏が命令と明言した上での言葉は、六花衆は絶対に従わなくてはならない。


 しかし、この命令ルールが使われたことは過去、全ての隊で無い。


 元々人数も少なく、仲の良いメンバーで作られたため、強制力のある命令をしなくても、皆がちゃんと従うからだ。


 奏も過去に一度も命令をしたことはない。


 そのため、今、初めて奏が命令だと明言したことで、六花衆には緊張が走っていた。


「あなた方では零王と戦ったとしても、万が一の勝ち目もありません。ですので、雪乃を連れて即刻この場から離れて下さい

。それから、全生徒に私の許可があるまでここに近付かないように命令をして下さい」


「姫ぇっ!」


「小雪!駄目なのだよ。命令は絶対っ忘れた訳ではないだろう!」


「でも!」


 奏の命令に反論を言おうとした小雪を、雪羽が黙らせると、小雪は悔しそうに涙をこぼしていた。


 しかし、奏の命令はそこで終わりではなかった。


「っと、言いたいところなのですが……」


 続けられた奏の言葉に、六花衆は俯いていた顔を上げた。


 その表情には嬉しさと、期待に満ちていた。


「私一人では零王を封じることは恐らく不可能です。ですので、手伝ってもらおうと思います」


「わかったにゃ!どうすればいいにゃ?」


「小雪、落ち着くのだよ。姫の話はまだ終わっていないのだよ」


「気絶してしまっている雪乃の事も心配ですし、ここは役割分担が妥当ですね。小雪は雪乃を安全な場所に、移動後はそのまま雪乃の護衛。」


「わかったにゃ!」


「雪羽と美雪はここに誰も近付かないようにして下さい」


「承知したのだよ!」

「かしこまりました!」


「リリーと雪はこの場に残ってわたしのサポートをして下さい」


「了解なのですぅ!」

「わかりました」


「それでは、散っ!」


 それぞれに命令をした奏の掛け声と同時に、皆はそれぞれの命令をこなすために散った。


 部屋に残った奏、リリー、雪の三人は、他の三人が出て行くのを確認すると、雪が即座に動いていた。


『凍結=牢獄』


 雪は部屋全体を凍らせると、完全にこの部屋を外部から隔離していた。


 雪が部屋を凍らせると、その速度と氷結強度に零王は思わず「ほう」っと感嘆の意を漏らしていた。


「さて、これでやっとゆっくりあなたとお話しが出来ますね」


 雪が部屋の隔離を終わらせると、奏は冷たい目を零王に向けたまま、そうつぶやいた。


「余と話がしたいと言うか。ククッ、そうは思えんがな」


 対話をしようと言っている奏に対し、雪とリリーは零王を囲うように移動していた。


 三角形の中心に零王、三角形の角それぞれに奏、リリー、雪が配置するように動くと、リリーと雪は零王に向かって手をかざし、いつでも術を発動出来るように準備をしていた。


「二人は念のためです。あなたとお話しがしたいというのは本当ですよ?」


「話だと?今更なにを話すと言うのだ」


「今、あなたの中で何が起きているかです」


 奏が冷たい目のまま聞くと、零王は小さく驚いたかのように「ほう」っと声を漏らしていた。


「そこまで気付いているとはな、相変わらず恐ろしい小娘だ」


「さっき言いましたよね?今の自分では、私には勝てないと。その時にも聞きましたが、もう一度聞きます。私に勝てないと知っておきながら、どうして今出てきたのですか?」


 奏が淡々とした口調でそう聞くと、零王は前の会話の時を思い出したのか、不愉快そうに顔を歪めた。


「小娘、貴様は余が何であるか大方の検討をつけているのだろう?」


「……力に飲み込まれた。言い換えれば、闇堕ちした結……ですか?」


 零王はふっと小さく笑った。


「間違ってはいないな。……つまり、そういうことだ」


「……私の……せい……」


 零王が言わんとしていることに気付いた奏は、再び、涙を流していた。


「姫ぇー!どういうことなのですぅーっ?姫のせいってどういうことなのですうーっ!」


 奏と零王の会話を聞いていたリリーと雪は、二人とも頭に大量のクエスチョンマークを浮かべていた。


「奏様!反省は後にして下さい!今はこの状況の解決が先です!」


 何かに迷っているようにも見える今の奏に、雪がそう一喝すると、奏は小さく「そうですね」っとつぶやき、目に光を灯した。


「零王。確かにあなたは私の不手際で生まれたのかもしれません。私じゃなかったら、もっとうまくいったかもしれません」


 奏は静かに目を閉じると、まるで罪を告白する罪人のように語り始めていた。


「……ですが!私は諦めません!必ず、夢は実現させて見せます!」











「美雪隊長!了解しました!」


「お願いします」


 奏に生徒たちが病棟の方に近づかないようにするようにと命令された美雪は、同じ命令を受けた雪羽と別れていた。


「ふう。これでこちら側の生徒には全員に伝わるはずですね」


 美雪は会った生徒に病棟に近付かないようにと命令すると同時に、このことを他の生徒にも伝えるようにと、伝言を頼み回っていた。


 病棟にいくには、病棟のある階にエレベーターで行くことになるのだが、各部屋は各階のエレベーター室から四本伸びる廊下から行くことができる。


 エレベーター室を使わない限り病棟に行くことは出来ないのだから、各階の四本の廊下にそれぞれ一人ずつ伝言係を配置することによって、病棟に行く可能性のある人物に先に伝言が伝わるようにしたのだ。


 とはいえ、病棟とは怪我人のための施設であり、伝言係には他にも怪我人は美雪の部屋に行くようにとも伝えさせていた。


「私は怪我人が来た時とために自室に戻っておいたほうがいいでしょうね」


 美雪は自室に向かいながら、奏たちがいる部屋に注意を向けていた。


 奏たちは顕在幻力が大きい。


 そのため、ガーデン内であれば、意図的に幻力を抑えない限りどこにいるかわかるようになっている。


 そして、その幻力から大方の様子を知ることができる。


(とはいえ、戦闘中か否かくらいしかわからないのですが)


 顕在幻力が高いものがたくさんいると、外から場所を幻力によって探索されてしまいやすくなるのだが、【A•G(エンジェル・ガーデン)】は全体を覆うように特殊な結界が張り巡らせれているため、外から幻力で探索することは出来ないようになっている。


 美雪は自室に向かうエレベーター室の中で、奏たちのいる部屋の幻力を絶えず感じていた。


「っ!……どうやら、終わったようですね」


 さっきまで激しい暴れていた幻力が収まり、それは徐々に小さくなっていくのを感じ、戦いが終わったことを悟る美雪だった。


「伝言係に伝言撤回の命令をする前に、様子を見に行きますか」


 万が一にでも、まだ戦いが終わっておらず、その状態で伝言を撤回すれば不味いことになるため、美雪はエレベーターの行き先を自室から病棟へ変えた。


「こ、これは……」


 美雪が病室に辿り着くと、中で雪が部屋全体を凍らせたため、扉が完全に凍り付いていた。


「す、凄いですね」


 中にいる誰かがやったのだろうと検討付けた美雪が、なんとなく凍りついた扉をノックするかのように小突くと、その氷の温度と密度、つまり使用者の実力に感心していた。


「あっ……」


 美雪が感心するとほぼ同時に、凍り付いた扉から、白い冷気が溢れると、みるみる内に氷が溶けていった。


 ガチャ


 氷が溶け、元の扉となると、音を立てて少しずつ開き始めていた。


「お嬢様っ!」


「ただいまですね。美雪」


 扉から現れたのは奏だった。


「うぅー。疲れたのですぅ」


「流石に私も疲れたました」


 奏の後から奏と一緒に部屋に残ったリリーと雪が出てくると、美雪は「良かったです」っと目元を濡らしていた。


「ぬ、主様はどうなりましたかっ!」


 はっとしたように思い出した美雪は、さっきと一転、アワアワと慌て始めていた。


 そんな美雪を見た三人は、静かに三人で目合わせをしていた。


「美雪、冷静に聞いて下さいね?」


「……え?」


 重々しい口調の奏に、美雪は思わずアワアワとした動きをピタリと止めると、ゆっくりと奏へ振り向いた。


「それがですね……」


 奏の言葉を聞く前に、美雪の目からは大量の涙が溢れていた。


「……ごめんなさい」


 奏が静かに謝ると、リリーは困ったように、雪は一見、無表情に見えるが、かすかに口元を揺らしていた。


 そんな二人の小さな異変にも気付かないで、美雪はとうとう完全に泣き出していた。


「おいこらっ!勝手に殺すな!」


「……え……?」


 突然した声の方に振り向くと、そこにいたのは、全身ボロボロの、しかし、ちゃんと自分の両足で立っている結の姿があった、


「……主……様?」


「おうっ!」


「主様!」


「うおっ!」


 美雪は感無量の面持ちで結に抱き付いていた。


 突然抱きつかれた結は、最初は困った表情を見せたが、自分の腕の中で弱々しくないている美雪を見ると、優しく頭を撫でていた。


「うぅー。羨ましいのですぅー」


「まるでヒロインのようですね。奏様はどう思いますか?」


「……元はと言えば、私のイタズラのせいですし、今回はヒロインの座を譲ってあげます」


 奏は結に抱き締められている美雪に嫉妬しているのか、頬を軽く膨らませていた。


 

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