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5ー33 妖精の名を冠する者


「お、俺に聞きたいことってなんだ?」


 雪乃はチャラ男と共に、人目に付きづらい大通りの裏に移動すると、チャラ男から情報を引き出そうとしていた。


 壁際で座り込りこんでいる(恐怖の余り腰が抜けてしまった)チャラ男は、ガクガクと青い表情のまま、体を震わせていた。


「そんなに怖がらないでよー。ショックだなぁー」


 すでに雪乃の表情から満面の笑みは消え、殺気も全く発していないのだが、さっきのイメージが強いのか普段通りに戻っている雪乃に対して、強い恐怖を感じたままであった。


「まっいっかー。それで本題だけどさー?【ノーンマギカ】って知ってる?」


「ななな、なんでそんなにことを知っていやがる!それは一般人は決して知ってはならない名前だぞ!」


 チャラ男が焦った表情を浮かべ、アタフタとしているのを見た雪乃な、楽しそうに笑った。


「馬鹿だねー。つまり、あたしは一般人じゃないってことっ」


 語尾に音符が付きそうなくらい、上機嫌で言った雪乃の表情は明るいものになっていたが、それに反して、雪乃の目は冷たいままだった。


【氷結】【氷結造形(メイクアイス)短剣(ナイフ)


 氷属性の幻操術の中で、最も基本的な幻操、氷結によってチャラ男の足を地面に縫い付けた雪乃は、上機嫌のまま手のひらに氷のナイフを造形していた。


「ひぃぃっ!」


 チャラ男はこれから何が起こるのかを理解してしまっていた、そのため、その何かへ対する恐怖によって、見ていて可哀想になるくらいに怯えていた。


「何をしているんだっ!」


「ん?」


 そこに突然、声が響いていた。


 声の発信源へ視線を向けると、そこにいたのは、


(……勇者?)


 その姿は一言で表すならそれはそう、勇者だった。


 勇者とは救いの手や、英雄などを意味する比喩ではなく、純粋にその相手の姿は勇者だと思ってしまう風貌をしていた。


 アニメやテレビで出てきそうな勇者の剣に、同じく勇者が来ていそうな鎧。それに地面についてしまうのではないかと思うくらい長いマント。


 何がどう勇者っぽいのか説明しろと言われれば、それは不可能なのだが、紛れもなくその姿は勇者そのものだった。


 どうやら相手は雪乃が悪者だと思っているようなのだが、実際は雪乃が絡まれた被害者なのだが、大通りから外れ、裏道に入った途端雪乃は【A•G(エンジェル・ガーデン)】の代名詞とも言える格好、に着替えていた。


 そのため、知らない人から見れば、仮面なんか着けて怪しさ満点なのは雪乃のほうだった。


「えーと。誰?」


「黙れっ!悪に名乗る名前などないわ!私の名はテイル=フェアリー。由緒正しいフェアリー家の長男だっ!」


(そりゃ、怪しいのはあたしだし、悪だと思うよねー。……この制服結構好きなんだけど。……問題は仮面か)


 雪乃はそんなことを思いながらも、今テイルが言ったことに驚いていた。


 驚愕の理由は名前を名乗らないと言っているにも拘らず、思いっきり名乗っているからではない。


 確かにそれにも驚いたは驚いたのだが、


 思いっきり名乗ってんじゃんっ!。


 っというツッコミをする余裕は無かった。何故なら、雪乃は今目の前にいる人物の正体に、心から驚愕していたからだ。


 【幻理世界】にも様々な国がある。


 幻操師の英雄と呼ばれている始神家(ししんけ)十二の光(ブレイズ)は【幻理世界】全土の英雄というわけではない。


 あくまで一国内の話なのだ。


 主に始神家(ししんけ)十二の光(ブレイズ)が支配しているこの国の名前は【刀和国(とうわこく)】。


 わかるとは思うが、この刀和国とは、【物理世界】で言う日本だ。


 そもそも、【幻理世界】と【物理世界】にはそれぞれリンクしている場所がある。


 そのためなのか、世界地図を見るとそれはほぼそっくりに【物理世界】と【幻理世界】は等しい。


 しかし、その星の総面積で考えると、その差があまりにもあるため形はほぼ同じだが、広さはケタ違いだ。


 つまり、【幻理世界】での日本列島は刀和国という国であり、始神家(ししんけ)十二の光(ブレイズ)によって支配され、守られているのだ。


 今、雪乃の前に姿を表した青年、テイル=フェアリーの一族、フェアリー家とは、【物理世界】でいう北アメリカ大陸の始神家(ししんけ)に値する一族のことだ。


 ちなみにたが、【物理世界】と【幻理世界】がリンクしているといっても、それはその星の形だけであり、【物理世界】で日本に値する【幻理世界】の和ノ国が日本の国というわけではない。


 ただ、形が似ているだけでこの二つは異世界に近い。


 そのため、【物理世界】と【幻理世界】の国境線を見比べると、その違いはあまりにも大きい。


 まず、和ノ国は日本列島とその周りにある【物理世界】ではないはずの島々を国土にしている。


 北アメリカ大陸は全て【WDC】という一つの国になっている。


 【物理世界】には多くの国々があるのだが、【幻理世界】にあるのは七大陸全て合わせてもたったの八の国しかない。


 【物理世界】で七大陸と呼ばれる大陸がちょうど一つずつ一つの国になっているのだ。


 アジア大陸に広がる国。【亜中大連合国】。


 ヨーロッパ大陸全域に広がる国。【EU連合国】。


 アフリカ大陸全域に広がる国。【WB連合共和国】。


 南極大陸全域に広がる国。【IS君主国】。


 オーストラリア大陸全域に広がる国。【ユウールラルル】。


 南アメリカ全域に広がる国。【GLL】,


 北アメリカ大陸全域に広がる国。【WDC】。


 そして、唯一大陸全域にその国土が広がることのなかった大陸、アジア大陸の一部、【物理世界】で言う日本列島にあたいする場所と、その周辺の島々を国土としている国。【刀和国】。


 始神家(ししんけ)とはこの刀和国にとって貴族の中の貴族、大貴族のようなものだ。


 それは他の国とて同じ、刀和国にとっての始神家(ししんけ)と同じように、【WDC】にとってフェアリー家は恩義としても、戦力としても、重要な一族なのだ。


 その一族のものが護衛もなしにこんなところにいると知って、雪乃は驚きを隠せていなかった。


「さぁっ!早くその青年を解放するのだ!でなければ、私が正義の鉄槌を!」


 テイルが握る力を強め、その手に握る剣に幻力を集中させていた。


(えー。流石にテイル家との喧嘩はマズイよね)


 雪乃はテイルの今の動作を見て、一瞬で自分との実力差を悟っていた。


 だからこそ、雪乃は冷静に今の状況を把握しようと頭をフル回転させていた。


(フェアリー家はその名の通り、精霊の力を引いていると言われるような一族……だっけ?)


 この精霊には人以外にも多くの生命が育っている。


 人間に幻操術というものがあるように、幻力という概念があるため、動物たちの進化もまた【物理世界】とは大きく違ったものになっていた。


 中には【物理世界】とリンクしているのか全くわからない生物もいる。


 そして、そんな生物の一つに精霊族がいる。


 精霊族は個々の意識をもつ生物と個々の意識を持たずに、大きな流れによって巡る力、自然のエネルギーの中間にいるとされている一族だ。


 本来、幻操術は科学で説明出来ない力、つまり超現象的自然エネルギーだ。


 精霊族は半分幻力側という特殊な性質のため、我々人間よりもはるかに幻力の扱い方が上手い。


 精霊族の血を薄くだけ受け継いでいるフェアリー家の者はその特性を強く受け継ぐことによって、強大な力を手にしている。


 しかし、


(それにしても、おっかしーなー。……あたしたちの方が遥かに強いよなー)


 雪乃が見た限りでは、テイルの実力は自分よりもはるかに下。


 雪乃もその年齢の割りに高過ぎる実力を持っているため、雪乃よりも少し劣る程度なら、ただ雪乃自身が凄いのだと納得出来るのだが、テイルの実力は遥かに下回っている。


(【A•G(エンジェル・ガーデン)】で言えば、中の下ってところかな)


 フェアリー家という才能に恵まれた家系に生まれ、年齢はおそらく一五から一六ぐらいだろうし、年齢的にも既に高い実力を持っていてもいいはずだ。


(んー。あれ?そういえば幻操師の力って遺伝しないんじゃなかったっけ?)


 雪乃は決定的な矛盾に辿り着いていた。


 十二の光(ブレイズ)は【記号持ち(コーズ)】という概念によってその力を引き継ぎ、継承している。


 しかし、継承しているのは才能ではない。


 【継承術】だ。


 それにも拘らず、十二の光(ブレイズ)の人間は皆高い才能を秘めている。


(もしかして、遺伝しないって……嘘?……なら、なんで。もしかして……)


「貴様。震えているのか?ふふふ、私の力の前に怯えて許しを請いたいと申すか?ならば許そう、その者に許せばなっ。アハッハッハッ」


 雪乃が自分の考えた内容に怯え、震えていることを、自分の力によって怯えていると勘違いしたテイルは、両手を腰に当てて、盛大に高笑いをしていた。


「幻操師は人のために存在しなければならない!その幻操師が本来、人を守るための力である幻操術を悪用し、若き青年を脅すとはなんたることか!まだ幼いというのに、すでにその心は悪に染まってしまったとでも言うのだろうか。ふふ、そう怯えることはない。正義の心を解き放つのだ、さすれば私はなにもせん」


 いちいちオーバーリアクションと共に大声(プラス)ドヤ顔で叫ぶテイルに、雪乃は自分が今まで怯えていたことも忘れ、ただただテイルに呆れていた。


「うるさいなー。なに考えてたかわかんなくなっちゃったじゃん!このへなちょこ!」


(あっ、思わず言っちゃった)


 雪乃がヤバイと思い、焦っていると、雪乃にへなちょこと呼ばれ、俯きながら体をプルプルと震わせていたテイルは、バッと顔を上げると、大声で叫んだ。


「僕はへなちょこなんかじゃないもん!」


「……え?」


「あっ……」


 今まで気取った喋り方をしていたテイルが、突然子供のような話し方に変わったため、雪乃は両目をまん丸にして驚いていた。


「えーと。うん。悩みは誰にもあるよね?」


「そんな同情の眼差しを私に向けるな!」


 テイルはどうにかキャラを作り直すと、さっきとは違い、何処か凛々しく、男らしく叫んでいた。


(うわー。さっきの見た後だとキマらないなー)


「うっ。……っ!そ、そうだ。君はそのまま逃げるんだ!」


「……へぇー」


 雪乃の注意がテイルに向いていることを良いことに、チャラ男が逃げ出そうとしていると、雪乃と向かい合っているため、チャラ男のことがバッチリ見えているテイルが、そんなチャラ男に早く逃げるように言っていた。


 テイルが声に出して言ってくれたため、チャラ男が逃げ出そうとしていることを教えてもらう形になった雪乃は、ニヤリと嫌な笑みを浮かべていた。


「なに逃げようとしてるのかなー?」


 雪乃は満面の笑みをチャラ男に向かって浮かべると、チャラ男を捕まえようと手を伸ばしていた。すると、突然後ろから殺気が向けられ、雪乃は反射的にその場から飛び退いていた。


 雪乃がその場を離れた途端、さっきまで雪乃がいた場所にシュンっと白い残像が走っていた。


「何故そこまで彼を狙う!……っまさか君は【ノーンマギカ】の者か!」


 今までと違い、真剣な目になったテイルは、目を鋭くし、剣を構えて雪乃に向かって突撃しようとしていた。


「ちょっと待ったっ!」


「問答無用っ!」


 雪乃の待ったもお構いなく、両手で持った剣を振るうテイルの斬撃を紙一重で躱しながら、雪乃はさっきテイルが言ったことから予測をたてようとしていた。


(シャラ男は……なにも知らないか……)


 雪乃はチャラ男から【ノーンマギカ】について情報を得られないかと思いここまで連れてきたのだが、どうやらそれは無駄に終わったようだった。


 【ノーンマギカ】は反社会組織の中でも、その名前が【幻理世界】に広がっているほうだ。


 もしチャラ男が【ノーンマギカ】についてなにか知ってるなら、なにか体の何処かに反応が現れるはずだ。しかし、チャラ男はテイルが【ノーンマギカ】と言っても、全く怪しい反応を示していなかった。


 チャラ男の反応は知らない名前を聞いたことによる疑問だけだ。


 つまり、チャラ男はハズレだ。


(でも、偶然だけどアタリも見つけたみたいだね)


 雪乃はそう心の中でつぶやくと、今戦闘をしている相手、テイルに意識を向けた。


(あたしを【ノーンマギカ】の者だと勘違いした途端、テイルのあたしに対する敵意が一気に上がってたし、テイルは【ノーンマギカ】を狙ってる?)


 【WDC】の大貴族であるフェアリー家の長男が【ノーンマギカ】を狙う理由はさっぱりわからないが、今のテイルの反応を見る限り、フェアリー家というわけではなくても、テイルが【ノーンマギカ】を狙っていることは一目瞭然だ。


「この程度で【ノーンマギカ】に喧嘩売る気?バカじゃないの?」


 雪乃は元々人見知りや遠慮から離れた場所にいる人間だ。


 一度テイルに失礼なことを言ったにも拘らず、特に問題がなかったため、雪乃はすでにチャラ男に対して遠慮がなかった。


 雪乃が挑発をすると、テイルは顔を真っ赤にして怒りを露わにしていた。


(こりゃ、こいつが【ノーンマギカ】を敵視してるのは確定だね)


 挑発した途端、攻撃の一撃一撃が早くなり、そして重くなっていた。


 そのため雪乃は自分の得物を取り出して対抗していた。


(あー、たーのしっ)


 雪乃は戦闘狂的な笑みを浮かべていた。


 次のご来店を心よりお待ちしております。

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