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5ー22 双花と結菜


 やっとのこと結の前に姿を現した二人の少女。


 双花と結菜。


 黄金を思わせる美しさと力強さを持っている見事な金髪と海のように深く、より深く全てを飲み込んでしまうのではないかと錯覚してしまうような青く輝いた瞳を持ち、結にとって恩人である人物。賢一の一人娘、夜月双花(やづきそうか)


 夜空を思わせる綺麗な黒髪を前髪を揃え、俗に言うパッツンボブにし、髪と同じ黒でありながら、空では無く夜の海を思わせる瞳を持ち、十二の光(ブレイズ)の一角であり、さらに始神家(ししんけ)の一家でもある由緒正しい家柄の長女、神夜結菜(かみやゆうな)


 双花は結と同い年、結菜に至っては結たちよりも一つ年下だ。


 まだ十代、それも前半だと言うのに二人は本来大人から発せられるようなオーラを漂らせていた。


(精神的にも既にここまで成長してるのかよ)


 結自身もその精神年齢は本当に十代前半なのかわからなくなるほどに大人びているというのに、そのことを棚上げにし結は二人に感心し、そして僅かながら嫉妬の念を感じていた。


「お久しぶりです。お父様」


「お久しぶりです。賢一様!」


「久し振りだね。双花、結菜くん」


 実の娘である双花はもちろんのこと、どうやら結菜も賢一と面識があるらしく、二人は賢一に丁寧に頭を下げていた。


 賢一に笑顔で挨拶する二人の頭を賢一が優しく撫でると二人は嬉しそうに笑っていた。


「さて、二人にも紹介しようか。彼が今回君たち(・・・)の遊び相手をすることになった結くんだ」


「ゆう?」


 賢一が結のことを二人に紹介すると、結の名前を聞いた結菜が首を軽く傾げ、驚いたように目を見開いていた。


「そうだよ。彼の名前は結。仲良くしてあげてほしい」


「賢一さん!聞いてませんよ!」


 突然の大声に、賢一が驚きながら対応すると、結は賢一にジト目を向けていた。


「一体何を聞いていないと言うんだい?」


「俺が聞いたのは一人です。二人なんて聞いてません」


「結くんなら一人も二人も変わらないだろう?」


 それは結なら相手が一人だろうが二人だろうが等しく勝ち目が無いという意味だろうか。


 結は一瞬そんなことを思ったが、賢一の楽しそうな表情を見て即座にその考えを捨てた。


 賢一は今回みたいなイタズラは良くするが、決して無意味に人を傷付けようとすることはない。


 【幻操師】として高い力を持っている賢一だが、賢一が本気を出すことなんて滅多に無い。


 あるとすればそれは賢一の怒りに触れた時。賢一の逆鱗に触れた時、賢一は一帯を地獄の業火で焼き尽くすだろう。


 実際、数年前に賢一が本気になる出来事があった。


 それは賢一がマスターを務めているガーデンの敵対関係にある正規ではないガーデンの一つが賢一のガーデンを陥れようとしたことがあった。


 その時、その敵対ガーデンがした行動、それは当時産まれてまだ日が浅く、【幻操師】としての力も覚醒していないころの無防備な子供であった双花の誘拐だ。


 実の娘の誘拐。


 その出来事はいつもは穏やかな賢一を怒らせるには十分過ぎる出来事だった。


 そして、賢一は滅多に見せぬ程に怒り、そして双花を誘拐した連中をガーデンごと燃やし尽くしたのだ。


 その日の事は業火の逆鱗と呼ばれ今では伝説の一つとなっている。


 話が逸れたが、嫌味の意味で賢一がこんなことを言うなんてことは考えにくい。


 つまり、嫌味ではない意味を含ませていると言うことだ。


(俺に期待しているのか?)


結花ではなく結としての自分を信頼してくれている賢一の心に結を思わず頬を緩ませていた。


「はぁー。そこまで言われたら断れないじゃないですか」


「元から断る気なんてないのだろう?」


「……やっぱりお見通しですか」


 一応遊び相手ということになっているが、実質は修行相手だ。


 結としても相手が一人よりも複数になるほうがいい経験になる。


 つまり、結にとってもこれは訓練なのだ。


(結花が使えない状況での戦力アップ。相手がこんな豪勢な二人なんだ。丁度いい)


「さて、後は若い子たちに任せて私は立ち去ろうかな」


「……賢一もまだまだ若いですよね?」


「フフ、十代にとっては三十代なんてもうおじさんだろう?」


「三十代前半には見えないですけどね」


 賢一はなんと一八歳という若さで今の妻と結婚し、そして結婚とほぼ同時期に妻は娘、双花を出産している。


 今の双花はまだ十代の前半の中でもさらに前半だ。


 賢一はまだ三十代に成り立てなのだ。


 しかし、その外見は元々若い外見よりもさらに若く、二十代前半、下手したら十代でも通用しそうな若さを保っている。


 それは賢一だけでなく、妻である一花もまた若い外見をしている。


 ちなみに一花は賢一よりも二つ年下だ。つまり一花はまだ二十代だったりする。


(十代前半で大人っぽさを持っている癖に、二十代を過ぎても十代の時と変わらない若さを保っているなんて、正直凄い家系だよな)


 子供の時は年齢よりも大人っぽく見え、大人になると年齢よりも幼く、若く見える。


 女性からしたらそれは羨ましい限りだろう。


 賢一と一花に血の繋がりはもちろん無いが、二人とも若さを保っていることにおいては共通している。


 そんな二人の遺伝子を半分ずつ受け継いでいる双花もまた、きっと将来大人になっても今と変わらない子供特有の愛らしさと大人特有の色っぽさを併せ持つことだろう。


 賢一と結がそんなやり取りを終えると、賢一は双花と結菜、そして最後に結の頭を軽く撫でるとその場から立ち去って行った。


「それでは、結といいましたか?」


「ん?あ、あぁ。改めて、結だ。よろしく。それと別に敬語になる必要はないぞ?」


「はじめまして、私の名前は夜月双花です。私の敬語は癖のようなものですので気にしないでください」


「分かった」


 結と双花が互いに自己紹介を終えると、自然に二人の視線は残りの一人に注がれた。


 二人の視線に晒された残りの一人こと結菜はえっへんっと無い胸を張ると、突然その場でクルッとターンをした。


「キラッ。みんなのアイドル結菜ちゃんだよっ。あたしのことは気軽に結菜ちゃんって呼んでねっ」


 その場で一回転した結菜は、キラッのタイミングでピタッと急停止すると、目の横にピースを横倒しにしたようなポーズを取ると、同時にウインクをした。


「……えーと」


「……はぁー。結菜、滑ってますよ?」


「……え。本気?」


「……そこは本気ではなく。本当?ではないですか?」


「あっ、そっかっ!あははっ」


 突然漫才のようなことを始めた二人に置いてきぼりにされた結は苦笑いをしながら「おーい?」っと声を掛けていた。


「あっ。ごめんなさい。見ての通り結菜は少し頭が弱いようでして」


「誰の頭が弱いって!本当の事だからって言っていいことと悪いことがあるよっ!」


(頭が弱いってとこは否定しないどころか肯定しちゃうんだ)


 二人のやり取りを見ていた結は、そのやり取りが面白く思わずぷっと吹き出していた。


「あっ!!今結笑った!酷い!」


「結は悪くないと思いますよ?それと男性に対してイキナリ名前で呼ぶなんて淑女としてはしたないですよ?」


「……そういう双花だって名前で呼んでるじゃん!」


「……あれ?本当ですね。どうしてでしょうか?」


 どうなら頭が弱いのは結菜だけじゃないようだ。


 双花の方はどちらかと言えば天然と言った方がいいだろうか。


「そりゃ、二人に苗字を教えてないからな」


「あっ!計ったな!」


 結菜が怒ったような口調で叫ぶ中、結と双花は冷静な表情で話を続けていた。


「苗字はなんと仰るのですか?」


「教えてやりたいけど。俺には苗字が無くてな」


「苗字が無い?それは……」


 苗字が無い。


 それが何を示すのかを悟った双花は悲しそうに表情を歪めていた。


(頭が悪い訳じゃなさそうだな。それどころか、よく気が付くな。頭は言いが、天然なのがたまに傷って感じか?)


「あれ?双花!?どうしたの!結になんか酷いこと言われたのっ!?」


(結菜は……ちょっと残念なようだな。……いやこれが普通か)


 今の会話の中で双花が悲しそうな表情をしている理由がわからない結菜は、結菜から見れば、突然悲しそうな表情になった双花のことを心配していた。


 本来結の言葉の意味を悟り、悲しみを覚えるなんてことは普通はない。


 それなのに、気が付かなかった結菜を一瞬だが頭が弱い子だと思ってしまった結は、己の認識が普通からズレていることを悲しく感じ、それと同時に勝手に頭が悪いと判断してしまった結菜に対して罪悪感に駆られていた。


「いえ。なんでもありません」


「本気?本気?」


「クスッ。結菜?本気では無く、本当?では無いですか?」


「あっ……」


(前言撤回。やっぱり結菜はアホの子だった)


 改めて結菜のことをアホの子認定する結だった。


(それにしても……双花は凄いな)


 双花は悲しんでいる理由を結菜に聞かれ、それは答えなかった。


 苗字が無い。


 つまり、誰が親なのかわからないということだ。


 本人がそのことについてどう思っているか他者にはわかるはずもない。


 そして、多くの場合。孤児はそれを辛く思っていることが多い。


 今の結を見る限りそのことを暗く考えているようには見えない。


 しかし、人間は誰しも仮面をつけているものだ。


 今の双花ではまだ知り合って間もない結の仮面を見破ることなんてできない。


 だから双花は結の苗字について言及しなかった。それどころか、結菜の発言を利用して上手く話を逸らしたのだ。


 結が感謝の意を込めて双花に視線を向けると、その視線に気が付いた双花は結菜と話しながらも結に小さく微笑んでいた。



 ご来店ありがとうございました。


 よろしければご感想や評価などよろしくお願い申し上げます。


 次の開店は明日の午後九時を予定しております。


 またのご来店を心より我ら一同お待ちしております。

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