追憶のプロローグ
二人の攻防はすでに刀だけでは無くなっていた。
「……『指月』」
九実は刀を握っていない方の人差し指を七実に向けるとその指先から純白の細い弾丸のようなものが放たれていた。
「甘いよっ!!『月読《》つくよみ=半月』」
七実は指先で刀をバトンのように回すと目の前に半月の形をした盾が現れた。
その盾を使い九実の指月をガードする七実だったが
『月読=三日月』
サイドステップで半月の盾から身を出すと純白の光を纏った刀を振るうと三日月の形をした斬撃が九実目指して飛んでいった。
そう二人はただの剣士ではなく幻操術師だった。
それもその実力はすでにSランクと同等のものを持っていた。
『衝月』
九実は七実との距離を詰めると刀でフェイントを入れ純白の光を纏った拳で七実を殴り飛ばした。
「危なっ!!」
七実は刀を滑り込ませていたようで盛大に吹き飛ばされていたが対してダメージを負っている様子はなかった。
『月読=三日月』
七実は離れた位置から三日月を撃つとさらにそれを連発して月読=三日月の七連撃を飛ばした。
「当たらない『斬月』」
九実は刀に光を纏わせるとそのまま七実の放った三日月七連撃を全て切り裂いた。
「次は私の番『狙月』」
九実は刀に光を纏わせたまま刃先を七実に向けながら思いっきり引くと次の瞬間遠い場所にいる七実に向かって突きを行う風に刀を突き出した。
「ちょっ!?」
九実が突きを繰り出す瞬間刀から巨大な光の柱が伸びその柱はそのまま七実に向かって伸びていった。
「あっぶないなっ!!」
七実はこれを月読=半月の七連続で発動することによって防ぐことに成功していた。
しかし狙月の威力によって七枚の内六枚が破壊され七枚目もボロボロになっていた。
「防げるんだ。凄い」
九実は心底驚いた風に呟くと刀を地面に突き刺し、両方を祈るように合わせた。
「ん?なにそれ、お祈り?」
「そう、お祈り。力を引き出すためのおまじない」
『朧月』
九実の術の発動と同時に九実の着ていた黒の着物から朧げな光が舞い始めた。
『衝月』
九実は自然体のまま両足の裏で衝月を発動するとその衝撃を利用し七実の背後に高速移動した。
『弾月ーー』
七実の背後で刀に球体の光を纏わせると届くはずもない距離から刀を連続で振るった。
その数はなんと
『ーー二十四連』
二十四という数の光の弾が七実の背中に向かって飛んで行った。
『月読=半月=十連式』
七実は即座に振り返ると刀を振るい半月の連続技を発動させるが全てを防ぎ切ることは出来ず数発を喰らってしまい弾け飛ばされてしまっていた。
「いったぁー」
「……あれ?」
全てではないと言え数発をモロに喰らってしまったはずの七実が多少痛がっているようだったがほぼ無傷で出てくる姿に一瞬驚く九実だったがすぐに表情を嬉しそうな笑顔に変えた。
「本当に強い、けどそろそろ私が限界」
「ん?」
九実の表情は限界というセリフとは遥かに遠くにある風にしか見えない余裕のある姿をしていた。
「はぁー朧月で全ステータスを上げたのにこんなことになるなんて思ってなかった」
「これっぽっちもそうは見えないけど?」
七実が思ったことを素直に言葉にすると九実は怪しげな笑顔を浮かべた。
「勘違いしないで、私が限界と言ったのは力じゃない」
「それならなに?」
九実は全身から今までの凄い圧力だがどこか神聖な殺気とは違い完全に禍々しい殺意しか感じられない殺気に変わっていっていった。
「力を封印するのが限界になったってこと」
『チェンジ&イーター=九流実』
「なに……それ?」
九実の持っていた刀が消失していき新たに別のなにかが形成されていっていた。
変わったのは殺気と武器だけではなかった今までは冷静で穏やかだった表情が目がつり目になり荒々しくも美しさを感じられる強い意志の感じられるものとなっていた。
「これが妾、九流実の力じゃよ小娘」
九流実の手には形成され鋭い刃を持つ大鎌が握られていた。
「ほれ、折角妾が遊びに出てきてやったのじゃ楽しませぬか」
九流実は戦闘狂のような雰囲気になると大鎌を両手で構え周りにばら撒いていた殺気を全て七実一人にぶつけていた。
「ひっ……」
「ククク、ゆくぞ?小娘」
七実の性格は面白いことならとことん首を突っ込み他人の言葉など聞いた所で従わずに己の意志を絶対とする頭は冷静であり知的なのだがどこか子供のような子で言い換えるとあまりにも自由奔放な子だ。
危険さえも楽しんで受け流し全てどうにかしてしまうような絶対的な力を持っている七実でさえその禍々しい殺意に恐怖を感じてしまっていた。
そして七実と九流実の第二ステージが始まった。
ご意見、ご感想、評価のほうよろしくお願いします。




