5ー16 大捜索
「第三部隊、そっちにはいた?」
優花から侵入者がいることを聞いた雪乃は、ナイト&スカイの作った法具の一つ、【幻送受機】という【物理世界】で言うところの携帯電話を使って、自分の配下である第四部隊のメンバーを総動員して【A•G】に包囲網を張っていた。
『こちら第三部隊、こちらにはいません!』
「わかった。引き続き捜索をよろしく」
「雪乃さん……」
「大丈夫だって。侵入者なんて簡単に刈ってあげるから」
雪乃の傍らで不安そうに佇む優花を安心させるように、雪乃は満面の笑みを浮かべながらウインクをしていた。
優花と梨花は自室にいるように言った雪乃だったが、万が一でも侵入者が優花たちの部屋に行ってしまったことを考え、念のために雪乃は優花たちの部屋を訪れていた。
【A•G】は扉一つを通るにしても暗証番号と掌紋認証、合計二つのセキュリティーがあるのだ。
なにより外部、つまり地上の【宝院】と繋がっている入り口は、特にセキュリティーが強くなっているのだ。
入り口はそこ一つしかないため、侵入者の侵入経路は恐らくそこだろう。
つまり、侵入者は何かしらの方法を使ってそのセキュリティーを突破したことになる。
入り口のセキュリティーを突破出来るのなら、優花たちの部屋に侵入することも容易いだろう。
【A•G】内部に現在いる戦えない人間は三人だ。
優花と梨花を覗いたその一人には護衛がいつも着いているため問題はないが、梨花と優花はそうではない。
仮に二人が人質にでもされたら終わりだ。
雪乃の行動は当然だった。
(あたしは二人の護衛で手一杯だし、【幻送受機】での指揮じゃやっぱり穴ができる。六花衆に協力を求めるしかないか)
雪乃は指揮している各部隊との通信を一時的に受信だけにすると、応援を頼もうと電話を掛けていた。
「大丈夫かな」
優花は不安で押しつぶされそうになっていた。
自分だけならまだいい。
自分の命は既に一度死んでいるのと同じだ。
偶然助けてもらっただけで本来死ぬはずの命だった。
しかし、梨花は違う。
梨花はこんなところでは死んじゃいけない。
折角偽装までしてあの人たちから逃げて来たのに、自由を手に入れたのに、なにもしないまま死んじゃいけない。
(私はあの子の守護者。梨花は絶対に死なせない)
優花は真剣な表情で考え事をしていると、通話が終わったらしい雪乃が声を掛けていた。
「これから六花衆全員で会議をするから目撃者である優花も来て欲しいんだけど、いい?」
「あの、梨花は?」
「大丈夫、腕利きの護衛役を五人呼んだから」
眠っている梨花を優しげな表情で見つめる優花を見て、雪乃はその姉妹愛に思わず口元を緩めていた。
「護衛役が来たら行くよ」
「わかりました!」
「雪乃様!ただいま到着しました!」
「おっ、ナイスタイミング。それじゃ梨花のことよろしくね」
「はっ!」
ちょうど良く到着した五人の少女にそう声を掛けると、護衛役の五人はピシッと背筋を伸ばして敬礼をしていた。
五人の少女もまた、雪乃たち【A•G】のメンバーが着ていた和服に似たものを着ており、優花もまた浴衣に着替えていたため、優花は少し違うが、皆和服を着ていた。
しかし、五人の和服と雪乃の和服は正直一見しただけで違いがわかるほどにあからさまな違いがあった。
雪乃たちの和服は一人一人多少改造はしているが、基本的には普通の和服だ。
しかし、五人の着ている和服を例えるなら、
(メイド服?)
思わず二度見してしまうほどに違いがあり過ぎる和服に、優花は目をまん丸にしていた。
和服の面影は所々残っているのだが、全体に散りばめられたフリルが可愛らしさを強調していた。
メイド服バージョンの和服を着ている少女たちも、雪乃たちと同じぐらいの年齢なのだが、小さなメイドさんのようで実に可愛らしい顔立ちをしているため、よく似合っていた。
姿勢を正し、雪乃に向かってお辞儀をするその姿は、今だけの付け焼き刃だけではなく、日常的に行われていることが素人の目でもわかるくらい、洗礼されており見ていて綺麗だった。
(綺麗)
少女と特有の愛くるしさと、【物理世界】のメイド喫茶などにいる付け焼き刃ではなく、主に仕える本物のメイド特有のかっこよさと美しさ。
可愛らしくあり綺麗でもある。
少女たちのその魅力に、同性である優花でさえ、思わず頬を赤らめていた。
(そういえば、雪乃さんやリリーさんもすっごく可愛かった。なんで天使の庭、【A•G】って呼ばれてるのか納得したよ)
同性から見ても可愛い【A•G】の子たちは、まさに天使だった。
【A•G】地下四階。
第一会議室。
地下四階は基本的に依頼の相談や、隊長たちが会議をするための部屋が集まっている。
雪乃は梨花をメイド服隊の少女たちに任せると、優花を連れて地下四階、一三号室に集まっていた。
一三号室、第一会議室は隊長たちが会議をする時によく使う部屋だ。
部屋の広さはそこまでなく、【物理世界】の一般学校で例えるなら生徒会室のような場所だ。
正一二角形の形をした独特のテーブルの各辺に一人ずつ座っていた。
入り口から一番近い席に今回の会議の招集の発案者である雪乃が座り、その右側に優花が座っていた。
雪乃の向かいには本来ならば第一部隊隊長である奏が座るのだが、今は外出しているため空席になっていた。
奏の右側、つまり優花の向かいもまた空席になっており、その右側には第三部隊隊長の雪羽が座っていた。
雪羽の右側には第五部隊隊長の小雪が座っており、さらに右側には第七部隊隊長、リリーの姿があった。
奏の左側には第二部隊隊長の美雪が座っており、その左側は本来ならば第四部隊隊長の雪羽が座るのだが、雪乃が発案者だったため空席になっていた。
雪乃の席の左側には一年前にとある事件で活躍した銀髪の少女、雪が座っていた。
「雪乃。侵入者がいるとのご報告でしたが、本当なのですか?」
今回の招集の理由である、侵入者の存在を確かめるために、皆が座ったことを確認すると、美雪はそう話を切り出していた。
「うん。どうやらこの子が見たみたいなんだ」
「……最初から気になっていたのだが、その子は誰なのだよ」
「あっ、この子は優花さんとリリーがお嬢様と師匠を探しに行った時に偶然出会った子なのですぅー」
「それは報告を貰っているのだよ、何故外部の人間が中にいるのかを聞いているのだよ」
雪羽の言葉は冷たく、棘があった。
理由は単純だ。
雪羽は優花のことを疑っていた。
何故なら今までこの【A•G】は侵入者なんて一人も、いや人だけじゃない。虫の一匹にさえ侵入されたことがないのだ。
ここのセキュリティーは全てナイト&スカイの作品だ。
それを突破されたということは、つまり自分の敗北を意味する。
そして、雪羽は自分たちの作品が突破される訳がないという自信、いや確信があった。
だからこそ、侵入されたのであれば内部から協力した何者かがいると考えていたのだ。
そしてこのタイミング。
雪羽が優花を疑うには十分過ぎる理由だった。
「雪羽落ち着いて。優花は違うから」
「何故そう言い切れるのだよ」
「目を見ればわかるでしょ?」
「む……」
雪乃の自信満々な笑みを見て、渋々雪羽が優花の目をまっすぐと見つめると、暫し見つめた後ハッと目を見開いていた。
雪羽が驚いた理由、そして雪羽の自信の根拠。それは優花の純粋な瞳にあった。
(純粋過ぎるのだよ。この純粋さ、無垢さ、危ういのだよ)
「今戻りました」
雪羽が優花に対する認識を改めていると、ちょうどその時、優花と梨花の親御さんに連絡をしに行っていた奏が帰還していた。
「それで、なんですか?この騒ぎは?」
「あっ!お嬢様なのですぅー!おかえりなさいなのですぅー!」
「おかえりー。どうやら侵入者がいたらしくて」
奏が自分の席に座りながらそう聞くと、雪乃がその問いに答えていた。
「侵入者ですか?」
「そう。それで絶対に捕獲しようと思ってみんなにヘルプ頼んでるの」
「なるほど。それなら私が手伝いますよ」
「おっ!姫が手伝ってくれるならすぐに解決だね!」
「すぐにかはわかりませんが。出来るだけ早急に終わらせます」
奏が操作弾を使って、【A•G】内部の全てを同時に探そうとしていると、「やけに騒がしいな」っという声と共に、一人の人間が入室した。
「遅いですよゆーーー」
「あぁぁぁぁぁあっ!」
入ってきた人間に、奏が何かを言おうとすると、同時に優花が大声をあげていた。
優花は目を大きく広げ、驚きを露わにした表情で入ってきた人間を指差していた。
「びっくりした……一体どうしたの?優花?」
「こここここ、この人です!私の見た侵入者は!」
『…………え?』
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