5ー14 水の滴る
更衣室はたくさんのロッカーが隙間無く並んでおり、ロッカー室と言っても過言ではない。
「えーと、確か……」
エレベーター室で雪乃から教わったことを思い出しつつ、優花は操作をしていた。
(ランプが点灯してないロッカーの掌紋認証型法具に手の平を置いて鍵をつくる。手を置いて掌紋を鍵として一時登録をすると、開くようになるから、ここに服を入れてっと……)
【A•G】のロッカーは全てが掌紋認証型の鍵だ。
ロッカー一つ一つについている、使用されていますという印であるランプが消えている場所を探し、ロッカーの中心部分につけられているタッチパネルに手の平を乗せることによってそのロッカーを一時的に自分の物にすることができる。
乗せる手の平の掌紋がそのロッカーに登録され、タッチパネルに手の平を乗せるだけで鍵を開けることが出来るのだ。
扉は自動ロックになっており、閉める時に掌紋は必要としない。
掌紋認証で鍵を開けたのにも関わらず一定時間扉が開かなかった場合もまた、扉は自動でロックが掛かるようになっている。
使い終わった後はロックを解除した状態でタッチパネルを操作し、データクリアをすることによって登録した掌紋を削除することが出来る。
既に誰かの掌紋が登録されている場合、上書き登録などは出来ないようになっているため、使い終わったら必ずデータクリアをする決まりになっている。
(こんなにロッカーがあるなら、一人一人で専用にすればいいのに)
優花は服を脱ぎながらそんなことを考えていた。
何故ロッカーを個人に与えないかというと、個人に与えるとロッカーを好き勝手に使う人が必ず出るため、ロッカーは公共の物にすることで他の人のことを考えて、正しく使わせようと考えられているのだ。
余談だか、後にこの理由を知った優花は、
「逆効果じゃない?」
っと言っていたそうだ。
(それにしても、本当にここって凄いなー。このロッカー、内部にボックスリングの機能がついてる)
ロッカーの大きさは靴箱程度だ。
そんな小さなロッカーに、脱いだ服を全て入れきることが出来るのか内心、心配していた優花だったが、杞憂に終わっていた。
ボックスリングとは法具と一つで、効果範囲に亜空間を作り出し本来よりも指定した空洞の空間を広げるものだ。
ボックスリングのおかげで、ここのロッカーは見た目こそ靴箱程度しかないか、その収納量はタンス一つ分は余裕にある。
服を綺麗に畳み、全てロッカーに入れ終わった優花は、ロッカーとは反対側にズラリと並んでいる籠の中からバスタオルとハンドタオルを一つずつ取り出すと、バスタオルを体に巻き付け、お風呂場へと向かった。
「おぉ」
お風呂場へと足を踏み入れた優花は、大浴場とまで呼ばれているその浴場を見て、思わず感嘆の声を漏らしていた。
大浴場は『大』がついていることも納得の広さがあり、通常の湯槽だけでなく、泡風呂や波風呂、流れる風呂などとまるでお風呂屋さんのような品揃えがあった。
波風呂や流れる風呂などや、広さのこともあり浴場というより、プールのような印象を受ける場所だった。
「最初は何から入ろっかなー」
優花はどのお風呂から入るか、迷っていると、取り敢えずここから一番近い流れる風呂に入ることにしていた。
「うわぁー。これ、プールだよ……」
流れる風呂に入った優花の第一声だった。
口では文句を言っているが、その口元はあからさまに緩んでおり、流れる風呂を十二分に楽しんでいるようだった。
流れる風呂は大浴場の外枠を流れており、速さはさほどないが、深さなどはお風呂というより完全にプールだ。
この大浴場はプールの水を全て効能のあるお湯に変えたようなものだ。
お風呂というより、完全に遊園地だ。
流れる風呂はこの大浴場の円周上に広がっているため、優花は流れる風呂で流れながら中の様子を眺めていた。
「本当に色々あるなー」
お湯の温度はぬるめになっているため、すぐにのぼせることも無く、優花は流れる風呂を堪能していた。
「次は波のお風呂に行ってみよー」
流れる風呂で十分楽しんだ優花は、流れる風呂の所々に設置されている階段から水上に上がると、今度は波のお風呂に向かっていた。
波のお風呂はその名の通り、人工的に波が作られているお風呂だ。
波はそこまで高いものではなく、溺れる心配もない。
波のお風呂は扇形をしているのだが、扇の根元部分に近付くごとに深くなっていき、扇の真ん中ぐらいでは深さは約二mだ。
一番深いところでは五mもあり、波も明らかな人工物とはわからないように工夫がされているため、波のお風呂と言うより、海辺のお風呂と言った方がいいかもしれない。
他にもウォータースライダー型のお風呂(お風呂の原型なんてないが)や、流れや波などはないが、ただただ深く、深さが五○mもあるお風呂など、様々なタイプのお風呂があった。
「ふー、気持ちよかったー」
色々な風呂を試し、満足した優花はふぅーっとため息をつくと、今まで全て動きのあるお風呂に入っていたため、動きのないシンプルなお風呂を最後に入ろうと思い、静止のお風呂に向かっていた。
「さーて、ここはどんなのかな?」
なんの理由があるのかはわからないが、静止のお風呂は中が見えないように囲われていた。
優花は囲いの中に一箇所だけあった扉を開けて中に入ろうと手を扉に掛けると
ガラガラ
力を入れていないにも関わらず、扉は開いていき、
「へ?」
「え?」
目の前に知らない男が立っていた。
「…………はっ!?」
「…………きゃぁぁぁぁぁぁあっ!!」
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次の更新は明日の午後9時です。




