5ー13 貧富の差
「す、凄い部屋だね」
「う、うん」
雪乃に見送られ、要望通り二人部屋に案内された梨花と優花は、今日泊まることになった部屋の内装に驚きの声を漏らしていた。
ここは三階の二人部屋だ。
しかし、ここは三階、幹部クラスだけが立ち入ることを許されている階層なのだ。
ホテルに例えるなら、この階層は全てがスイートルームなのだ。
一般庶民である梨花と優花にとって、スイートルームは別世界だったのだ。
「お、お姉ちゃんっ!このベット凄くフカフカです!」
「なにこれ、こんなの始めて……」
梨花と優花は、産まれて始めて触るフワフワのベットに興奮していた。
二人部屋なのでベットは二つあるのだが、ベットの大きさはなんとダブルだ。
今までは、硬い……とまでは言わないが、決してフワフワではない布団で寝ていたのに、突然フワフワのベットで、それも大きいサイズで眠ることになったのだ。
興奮するのも仕方が無い。
部屋の内装としては、まず梨花と優花がダイブして遊んでいるダブルサイズのベットが二つに、綺麗に清掃されているソファーが二つ向かい合って設置されており、その間にはテーブルが置かれている。
ナイト&スカイ作の法具によって室温は適温に保たれており、この部屋に来る時に使った移動する部屋、エレベーター室とでも名付けようか、そのエレベーター室にもあった軽食の自動販売機やドリンクバーまでも完備されていた。
「中のあるものは好きにしていいって言ってたし、梨花は何か飲む?」
「あっ、それならオレンジジュース飲みたい!」
「ん」
「ありがと」
ベットのフワフワで遊ぶのに飽きたのか、ソファーに座った梨花に、頼まれたオレンジジュースを手渡しながら優花はお茶を片手に座っていた。
「でも、びっくりだね。私たち凄い人たちに助けられたみたい」
「うん。梨花もびっくりしちゃった」
梨花は【A•G】がどういったものかよく分かっていないが、それでもこの施設を見て、とりあえず凄い人だということは理解していた。
「あっ、そういえばお風呂とかは入れるのかな?」
「電話してみますか?」
「んー。いい人みたいだし聞いてみよっか?」
優花はそう言うとテーブルに置いてある受話器を取っていた。
「もしもし、優花ですが」
『……』
「あれ?」
『あっごめんっ!誰?』
「あっ、優花です」
『おっ、優花ちゃん?どうしたのー?』
「お風呂って借りられますか?」
『あっ、お風呂ね。気付かなくてごめんねー。お風呂なら五階の一二号室に大浴場があるよー』
「そうなんですかっ!」
『あっ、でもエレベーター使えないか。んー、今からそっち行くからちょっと待っててくれる?』
「わかりました」
『じゃあねー』
プツンと電話が切れると、雪乃に言われた通り梨花と優花は飲み物を飲みながらおとなしく待っていた。
待つこと数分。
機械音と共に扉が開くと、小さな法具を持った雪乃が入ってきた。
雪乃は持ってきた法具をテーブルの上に置き、ドリンクバーから紅茶を注ぐとソファーに座りながら本題に入っていた。
「待たせたねー」
「大丈夫です」
「すぐお風呂入る?」
「そうですね。梨花がもう眠たそうにしているので」
優花がそう言って梨花に視線を移すと、梨花は半分閉じた目でふわぁーっと欠伸をしていた。
「あはは、ほんと眠たそうだね。んー、でもいちいち誰か呼ばないと動けないのは不便でしょ?」
「は、はい」
「そんな遠慮することないって。友達の家に来たと思えばいいんだよ。それで、ちょっとこれの上にそれぞれ手を置いてくれる?」
雪乃がそう言って示したのは、雪乃が来る時に持って来ていた法具だった。
雪乃が持ってきた法具はノートパソコンのように形状をしていた。
雪乃がノートパソコン型法具を開き、キーボードで何かしらの操作をすると、ノートパソコン型法具にタッチパネルを取り付けると、雪乃はノートパソコン型の画面を見ながらタッチパネルを優花たちに差し出していた。
「この上に手を置けばいいんですか?」
「そそ」
優花が「わかりました」っと恐る恐る手を置くとピピッという音が鳴っていた。
「わっ!」
「あはは、ごめんごめん。音が鳴ること先に言っとくべきだったね。じゃっ次は梨花ちゃんだね」
既に目が半分以上閉じてしまって梨花の代わりに、優花が「もうっ」と文句を言いながら梨花の手をタッチパネルの上に乗せていた。
優花は文句を言っている割にはとても優しい表情をしており、目の前で行われている姉妹愛に雪乃は頬を緩めていた。
「これは何のためなんですか?」
「あーこれ?掌紋登録だよ。扉を開くためにあたしたちいつも暗証番号と掌紋チェックしてるんだけど、二人の掌紋を登録してこの部屋と娯楽系が揃ってる五階を自由に行き来できるようにね」
大浴場や様々な娯楽施設のある五階と自分の部屋だけという制限はあるが、掌紋認証だけで自由に行き来出来るようにしたのだ。
「んー、梨花ちゃん大丈夫?」
「……もう、寝ちゃってますね」
今日一日でいろいろなことがあった。
超級、龍型イーターに追われるという、好んで遭遇したいとは思わない状況になったり、姉を助けたいと思い精神的に追い詰められたり、その後も【A•G】という驚きの数々で梨花は精神的に疲れて果ててしまっていたのだ。
だから梨花が眠ってしまったのも仕方が無い。
そんな梨花を見ながら優花と雪乃は苦笑いしていた。
「梨花ちゃんはこのまま寝かせてあげるとして、優花ちゃんはどうする?」
優花は寝てしまった梨花をベットに運ぶと、「うーん」っと考えていた。
「今日は汗もかいちゃったので私だけでもお風呂に入ってもいいですか?」
「大丈夫、オーケー」
梨花をベットに寝かせ、梨花の規則正しい寝息が聞こえることを確認すると、雪乃はそう答えていた。
雪乃は片手の人差し指と親指で丸を作りながら優花の問いに答えると、「じゃっ案内するねー」っと優花を連れてエレベーター室に向かった。
地下五階、一二号室【大浴場】。
この大浴場は【A•G】の全生徒が使っているのだが、時間的にはもう深夜だ。
【A•G】の生徒たちは基本的に早寝早起きだ。
【T•G】にいた時の習慣なのだが、賢一曰く、
「淑女たるもの、体の健康と肌の美は保たなければね」
っと言うことらしい。
先に記して置くが、賢一はロリコンではない。
他意はないのだ。
【T•G】で早寝早起きを強要されてきた【A•G】の生徒たちは、食事を取るとその後すぐにお風呂に入るのだ。
優花と雪乃は、エレベーター室と更衣室の間にある待合室のような場所で話していた。
「大浴場ってことは団体用ですよね?他の人はいないんですか?」
「大丈夫。この時間なら起きてるのはあたしたち六花衆……って言ってもわかんないか、んー、幹部ならわかる?そっ、それで幹部くらいしか起きてないだろうし、三階の一人部屋には個々でシャワー室ならあるからね。基本的にシャワーで済ませちゃうんだ」
優花が「そうなんですか」っと言いながら雪乃のことをよく観察すると、若干だが髪が濡れていた。
(電話出るの少し遅かったけど、お風呂入ってたのかな?)
おそらくそうだと思った優花は、雪乃に悪いことをしたと思い「ごめんなさい」っと謝っていた。
突然謝られた雪乃は、今の流れからして優花がシャワーというキーワードから思い出されることで謝ったのだろうと、見事正解に辿り着いていた。
「あたしは戻るけど、他に聞きたいことある?」
「大丈夫です。ありません」
「そっか。暗証番号は入力する必要ないからねー。あっそうそう、着替えは中にあるやつ好きに使っていいからねー。じゃっ」
「ありがとうございましたっ!」
雪乃は片手を上げてヒラヒラさせると、エレベーター室を使って自室に帰って行った。
「それじゃ、入ろっ」
優花は雪乃を見送ると大浴場の更衣室へ向かった。
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