5ー11 名乗り
奏が梨花と優花を救出したことを、二人の両親に連絡するために一人別行動をとることになった後、結花は梨花と優花両名を、自分たちのホーム、【宝院】に案内していた。
「ここは?」
「ここがあたしたちの家。本拠地って言ったほうが分かりやすい?」
「【宝院】の名は聞いたことがありますか?」
「聞いたことありますっ!Aランクの【幻操師】を何人も育て上げている組織ですよねっ!もしかして、皆さんは【宝院】の者なんですかっ!」
【宝院】は、【幻操師】にとって、Aランクというエリートを何人も輩出する場所であり、憧れの場所だ。
昔、【幻操師】を目指していたこともあるからだろうか、優花は【宝院】の名前を聞いた途端、大はしゃぎしていた。
恐らく、こちらが優花の素なのだろう。
今までは妹である梨花がいることもあって、しっかりしなくてはと緊張していたのだ。
「違う。私たちは【宝院】から住む場所を借りているだけ」
「【宝院】じゃないんですか?じゃあ、一体……」
結花たちが【宝院】の者では無いとわかり気を落とす優花だったが、憧れの【宝院】から、住む場所を借りるなんて、普通じゃないことをしている優花たちへの興味が増していた。
「残念ながら、ここではまだ話せない。着いて来て」
「どこに行くのですか?」
「地下」
今結花たちがいる、【宝院】は一階には食堂やホールなどの、公共施設があり、雪乃が陽菜と戦った実習室や訓練室は全て上の階にある。
そして、その上の階には【宝院】の生徒が住む、僚となっている。
結花はそう言って、梨花と優花を【宝院】内部に連れて行くと、訓練室がある、上の階ではなく、下の階、つまり地下室に向かっていた。
「ここ」
「ここ?ただの行き止まりにしか見えませんが……」
地下に行くと言い、結花が二人を案内したのは、何もないただの行き止まりだった。
結花が「大丈夫、着いて来て」っと壁に向かって歩いて行き、壁にぶつかると思った途端、まるで壁なんてないかのようにすり抜けていた。
「へ?」
「この壁は偽物だから、ほらっ着いて来て」
人が壁の中に入って行くという、驚愕の場面に遭遇し、口を開けて呆然としている梨花と優花を、雪乃は苦笑いしながら二人の手を取ると、壁に向かって歩き出していた。
「うっ……」
壁を通り抜ける瞬間、思わず目を瞑ってしまった二人が目を開けると、そこに広がっていたのは
「な、長い」
先が見えぬほどにずっと繋がっている下りの階段だった。
【宝院】地下。
ここは、【宝院】の者は立ち入ることが許されていない。
何故なら、この地下全域は【宝院】の物ではないからだ。
【宝院】が作られた時、この地下室は存在していなかった。
奏が【宝院】と契約した後に、許可を得た後に奏がたった一人で作ったのだ。
その時の光景は正に圧巻だった。
奏は今ある部屋の壁状に薄い氷の膜を張ると、なんとそこに大規模な【幻操術】を連発し、爆発によってそこにあった土を無理やり掘り起こしたのだ。
奏は器用なことに、氷によって飛び散った土などを全て外に放出すると、そこに残っていたのは、最初に奏が張った氷の膜で覆われた空間だった。
奏は氷を膜状から壁状に変化させると、氷の温度を一気に上げて、氷の壁と面している土をドロドロに溶かしたのだ。
次に氷の温度を一気に下げることによって、ドロドロとなった土を固めると、氷を除去しそこに出来上がった空間に必要なものを持ってきてここはあっという間に完成したのだ。
所要時間は約一時間程度だ。
たったの一時間程度で奏が作ったのは、地下一○階建て、一階につき部屋数は小部屋、中部屋、大部屋を全て含めて一○○部屋程度。
一○○部屋×一○階で、一○○○部屋にも及ぶ、凄まじい空間を作り上げたのだ。
この地下は、通常の地下室とは違い、地下一階が地上からだいぶ離れた場所にある。
それに、地上からこの地下に来るための道は、全てわからないように隠されており、仮に見つけたとしても、そう簡単には壊れないような作りになっている。
ダイナマイトなどを仕掛けられたとしても、ビクともしないのだ。
ナイト&スカイの作り出した、多くの法具によって、この地下室は全てが強固になっており、防犯セキュリティーは完璧だ。
ただ入り口が見つけ辛いだけでなく、これまたナイト&スカイの作り出した法具によって、わからないように立体映像のようなものが貼られている。
ホログラムの壁を通り抜け、バカみたいに長い階段を下った先には、真っ白の扉があった。
「零番隊。結花、帰還した」
扉の横にある、ドアホンのようなスイッチを押しながら、結花がそう言うと、ウィーンっと少し機械的な音を鳴らしながら、扉が左右にスライドし開いていた。
「それじゃ、来て」
結花はそう言って中に入ると、先にあったのは小さな小部屋だった。
部屋の中央にあるソファーに二人を座らせると、結花たちはその向かいのソファーに座っていた。
「ねえ結花。中には入れるの?」
「そのつもり。だけど、ここなら誰かに話を聞かれる心配はないから、先に正体をバラす」
「わかった。あっ、リリー、悪いけど飲み物持って来てくれない?喉乾いちゃって」
「わかりましたですぅー。皆さんも何か飲むですぅ?」
リリーが首を傾げながら聞くと、結花は
「ミルクティー、アイスで」
雪乃は
「あたしはいつも通りレモンティーね。もちろんアイス」
梨花は躊躇いつつも
「それじゃ、オレンジジュースってありますか?」
優花はキョロキョロとしながら
「私は……お茶をお願いします」
っと答えていた。
皆の返事を聞いたリリーは「わかりましたのですぅー」っと言った後、梨花に笑い掛けながら「オレンジジュースもあるですよぉー」っと言った。
「さて、そろそろ教えますか」
リリーがお盆に注文されたミルクティー一つ、レモンティー一つ、オレンジジュース一つ、お茶を一つと、自分の分だと思われるアイスコーヒーを乗せて持って来た後、飲み物を一口飲み、結花がふぅーっと息を吐くと、結花はそう本題に入っていた。
「口だけでは信じないかもしれないから、雪乃、リリー、準備」
「準備って、着替えるの?」
「そう。梨花は知っているかわからないけど、優花は噂ぐらい聞いてるはず。この一年間、私たちはよく話題になってるから」
「んー、そうだね。わかった了解」
「了解なのですぅっ!」
結花、雪乃、リリーの三人は、互いに頷き合うと、それぞれの自分の右手首を捲っていた。
「「「起動」」」
三人が右手首に着けていた、銀色の腕輪型法具を起動すると、腕輪から光が発生し、その光は広がり。三人の身体覆い隠していた。
「うっ」
眩い光に思わず目を瞑ってしまった二人は、光が消えたことを薄目で確認すると、目を開けていた。
「えっ、まさか」
「どうやら、優花は知っているようですね」
優花は目を限界まで見開き、驚きを隠せていなかった。
梨花と優花、二人の前にいる、純白のコートと、同じく純白の仮面に身を包んだ、三人を見て。
「さて、改めて名乗らせてもらおっかな」
声からして、雪乃だと思われる人物は、ごほんと咳払いをすると、真剣な口調になっていた。
「【A•G】四番隊隊長、雪乃」
「同じく、【A•G】七番隊隊長、リリチャルド・アルテウス・ファルミニール」
「そして、【A•G】零番隊隊長、結花」
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多分……午後9時になります。




