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追憶のエピローグ



  暗い月が微かに照らす草原に二人の影があった。


  その二人には幾つかの共通点があった、二人とも白銀に煌めく長い髪に和装を纏い体格からしてまだ一桁代の幼い子供だろう。


  似ている二人だったがその姿には確かな違いがあった、一人は黒の和装、もう一人は白の和装。


  黒と白。

  二人はまるで対になっているかのようにそこに存在していた。


「君誰?」


  先に言葉を発したのは白和装だった。


「私は……」


  問い掛けられた黒和装はその目を揺らすとどこか儚げに語り始めた。


「私はクミ、九つの実りと書いて九実、あなたは?」


「あたし?あたしは七実ななみだよ」


  九実と七実。

  数字と実るという字、二人はその名前までも共通点を有していた。


「さてとそれで?自己紹介も終わったし本題に入らせてもらうけどいい?それは九実がやったの?」


  七実の言葉もあり九実の周りを見渡すとそこにはたくさんの倒れている男の姿があった。


「これ?うん……これは私が刈った。だってこんなの存在するだけ無駄だから」


  九実の瞳には迷いなどなく心からそう思っているということが七実は嫌でも伝わっていた。


  様々な感情がその目から伝わってくる中最も大きな感情それは、退屈。


「どうしてやったの?」


  七実からみて九実は意味もなく誰かを傷付けるような子には見えなかった。


  二人は同い年だったしかし二人の目に映るものはまるで反対の輝きを宿していた。


  九実の目からは純粋そうだけどどこか大切ななにかを欠落しているような危うさを。


  七実の目からは子供には見えないほどの理性と知性、そして溢れるほどの力を。


  だからこそ七実は確信にも似た感情を抱いていた。


(この子を放置してはいけない)


  七実から見て九実のことが導火線の短い危うげな爆弾のように見えていた。


「私は知りたい」


  九実の目は純粋だった、見た目通りの子供、その目は子供が持つ無邪気な心を映していた。


「私がどれだけ強くなれたのか」


  九実の目は純粋だった、しかし無邪気さだけではなくどこか七実と同じように強い理性と知性を感じさせていた。


「この雑草達じゃわからなかった」


  無邪気な心と大人顔負けの理性に溢れる心。

  九実にはその両方が備わっているように七実の目には映っていた。


「あなたは強そう。ねぇ私と、しよ?」


  その瞬間。九実からは凄まじい殺気が溢れていた。そのあまりにも激しく、荒々しく、濃密な殺気に七実の表情が一瞬曇る。


  九実が正面に手をかざすとどこから現れたのか、彼女の手には漆黒の刀が握られていた。


「行くよ?」


「っ!?」


  九実は呟くと同時に肩の力を抜きつつ、軽く刀を握ると自然体のまま凄まじいスピードで突進した。


  二人の距離が零になる瞬間七実もまたどこからか純白の刀を取り出すと九実の上段切りをその刀で受け止めた。


「クスッ、よかった。今のスピードについて来られたのはあなたが初めて」


「そりゃありがとっ!!」


  九実は歓喜していた。

  今まで出会った者は皆、九実のスピードについてこれずいつもこの一太刀で終わってしまっていた。だからこそ受け止めた七実の存在を心から喜んでいた。


  それに引き換え七実はつばぜり合いなどしたくないのか即座に九実の刀を受け流すと突然加わっていた力が無くなり前につんのめってしまい隙を作ってしまったその背中に刀を振り下ろした。


  九実に振り下ろされた七実の刀は九実が即座に体制を立て直し背中を守るように刀を滑り込ませたおかげで切られることはなく二人は距離をとっていた。


「クスッ、やっぱり強い、楽しい」


  七実は天才だった。

  一桁代という若さでその道のプロ以上の実力をすでに手に入れていた七実にとって同い年の九実の存在に驚愕した。

 なぜなら。


(この子、今の(・・)あたしより強い)


  七実は天才と呼ばれるだけの才能を持ちながらも努力家だった。


  何千、何万、何億人に一人の才能を持った天才。それが七実という少女だった。


  だからこそ自分より遥かに強い存在に対して喜びを感じていた。


  九実が自分の実力を発揮できる相手が見つからなかったのと同じように七実の周りにも七実と同い年で同格またはそれ以上の相手は存在していなかった。


「あはは、どうしよ。あたしもなんだか楽しくなってきちゃったよ」


  七実は嬉しそうに笑うとさっきとは一転知性だけでなく年齢通りの純粋な無邪気さを表に現し刀を振り始めていた。


   ☆ ★ ☆ ★


  二人の攻防は長く続きその終わりはなかなか見えなかった。


  しかしこれだけの時間刀を交わし合いながら変わったことが一つあった。


 それは七実が九実を押し始めたのだ。


  最初は明らかに九実が七実の何枚も上をいっていた。しかし時間にしてまだ一時間も経っていないのにその差が埋まることなど本来ならありえることではなかった。


  ここで一つの勘違いがあった。

それは七実が天才だということ、七実は戦いの中、自分がどうすればいいかどうやれば強くなれるのかを無意識の内にやっており刀を交わす毎に七実のレベルが一つ、また一つと上がり続けていた。


「……」


「あはは、やっと追いついてきたかな?」


  実際のところ剣術の実力で言えばすでに七実は九実の実力を超えていた、しかしだからと言って七実に余裕などなかった。


  なぜなら七実には九実がまだ底を見せていないことに気が付いていたからだ。


  二人は互いの刀を激しくぶつけ合うと二人は同時にバックステップをし距離をとった。


「ねぇ九実? そろそろ本気出してよ。じゃなけゃ負けちゃうよ?」


  七実が九実を挑発すると九実は軽く溜め息をつくとぱっと笑顔になった。


「うん、そうだね。行くよ?」


  二人の戦いはさらに激化していった。

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