1ー1 入学は春風と共に
春。
桜の咲くこの季節彼は中学二年生になった。
家から近いどこにでもあるような公立中学に入学した彼は一年間、勉学を共にしたクラスメイトと離れ、新しい仲間と出会うべく二年生というあらたな道を進み始めた。
今日は登校初日、初日ということもあり始業式を終えた後軽くクラスメイトと新しい担任との顔合わせをして終わり早々に生徒は帰宅となった。
彼の物語はここから始まる。
天空を支配するのが神々しい太陽から、淡い優しげな月が照らす時間。
深夜、良い子なら眠る時間。
彼は向う。
彼の通うガーデンに。
さぁ、おいで。
参加してだなんて言わないさ、
ただ見ていて欲しいんだ。
歓迎しよう。
F•Gに。
近代。
先進国はどこも自国の戦力強化につとめていた。
戦力強化とは主に化学兵器の研究。
そのなかでも最も盛んかつ一般的なのは核兵器だ。
核兵器を持つことによりお互いを牽制し合うことによって先進国同士の大きな戦争はなくなりかけていた。
しかしそれはあまりにも危険だった。
一つ話をしようか。
それは歴史に興味がある人ない人関係なしに名前だけなら知っているだろうという話。
三国志についてだ。
三国志とは三国、蜀、魏、呉のトップである。
劉備、曹操、孫権が天下統一を求め争い合う物語のことだかそのなかでも劉備の蜀にいる有名な軍師、諸葛亮孔明。
孔明が劉備に授けた計略のなかに天下三分の計というものがあった。
字の通り天下を三つに分けAとBが争えば弱ったところをCが攻め、逆に他の二国が争えば残った一国が漁夫の利を得る。本来はそんな簡単なものではないのだか今はいいだろう。
天下三分の計によって戦争は一時的に止まったがそれでも劉備と孫権が手を取り合い三国志の中でも有名な戦、赤壁の戦いが始まってしまった。
三国志では劉備と孫権が連合軍を組織したのがきっかけとなり戦いが起きた。
つまり牽制し合っていたとしてもなにが戦いの引き金になるかわからない。これは恐怖だ。
戦いの引き金が引かれ平和が終わりを迎えるときそれは世界の終わりともいえるだろう。
人間の作り出してしまった兵器は容易く命を閉ざし、生き物だけではなくその大地に大きな傷跡を残し世界の食物連鎖というシステムまで壊しかねないからだ。
その大地に影響を、そして多くの死傷者を無くす為に各国が昔から研究していたあることが活発になっていった。
あること、それは魔法。
化学や物理などの進歩とともにそれらとは相反するといってもいいアニメやマンガだけの夢物語とされていた魔法という異常現象の研究が進んんでいた。
詳しい話は後として、結論からいって魔法というものを作り出すことは出来なかった。
しかし研究のなか違うものが発見された。
それは『幻操術』魔法に似ているが魔法ではない。
幻を操る術、それが幻操術でありそれを扱うもののことを幻操師と呼んだ。
そして幻操師を育てる学院はガーデンと呼ばれそこの生徒はシードという名のプロを目指す者、候補生と呼ばれる。
そして数あるガーデンのなかでも最大規模を誇るガーデン、それがここ、F•Gだ。
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幻操術が開発されたのは遡ること数十年前とされている。
たったそれだけの期間に幻、妄想、幻想だなんて言われていた力が現実のものになっていた。
先程あるように幻操術はもともと魔法を実際に実用化しようとしていた際に生まれたもので地域によっては魔法と呼んでいる所もある。
実際、ポピュラーなのは魔法だ。それなのになぜわざわざ幻操術と呼んでいるのか。
それは開発者達が作り出そうとさていた魔法のイメージとは違うものとして生まれてしまったからだ。言ってしまえば開発者達のわがままだ。
魔法とは魔力などの未知のエネルギーをもとに発生する異常現象、例えば火の玉を作り出したり、水の弾丸を打ち出し、風の刃を放つ、イメージとしてはこのぐらいだろうか。
幻操術を使えば火の玉を作り出したり、風の刃の発生、一見魔法としてのイメージ通りのものが出来上がったと言ってもよかったのかもしれない。
事実。出来た当初は魔法と呼ばれていたのだか、これには一つ、あってはならない特徴があった。
それはこれによって起きる現象にエネルギーが発生していないということ。
エネルギーが発生していない火の玉、ならばその火の玉は熱を持たないのかと問われれば答えは否だ。
素手で触れれば火を触ったかのように火傷するし痛みも感じる。しかし一晩たつとその火傷は完全に跡形もなくなくなってしまう。
他にも風の刃を作り出した際研究員の一人が誤って風の刃で手を切ってしまったことがあったのだかその時手は確かに切れており出血もあった、とはいえそこまで深く切ったわけではなかったため縫うこともなく止血と消毒、薬を塗って包帯を巻くだけの簡易的な治療で済ませたのだかその傷もまた一晩経つと綺麗になくなっていて血が滲んていたはずの包帯も血の後が綺麗になくなってしまっていた。
開発者達は混乱しただろう。夢の技術が完成したと思ったらあまりにも不可解で理解することのできないものができてしまったのだ。
火傷したはずなのに火傷していない。
切り傷さえ跡形もなくまるで最初からなかったかのように消えてしまう。
一度ビデオにとったこともあったがそこには我々が見たとおり切り傷や火傷の跡があったのだかやはり次の日には消えてしまっていた。
中には傷が大きく出血多量によるショック死や全身火傷による不幸な事故も起きてしまった。
そしてその遺体さえも一晩経つと傷が綺麗になくなってしまっていた。
しかし命が消えたという事実は消えなかった。
いったいこれはどういうことなのか?
当初、開発を中止にしようという声はあったのだか魔法は今の危険な状態から脱する可能性があり、今やめてしまえば犠牲となった者たちが無駄死になってしまうとの声があり犠牲者を出しつつも開発……いや、研究は続いていた。
そして初めて魔法の様なものが生まれてから数年の研究を経て人間の専売特許、化学に喧嘩を売るような結論がでた。
それは幻覚。
化学で説明できない生き物の心から生まれる力。
しかし一般的な幻覚とはなにか違うなにか。
本来、コントロールすることなど出来ない幻覚という現象、その現象を操り己と力とする。
伝説という意味の幻であり。
幻覚という意味の幻でもある。
それが幻操術。
研究員の出した結論を簡単に説明すると、幻操術によって発生する現象は幻覚でありその凄まじリアリティーによって生き物の脳が本物と錯覚し五感が錯覚したものを作り出している。
つまり幻操術によって炎を作り出したときその炎はあまりにもリアルなホログラムということだ。
そしてそのリアルさにより脳が誤認し五感までも誤認させる。
目なら見た目を誤認させ、
鼻なら匂いを誤認させ、
触覚なら痛みを誤認させ、
舌なら味を誤認させ、
耳なら音を誤認させる。
そして一晩たつ頃には脳が正常になり目に見せていた火傷や感じていた痛みが消える。
そしてその誤認はあまりにも強く生き物の命まで絶ってしまう。
術の完成度、つまりその幻覚のリアリティは術者によって様々な違いがあった。
火球を作り出すだけでもその大きさ、色、温度はバラバラであり検証の結果、術者の想像力によって強弱があり指紋のように個人個人で違い特性があるようだった。
このことより幻操術は人間の想像力に関係し資質というもの優劣があることがわかった。
しかしここで問題が起きた。
それはその余りある危険性だ。
その気になれば大勢の人間を容易く、まるで息をするかのような難易度で殺してしまう技術。秘密裏に研究しているとはいえいつ外部にもれるかわからなかった。結果一時的に幻操術は封印された。
そう一時的に。
封印されてから数十年後ある人物が幻操術を復活させた。
本来なら封印していたはずの技術の使用は重罪だ。
しかしその人物はその罪が帳消しになるほどのものを作り出した。
それはとある幻操術。
幻域と呼ばれる術だった。
それは発動者を中心に設定した円の範囲内にいる人間の心を自分含めて結界のなかに引きずりこむというものだった。
幻域の利点は三つある。
一つは結界に引きずりこんだ時点で外の時間からは完全に解放される。
たとえ結界内に五時間いたとしても結界を解いてものに戻ればそれは一秒にも満たない。
つまり幻操術を使用者と対象者以外に見せることがない、それはとても都合のいいものだった。
二つ目は捕獲だ。
外、ここでは物理世界と呼んでいるがそこで使えば対象者は死のリスクがある。日本では基本的に生け捕りが推薦されてるためこの死のリスクは都合が悪かった。
しかし幻域内ではそのリスクが無くなるのだ。
どういうことかというと幻域での死は物理世界における苦痛でしかないのだ。つまりリアルに死の苦痛を与える。とはいえその苦痛はある程度抑えらるためショック死の心配もないのだ。
三つ目は……ロマンだ。
どういうことかと言うと幻域内では実体を持たない、そこに厳密な物理の法則はないのだ。つまり幻域内に限り幻操術はエネルギーを持つ、当初開発しようとしていた魔法のように使用することができる。
幻域の登場で幻操術の研究は以前よりもやりやすくなり必然と言うべきか封印も解除となり研究に拍車をつけた。
幻域開発者はそれだけに留まらずさらなるものを作り出した、それは幻理領域といい幻域の応用版だ。
幻域が一時的な空間なのに対し幻理領域は半永久的な空間だ。
そんな空間のなかに作られたのが幻操術の開発及び育成をする、幻操術における学院。
F•Gだ。
F•G正式名称
『日本国立幻操師育成連盟第一学園』
幻操師の施設は他にも複数あり施設の総称としてガーデンという名称がついている。
ガーデンの役割は幻操術を習い扱う者、幻操師の育成、そして幻操術の研究だ。
実際のところ幻操術が出来た経緯についてはほとんどわかっていない。
一番信憑性のあると言われているさっきの話でさえも本当なのかは未だに不明だ。
ガーデンは物理世界の学校に似ているが幼等部、初等部、中等部、高等部、さらには大学、大学院、までもが全て合わさった全一貫校だ。
幻理領域という限りのない空間だからこそ出来る超大規模の施設だ。
そしてここ、F•Gはガーデンの中でもその名の通り最初に出来たガーデンであり、彼は今日中等部二年に途中入学することになっている。
学校であるが故に事務室も存在していて彼は手続きのために事務室へ向かった。
「すみません、今年転校してきた音無結ですけど」
事務室の受け付けにそう言うと職員室へと連れていかれた。
ガーデンの内装は正直な話物理世界における学校とさほど変わらない。
事務室から少し歩くと一般的に進んで入りたいとは思うことは少ないだろうと思われる職員室に到着した。
「おっと君が噂の転校生だね?」
職員室に入ると二十代前半ぐらいの若い男性が待っていた。
(噂? 俺、なにかしたか)
「はい、今日からお世話になる音無結と言います。よろしくお願いします」
ふと浮かんだ疑問が表面に出ないようにしつつ、結が頭を下げると男性は少し照れたかのように頬をかくと自己紹介を始めた。
「私は君が所属することになる二年C組の担任、森下だ」
森下と名乗った男性は身長、百九十ぐらいで髪は短く、服の上からでもわかるほど筋肉が浮き出ておりまるで体育科にいそうな人だ。
そういえば今だに結についての説明がまだだった。
名前は音無結。
歳は十三。身長一五五、髪は少し長めの黒だ。
ついでに制服について説明するとここは男女にそれぞれ二種類の制服が用意されている。
男子はブレザータイプと学ラン。
女子はブレザータイプとセーラー服だ。
結はブレザータイプを着ているが時に着崩したりはせずに着こなしているが第一ボタンは開け、ネクタイは緩くしていた。
「さて、音無くん、忘れない内に渡しておくよ」
「ありがとうございます」
森下先生からもらったのは薄茶色の小さな手帳だ。
「カードは中に挟んである、確認してくれ」
「わかりました」
これは俗に言う生徒手帳というやつだ。
ここので生徒手帳は二つあり一つはどこにでもあるような生徒手帳だがもう一つは黒いカードの形をしていて手帳の方は幻操師として必要なことの説明などが主に記されておりカードの方はここの生徒であるという証明書であると同時にその者の幻操師としての実力などを記している。
結のカードにはローマ数字の三とアルファベットのFの文字が刻まれている。
この数字と文字こそ今の結を表している。
生徒手帳を貰った後結は中等部の始業式の行われる第四講堂に案内されていた。
結は今日入学したばかりのため自分の席というものがないため森下先生から二階の観覧席に座るようにと言われ誰もいない二階に一人座っていた。
始業式が始まり司会者らしい先生が一つ一つ予定通りに式を進めていた。
そしてこのガーデンの経営関係のトップである学園長からの言葉が終わるとこの学園をいやこの空間自体を作り出したガーデンマスターが現れた。
「やあ、諸君。私がこのF•Gのマスター夜月 賢一だ。よろしく」
F•Gマスター、夜月 賢一、圧倒的才能と膨大な努力により圧倒的力を手にした日本全国でトップクラスの幻操師。
夜月 一花という賢一と同等の実力と圧倒的美しさを併せ持つ嫁がいて二人の間には結と同い年の娘がいるらしい。
その娘は両親譲りの才能と母譲りの美しさを備えていてその才能は両親を超えているとまで言われている。今ではF•Gと仲のいいガーデンのマスターになっているらしい。
賢一は日々を大切にし精進を忘れぬことそして自分の力を過信せず正しく計ることと生徒一同に告げるとその場を去って行った。
講堂にいる者は生徒だけでなく先生方まで賢一から発せられるオーラに気圧されて全身が緊張してしまっていたらしく去った途端深い溜め息をついていた。
賢一が去った後は中等部の生徒の中から選抜される生徒会と風紀委員会の融合した組織、生十風紀会、通称生十会の会長が挨拶を初めた。
「生十会会長、神崎美花よ」
生十会の会長、神崎美花は黒い腰に届く程の長いストレートの髪を背中に垂らしている美少女で、ブレザータイプの制服を着ていて目はキリッと意識の強さを感じさせていた。
「今、ここにいるのはそれぞれ一年間または二年間の訓練を終え次の訓練を始める優秀な生徒達よここまで残れたあなた達は立派よ。だけど決して油断してはだめ、私達の仕事は一つ間違えれば心が死んでしまう。それは生命の死と同等の危険性を秘めていることを忘れてはだめよ。自分のことを信じなさい、その迷わずに自分の信念を貫く揺れない心こそ私達に奇跡を、未来を、希望を見せてくれるはずだから。私からあなた達に願う事はただ一つ……死ぬなっ! 以上っ!」
会長の信念はまっすぐで今言ったことはきっと自分にも言っているんだろう。そのまっすぐな心が会長の力になっているのだろう。
会長はまっすぐな自分の信念を生徒に伝えると生徒達はその言葉とその美しさに感動したのか盛大な拍手が巻き起こっていた。
始業式の後俺は森下先生と共に二年C組の教室へときた。
教室のクラスは個々のレベルによって合わせたものではなく様々な実力を持つ者ミックスだ。
「さて今回は転校生がいるからまずは彼から自己紹介をしてもらおうか」
なんとなく生け贄にされた気分で気は進まないが転校生恒例、自己紹介を始めることにした。
「はじめまして、俺の名前は音無結。音が無いで音無、結ぶと書いて結だ。まぁよろしく」
結の自己紹介も終わり今度は他の奴らの自己紹介が始まった。
男女比は3:7で幻操師は女子の率が大きい。
それにしてもこのクラスの女子はやけに綺麗どころがそろっている。
( まあ俺も男だ、むさ苦しい男が多いよりかはこういうほうが花があっていいな)
自己紹介も終わり今日は始業式ということもあり残りは自由となった。
「ねぇ、音無君」
帰ろうと席を立つと後ろから声からして女子に話しかけられた。
そこにいたのはブレザーを着た可愛らしい少女だった。
席も後ろだったし名前は自己紹介の時に聞いたな確か……。
「雨宮桜さんだよね?」
「おぉっ! 覚えてくれてたんだ! あっそうそうあたしのことは気軽に桜って呼び捨てでいいし、タメ口でいいよ」
押しが強い気もするが親しみの持てる子だな。
桜の容姿は身長、一五○程度、髪はショートで少し赤みを帯びた茶髪だ。目は少しつり目だが怖さより元気さが溢れている。
「わかった。俺のことも結でいいぞ、それにしても桜は俺になにか用か?見ての通り俺は帰るつもりなんだけど」
「ほらせっかく同じクラスで席が近いんだしさ!仲良くなるために他にも誰か誘ってどっか行かない?」
つまりは転校生に対する興味心といったところか?
「わかった。そういうことなら喜んで」
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