呟いて、せかい
たくさんのせかい http://shindanmaker.com/309247
『おやすみ、ほころぶ空色のせかい』
あの空色が美しいうちに目をつぶって 見えなくなった暗闇のなかでわたしはつくりあげる 貘「でもね、キミの空色はほころびの糸が見えるから かわいそうに食べてあげよう キミが目覚めてしまわないうちにね」
2013.Jan17
『うつくしく冴える雪色のせかい』
雪ってさ、白じゃないんだって。白い吐息をちらつかせて君は言う。知ってるよ、灰色でしょ。したり顔(自分の顔は見えないから正確じゃないけど)で君に応える。「ちがうよ。雪ってさ青のかかった色をしてるんだ。無彩色じゃなくて有彩色なのさ」答はどうやらそうらしい。私はキンと冴えた世界を見た。
2013.Apr10
『霧のむこうで羽ばたくあなたのせかい』
誰しもが見えないはねを背中にしょっている。それがとべないはねでも、あざやかなはねでも、すでに機能しなくなったはねだとしても。とぶ先を知っているはねは他人がとやかく言えることなどない、広がっているのはあなたの世界。誰かから見る霧がかった世界の先にあなたの世界があるのだ。
2013.Apr11
『指先でなぞる桜色のせかい』
新しく買ってもらったスマートフォン、一目惚れした桜色はずっと春さえ思わせられる。「……あ」思わず声が漏れた通学路、桜並木は七分咲きの桜のせいか視界を覆う程花びらが散っている。突風で花びらが空に舞う。空中を指先でなぞってとばして、風と一致したときに桜をフリックしている気分になれた。
2013.Apr12
『にがくとろける約束のせかい』
生まれ変わっても一緒だなんてバカみたいな約束をして、いつか果たされるんだって思ってた。うそつき、覚えていたのは結局私だけで、君は知らない誰かに愛想を振りまいている。思わず伸ばしかけた手をさげて唇を噛みしめると、あの日がとろけて苦々しい後味だけが舌の上に残っていた。
2013.Apr13
『あわく芽吹くモノクロのせかい』
生暖かい風が、「春だよ」と笑いながら僕に告げる。雪解け水が春の訪れをちらつかせ、芽吹く季節がきたのだとのびをする。僕は冬が好きだ、そして春は嫌いだ。モノクロから芽吹きの時へ移り変わる瞬間に、グレースケールでしか感じられない世界が、淡くて焦点も定まらないとぼやいた。ある日。
2013.Apr14
『さよなら、うしなわれる冬色のせかい』
雪が解けていく。目の前で失われていく。氷のお城は春を知り消えてしまうし、次に巡ったときにまたよろしくね、と、空気に霧散してしまう。雪解け水で涙を流す白花が顔を出している。一面の雪は気づけばあたたかな春で一掃されてしまっていた。
2013.Apr15
『てのひらでつぶやく最後のせかい』
「今日で最後だ」私が始めたひとつの行為、はじまりがあるのならきちんとおしまいを決めなきゃならない。いろんなせかいが在って、手に取り決めたそれらは見えないところにも存在している。手のひらでつつみこんだ携帯機器から、見慣れたボタンをタッチする。さよなら私のせかい、呟いて仕舞いこんだ。
2013.Apr16
『永遠に辿るきみのせかい』
なくしてから気づくのは僕の悪い癖で、手放された手を無理矢理にでも繋ぐべきだった。君との二人ぼっちのせかいが好きだったんだ。だから僕は君のせかいをずっと辿る。
『じわり、祈る誰かのせかい』
力尽きたよ、そう呟いて酸化してしまった赤茶色の水溜まりに身を任せた。おなかのあたりからじわりと酸化前の赤色が染み出しているみたい。誰も報われない終わりのないたたかい(戦争)が、どうか終わりますようにと最後に祈る。
『あわく溶ける秋色のせかい』
短い夜が過ぎたあと、金星が手に取るくらい近くなる季節。段々夜が長くなるのは冷たさが星の煌めきを強くするから。紫紺が橙と溶け合う空は、星が静かに瞬いて一番綺麗な秋の色。
『爪先で消えゆく春色のせかい』
湖に写り見える白桃の花は水鏡に反射して水底にまで咲いてるようで、船縁から思わず爪先でたたけば、途端に春は夢と消えた。
『あえかにほどけるきみのせかい』
手を伸ばして触れてしまえば今にも壊れそうで華奢な腕。か弱く儚く。そんな君の強めに結ばれたみつあみをとくと、さらさらとほどけて、いっそう消えてしまいそうに感じる僕が居た。
『鳥かごで繋がるセピアのせかい』
あちらで唄う鳥の姿は見えないの。だってわたしはずうっとこちら側を向いて唄うから。ただね、時折あちらの唄とわたしの唄が重なるときに、懐かしさをにじませたセピアの音色で繋がりを感じているわ。
『鳥かごでわらう純白のせかい』
きゃらきゃら、幼子がわらっている。鈴の音のような声を辺りに響かせて。純粋無垢で何にも染まってないこども。真っ白なワンピースを身にまとって足元にはきゃらきゃら音をたてる鎖がついてて。鳥かごのなかできゃらきゃら鳴いている。
『心臓で灯る桜色のせかい』
桜の木下に埋まるたくさんの心臓がどくんどくんと鼓動して、水のかわりに吸い上げたそれらは花弁を赤桃に灯す。夜の狂いのなかで、花弁の心臓にまたひとつ、灯りが灯る。
『指先で名前を呼ぶぼくのせかい』
なれない指でフリック入力しては、ああ違うんだってと頭を抱えて。新しい相棒はまだ言うことを聞いてくれなくて、好きなあのこの名前を打とうとしては何度も僕の名前にうち間違えてしまう日々。
『あえかに消えゆくモノクロのせかい』
極彩色に囲まれてひっそりひっそり生きている。表舞台に立つのはキライだから、影になって静かに息を潜めるの。
『あえかに薫るきみのせかい』
あまりにもかよわくて霧散してしまいそうな薫り。希薄なきみはふとみればすぐに見えなくなる存在で、すんと香りをかごうとも、酸素のにおいが邪魔をするのだ。
『心臓で冴えるあしたのせかい』
全速力で走り終えたあとの自分は今を突っ切ってそのまま明日についてしまえそう。地べたに頬をつけて大地の音と自分の心臓の音を同化させる。どくどく、とくとくとく……。胸一杯に深呼吸すれば私は一度空っぽになれた。
『あまく祈るあしたのせかい』
やさしいだけでせかいを救える訳じゃない――わかっている。この考えが甘ったるく何も見てない応えだとも。それでもどうか祈らせてほしい、誰も救えないかわりに誰かが笑う明日があるということを、どうか。
『あわくのぞくばら色のせかい』
霧がかった洋館の庭園には幾多の薔薇が咲いている。特に映えた黄色のそれは、霧からのぞいて可愛いげがあるのに隠しきれない己の嫉妬で霧をももやとかえてしまって、いっそう見えなくなってしまった。
『ゆるやかにふれるきみのせかい』
手さぐりで触れたのはきみをひとつも知らなかったから。ゆるりと、時がすべてをよくするように、あたためた時間で君の氷は解かせたのかな。
『片隅で痛む少年のせかい』
転んですりむけた膝小僧に、軽い消毒と絆創膏をぺたり。男の勲章だ!とえばる少年、片隅で泣きべそかいてたことを僕は知ってるよ。その痛みに耐えて堪えて、涙をぬぐって前へと進めたのなら。もう、君の世界はぐんと広がったね。
『じわり、凪ぐ純白のせかい』
肌について流れる汗が、湿気の多いこの土地をゆうに物語っていた。突き抜けるような真っ青な空を見上げて、申し訳程度にはった帆を見れば、純白は青を切り取って無風の中で静止していた。
2013.May24
『窓の向こうでひろがる少年のせかい』
自分の殻に引きこもっていないで、まずは目の前の窓を開けてご覧。飛行機雲の見える空は君に果てのない世界を教えてくれるよ。さあ、少年よ大志を抱け!
『あえかに織りあげるセピアのせかい』
記憶の中のあの人はふらりと私の元にやってきてはお酒を強請った。私は仕様がない人、と愚痴をこぼしていつも迎えた。あなたの声すら確かでないのは、思い出せる情景がセピア色だからよ。
2013.May26
『じわり、滴るあなたのせかい』
その世界を、物語を。あなたの声で、あなたの発信ツールで、あなたの手からこぼしてみせて。滴りつたう断片が、誰かの脳から侵食して見せるからさ。
2013.Jul16