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ラブ ストーリー 貴方の中の私の時間  作者: 穏世青藍


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1/3

プロローグ

 あれは5月の時だった。

 私が貴方を見た時は。

 あれは天気のいい日だった。

 私が貴方の名前を知った日は。

 あれはの事務所の私の席だった。

 私が貴方の中の私の時間を動かした席│(ばしょ)│は。

 

 動き出した。

 動き出した。

 私の中で、何かが動き出した。

 

 注がれる。

 注がれる。

 私の中で、何かが注がれる。


 叫んだ。

 叫んだ。

 私の中で、何かが叫んだ。


 愛している。

 愛している。

 愛しているの。


 いつも私の側にいる、貴方を私は愛しているの。

 いつか離れる事になっても、私は貴方を愛しているの。

 いつまでも、いつまでも、私は貴方を愛しているの。


 この愛が、ずっと、永遠に。

 この愛は、ずっと、永遠に。

 この愛よ、ずっと、永遠に。

 

 見つけた、貴方の中の私の時間。

 動き出す、貴方の中の私の時間。

 始まる、貴方の中の私の時間。

 きっと、それは、貴方の中の私の時間。




 私は50歳になる。

 性別は女だ。

 両親と共に暮らしている。

 あと猫が二匹いる。

 そして、一人っ子だ。

 機械製造販売メーカーに勤務している。

 担当課長だ。 

 生産部で工程管理をしている。

 比較的、上司にも部下にも恵まれている。

 友だちもそれなりにいる。

 何不自由ない生活を送っている。

 ただ…。

 結婚出来ていない…。

 子供もいない…。

 何より、恋人がいない…。

 別に、結婚も子供も恋人もいらない人も、今の時代は沢山いるけれども、私はそうじゃない。

 とても、結婚願望が、高かった。

 子供も、沢山欲しかった。

 ロマンチックな恋愛を、望んでばかりだった。

 特に、閉経した時には、とても、落ち込んだ。


 母になれなかった…。

 

 とても、悲しかった。

 とても、切なかった。

 とても、嘆いた。

 この胸に、我が子を抱くことが、出来なかった。

 両親にとても申し訳なかった。

 孫を抱かせてあげられなかった。

 跡取りを、産めなかった。

 この家は、もう、終わりだ…。

 嗚呼、私のせいだ。

 嗚呼、私のせいだ。

 嗚呼、私のせいだ。


 …。


 別に、結婚話が無かった訳では無い。

 人並に、恋愛はしてきた。

 でも…。

 でも…。

 でも…。

 私は、一人っ子だった。

 なので、家を継がなければならなかった。

 そして、いつか両親の面倒を見なければならなかった。

 子供の頃から、それがプレッシャーだった。

 別に、両親から、それを言われてきたのでは無かった。

 ただ単に、子供の頃から、そう思っていた。

 なので、恋愛しても、最後の最後で、諦めていた。

 何故か、私がお付き合いする人達は、皆、一人っ子ばかりだった。

 だから、お互いに、家を継がなければならなかった。

 その為に、いつも、泣く泣く別れていた。

 そして、次こそは、一人っ子ではない人を…、と思っていた。

 だけれども、何故か、次男坊、三男坊とは、縁がなかった。

 私には、合わなかった。

 向こうも、私には目を向けなかった。

 私は、そうして、歳をとった。

 親戚、先輩、後輩、友達、同僚…、皆、皆、結婚していった。

 そして、子供が出来た。

 いつしか、私は、皆の家庭の愚痴を聞くようになった。

 私は、羨ましく思いながら、話を永遠と聞いていた。

 私には見えない世界が、広がっていた。

 悲しかった。

 情けなかった。

 虚しかった。

 両親に申し訳ないと思った。

 そうして、毎日を、ただ、ただ、送っていた。

 

 何回目何だろう…。

 私は、そう思った。

 私は、また、恋をした。

 そして…、そして…、そして、また一人っ子だった。

 なので、最後はお別れするパターンだと、思った。

 自分が情けなかった。

 私は、次男坊三男坊の棒にも箸にも引っかからない存在なんだと思った。

 先の見える恋愛がしたかった。

 私は、顔は、中くらいだった。

 …というのも、昔、付き合って人から、私の顔は、下の上か、中の下だといわれた事があった。

 何とか中には食い込めた様だった。

 とても、正直な人だったので、そこは、心配していない。

 何か、言われた時は、とても複雑だった。

 でも、中にしてくれたから、笑ってしまった。

 その人は、派手な化粧は好きではなかった様だった。

 …というか、私の恋人は、皆、派手な化粧は好きでは無かった様だった。

 なので、私は、中の顔に、毎日、毎日、ナチュラルメークをした。

 そうして、恋愛を真剣に楽しんでいた。

 沢山の恋愛をしてきた。

 そして、今、次の恋を、どうするのか考えていた。

 

 …、気になる。

 …、気になる。

 …、気になる。

 どうしよう…、側に行きたい…。

 側で、話したい…。

 

 そう思って、席を、移動した。

 回りくどいのは、苦手だった。

 勇気を振り絞って、彼に声を掛けた。


 ここ、座ってもいい?


 彼は、頷いた。

 

 あっ、良いよ。


 そう言って、彼の隣の席の机の上に置いてある荷物を横にずらした。

 

 少し目をそらしていた。

 でも、顔はこちらを向いていた。

 何か、顔が、少し明るくなった気がした。

 何かを期待しつつ、戸惑っている様に見えた。

 …、つまり、私のした行動に対して、何らかの心の底の変化があった様だった。

  

 そうなるまでに、色々あった。

 かと言って、素敵な素敵なストーリーがあった訳ではなかった。

 ただ、普通に、一緒にお仕事をしてきた仲間だった。

 事の始めは、彼が私のいる工場に、転勤してきたというものだった。

 最初に私が彼を認識した時は、私が所属する事務所に、彼が挨拶回りに来た時だった。

 彼は昔は、同じ会社の支店に勤めていたようだった。

 そして、彼は調達部に所属する事になった。

 私は生産部の工程管理だったから、どうしても部品が組立する時にが届かない時は、調達部の力を借りていた。

 彼は、鋳物の担当者になった。

 なので、下請け業者へ発注した羽根車インペラーや軸受胴体、胴体ケーシング、グランドカバー…など、鋳物材質のときは、彼に納期の問い合わせをしていた。

 納期遅延や、巣不良などの時は、とても、親身に対応してくれた。

 彼は、とても、優秀だった。

 あっという間に、彼は、調達部に居場所を見つけ出した。

 とても、頼りにしだした。

 そうして、毎日が、静かに、静かに、過ぎていった。

 月に1回は、生産部と調達部と設計部で会議があった。

 彼は、調達部の担当課長だった。

 私と同じく、会議のセッティングを毎回した。

 その内に、色々と話すようになっていった。

 暫くすると、試験的に製造した商品を、無事販売する運びとなった。

 すると、大型発注があった。

 期間限定のプロジェクトチームが生産部、調達部、設計部の合同で立ち上がった。

 毎日、毎日、忙しかった。

 各部あげて、皆、頑張った。

 特に、彼は、大変だった。

 夏場は、鋳物を吹くのが、クーラーを入れないと、暑くて出来ないから、コストがかかるという事で、下請け業者が、暑くなくなる迄は納入しないと納期を遅らせた。

 それは、仕方の無い事だった。

 でも、彼は、頼み込んで、無事に納入してもらえた。

 どうやったのか、分からないけれども、下請け業者も、納得していた様だった。

 どちらも、ウィンウィンだったと、後に、聞いた。

 そうして、彼とはとても話すようになっていった。

 くだらない話も、内面の話もするようになっていった。

 彼は、地方出身者だった。

 実家は、野菜と林檎の農家さんだった。

 家族5人で暮らしていた。

 彼は、一人っ子だった。

 未婚者だった。 

 彼の事は、何とも思わなかった。

 ただ、一緒にいて、心の底がとても穏やかになった。

 一緒に仕事するのが、楽しかった。

 お互いに、支え合った。

 席が隣同士だった事もあり、お昼ご飯も、一緒に食べた。

 私は、10時の休憩、食後、3時の休憩に、飴を一つずつあげた。

 彼は、そのお礼にと言って、お菓子を買ってきてくれた。

 たまには、手作りのお菓子とかも作ってきてくれた。

 私は、とても喜んだ。

 とても、律儀な人だった。

 私の中で、とても好印象になっていった。

 商品が軌道に乗り、安定してきたので、プロジェクトチームが解散となった。

 そして、私はいつもの仕事を中心に、私なりに一生懸命に頑張っていた。

 そうして、ひと月経った頃だった。

 私は、何となく、何か、物足りなく感じていた。

 仕事に対してではなかった。

 でも、この感覚が何なのか、さっぱり分からなかった。

 すると、彼の姿を見る度に、ときめいている自分に気がついた。

 正直、驚いた。

 本当に、驚いた。

 今迄の恋愛は、初めからフィーリングがばっちり合った人ばかりだった。

 なので、彼の事は、全く、恋愛対象として、見ていなかった。

 ただの、仕事仲間だった。

 穏やかな、しっかりとした芯のある、話の合う人だった。

 余りにも今迄とは違う心の底の声に、私は、何をしていいのかが分からなかった。

 余りにも分からなすぎて、母に相談してしまった。

 母は、とても、呆れていた。

 そして、こう言った。


 その人は、その家の跡取りだから、駄目だよ。


 母には、彼の事を、色々と話していた。

 仕事の事とか、プライベートの事まで。

 

 私は、はっ、とした。


 そうだ、私も跡取りだ。

 しっかりしなきゃ。


 そう、思った。

 なので、即に、心の整理をしだした。

 まだ始まってもいない関係だから、傷も少なくて済むと、簡単に考えていた。

 …。

 なのに…、なのにだ。

 なのに、私は、心の整理が出来なかった。

 知らぬ間に、私の心の底は、彼にはまっていた。

 抜け出せそうになかった。

 

 どうしよう…。


 とても、焦っていた。

 私は、職場で、彼の姿や声に気付く度に、逃げ回っていた。

 周囲には、とても、おかしな行動をしている様に見えていたと、先輩から、後に、笑って教えてもらった。

 皆、心配していた様だった。

 そして、応援もしていてくれていた様だった。

 そう言えば、よく、飲み会が、その頃は頻繁にあった。

 気を使ってくれていた様だった。

 そのお陰で、私は、しょっちゅう彼と話す事が出来た。

 その飲み会には、必ず彼がいた。

 私は、始め、焦っていた。

 遠くの席に座っていた。

 でも、飲み会が1次会、2次会…となっていくと、皆、席も思い思いに移動するから、段々と席が近くになっていった。

 私も彼も、大体、2次会まではいた。

 その為、結局、話をする事になった。

 自然体な彼は、淡々と、色々な話をしてくれた。

 私は、その世界に、引き込まれていった。

 私の知らない世界を、沢山、知っている様だった。

 とても、魅力的だった。

 夢の様な時間の感覚に覆われた。

 私は、夢の中から、目が覚められなくなっていった。

 彼から、離れられなくなっていった。

 もう、ときめいてばかりだった。

 私の中で、暖かな気持ちになる瞬間が沢山詰まった時間を重ねていった。

 私は、私の心の底に、抗うつもりがなくなっていた。

 私は、笑って、その私を許してあげた。

 …そう言う事があって、今、私は、彼の隣の席に陣取った。

 今日は、生産部と設計部と調達部の合同会議だった。

 昼食を挟んでの会議だった。

 各部署、まとまっての昼食だった。

 なので、食後、皆が思い思いに席を立った時に、私は迷いながら、勇気を出した。

 会議は、一ヶ月に1回しかなかったから、私を私が鼓舞して、頑張ってみた。


 だって、いつも、気になっていたんだもの。

 もう、一歩も引かないぞ。


 私は、とても、凄んでいた。  


 そう、頑張れ、私!!!


 …、こんな感じだった。

 

 ふふふ…。

 

 始まった。

 始まった。

 私の恋が、始まった。


 やったぁ〜。

 

 彼の隣の席に陣取った私は、黙々と、手を動かしている彼に、その作品を見たいと、お願いをした。

 彼は、刺し子という刺繍の様なものを、いつも食後にしている。

 とても綺麗だ。

 晒│(さらし)│に鉛筆で下絵を書き写して、その上を、一目一目、丁寧に丁寧に縫っていた。

 とても、綺麗な柄だった。

 

 これは何と言う柄ですが?


 私は、そう尋ねた。


 麻の葉、と言います。


 彼は、そう答えた。


 素敵ですね。


 思った事を、そのまま言った。


 出来上がったら、差し上げます。


 そう言ってくれた。


 私は、本当に、舞い上がった。

 

 有難うございます。


 そう言った。

 私は余りに嬉しすぎて、笑顔が抑えられなかった。

 彼は、明るく微笑んで、また、黙々と刺し子を始めた。

 すると、こちらを向いて、話し出した。


 一緒に、刺し子をしませんか?


 私は、驚いて、彼の顔を凝視してしまった。

 彼は、驚いたのか、目を反らした。

 そして、即に下を向き、また黙々と刺し子を始めた。

 私は、教えて欲しいと、懇願した。

 彼は、嬉しそうに、微笑んだ。

 そうして、私達は、毎日毎日、昼食後、一緒に刺し子をする様になった。

 そして、色々と話した。

 彼は、出来上がった作品を、実家に送っていた。

 彼の実家は農家さんで、家の畑で採れた野菜や果物を、近くの神社やお寺に奉納していた。

 その際に、上に乗せる布を、刺し子にしていた。

 神様、仏様にお供えするのに、綺麗に刺し子を施した布を野菜や果物の上に被せて、奉納すると、喜ばれるそうだ。

 なので、彼は、せっせ、せっせと心を込めて、刺し子をちくちく、毎日毎日していた。

 私は、その話を聞くのが楽しかった。

 楽しい話は、何回聞いても、飽きなかった。

 私は、とても、毎日が、鮮やかな世界にいた。

 

 いつも、私が、彼の事務所に行った。

 とても、とても、恥ずかしかった。

 女がアプローチしている…。

 …それが、私には、不服だった。

 それが、私には、心の傷だった。

 私は、今迄お付き合いした人に、私から告白した事がなかった。

 いつも、受身で、待っていた。

 ずっと、ずっと、待っていた。

 普通に、女はこうであるべきだと、思っていた。

 なので、それが、当たり前だと思っていた。

 後に、彼は、この考えを、古風だと言って笑った。  

 私は、惚れた弱みで、アプローチし続けた。

 毎日、毎日、彼の事務所へ通い詰めた。

 そうして、沢山の作品が出来上がっていった。

 私は仕事帰りに、晒と糸をお店に買いに行く様になっていた。

 色々な種類の6本縒りの糸はとても綺麗で、テンションが上がってしまって、沢山買ってしまう癖がついた。

 母に見せたら、機嫌が悪くなった。

 私は、呆れて笑ってくれるだろうと思って見せたから、不思議だった。

 彼にその事を話したら、買い過ぎだと、呆れていた。

 私は、笑って欲しかった。

 私は、そっか、と反省をした。

 そういう、色々な事を積み重ねていった。

 楽しい、楽しい時間だった。

 ある時、いつもの様に刺し子をしている時だった。

 彼は、いつもの様に、私に紅茶を淹れてくれた。

 私の前に、彼の刺し子のコースターとマグカップを置いてくれた。

 彼のワイシャツの袖口が汚れていた。

 私は、鉛筆の芯の汚れだと思った。

 なので、仕事帰りにホームセンターへ寄って、農作業用の手掛けを、2種類2つ購入した。

 私用の分と彼用の分。

 これが、初めての彼へのプレゼントだった。

 次の日、彼に、あまく気が重くならない様に、普通のビニールのお店の買い物袋に入れて、誕生日プレゼントだと言って、それを渡した。

 彼は、普通に、淡々と受け取った。

 有難う、と確か言った。

 表情は、嬉しいのかどうなのか、よく分からなかった。

 ただ、いつもの様に、ほんのり明るい穏やかな表情だった。

 中を覗き込んで、確認していた。

 そして、彼は、この手掛けをしてくれた。

 私は、嬉かった。

 次の日だった。

 彼は、プレゼントのお礼にと言って、CDをプレゼントしてくれた。

 彼からは、この番号を聞いて欲しいと、小さなメモが入っていた。

 私は、とても喜んだ。

 仕事から帰って、即に、そのCDを聞いた。 

 ラブソングだった。

 とてもストレートなラブソングだった。

 私は、涙が溢れてきた。

 畳の部屋の布団の中で、CDデッキに耳を傾けながら、手で涙を拭いながら、仰向けになって聴いていた。

 嗚呼、報われた、と思った。

 何度も何度も繰り返し聴いた。

 そうして、彼に、何か返歌をしなければならないと思った。

 なので、大好きなアーティストのCDを買って、プレゼントした。

 手紙を添えた。

 アルバムだったので、お勧めの曲の番号を書いた。

 勿論、ラブソングだった。

 私の彼への愛を込めた返歌だった。

 そして、次の日に彼に渡した。

 後に分かることだったが、彼は、別にラブソングの意味で贈ってくれた訳ではなかったと言った。

 一緒にプロジェクトチームで働いていた時にお世話になったという感謝のような気持ちを表したと言った。

 私は、とても、とても、泣いた。

 でも、付き合うようになって暫く経った後で、恋心だったかもしれないと言ってくれた。

 私の面影を、その曲に見ていた様な事言ってくれた。 

 私は、とても、彼を可愛いと思った。

 勿論、とても、嬉しかった。

 私達は、いつもその手掛けをして、刺し子をする様になっていた。

 手掛けを、とても大切にしてくれていた。

 私は、とても、嬉しかった。

 彼は、その手掛けが汚れる事を、酷く嫌がっていた様だった。

 私は、手掛けは汚してもいいんだよと言った。

 でも、彼は、そのついた汚れをじっと見つめて一生懸命にこすっていた。

 何かが、心の底を、くすぐった。

 そして、私の誕生日が近づいた。

 彼は、コンビニエンスストアで美味しそうなスイーツを沢山買ってきて、渡してくれた。  

 仕事の帰り道に、彼が、コンビニエンスストアから袋を持って走って私の前に来た。

 とても、びっくりした。

 やっぱり、律儀な人だった。

 お礼を言って、私は帰宅した。

 私は、もう、嬉しくって嬉しくって、そのスイーツを、夕食を食べた後なのに、残さず全部食べてしまった。

 母も、一緒に、呆れて食べてくれた。

 そうして、少しずつ、少しずつ、私達は距離を深めていった。

 それは、とても、心地の良い柔らかな時間だった。

 そして、1週間が過ぎた頃。

 彼が、海外へ出張する事になったと、教えてくれた。

 私は、とても悲しかった。

 私は、携帯を海外からでもメールも電話も出来る様に、契約し直した。

 彼も、そうした様だった。

 私は彼に、メールアドレスと電話番号を教えて欲しいとお願いをした。

 彼は、考えてから教えてくれた。

 私は機械音痴なので、一緒に使い方の確認をしてもらった。

 3日間、仕事終わりに待ち合わせをして、使い方の練習をお互いにした。

 彼は、余り、メールも電話も人に教えた事がないと言った。

 私は、折角仲良くなれたのに、会えなくなって連絡出来なくなるのが怖かったから、必死だった。

 つい聞いてしまったので、本当は、嫌がっていたらどうしようかと、とても不安だった。

 そして、彼は、出張に行ってしまった。

 私は、心が、しんみりしてしまった。

 でも、勇気を出して、メールを送ってみた。

 すると、大分時間は経ったけれども、返信メールが届いた。

 短い文章だった。

 それでも、私は、嬉しかった。

 それからは、毎日、毎日、お互いにメールのやり取りをする様になっていった。

 始めは、お互いに、簡単な文章とこんにちはとおやすみなさいメールだった。

 段々と、お互いに、長く書く様になっていった。

 忙しい時には、おやすみなさいメールだけにした。

 私がおやすみなさいだけは、メールをしたいと書いたら、受け入れてくれた。

 そして、暫くすると、段々と、彼が、本領を発揮しだした。

 お昼に届くメールには、彼なりの色々な考察をたまに書いて送ってくれる様になった。

 私は、その考察を読むのが楽しみになっていった。

 私は、色々な知らない世界の考え方を知る事に、テンションが上がってしまう方だった。

 私は、小論文みたいな作品を読む事がとても好きだった。

 普通の女性なら、困ったと、嫌がるかもしれなかった。

 私は、どこか、世間ずれしている所があった。

 自覚はしていた。

 でも、その性格のお陰で、彼とのメールライフを長続きさせていけた様だった。

 よく、考え方の相違から、喧嘩になったりもした。

 メールを、暫く、お互いにやめた時もあった。

 彼は、穏やかだけれどもナイーブだった。

 なので、しょっちゅう、頑なになった。

 私は、もう駄目だと、手に負えないと思って、お分かれの挨拶をした。

 何回もした。

 その度に、彼の穏やかモードが発動し、結局は、仲直りした。

 なかなかの手腕の持ち主だった。

 人との付き合い方の考え方が、とても斬新で、その考え方にとても筋金が何本も何本も入っているから、お付き合いを始められるのかどうかさえ、全く不透明だった。

 試しに、お茶を、お友達としてでもする事でさえ、彼の中には、定義があった。

 分かる、分かる、分かるけれども、何故そこまで頑ななの?と、思っていた。

 彼の中には、普通の人、友達、恋人…の定義があった。

 私は、それを、理解しなければならなかった。

 私は、それまでの、彼の彼女達に、敬意を払った。

 とっても、とっても、とっても大変だった。

 とっても、とっても、とっても手を焼いた。

 とっても、とっても、とっても困ったちゃんだった。

 だから、沢山、沢山、沢山泣いた。

 その定義を持ち出さないといけない位、私が嫌いなのかと思って、とても苦しんだ。

 その定義を持ち出さないといけない位、私を遠ざけたいのかと思って、とても悲しんだ。

 その定義を持ち出さないといけない位、私を信頼していないのかと思って、とても怒った。

 ある意味、彼も、なかなかの古風だった。


 貴方は、筋金入りの、困ったちゃんだぁ~!!!


 嗚呼〜、すっきりした。

 

 元に戻ります。

 9月近くになったので、歌を詠もうと、彼に提案をした。

 9月は詠月│(えいづき)│と言って、歌を詠むと、インターネットに書いてあった。

 とても、素敵に思い、うきうきしながら、提案をした。

 彼は、受け入れてくれて、お互いに詠みあった。

 でも、満月のに差し掛かった頃に、大喧嘩をした。

 彼の心の中に、前の彼女が大半を占めていた事が分かった。

 なかなか、彼との仲が進展しなかったのは、このせいだった。

 その為に、私の事を見てくれていなかった事へ、彼に、怒りをぶつけた。

 今迄の事は、何だったのかと。

 何故、ラブソングを贈ったのかと。

 そうしたら、彼は、あの曲は、仕事でお世話になった私への感謝の礼だったと言った。

 私は、とても、勘違いをしていた様だった。

 とても、とても、恥ずかしかった。

 あの曲は、勘違いをさせてしまうと、怒った。

 彼は、納得してくれなかった。

 そして、彼は、私が怒りをぶつけた事で、心が折れてしまった。

 彼は、前の彼女の事への心の整理がついていないと言った。

 彼は、やはり心が、ナイーブだった。

 だから、私達は、離れる事にした。

 2週間経っても、彼から何のメールも来なかった。

 私は、彼に、謝罪の文章と彼女を思っていてもいいという様なメールを送った。

 彼から、メールが届いた。

 彼は、私が勝手に怒って、勝手にメールを絶ったと、書いてきた。

 でも、私は、それでも、彼との間を何とか繋ぎ止めたかったので、謝り続けた。

 惚れた弱みで、謝り続けた。

 彼を失いたくはなかった。

 そうして、また、メールをする事になった。

 前の彼女の事は、しょっちゅう私を悩ませた。

 その度に、喧嘩をした。

 彼の中にある前の彼女の影に怯えていた。

 でも、段々と、考え方が変わっていった。

 彼の過去の彼女は、嫌だけれども、今の彼が彼であるのは、過去の彼女がいたから、今の彼がいるのだと思った。

 その過去は嫌だけれども、その過去があったから、今の彼を彼たらしめる何かがあるのだと思える様になった。

 その過去の経験が、良い方にも悪い方にも今の彼を作り上げているのだと思った。

 私は今の彼が好だった。

 だから、そういうものかもしれないと思って、彼を許そうと思った。

 そして、過去の彼女が彼の心の底にいる状態で、私と向き合ってくれていた事へ、感謝する様になっていった。

 すると、過去の彼女に、少しずつ感謝していく様になった。

 過去の彼女がいたから、今の彼は、私にとってかけがえの無い人になっているのだと思っていった。

 でも、やはり、過去の彼女の幻影には、心の底から振り回されていた。

 しょっちゅう、しょっちゅう、心の底で、私と彼女を比較した。

 …、よくよく考えると、私は彼の事を、怒れる様な心の底があった訳でもなかった。  

 私も、また、過去の彼氏達に、心の整理がついていなかった所もあった。

 でも、彼を許す事で、私は、これが私だと、私を許せる様になった。

 私は、とても、気が楽になっていった。

 恋愛は、人を、成長させてくれるのかもしれない。

 私は、心のままに、一生懸命に彼と向き合って、生きていこうと思つた。

 そうやって、彼との日々を、紡いでいった。

 いつの間にかに、彼と付き合う事になっていた。

 大切に、大切に、丁寧に、丁寧に向き合って、彼と一緒に生きていった。

 そうして、次の年になった。

 暫くすると、彼が出張から戻ってきた。

 私は、とても、心の底が穏やかになった。

 彼に、愛を注いだ。

 彼は、最初の方は、おっかなびっくりだった。

 でも、私と彼との感情の熱量が違うと、 私はいつも彼に訴えては泣いていた。

 そうして…。

 ある時だ。

 私達は、別れる事にした。

 

          つづく

 

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こんにちは。 初めての恋愛小説ですね。 ぎこちない関係が微笑ましいですね。 このぎこちない関係が、これからどういう風に変わっていくのか楽しみにしています。 まだプロローグだそうで、これから二人の関…
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