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かくや姫は今夜も配信中  作者: ゆずさくら


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7/9

竹林のうわさ

 以前、警視庁に女性の映像を持ってきた県職員は、巨大熊が死亡していた場所近くの山に入っていた。

 表向きの目的は熊狩り、すなわち『害獣駆除』だった。

 だが、彼は映像に映っていた女性がずっと気になっていた。

 まるで心を掴まれたように、頭の中から離れない。

 職員が熊狩りと一緒に山に入るのも、今日が初めてではなかった。

 熊狩りの一団が休憩する際、近くに民家があれば話を聞いた。

 名目は熊被害の調査だった。

 そこは農家のおじさんだったが、熊に苦慮していた。

「熊は北っかわの方かおりてくんべ」

「なるほど。北側からですね。で、ちょっと変なこと尋ねますけど。この女性を知りませんか?」

 職員は写真を見せる。

 写真は、例の女性が地下道を通っている時の映像をプリントアウトしたものであった。

「……かぁさん」

「えっ?」

 奥からおばさんが出てくる。

「これ、ほれ、あの…… なんだっけ」

「知らないよこんな娘。とうちゃんが飲みにいくどっかの水商売(みせ)の女じゃ……」

「違うが、()とるやろ、あの子に」

 県職員は、おばさんに写真を近づけた。

 おばさんは老眼なのか、職員が突き出す写真の圧力(プレッシャー)に押されたのか頭を後ろにそらせながら、目をこらす。

「にとるな、あの子に。大きくなったらこんな感じかの」

「ああ、大きくなったらこんな感じじゃ」

「ご存じなんですか?」

 おじさんとおばさんはシンクロしたように手を振って否定する。

「何年前だから、確かなことは忘れたが、孫たちが遊びにきた時、どっからか現れた子なんよ」

「孫たちと一緒に遊んでたな」

「けど、なんでそんな子を覚えてたんですか? 何か特別なことでもあったんじゃないですか?」

 おじさんとおばさんは顔を見合わせる。

「こんな村だで、子供おらんし、どうして孫たちがずっと外で遊んどるのかわからんかったんだが、この子と遊んどったらしい」

「うちらはどっかの孫ならわかるじゃろと思って顔をしげしげと見たがわからん。その子に村中の家の名前を出したが全部『ちがう』言うとった」

 何年か前ではあるが、彼女がここにいたと言うことは事実のようだ。

「この子を探しとるのか」

「案件が案件なので、詳しい事情は話せませんが、情報があったらここへ連絡ください」

 県職員は職員としてではない、『個人的な』名刺をおじさんに渡した。

 熊狩りの休憩が終わると、職員はさらに山奥へと入っていく。

 一山越え、山間の平坦な場所に竹林が見えた。

「あそこに入るんですか?」

「筍の季節じゃないが、時期になると竹林に熊が出ることもある」

「竹林は熊が隠れる場所になる」

 一団は、慎重に竹林へと進んだ。

 起伏があれば、隠れる穴などがないか調べる。

 地面も熊の残した足跡などがないか、丁寧に見て歩く。

 大きな竹林ではなく、一時間ほどで探索を終えた。

 竹林をでた時、県職員はめまいを覚えた。

「ご、ごめんなさい。休憩しませんか」

「ああ、そうだな、休憩を取ろう」

 熊狩りの一団は、すぐに意見が一致し、広い場所に出て皆腰掛けると休憩をとった。

「ありがとうございます。なんか急に『めまい』がして」

「よくあるよ」

「あるある」

 揺れたりしている訳ではないのに、船に乗っているかのように足場が揺れて感じた。

 ……そう、まるで三半規管を直接操作されたかのようだった。

「もしかして、今みんな『めまい』がしたんでしょうか?」

 職員は手を挙げてみせる。

 すると、猟友会の人やボランティアの人など、竹林に入った全員が手を上げていた。

「いやいや、よくあることだよ」

「そうそう」

「……」

 県職員は笑ったが、違和感はあった。

 直前に村で、あの女性の情報を耳にしていなければ、この違和感を覚えておこうとは思わなかっただろう。

 その後は何も問題なくその日の熊狩りは終わった。



 数日経って、県職員が庁舎で仕事をしている時、個人携帯がなった。

 席を立ち、人気(ひとけ)のない場所で受ける。

「ああ、あの時の」

『孫に連絡したら、話をしたいって』

「えっと、どちらに伺えば」

 どうやら、その子は都心に住んでいるらしい。

『リモート会議でやりたいっちゅったが』

「できますよ。そしたらお孫さんのメールアドレスとかを……」

『それじゃが長いし間違えたらいかんらしいんで、この電話番号教えても良いかね?』

 職員は承諾した。

『孫が言うには、単なる幼い頃の思い出話になるけどいいのか、といっとった』

「構いません。お願いします」

 そう言って電話を切った。

 そこからさらに数日が経った。

 孫の男性から電話が掛かってきて、話をする。

 ショートメッセージでメールアドレスを教えて欲しいと言う。

 職員はメールアドレスを送って、日程を調整すると、リモート会議の案内をした。

 リモートでの会話が始まると、それは本当に幼い頃の話だった。

 子供頃の記憶を聞いている中で、興味深い点もあった。

『その子はとても足が早く、とても高いところにジャンプ出来ました。こっちがついていけないというと、急にそれが出来なくなったようでした。どうも、こちらに合わせてくれたように思います』

 すごい運動能力。

 これは村の監視カメラに映った映像と繋がる。

 推定にはなるが、飛び上がった高さは十数メートルになるだろう。

 職員はその孫とのリモート会議を終えようと思った時だった。

『最後に一つ、追加の情報が……』

 職員はリモート会議を終了すると、興奮した様子で文を打っていた。

 そして、すぐにあの時(・・・・)の二人に連絡した。

 文章の最後には配信アーカイブへのリンクが含まれていた。

 配信のタイトルはこうだった。

『かぐや姫は今夜も配信中』



 県職員のメールに先に反応したのは染宮翔吾(そめみやしょうご)だった。

 すぐにURLを開き、アーカイブされた動画をみた。

 これがどうしたと言うのだ、染宮はすぐにこのことを忘れた。

 彼に課せられた仕事はあまりに多く、今この女性に関わっている時間はなかった。

 次に、政府関係者の星野(ほしの)(まこと)も県職員からのメールに気づき、文面を読み込んだ。

 だが、彼はすでに女性への興味が失われていた。

 カフェで探していた女性と出会って、記憶を操作されたからだった。

 だから送られてきたURLを見て、アーカイブ動画も確認したのだが、女性への印象が強まることはなかった。

 ただ、県職員にこの情報を提供した『孫』に興味を持ったのか、孫のメールアドレスを県職員に要望した。県職員はすぐに連絡を取ると、許可を取った。

 星野は『孫』のメールアドレスを知ると、すぐにメッセージを書き、送信した。

『今度、直接話を聞きたい』




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