出会いを求めて1
流星ひかるの動画配信『かぐや姫は今夜も配信中』は雑談を交えながら流行りのコスメ、アクセなどの話題やファッション、アイドルの推しの話等々、話題を変えながらチャンネル登録者を集めていった。
食べていけるほどの収入ではなかったが、父の康二に辞めさせられるほどの状況は脱していた。
順調に思えたが、彼女には問題はあった。
一番の目的である『繁殖』するための行動が疎かになっていたからである。
家に康二や美月がいない時間や、状況を『竹』は把握していた。
だから、二人がいない時に限り、『竹』からスマホに電話がかかってきた。
『リスア様、活動の進捗が思わしくないです』
「まだ環境に溶け込めてないから、まだ出来ないわ」
別の日には、
『リスア様、その部屋でやろうとするのではなく、ホテルとかを利用すべきでは?』
とも言われた。
どうやら、康二や美月に遠慮して彼女が実行に移さないのではないか、と思ったようだった。さらに言えば、誰でもいいから連れ込んですると考えているようだった。
ひかるは、そんな風に単純に行為だけをする者とは、したくなかった。
相手と思いや考えを共有し……
……とにかく、ちゃんと自らが厳選した者と行為をしたい、そう願っていた。
「そんなこと、わかってるわ。今は配信に集中しているから、出会いがないのよ』
しかし何もないまま日々は過ぎていく。
彼女が、のんびりしているように思えて『竹』も焦ってくる。
『出会いがない、など悠長なことを言っていないで、ある程度見込みがありそうな者と行為だけでも……』
「いや! そんな誰彼構わず繁殖行動はしないわ。エリシュアの誇りを捨てろというの?」
それはひかるにとっては、最後のセリフだった。
次に『竹』はそれを超えてでも繁殖しろ、と命じてくるだろう。
誇りを超える言い訳が彼女にはなく、もう竹に従うしかない。
おそらくその段階になれば、『竹』はスマホを使って強制的に状況を整えてくる。
その流れを断ち切る、断るには、とにかく、何か一段階進めるしかなかった。
「けど、配信してると出会いが少ない、というのは事実なのよね」
本来なら、編集スタッフや企画を考える友達などと仲良くなるのだろうが、ひかるの場合それらを『竹』や、カフェで他人の心を読む、ことで実現している。
だが、出会おうとすれば出来なくないはずだ。
ひかるは考えた。
「チャンネル登録者を呼び出してみよう」
そもそも彼女はウィッグをつけ、声もメイクも工夫して身バレしないようにしていた。
だが、それでも彼女のチャネルを見ている異性であれば、ひかるの『何か』を好きであるに違いない。それならチャンネル登録者に会ってみる価値はある。彼女はそう思った。
こっそり呼び出すには、配信中に幾つかのヒントを出して、それが解けたものだけが会えるようにすればいい。回答に至った人間が多かったら、会わないという選択肢をつけておけばいい。
最悪の場合は、会った記憶を操作してしまおう。
ひかるは『竹』に、チャネル登録者と出会うための場所と、解に至る人間を減らすための難しい質問を作らせた。
チャンネル登録者の情報は、解析結果としてサイト運営会社から来ている。
一方的に話しているだけの配信で、流し見している女性が多いようだが、二割ほどの男性がいる。登録している人の話で、登録していないでフラッと見にくる人を含めた全体の視聴者は男性、女性、半々だった。
それならちょっと話題をふれば集まる可能性がある。
ひかるはそんな軽い気持ちで、その配信を始めた。
いつものオープニングの後、少し雑談を交えると本題に入った。
「配信者って、出会いないんだよね」
そこから始まり、ある場所で集まれないかを考えていると説明する。
「ファンミ…… って訳じゃないけど。同じチャンネルをみている人たちが集まるなら、それは楽しいかなって」
日時を伝えた後、課題メッセージを言う。
ひかるが『竹』に作ってもらった問題文だ。
「一つ目、『古の丘のもと、子どもたちが駆け回るところ』」
画面に文字が固定される。
「二つ、『憩いや安らぎを与えるため、吹き出すものがある』」
その文字列が画面から消えると、
「最後、『夜になると遊具がなくなり、その枠組みだけが存在する』」
そしてある『市』を指定する。
そこは、ひかるが住んでいる住所とは違う市だった。
「最悪、ゼロってことも考えられるけど。正解者ゼロの時は、正解を動画で紹介するね」
コメント欄には、もう何か解答のようなものを書き込む人たちが出てくる。
「集会の許可をとる訳じゃないから、解答の場所が分かってもコメ欄に書かないでね。書き込みがひどい場合は中止にするので」
そう言って配信を終えた。
機器のチェックを終えて、配信が切れていることも確認した。
ウィッグを外し、服を着替える。
全てを終えて、ひかるはゆっくりため息をつく。
「会ったからって、前に進めるのかしら」
本当に繁殖に至る相手と出会えるかはわからない。
ひかるは考える。
自分が納得するかどうかだけの問題なのよ。
リスアとして『竹』に育てられた彼女は、目的のために心を捨てろと言われた。
彼女はその意味がよくわからなかった。
だが、竹林を出て街のホストクラブに入った時、繁殖する場合に『心』が重要なのを知った。
おそらく、あの男が暴走しなければ、行為までは至れただろう。
それは体を受け入れただけ、だ。
あのままでは何にもならなかった。
何もしていないのに、そんな気がしている。
ただ水を浴びただけでは繁殖しないのと同じだ。
ホストクラブにいた男とは、何も気持ちが動かなかったからだ。
気持ちの動きが『こころ』というのなら、それを捨てたら繁殖できないのではないか。
何故、全ての知識を詰め込んだはずの『竹』がそんなことも分かっていなかったのだろう。
ひかるは、部屋の扉を叩かれる男で考えをやめた。
「ひかる、父さんいま配信見たんだけど」
ひかるは康二に言われるままリビングに行った。
「身バレしないようにウィッグとかなんちゃって制服とかを着ているのに、会ってしまったら台無しじゃないのか?」
ひかるは本当の目的を言うことができない。
頑張って反論する。
「大丈夫、ウィッグと制服を持って行って着替えるから」
「解答の場所はどこなんだ? 父さん着いて行こうか」
「嬉しいけど、大丈夫よ」
康二は指をさまざまに組み合わせながら、考えている。
そこへ美月がコーヒーを持ってやってきた。
「ひかる、その場所、着替えはできるの? 着替えたら、それでバレたりしない?」
「けど、配信の格好で街中を移動してたらそれを追いかけてくる人がいるかも」
康二は全くコーヒーに手をつけないまま、指を組み合わせている。
「とにかく心配なんだ」
「うん、分かってる」
「ひかる、私たちにだけでも場所は教えておいて」
二人に来られてしまうと、その場所で何をしたか見られてしまう。
「それだけは絶対できない」
ひかるは立ち上がった。
部屋に入ろうとするところに、美月が追いかけてくる。
「パパには言わないから私だけに教えて。時間がきた時でもいい。危険があった時、何もできないのは……」
ひかるは頷いた。
「直前に連絡を入れる」
美月はひかるの目を見て言った。
「危険のないようにね」
ひかるは手を握ってきた美月の心を感じた。
部屋の扉を閉めると、彼女はそのまま座り込んでしまった。
親がわりになっている康二と美月。
この二人にはいずれ、真実を説明する必要がある。
だがまだその時ではない。
そもそも目的を遂げるのには、どれくらいの時間がかかるのか。
この家を出ていく時に言ってしまったら、ひかるの夫になる男にもバレてしまう。
彼ら二人の死に目に会えるとも限らない。
つまり私は繁殖をすれば良いのであって、誰もが考える『しあわせな結婚』を望んではいけないのだ。
一つため息をついて、考えを切り替える。
机に座りノートパソコンを使って当日のその場所のことを想定して調査する。
二人が言った通りその場に着替える場所があるのか。
集まった人数を把握するには、どこから観測したいいか。
チャンネル登録者数とそういう物好きな人の割合を考えれば、迷惑がかかるほど大人数にはならないはずだが、万一そうなった場合はどうすればいいか。
さまざまなことを調べ、メモを取ると夜遅くなっていた。
ひかるは月の力を感じながら、ベッドに潜り込んだ。
そして思う。
素敵な出会いが、出来ますように。




