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かくや姫は今夜も配信中  作者: ゆずさくら


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配信ネタ探し

 ひかるはカフェで人の心を読んで、配信のためのネタを考えていた。

 表面的にはスマホを触って、ドリンクを飲んでいる風に見えただろう。

 彼女のスマホの画面には、アクセサリーとか、ファッション系の話題が映っていた。

 時折、アイドル、有名ゲームやアニメ、映画などの推しについての話題。

 流れてくる動画が、そういうもので溢れている。

 心を読んで、それを検索してみた結果だった。

 そんな風に、何人かの女性客の心を読むと、彼女は疲れてしまった。

 ひかるはため息をついて、背もたれに体を預ける。

 そして、この星に来た本来の目的を思い出す。




 男性、女性がペアになって円筒形の装置の前に立っている。

 皆、厳しい表情で、多くの女性は目に涙を浮かべている。

「この子らが我らの星、最後の希望だ」

 中心にいた短髪の男性とも女性ともつかない容姿の人型生物はそう言った。

 円筒形の装置には、一つ一つ名前が書かれている。

 装置はコールドスリープを行う装置で、中に入った子供の生命を維持する機械だった。

 女性はすがるように装置に寄り添い、泣いた。

 この星は、エリシュアという名の衛星で、惑星アストレウスの月にあたる星だった。

 そして彼らエリシュア人は、文明の極みを迎えていた。

 光速の五十パーセントの速度が出る宇宙船を作り、広大な宇宙へとその繁栄を拡大していこうというその時だった。

 彼らの遺伝子に異変が起きた。

 どれだけ解析しても原因不明な遺伝子障害。

 それは生まれてくる生命が、高確率で無性となる現象だった。

 性を持って生まれてきても、多くのものが受精しない。

 男性の問題なのか、女性の問題なのか。

 高度な文明を持つ彼らが、どれだけ調べても、結論は出ない。

 危機的状況の中、彼らはやっと決断する。

 彼らは高度に発達したクローニング技術で、ついにエリシュア人の複製に着手した。

 エリシュア人そのものの複製は、技術的には可能だったが、倫理観からこれまで行ってきていなかった。

 だが、彼らが複製を作るようになって、彼ら複製(クローン)が持つ心が『全て』崩壊を目指す事実に愕然とする。

 複製した『もの』は、どれだけ教育を工夫しても、自ら死のうとしてしまう。

 物理的に死ぬ手段を封じても、生きようという気力がないため、治るはずの病気で死に至ってしまう。

 これは種としての『死』だ。

 そう知った時、こう言うものもいた。

「母星を出て領域を拡大しようとした罰だ」

 無性生殖ができるわけもなく、あっという間に減っていく人口に彼らはなすすべもなかった。

 そしていくつかの案の一つが実施される。

「自ら増えないのなら、他の星の生命と交配すれば良い」

 そもそも他の生命体と交配できるか、確実なことはわからない。

 観測から生命体がいると推測される星を選び抜き、送り出す。

 その星で繁殖することを目的として。

 リスアは生後数ヶ月で選抜されるとコールドスリープカプセルに入れられ、そのまま宇宙船で地球を目指したのだ。




 ひかるは、ぼんやり天井を見た。

 彼女は自らの気持ちを整理する。

 正直、そんな母星の事情なんて知らない。

 それは『竹』から聞かされているだけで、全てが真実なのか分からない。

 ただ、心を読んだり体の力が強かったりする事を考えると、やっぱり周囲にいる生物と、自分がこの星の生き物とは違う(・・)ものであることはわかる。

 体が繁殖に適した状態になったのも、なんとなく感じる。

 だからと言って、何も考えずに行為をして受精する。

 本当にそれをしなきゃいけない?

 カフェにいる人の中に、そんな事を考えている人はいない。

 この星の人は、増えなきゃ未来がないなんて思わない。

 自らが求めている道を進むだけで、それが(ぜんたい)の未来にとって…… なんて深く考えない。

 なぜ、エリシュア人である私だけが、頑張って繁殖しなきゃいけないの?

 この星の大勢の人は繁殖せずに、自らの人生を謳歌しているのに。

 なぜ、私は……

『ガシャ!』

 カップとグラスが割れて、テーブルと椅子が床に倒れる。

 ひかるの足元まで、こぼれた飲み物が流れてきた。

 倒れたテーブルのあたりに男が立って、向かいに女性が座っている。

「知らないって言ってるだろ」

「ひどい」

「あんまりしつこいと警察呼ぶからな」

 ひかるは男の心を読もうとした。


 闇。

 何もない。

 なぜ何もないの?

 なぜ心が読めないの?


 心の入り口が見つからない。

 竹林に住んでいた時も、人と接したことはあった。

 これまでの経験の中で心が『何も見えない』ことはなかった。

 手がかりがないまま、次にひかるは、男と話していた女性へ注意を向けた。


『どうして受け入れてくれないの? 誰も。 誰も、私を好きになってくれない』

『どうして誰も』

『私を好きになって』

『私を好きに』

『どうして誰も』


 しまった!

 ひかるは、女性の心に触れた瞬間、恐怖を感じた。

 原色がそのままグルグルと互いに色を主張したまま、混ざっている。

 色は中間色を作らず、それぞれが強く分離したままだ。

 巨大熊やムネタの心に感じたものと同じ。

 間違いなく精神が暴走している。

 ひかるは、自分が触れたせいなのか思い返すが、心当たりがない。

 おそらく自らこの領域に入ってしまったに違いない。

「危ない!」

 それは大きな、男の声。

 ひかるは目の前が真っ暗になった。

 次の瞬間には明るくなった。

 流れる血。

 悲痛な叫び声。

 一気に騒然となる店内。

「えっ!?」

 ひかるの前に男が膝をついてうずくまっている。

 男の前には、さっきまで座っていた女性がカッターを持って立っていた。

 血と抉った肉がついたカッター。

 警察に通報する店員。

 逃げていく客たち。

 うずくまる男を迂回して、カッターの刃を向けながら近づいてくる女性。

 状況から女性が『ひかる』を刺しにきたところを、男が間に入って庇った…… のだろう。そう考えるしかない。

 この女性は、何故私を恨んでいる?

「やめろ!」

 男が大きな声を出す。

 血だらけの頬。

 片手で押さえながら、女性とひかるの間に入ろうとする。

 ひかるは考える。

 ムネタと同じように、死なない程度に打撃を与えれば……

「……」

 店員はカウンターに隠れている。

 客は…… いないと思っていたが、まだ端に一人いる。

 ならば、派手なことは出来ない。 

 ひかるは人間に見えるよう、ゆっくりとした拳を顔に向け、フェイントを入れる。

 避けようと顔を逸らした瞬間に、カッターを持つ女性の手に手刀を振り下ろした。

 カチン、と乾いた音がしてカッターが床に転がる。

 力を抜いている。骨は折れていないだろう。

「痛い!」

 叩かれた手を押さえ、カッター女はそう叫んだ。

「そこの人、この女性を捕まえて」

 ひかるが言うと、端にいた男性客がカッター女を取り押さえた。

 ひかるは頬を抑えている男の人に駆け寄る。

「大丈夫ですか?」

「血が止まんねぇ……」

「これで抑えてて」

 ひかるはハンカチを渡してそれに意識を逸らさせると、自らはスマホを取り出す。

 周囲の視線がなくなった時を見て『竹』に男の頬を治すように指示する。

 スマホの画面に竹の(かん)が表示され、その桿が光った。

「えっ?」

 おそらく男は痛みが消えたのに気づいたのだ。

 ひかるはそれに気づかれないために考える。

「まだ出血していますよ。抑えていて」

 男にウソをついた。

 彼女のスマホで治療が出来ることは、地球人に知られてはいけないからだ。

 その時、ひかるはカッター女を抑えている男の方が、チラチラと自分(こっち)を見ていることに気づく。

 さっきこっちを見て欲情していた。ただのキモい男ではないのか?

 彼女はもう一度、その男の心を覗く。


『ただものじゃないぞ。やっぱりこの女には何かワケがある』


 疑われている。

 正体はバレてないようだが『普通ではない』と思われているのだ。

 ひかるは男の心を操作しようと考えた。

 偽の記憶を与えて流星(りゅうせい)家の養子になったように、人の記憶を変えることも出来る。

 ただ、与えるのと消すことの違いは、意外に大きい。

 記憶を消すことは出来るが、周囲の人間と記憶を共有していた場合、それらの影響により補完され戻ってしまう場合がある。

 それならば、完全に消すのではなく、記憶や印象を薄めれば……

 ひかるに対しての記憶を、特徴もない、弱いものにすればいい。

 彼女は早速男の記憶を操作した。

「……」

 店の中全員の視線が、ひかるから外れた瞬間、彼女は店を飛び出した。

 店の監視カメラの死角は把握している。

 どのタイミングで店を出たか、解析はできないだろう。

 彼女はビルの外に出て、監視カメラのない人気(ひとけ)のない裏路地に入ると、念のため周囲を確認する。

 そしてジャンプした。

 四階建てのビルの屋上まで、一気に、正確に、飛び上がった。

 全く地上からの視線が届かない世界。

 ひかるは大きく息を吸い、吐いた。

 そして走り出す。

 ひかるは、ビルや住宅の屋根を飛んだり、走ったりながら移動していく。

 人間には後を付けられないし、監視カメラの範囲外を通るので、後で追跡することもできないだろう。

 彼女は、あっと言うまに、自宅マンションの入り口に降り立った。

 これでひとまず安心だ、ひかるはそう思った。

 そこからは普段通りに部屋にもどった。

 彼女は部屋のクッションに腰掛けると、夜の配信に向け、スマホのメモを見ながらネタを作りはじめた。




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