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かくや姫は今夜も配信中  作者: ゆずさくら


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二人の過去

 ハンドルネーム、キリヤは、彼女に対して疑問を言い出せないでいた。

「もうすぐ免許取れるの。取れたらどこかドライブしない?」

 キリヤも免許が欲しかったが、この期間は自動車学校がいっぱいで、入れなかった。

 なので夏休みに通おうと考えていた。

「そうだね。山の方とかいいな」

「約束だよ」

 そう言って彼女は笑顔を見せる。

 これだけ会っていて、彼女はなぜ思い出さないのか。

 だからと言って自分からネタバレするのは違うと思っていた。

 気づかないなら、一生『キリヤ』として接しても構わない。

 それから数日が経ち、ドライブの日がやってきた。

 彼女は、いつか見たスポーツワゴンを運転していた。

 キリヤは助手席に乗り込むと、頼まれていた飲み物を渡した。

「ありがとう」

「ここからだと、山は遠いけど」

「大丈夫、高速使えばすぐだよ」

 免許取りたての運転で、高速道路を使ったり、山道を走ったりさせてよかったのだろうか、とキリヤは思った。

 だが、彼女は特に気にしていないようだった。

 車はスムーズに高速道路に入っていき、そのまま目的のインターで降りた。

「あんまり『友達の車』に乗せてもらったことはないから、良くは分からないけど、運転上手だね」

「私もお母さんの運転しか知らないから良くはわからないの」

 しばらく道なりに進むと、信号もまばらになって本格的な山道になってきた。

 運転自体はうまかったが、速度は出せないため後ろには車が連なっていた。

「なんか私が遅いのかな」

 キリヤは後ろを振り返る。

「一度端に避けた方がいいのかも」

 彼女はハザードを出して道の端に寄せると、後続の車が次々に抜かしていった。

 中には柄の悪い者もいて、横に並んだ際に減速し、運転席の彼女をジロジロ見ていった。

 後ろの車がいなくなると、再び車を発進させた。

 車が山を上がっていき、ナビには湖が現れた。

「湖があるんだね」

「ここにはダムがあるんだよ」

「そうなんだ! 車を止めてみようか」

 駐車場のマークに向かって入っていき、車を止めた。

 二人は湖の方へ歩いていくと、湖の端の、見晴らしのいい場所に観光用の建物が建っていた。

 彼女は建物を指さす。

「あそこから眺めるんだね」

「行ってみよう」

 屋上に抜けれるようになっていて、二人は屋上から湖を眺めた。

 何もない、ただ水が堰き止められているだけ。

 湖とは反対側に、ダムから落ちた水が流れる川があった。

 山間の景色はどこも同じだ、キリヤはそう思った。

 二人が屋上にいると、小学生ぐらいの男の子が一人彼のそばを駆けていった。

「返せ!」

 すると、もう一人、同じくらいの男の子が屋上にやってきた。

 彼女は子供たちの様子をみている。

 最初に駆けてきた男の子が、何かを手すりの外、すなわち建物の外へ突き出した。

「返せよ!」

 突き出した手には、何か光る物を持っていた。

「俺が大事にしてるの、知ってるだろ」

「しらねぇよ。こんなもののこと、忘れろよ」

 彼女が、目を見開いて子供たちの様子をみている。

「やめろ!」

 手すりの先に男の子が手を伸ばす。

「やめろ!!」

 子供の声が、山に反射し繰り返し響いた。

 彼女は拒絶するようにしゃがみ込み、耳を塞いだ。



「すごいジャンプができるね! 勝てないや」

 言われた女の子は、自慢げに胸を張った。

 女の子の髪は短かったが、ちょんまげのようにトップの髪をまとめてゴムで縛っていた。

「ソウタくんを抱っこしてもジャンプできるよ」

「嘘つけ」

 否定されると、女の子はすぐにソウタの背後に回り込んだ。

 後ろから腰に手を回し、持ち上げると、ジャンプした。

 ソウタは何が起こったかわからない。

 だが、近くの杉の木の高さまで達すると、スピードが緩くなり何が起こっているか認識できた。

「こ、怖いよ!」

 言う間に二人は落下していく。

 加速しながら落ちていき、着地した。

 強い衝撃が女の子の足にかかっているはずだ。

 ソウタの怖がり方とは違い、女の子は平気な顔をしていた。

「シュンもやる?」

「あんな高いところから落ちて、痛くないの?」

 女の子は笑顔を浮かべたまま頷く。

 シュンと呼ばれた男の子は「やる」と答えた。

 女の子はすぐにその子の背後に回ると、腰のあたりに手を回した。

 あっと言う間に跳躍して、さっきの杉に足をつく。

 二人の体重がかかって杉が歪む。

 完全に杉が二人の速度を食い止めると、女の子は杉を蹴った。

 弾かれたように木々の上に飛び出す。

 杉の反動を利用しながら、杉林の上空をジグザクに飛ぶ。

 顔に当たる空気が強くて、シュンは息が吐けない。

 あっという間に小山の頂上まで上がると、今度は二本の杉の間に入り、交互に蹴るようにして減速して着地した。

「おーい」

 スタートした空き地に残されたソウタが叫んでいる。

 風圧で呼吸が出来なかったシュンは、必死に呼吸を整えていた。

「怖がらないのね」

「あ、あんなスピード出したら、怖がっている暇ないよ」

「面白くなかった?」

 シュンは考えるように一拍おいてから口を開く。

「面白かった!」

 その顔をみて、女の子は笑った。

「じゃあ、今度は下り!」

 シュンには全く選択権がなかった。

 一瞬で杉の林を飛び出して、傾斜を滑空していく。

 空を飛ぶというのは、こういうことなのか。

 そんなことがシュンの頭をよぎった。

「お、落ちる!」

 そのまま空き地に向かっている。

「だ、だめだ……」

 シュンが思ったより二人は長く飛べなかった。

 下降する際、体に杉が刺さると思い、彼は目をつぶった。

「!」

 支えている女の子が、杉の枝をうまくクッションとして使い、二人は無事に空き地に着陸した。

 顔にうけた風圧と、緊張と興奮から、シュンの呼吸は早まっていた。

 三人は互いの顔をみて笑顔になっていた。

 その時、遠くから声がした。

「ソウタ、シュン」

 男の子二人は顔を見合わせた。

「帰らなきゃ」

 女の子は、急に暗い表情になった。

「待って」

 それは楽しい時間が終わりになる、それだけの意味ではなさそうだった。

 ソウタは村の家に向かって走り出した。

 女の子は先回りしてソウタの正面に立つ。

「?」

 女の子がソウタの額に指を置いたと思うと、そのまま力が抜けたように倒れた。

 シュンは驚いて駆け寄った。

「どうしたの? ねぇ、何をしたの」

「知られちゃいけないの」

 シュンは女の子の指が近づいてくると、目を見開いた。

 一瞬だが、女の子の思考が、シュンに触れた気がする。

「記憶を消すの」

 シュンはその指を避けた。

「……ソウタの記憶を消したんだ」

「!」

 記憶。

 シュンにとって、とても特別な意味の言葉だった。

 認知症の母。

 忘れてしまったら存在しなくなる。

 つまり忘れることは死に等しい。

 彼の中で、女の子への怒りが増大していく。

「やめろ!!!!」

 その声は山に跳ね返り、響き渡った。



 子供の叫び声。

 声は山に響き、広がった。

 自らのトラウマとなり、自分の意識で封印した記憶。

 全てが蘇ってきた。

 心を読み取るつもりが、読み取られた。

 だから彼の心は読むまい、と自分で決めたのだ。

 思い出の情景が目の前から消えていく……

 そこには、ひかるを見つめ返す男の人がいた。

 彼はキリヤ(・・・)じゃない。

「あなた、シュン…… なのね」

 キリヤは湖の方へ歩いていき、手すりにもたれた。

「思い出した?」

 ひかるは頷く。

 近づくと、小さい声できく。

「怒ってる?」

「あの時は、ね」

 一瞬で入り込んできたシュンの記憶。

 母の病気、過剰なまでの記憶に対する固執。

 強い怒り。

「ソウタは?」

「うん、君のことを知らないだけで他に変なことはなかった」

 キリヤは湖を向きながらいう。

「君が思い出したら言おうと思っていた。ハンドル名じゃない名前。桐谷(きりたに)(しゅん)

「私は……」

 ひかるは自分を『カグヤではなく流星(りゅうせい)ひかる』だと言いかけて止めた。

 彼が言ってくれたことに応えるなら、エリシュアのリスアであると告げねばならない。

 人間とは違う運動能力があることは知られてしまっている。

 だが、全てを彼に話していいのだろうか。

 ひかるが長い沈黙を続ける中、桐谷は言った。

「いいよ。秘密(・・・)は君が言える時で」




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