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かくや姫は今夜も配信中  作者: ゆずさくら


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10/10

新たな目標

 配信の後、ひかるとキリヤは何度か会っていた。

 二人は不思議な関係だった。

 映画を見たり、カラオケを歌ったりしたのだが、各々の近況などは話さない。

 近況どころか、本名も、好き嫌いも、お互い自分自身のことは告げない。

 当然、体が触れ合うこともない。

 いつもその場限りの会話だけが、二人の間を埋めていた。

 歌い終えると、彼はマイクを置いた。

「あのさ」

 ひかるは彼の言葉のトーンと表情を見て身構えた。

 異星人であるひかるは、人の心、考えが読める能力を持っていた。

 しかし、なぜかキリヤの心は読めなかった。

 直接思考を理解できないため、ひかるは必死に言葉とその雰囲気、前後の表情や仕草から読み取ろうとしていた。

 それは普通の人が普通にしていることなのだが。

「……」

「君と会うのはすこく楽しいんだけど、しばらくは会わないようにしよう。配信も申し訳ないけど、見ない」

 ひかるは驚いた感情が、声としてもれてしまった。

「何かダメなことが……」

「いや、だから何も悪くないよ。大学受験があるんだ勉強しなきゃいけないんだよ。今の実力では届かないんだ。より頑張らなければ」

「じゃ、その、勉強の気晴らしする時、会えないかな」

 ひかるは意識的にキリヤに体を寄せていた。

 なんなら、この感じの流れを進めいたして(・・・・)しまうか。

 目の前に転がっている繁殖のチャンスを逃す必要はない。

 彼の手に、手を重ねた。

 それを跳ね除けるわけではなく、さらに手を重ねると、胸に引き寄せた。

「さみしいよ。けど、決めたことなんだ」

 ゆっくりと、丁寧に手を離された。

 結局、これは拒絶なのだろうか。

 ひかるは座り直し、キリヤと離れた。

「目標の大学に受かったら、連絡するよ」

「わかった。待ってる」

 キリヤが頷いた。

「ありがとう」

 そのあとは、全てがぎこちなくなって、ほとんど会話がなかった。

 別れ際、ひかるはキリヤが目指す大学を教えてもらった。

 一人で家路につくと、その間にずっと考えていた。

 家のドアを開けると、養父である康二(こうじ)がひかるに近づいてきた。

「ひかる? どうした。様子が変じゃないか」

 ひかるは言われるままリビングで康二の横に座ると、言った。

「帝都文理大学」

「帝大?」

 ひかるは頷くと泣き出した。

 養母の美月(みづき)も慌てた様子で、リビングにやってきた。

 ひかるは、支離滅裂になりながらも『友達』が帝大に行くというので会えなくなると言われたことを話した。

 泣き声が小さくなるまで、二人はじっと待った。

「お友達を応援したいのか? それなら無理に会うのはやめた方が」

 康二がそう言うと、美月は無言でひじうちを入れた。

「そうじゃないのよね。なら、ひかるも大学に行きましょう」

 思ってもいなかった提案に、ひかるは驚いて顔をあげる。

「えっ? だって私」

「ひかるは高校には行ってないけど、高校卒業の資格を取ることはできる。そうすれば大学の試験を受けて、受かれば大学で学ぶことができるわ」

 康二が口出ししようとすると、美月が止める。

「お金はなんとかするわ。頑張ってみたら?」

 するとひかるの表情は明るくなり、涙を拭うと、笑った。

「うん」

 今度は美月が康二につままれるように立ち上がり、リビングの外に連れ出された。

「帝大だぞ? 大検だって簡単じゃない。よくできたドラマの見過ぎだ」

「わかってるわよ。けど、大学を受けてみよう、と思えば、帝大がどれくらい難しいものかわかるでしょ」

「じゃあ大学を進めなくても」

 美月はため息をついた。

「大学に行けば、男のことなんて忘れるわよ」

「ひかるは『友達』って」

「友達のことで『泣く』わけないでしょ。男よ。受験を理由にフッただけ」

 康二は納得できない。

「ひかるの年頃なら、同性のお友達のことでも泣くことはあるさ。泣くから男と決めつける方が……」

「康二はひかるのこと知らないんだから黙って」

 二人がリビングに戻ると、ひかるは明るい顔でスマホを見ていた。

「今年の大検は、あと一回、秋にあるみたいだからそれを受けるわ。大検取得予定で共通テストも受けれるように手続きもしておかないと。大検の締切が、ギリギリ明日だったからびっくりしちゃったけど。大検の後は、共通テストと二次試験と進めばいいのね」

 康二は困惑した顔で言った。

「そんな最短の勉強で帝大に行けるわけ……」

「ママは応援してくれるよね?」

 美月も、苦し紛れに笑っていた。

「が、がんばれ」

 ひかるは、満面の笑顔で部屋に戻っていった。

 パソコンを使って大学について調べて始めた。

 帝大では体育があると言っても、般教がある一年次だけだ。

 それに、体育には本気で取り組まない、という意見が多いようだ。

 これなら体育をしても、異星人であることがバレることもないだろう。

 同じ学科に入れば、同じキャンパスで毎日のようにキリヤに会える。

 上手く行けば、そのまま繁殖まで……

 ひかるは、すでに大学に入った後のことを考えていた。

 彼女のスマホの画面が光った。

 ひかるが部屋に入ったことを『竹』が察知したのだ。

 それに気づくと、スマホのメッセージを読む。

『彼らの試験にはスマホを持ち込めないぞ』

 竹はこの星の試験では、スマホを使えないことを調べたようだった。

 ひかるは返信する。

『他人の心を読めば、正解はすぐわかる』

 すぐに竹からの反論がくる。

『一人一人、今、どの問題を解いているのかわかるのか?』

 ひかるは肩を落とす。

『私なら試験の対策や指導をしてやれるが、やるか』

『やるわよ。やりゃいいんでしょ』

 彼女のスマホは『竹』の嬉しそうな気持ちを光で表した。

 試験の対策が始まった。

 ひかるは、大変な決断をしてしまったと少し後悔した。

 昼は高等学校卒業程度認定試験を、朝は共通テスト、晩は帝都文理大学の二次試験に向けたカリキュラムが組まれている。

 旧大検、高卒認定試験のための準備が一通り終わると、『竹』はその分の勉強を共通テストの対策に振り替えてきた。

 ひかるはスマホを通じて『竹』と話す。

『私、これで大検は大丈夫なの?』

『大丈夫でなきゃ困る。本当は共通テストの勉強は省略して、二次試験に向けた勉強をしてほしいところです』

 気晴らしに外に出ても、ワイヤレスイヤホンを通じて『竹』の指導は続いた。

 とにかく計画通りに勉強が進行するため、同じ項目をなん度もやらない、と言うのがポリシーだった。

 だから、一つ一つ、ひかるがそのテーマを理解出来るまで延長して実施した。

 彼女の能力と同様、勉強の効率も月に影響されるため、昼に勉強して夜寝るという普通の生活が困難になる日もあった。

 疲れは次第にに蓄積していく。

 ある新月の夜の『かぐ配』で、ひかるはコメントを読みながら寝てしまった。

 男性視聴者からは寝顔が可愛いなどとコメントが入った。

 寝顔の配信で喜ぶのは、一部の視聴者だけだ。

 配信の度、居眠りする訳にもいかない。

 ひかるはすぐに謝った。

「本当ごめんなさい。寝ちゃったら配信する意味ないよね。ちょっと疲れが取れるまで、配信時間を少し短くするかもしれません」

 休みもなく勉強と配信を繰り返す日々が続く。

 忙しく過ごす日々はあっという間に過ぎていった。

 ひかるが受ける高卒認定試験の日がやってきた。

 始まるまでは緊張していたが、いざテストが始まったら必死で、時間を忘れて集中した。

 ひかるは試験中に他人の思考を読み取ることもせず、無事に終えることが出来た。

 帰りの電車の中で『竹』と答え合わせする。

『大丈夫、これなら受かった』

 そう竹に太鼓判を押されると、ひかるは、スマホに向かって微笑んだ。

 試験の日は勉強しなくて楽だった。

 それは『竹』とも約束していた内容だった。

 だから、今日だけは何も考えずに食事を取れる。

『……ですが、明日からは共通テストへ向けての対策です』

 ひかるはため息をついた。

 車窓の流れる景色の中に、キリヤの顔を思い浮かべた。

「絶対、同じ大学に行くから……」

 そう言うと気持ちを休めるように目を閉じた。




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