『祀ノ少女(まつりのしょうじょ) ― かっては ―』
―どんどん ぴーひゃら しゃんしゃんしゃん―
囃子の音の物語(作者:笹門 優様)
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本作は、笹門優様の作品に心を動かされ、
あの祭囃子の響きの中で生まれた“少女神の視点”による物語です。
原作に描かれていた“聞こえるのに見えないもの”の世界を、一人の少女の視点から見つめ直し、祀られ、神となり、そして静かに消えていく心の物語として綴りました。
m(_ _)m<作品引用など、快く了承して下された笹門 優様へ深く感謝いたします。
――どんどん ぴーひゃら しゃんしゃんしゃん
風が鳴る 鈴が鳴る
名のない神が呼んでいる
わたしは まだ人の子で
指の隙間に 灯を握っていた
祈るたび 指先が白く透き
心が少しずつ 神へと削がれていく
どんどん ぴーひゃら しゃんしゃんしゃん
遠くで笛が泣く
祭りがわたしを包み わたしを忘れてゆく
「祀れ」
声が響く
「祈れ」
胸が鳴る
赤い裳裾が 夜を掃くたび
影が祀りの輪の中で ほどけていく
誰かが言った
――お前はもう“人”ではないと
どんどん ぴーひゃら しゃんしゃんしゃん
わたしは 祭りの中心で 息を止める
神となったのに、
神など、誰も覚えてはいない
けれど――かつては、違った。
わたしが神に成った年、
村には実りが満ち、人々の頬には笑みが戻った。
山には恵みが溢れ、川は澄みわたり、魚が跳ねた。
子らは夕暮れの境内で、神使と遊んだ。
見える子は狐の尻尾を追い、小さな付喪神は、人の掌を握って笑っていた。
人と神のあいだに境はなく
すべてが同じ空気を吸い
同じ太陽に照らされていた
――かっては?
灯が消えた
太鼓も止んだ
風さえ通らぬ社で
わたしは 自分の名を思い出そうとする
けれど――
どんどん ぴーひゃら しゃんしゃんしゃん
音だけが まだ わたしを呼ぶ
祭りは終わった
それでも音は遠くで廻る
それでも
誰かがどこかで 祀っている気がする
どんどん ぴーひゃら しゃんしゃんしゃん
どんどん ぴーひゃら しゃんしゃんしゃん
白き衣へ 風に舞い上ぐ 宵の口
黒く重ねて 神は沈めり
元は白く輝く単衣だった。
いつの間にか、衣は幾重にも重なり、
朱が失せ、墨を含み、ほつれ始めていた。
重ねの奥で、祈りの色が褪せていく。
誰も気づかぬうちに、
神は――ただの影となっていた。
笛の音が、遠くでひとすじ響く。
それが合図のように、少女神は目を閉じた。
風が袖をさらい、
灯籠の火が小さく揺れて――
闇の向こうに、
白い布がふわりと宙に舞う。
それは、衣か。魂か。
あるいは、誰にも知られぬ“祈りの形”か。
やがて、布は地に落ち、
月明かりの下で静かにひらく。
それは――白い紙だった。
何も描かれていない、
けれど、すべてが描かれている。
朱の名も、黒の影も、音の残響も、
すべて吸い込んで、なお澄みきった白。
誰もが去ったあと、
ただ一枚、その紙だけが残っていた。
風が通り抜け、
灯籠が消える。
そこに
確かに「神」が在った。
それは語らず
記されず
ただ白のまま
永遠の祀りを捧げ続ける。
―こちらには、もう何も有りません―
―もう、祀るべき祭神も、祭り囃子も何も―
…もし、在るべき御祭神様にお会いしたいなら…
「囃子の音の物語」 (作者:笹門 優様)
https://ncode.syosetu.com/n7882lf/
まで時を遡り下さい。
…くれぐれも祭囃子に聞き入らぬように…




