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君の隣で終わる世界  作者: サイガ


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4/20

写真に映るもの

 冬の冷気が、キャンパスに静かに降りていた。

 放課後の図書館、遥斗は机の上に並べた写真を見つめていた。

 雪煙を切る自分の姿。

 そして、その背後にぼんやり写り込んだ紬の姿。

 ファインダー越しの彼女は、何かを探すようにこちらを見ていた。


 手に取るたび、心がざわつく。

 あの雪の中、彼女の目には自分がどう映っていたのだろう。

 滑っているときの表情。無意識の動き。

 ――全部、見透かされていたのかもしれない。


 翌日、昼休みのカフェテリア。

 紬が隣の席に座り、写真を差し出した。

 「これ、昨日の続き。」

 白い光の中で雪の粒が舞う写真。

 その一枚一枚が、まるで心を覗かれているようで、遥斗は少し身を硬くした。


 「……こんなに撮ってくれたんだな。」

 「滑ってるときの真中くん、自然すぎて、全部が面白くて。

  うまく言えないけど、“今”が全部入ってる気がして。」

 紬の声は柔らかく、けれど何かを隠しているようだった。


 その日の撮影後、二人は雪の中で並んで座り、休憩していた。

 遥斗は思わず訊いた。

 「……どうして、俺のことを撮りたいんだ?」

 紬は少し間を置き、目を伏せた。

 「うーん……真中くんが滑ってるのを見ると、昔の景色を思い出すの。

  でも、ただ懐かしいだけじゃなくて、今のあなたも知りたいっていうか……」


 言葉は途切れた。

 しかし、空気の中に、彼女の思いがじわりと伝わってくる。

 遥斗は胸の奥が熱くなるのを感じた。

 ――紬は、俺のことを見つめている。


 だが、写真には写らないものもある。

 休憩が終わり、二人が滑り出した瞬間、紬の視線の端に小さな影が映る。

 誰かの気配。雪の向こうに立つ見知らぬ人物。

 目が合ったわけではないのに、紬は一瞬硬直した。


 「大丈夫?」

 「……うん、大丈夫。」

 言葉にした途端、微かに笑みを浮かべた。

 だが、その目の奥には、何かを隠そうとする色があった。


 帰り道、バス停までの短い距離。

 雪を踏む音、遠くの街灯の光。

 紬はふと立ち止まり、カメラを肩から外して言った。

 「真中くん、撮ることって、見えないものを残すことだと思う。」

 「……見えないもの?」

 「心とか、気持ちとか、記憶とか。写真に映らないけど、ちゃんとあるもの。」


 遥斗は、写真の中に写る自分を見つめながら考えた。

 ――俺の気持ちも、あの中に映ってるんだろうか。

 いや、映っていても、彼女にはまだ見えない。


 夜、自室でアルバムを開く。

 雪の上で跳ねる自分。

 その背後に、紬の姿がちらりと写る。

 ファインダー越しの彼女の瞳に、何が映っていたのか。

 そして、何を隠しているのか。


 アルバムのページをめくるたび、心に微かな不安が広がる。

 ――この冬、何かが変わる。

 そして、変わることが、必ずしも幸福ではないことも、遥斗はまだ知らなかった。

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