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君の隣で終わる世界  作者: サイガ


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15/20

告白

 吹雪が過ぎ去った朝、山の空気は異様なほど澄んでいた。

 昨夜の嵐が嘘のように、世界は純白に包まれている。

 ロッジの屋根から落ちる雪の音だけが、静かに響いていた。


 遥斗は外に出た。

 踏みしめる雪が軋み、冷たい風が頬を刺す。

 空は淡く光り、雪面に反射してまぶしい。


 ――昨日、紬が言った言葉が頭から離れなかった。


 「私、病気なの」

 その声が、今も耳に残っている。


 彼女がどれほどの痛みを抱えていたのか。

 どれほどの不安を、笑顔の裏に隠していたのか。

 その全部に気づかないふりをしていた自分が、たまらなく情けなかった。


 「……伝えなきゃ」

 雪を見つめたまま、呟いた。


 午後、風が少し落ち着いたころ、紬が外に出てきた。

 厚手のマフラーに顔をうずめ、カメラを肩にかけている。

 「コーチが安全確認に行ったみたい。道、少しずつ開けてるって」

 「そうか」


 会話はそれだけだった。

 けれど、互いの間に漂う空気が、どこか違っていた。


 「少し、歩かない?」

 遥斗の提案に、紬は一瞬ためらってから頷いた。


 二人は雪の坂道を並んで歩く。

 足跡が二本、白の上に伸びていく。

 吐く息が白く重なり、少しずつ遠ざかる世界に溶けていく。


 「昨日のこと、びっくりしたでしょ」

 紬がぽつりと言った。

 「……あぁ。正直、怖かった」

 「ごめんね、隠してて」

 「謝るなよ」

 「だって、あのままだったら――」


 「紬」

 その名を呼ぶ声が、雪に吸い込まれる。

 彼女が立ち止まり、振り向いた。


 遥斗は息を整え、目を逸らさずに言った。


 「俺、お前が好きだ」


 紬の瞳がわずかに揺れた。

 風が一瞬、止まったように感じた。


 「……なんで、今なの?」

 「今だからだよ。もう、嘘つきたくない」

 「ダメだよ」

 紬は首を振った。

 「私、長く生きられないかもしれないのに」

 「そんなの、関係ない」


 遥斗は一歩近づき、彼女の肩を掴んだ。

 「お前がいなくなるなんて、考えられない。

 どんな未来でもいい。お前といる今が、俺にはすべてなんだ」


 紬は俯いた。

 雪の上に、ぽた、と小さな滴が落ちた。


 「……ずるいよ、そんな言い方」

 「ずるくてもいい。俺は本気だ」


 しばらく沈黙が流れた。

 遠くで風が木々を揺らす音がする。

 紬は顔を上げ、泣き笑いのような表情で言った。


 「……私も、好きだよ」


 その瞬間、世界が少しだけ温かくなった気がした。

 雪が舞う空の下で、二人は見つめ合う。


 手袋越しに指先が触れた。

 それだけで、胸の奥が熱くなる。


 「ほら、せっかくの雪だから」

 紬が笑って言う。

 「滑りに行こうよ。……今の景色、撮っておきたい」

 「いいのか?」

 「うん。あなたとなら、どんな雪でも大丈夫」


 その笑顔は、あまりにも優しかった。

 まるで、この瞬間を永遠に閉じ込めるように。


 紬がカメラを構え、遥斗を撮る。

 シャッターの音が、静かな山に響いた。


 「ねぇ、また来年もここに来よう」

 「……あぁ、約束だ」


 その“約束”が、二人にとって最後のものになるとは、まだ誰も知らなかった。

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