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君の隣で終わる世界  作者: サイガ


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10/20

告白前夜

 夜のキャンパスは、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 外灯に照らされた歩道の雪が、薄く光を返している。


 真中遥斗は、スキー部の部室棟の前でスマホを見つめていた。

 画面には、未送信のメッセージがひとつ。


 > 「明日、話したいことがある」


 送信はすでにしてある。

 けれど返事は、まだ来ていない。


 ――篠原、見てくれたかな。


 思えば、再会してからの数ヶ月はあっという間だった。

 雪の撮影、合宿、キャンパスでの偶然。

 そのどれもが、過去の記憶を塗り替えていくようだった。


 けれど、昨日の夜、現像室で見た彼女の横顔が頭から離れない。

 赤い光の中で、紬は泣き出しそうな顔をしていた。

 その理由を聞けなかったことが、ずっと胸に引っかかっていた。


 「……明日、ちゃんと伝えよう」


 小さく呟いて、雪を踏みしめる。

 冬の冷たい空気が、肺の奥に刺さるようだった。


 翌朝。

 キャンパスの空は曇っていた。

 空気の中に、かすかな雪の匂い。


 紬からの返信は、結局来なかった。

 それでも遥斗は、約束の時間に合わせて写真棟へ向かった。


 廊下の奥、暗室の灯りが消えている。

 扉の前で、彼は深く息を吸った。


 「……紬」


 返事はない。

 扉を少し開けると、誰もいなかった。

 現像のトレイに水だけが残り、静かに揺れている。


 ――来ないのか。


 小さく笑って、ドアを閉める。

 仕方ない、また明日でも。

 そう思いながら、外に出ると雪が舞い始めていた。


 スマホが震えた。

 画面には、紬からのメッセージ。


 > 「ごめん、行けそうにないの」

 > 「少し、考えたいことがあるから」


 たったそれだけ。

 それなのに、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


 「……考えたいこと?」


 その言葉の意味を、彼は深読みせずにいられなかった。

 拒絶ではない。けれど、肯定でもない。


 ――俺、何か間違えたのかな。


 冬空を見上げる。

 白い息が風に流れていく。


 部室に戻ると、部長が声をかけた。

 「真中、明日の遠征の準備できてるか?」

 「はい。……明日、天候、どうなんですか?」

 「午後から崩れるらしいけど、午前中なら大丈夫だろう」


 その言葉が、どこか不吉に聞こえた。


 遠征――それは、例年恒例の冬山での実地練習。

 紬も「撮影に行く」と言っていた場所だった。


 「……明日、会えるかもしれないな」

 遥斗は小さく笑った。

 けれどその声には、わずかに震えが混じっていた。


 夜。

 雪は勢いを増し、窓の外を白く染めていく。

 彼は机の上に並べた写真を見つめた。


 紬が撮った、自分の姿。

 そのどれもが、どこか未完成な表情をしていた。


 「明日……ちゃんと伝える」


 その声は、誰に聞かせるでもなく、夜に溶けていった。


 机の上のスマホが震える。

 画面には、新しい通知。


 紬からではなかった。

 天気予報アプリの警報だった。


 > 「明日午前、強風・吹雪の恐れ」


 彼は少し笑って、窓の外を見上げた。

 風に舞う雪が、街灯に照らされて渦を描いていた。


 ――この雪の先に、彼女がいる。


 そう信じて疑わなかった。


 それが、最後の夜になるとは知らずに。

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