再会
昼下がりのキャンパスを、秋の風がやわらかく撫でていった。
木々の隙間から漏れる光が地面に斑を落とし、講義帰りの学生たちの笑い声が遠くに響く。
真中遥斗は、スキー部の部室へ向かう途中で立ち止まった。
ふとした瞬間、見覚えのある横顔が視界の端に映ったのだ。
カメラを構え、ファインダー越しに木漏れ日を見つめる少女。
その姿に、胸の奥がかすかに痛んだ。
――まさか、そんなはずは。
彼女の髪が風に揺れ、光を弾く。
その仕草に、幼い頃の記憶が滲み出す。
雪の中、転んだ彼女に差し伸べた手。
震えながらも笑って、「ありがと」と言った声。
“篠原紬”――。
名前を思い浮かべた瞬間、時間が巻き戻ったように感じた。
中学受験をきっかけに離れ、それ以来、一度も会っていなかった。
あの日、駅のホームで手を振る彼女の姿を、今でも鮮明に覚えている。
気づけば足が勝手に動いていた。
「……篠原?」
自分の声が意外に掠れていて、思わず息を呑んだ。
彼女が振り返る。
光の中で目が合った瞬間、時間が止まったように感じた。
「……え?」
数秒の沈黙ののち、紬は小さく目を見開き、そして――ふっと笑った。
「……久しぶり、遥斗くん。」
懐かしい響きだった。
胸の奥が、何かで満たされるように痛む。
再会の喜びよりも、どこか“取り戻せないもの”を思い知らされるような痛み。
「まさか、大学ここだったんだな。」
「うん。写真の授業が有名でね。……真中くんは?」
「スキー部。滑ってばっかり。」
「ふふ、昔からだもんね。」
その笑みは昔のままだった。
けれど、その瞳の奥に、幼いころにはなかった影がある。
彼女がどんな時間を過ごしてきたのか――その一端が、言葉にならないまま胸を刺した。
「写真、今も撮ってるんだな。」
「うん。止まってるものより、動いてるものを撮るのが好き。」
「風とか?」
「そう、風とか、人の横顔とか……気づかれない瞬間。」
紬が言葉を選ぶように、そっとカメラを胸の前で抱いた。
その姿を見つめながら、遥斗は気づく。
彼女が“何か”から逃げるように笑っていることに。
「今度、スキーの大会あるんだ。よかったら、撮りに来る?」
自分でも驚くほど自然に言葉が出た。
誘うつもりなんてなかったのに。
紬は少し驚いたように瞬きをして、
「……うん。行くよ。」と微笑んだ。
風が二人の間を通り抜ける。
木々の葉が舞い、光が瞬く。
世界がほんの少しだけ、色を取り戻したように見えた。
――再会とは、始まりではなく予兆なのかもしれない。
胸の奥で、そんな言葉が静かに浮かんだ。
この瞬間から、何かが動き出した。
そしてその“動き”が、どんな結末へ向かうのかを、まだ誰も知らなかった。




