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6.シークレットライブ

 夜8時前に東京駅に着いた。

 週末ということだけあって、あふれんばかりの人の多さに圧倒されて駅構内では緊張しながら歩いていたけど、外の空気に触れてそんな気分は消し飛んだ。

 寒さにビックリして、向かい風に思わず目を細める。凍てついた空気が痛い。

 辺りを見回すとネオンが宝石箱をひっくり返したようにキラキラしていた。夜なのに少しほの明るいのが不思議だった。

(綺麗……)

 心の中で呟く。

 少なからず興奮していた。

寒さと、洪水のような光と、そして今までで一番カズキの近くにいるということに。


 カズキがプライベートでストリートライブをしているという噂の公園は駅からかなり歩いたところにあった。

(本当にあったんだ、この公園……)

 インターネットで情報や場所を調べたわけだが、実は場所の存在すらほとんど信じてなかった。


 とりあえず、公園内に入ってみる。

 どこにでもある普通の公園で、大きな池に沿って遊歩道やサイクリングロードがあり、若者があちらこちらギターを片手に思い思い歌っていた。

 少し違っていたのは公園の敷地の大きさと人の多さぐらいで、ストリートミュージシャンを見るために、あるいは自分の歌を聴いてもらうために集まってくる人でちょっとした祭りのような雰囲気だった。

 多くの人の間をぬうようにさまよっていると、少し奥まった場所に規模は小さいけれどいつでも野外コンサートが出来そうな石畳で作られたステージがあった。

それを取り囲むように作られた階段状の観客席には多くの人が集まり、そこのステージで行われている演奏を聴いている。

 人は多いけれど、小さいライトがステージに向けて1つだけしかないのが不思議で、その演奏を聴いている人に声をかけてみた。


「ああ、これはね、月に1度満月の夜にここの常連や有志が集まってやるシークレットライブなの。なるべく外に迷惑かからないようなアコースティックなのが多いけど。え? 暗い?? もう少ししたら、満月が昇ってきて明るくなるから大丈夫。目も慣れてくるし。明るかったら目立つじゃん。それってマズいんだよね。警察来たら素早く解散するのが決まりだから。あんた、今日初めて? え? 九州からカズキを捜しに来た? ん~、見たことないなぁ。まぁ、このライブ楽しんでいきなよ」


 私は、弾丸のようにしゃべる若い女性にお礼を言うと客席の一番後ろに移動した。

(今日は満月だったのかぁ)

 都会は明るすぎて気がつかなかった。空を仰いでも今は何も見えない。


 しばらく夜空を見ていたら、ひときわ大きな拍手が聞こえてきてステージに目を向けた。

 いかにもヒップホップ系というような黒っぽいダブダブのジーンズ、白いパーカーの上に黒いダウンジャケットをはおり、黒のニット帽に首と指には派手な装飾品を身に着けた男性たちがライブを始めようとしていた。夜なのに黒サングラスまでかけている。

(うわっ、こわっ!!)

 私はガラの悪さにギョッとしてしまったけれど、掛け声などからこのシークレットライブの中心的存在のバンドらしかった。

 意外なことは、普通の弾き語りではなくて、1人ずつではあるけれど、ボーカル、ギター、ベース、ドラムス、トランペットまでいる本格派なことだ。

 演奏が始まるとガラの悪さに似合わず洗練されたサウンドだった。

 曲はジャズのような感じでよくわからなかったけど、5人のバランスも雰囲気も耳に心地よくて充分楽しめた。

 トランペットが特にいい味を出していた。音や技術はまぁそこそこだし、5人の中で一番ガラが悪くて怖かったけど、人一倍の存在感とセンスのよい奏法でバンドを支えていた。

 気がつけばトランペットの彼を見つめて、その音しか聴いていなかった。

 と、ふと彼が上を見上げてこちらを見た。

(げっ、こっち見た)

 焦る私を静かに見つめる。観客越しに、サングラス越しに。

 それが自然にわかった。

 私もなぜか目が離せなくて、お互いじっと見つめ合っているうちに少しだけ息苦しくなって。

 でも、真後ろにほの明るい光を感じて後ろを振り返った瞬間に私の思い過ごしだと恥ずかしくなった。

(……月を、見てたんだ)

 眠りから覚めたような満月が皓々と辺りを照らしていた。

 少し月を眺めたあと、トランペットの彼を見たらもうこちらを見ていなかった。

 気のせい、と思い私はこの場を後にした。

 

 カズキはどこにいるんだろう?

 

 私はさまよい続ける

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