25.Promenade ~プロムナード~ #4
『あなたは、本当は何がほしいの?』
その言葉は、はっきり俺に興味がないと言ったときよりも心を深くえぐった。
信じられない。あんな素人の女に見透かされそうになるなんて。
冗談じゃない。
廊下を足早に歩いた。毛足の長いじゅうたんが邪魔だ。
さすがに大規模なパーティだけあっていろんな人種の人たちがいる。
みんな楽しそうに笑っていて、それがとても不愉快だった。
「あ、アサト君探したよ」
ムーンレイクの社長が歩み寄ってくる。
「鈴木社長、申し訳ございませんが、どうも気分が悪いので今夜はこれで失礼させていただきます」
表情をつくって少し笑う。
世間の人たちから評判のいい『思わず手を差し伸べたくなる笑顔』バージョン。
本当は気分が悪いのではなくて機嫌が悪いのだけど、ね。
「大丈夫かい?体調がすぐれないのに無理言って悪かったね。気をつけて帰ってね」
優しい笑顔でそういう鈴木社長。
実は今日、鈴木社長に是非に、と誘われたんだ。どうしてかはわからないけど。一応事務所に話通してみたら、行って来いと言われて今に至るわけなんだけど。
社長に一礼して会場を後にする。
人当たりはいいんだよな、この人。
でも、ビジネスはやり手らしい。そうだよな。そうじゃないとこの業界で社長って立場には、のし上がれないだろう。
エキセントリックで個性的なミュージシャン達なんて束ねてられないだろうし。何よりあれだけ実力のあるアーティスト集められないだろうな。
ムーンレイク所属の実力のあるアーティストを一人一人思い出してみる。カズキが思い浮かんですぐにあの女のことも思い出した。
カズキがあの女のこと美佳、って呼んでたっけ?
顔は美しいけど、顔のつくりだけで言えば、悪いけど俺の方が綺麗だ。
でも、誰にもマネのできない凛とした美しさがあるんだよな。
久しぶりにきちんとしたいい女にあった気がするんだ。
あの美しさは顔かたちじゃなくて、……そう、きっと雰囲気。
雰囲気や仕草、たたずまいに品があってそれが羽衣のように彼女の周りを取り巻いていてより一層綺麗に見えるんだ。
あの真紅のドレスとも合ってたな。あの色とデザインを品よく着こなせる女はあまりいないんじゃないのか?
って、褒めてばかりだけど、あの女、なんか癪にさわるんだよね。
あの真実を見透かすような瞳が嫌いなんだ。
あと、イトコっていうのも嘘だよね。2人の間に流れる親密な感じわかればすぐに違うってわかるのに。小さなごまかし、許せないな。
周りの人に会釈をしながら出入り口へ向かう。近づくとドア係のスタッフが重そうな扉を開けてくれた。
外に出た途端、冷たい風が吹き付ける。
そう、あの女に対して今一番しっくりくる感情。
許せない。
真冬の夜空を見上げると、まるで空に憎しみにも似た感情が駆け抜けたような気がした。