帝国へ
なかなか続きの展開がまとまらず投稿に間が空いてしまって申し訳ありませんでした。
鉱石がガルゼル帝国の鉱山から発掘されることを突き止めた俺とリーネはすぐに帝国へと向かった。ティナはダグマールさんの技術からインスピレーションを受け魔核強化のアイデアが浮かんだらしくギルドに帰っていった。
ガルゼル帝国の首都、ヴァルハラの城門が見えてきた。石造りの堂々とした城壁は相変わらず威圧感があるが、以前と比べて警備が厳重になっている。門の前には多くの兵士が配置されていた。
「ずいぶん物々しいわね」
隣を歩くリーネが呟く。
「鉱山襲撃の件で、帝国全体が警戒態勢なんだろう」
俺が答える。
城門で身元確認を受けた後、俺たちは皇宮に向かった。使者として事前に連絡を入れてあったため、すぐに皇帝イリーナとの謁見が設定されている。
「久しぶりね、アキト、リーネ」
玉座に座るイリーナが微笑みかけてくる。相変わらず威厳のある美しい皇帝だ。
「お久しぶりです、イリーナ」
俺たちが礼をする。
「グラシエルも来ているわ。呼んでもらいましょう」
ーーーーー
しばらくすると、騎士の鎧に身を包んだグラシエルが現れた。以前の無邪気な少年の面影はあるものの、今は立派な青年騎士として成長している。
「アキトにリーネじゃない!久しぶりだよー」
しかし、話し方は相変わらずだ。グラシエルが駆け寄ってくる。
「グラシエル、随分逞しくなったな」
「えへへ、ボク今は騎士隊長なんだ。偉いでしょ?」
「隊長?すごいじゃん」
リーネが感心する。
「でも、最近は大変なんだよー。鉱山の襲撃事件で、ボクたちも警備に駆り出されてばっかり」
グラシエルの表情が少し曇る。
「その件で相談があるんです」
俺が切り出す。
「人工虚核の材料に使われている鉱石が、この帝国の鉱山から発掘される特別な鉱石だと分かりました」
ーーーーー
イリーナの表情が険しくなる。
「やはり、そうだったのね」
「やはり?」
「実は、帝国の研究者からも同様の報告を受けていたの。盗まれた鉱石が人工虚核の製造に使われている可能性があるって」
イリーナが説明する。
「その研究者というのは?」
「セレスティア博士よ。帝国最高の魔法研究者で、虚核の専門家でもあるの」
セレスティア...その名前に、俺は微かな違和感を覚えた。どこかで聞いたような気がする。
「博士には後で紹介するわ。きっと有益な情報を教えてくれると思う」
「ありがとうございます」
俺が礼を言う。
「それより、現在の被害状況を教えてもらえますか?」
「深刻よ」
イリーナがため息をつく。
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「これまでに五つの鉱山が襲撃されて、大量の深淵石が盗まれた」
「深淵石?」
「ガルゼル帝国特産の鉱石で、魔力の蓄積に優れているの。人工虚核の材料として最適らしいわ」
リーネが身を乗り出す。
「襲撃犯の正体は分かっているんですか?」
「それが...」
グラシエルが困った表情を見せる。
「人型の魔物が大量に現れて、組織的に採掘作業をしているんだ。でも、指揮している人間の姿は見えない」
「人型の魔物?」
「そう。人工虚核を埋め込まれた魔物だと思う。すごく強くて、ボクたちの騎士団でも苦戦してるんだよー」
これは予想以上に深刻な状況だ。
「現在、全ての鉱山は作業を停止している状況よ」
イリーナが続ける。
「これ以上の被害を防ぐためには、襲撃犯の本拠地を突き止めて、一網打尽にするしかないの」
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「それで、お二人にお願いがあるの」
イリーナが真剣な表情で言う。
「次に狙われそうな鉱山を監視して、襲撃犯を捕らえてほしいの」
「監視ですか?」
「ええ。幸い、まだ襲われていない鉱山がいくつかある。そこで待ち伏せして、襲撃犯の後を追ってもらいたいの」
これは危険な任務だが、人工虚核事件の解決には必要なことだ。
「分かりました。お引き受けします」
俺が答える。
「ありがとう。グラシエルも一緒に行ってくれる?」
「もちろんだよー。久しぶりにアキトたちと一緒に戦えるなんて、楽しみだな」
グラシエルが嬉しそうに答える。
「では、明日の夜から監視を開始しましょう。今日は宿でゆっくり休んでください」
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謁見が終わった後、俺たちは城の廊下を歩いていた。
「それにしても、セレスティア博士って人、気になるわね」
リーネが言う。
「なぜ?」
「だって、帝国最高の研究者なのに、まだ会ったことがないでしょ?前にここに来た時も」
「確かに。忙しい人なのかもしれないが」
俺も同感だった。前作の戦いの時、これほどの人物がいたなら会っていてもおかしくない。
「まあ、後で会えるって言ってたし、その時に色々聞いてみよう」
「そうね」
その時、廊下の向こうから上品な女性が歩いてくるのが見えた。深い青のローブを纏い、知的な雰囲気を漂わせている。
「あ、セレスティア博士だ」
グラシエルが気づく。
「博士、こちらがソリス王国から来られたアキトさんとリーネさんです」
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セレスティアと呼ばれた女性が近づいてくる。年齢は三十代後半といったところか。美しいが、どこか冷たい印象を与える瞳をしている。
「初めまして。セレスティアと申します」
彼女が丁寧に挨拶する。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺が返礼する。
「人工虚核の件でお力をお借りしたく」
「もちろんです。この事件は帝国にとって重大な脅威ですから」
セレスティアが答える。その時、彼女が何かを考えるように眉間に指を当てる仕草を見せた。
その瞬間、俺は強烈な既視感に襲われた。この仕草...どこかで見たような。
「どうかなさいましたか?」
セレスティアが俺の様子に気づく。
「いえ、何でもありません」
俺は慌てて答える。
「では、詳しいお話は明日にでも。今日はお疲れでしょうから」
セレスティアが微笑む。
「ありがとうございます」
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セレスティアが去った後、リーネが小声で話しかけてくる。
「どうしたの?さっき変な顔してたけど」
「あの仕草...眉間に指を当てる癖。どこかで見た覚えがあるんだ」
「癖?」
「ダグマールも同じことをしていた。それに...」
俺は考える。他にも誰かがこの仕草をしていたような気がするが、思い出せない。
「まあ、よくある癖かもしれないし」
リーネがフォローする。
「そうかもしれないな」
俺は首を振って雑念を払った。今は明日の監視任務に集中すべきだ。
しかし、心の奥で小さな警告音が鳴っていた。セレスティアという女性に、何か不自然なものを感じる。
まさか、とは思うが...
「早く休みましょう。明日は大変になりそうだから」
リーネの言葉に、俺は頷いた。
しかし、その夜俺は中々眠りにつけなかった。セレスティアの眼差しと、あの仕草が頭から離れなかった。