表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/19

職人の技と隠された力

 グランハンマー街に到着すると、街全体に金属を打つ音が響いている。さすがは鍛冶で有名な街ね。煙突からは煙が立ち上り、職人たちの活気が伝わってくる。


「ここが俺の工房だ」


 ダグマールが案内してくれたのは、街の中心部にある立派な建物だった。看板には『ダグマール鍛冶工房』と刻まれている。


「すごく本格的な工房ね」


 私が感心する。中に入ると、様々な鍛冶道具が整然と並んでいる。どれも手入れが行き届いていて、職人のこだわりが感じられる。


「恩返しをさせてもらいたい。何か武器の手入れは必要ないか?」


 ダグマールが申し出る。


「それなら、アキトの剣を見てもらえる?」


 リーネが提案する。


「ああ、頼む」


 アキトが了承する。


ーーーーー


 「ソウルフォージ」


 アキトが魔核の力を発動し、白銀の剣を出現させる。


「ほう...」


 ダグマールが興味深そうに剣を見つめる。


「これは珍しい魔核だな」


「珍しい?」


 私が尋ねる。


「ああ。普通の魔核とは魔力の流れが違う」


 ダグマールがアキトの剣を詳しく観察する。


「どう違うんですか?」


「通常の魔核は一定の魔力を保持するが、この魔核は...まるで成長しているかのようだ」


 成長?私は身を乗り出す。


「成長しているって?」


「魔力が徐々に蓄積されていっている。使用者の魔力を吸収して、少しずつ強化されているようだ」


 これは驚くべき発見ね。


ーーーーー


 「面白い魔核だ。これなら俺も腕が鳴る」


 ダグマールが眼を輝かせる。


「鍛えることはできるんですか?」


 アキトが尋ねる。


「できるとも。ただし、特殊な鍛造が必要だがな」


 ダグマールが炉に火を入れ始める。


「特殊な鍛造?」


「魔核自体を叩くのではなく、ソウルフォージした状態の剣を鍛える。魔力の流れを整え、より効率的に力を発揮できるようにするんだ」


 これは興味深い技術ね。私は食い入るようにダグマールの作業を見つめる。


「危険はないのか?」


 アキトが心配そうに聞く。


「俺を信じろ。この道四十年、失敗したことはない」


 ダグマールが自信に満ちた表情で答える。


ーーーーー


 ダグマールの鍛造が始まった。ソウルフォージされた剣に、特殊な魔法を込めたハンマーで打撃を加えていく。


 カンカンカンという金属音が響く中、剣の輝きが徐々に変化していく。


「すごい...」


 私は息を呑む。剣の魔力の流れが目に見えて改善されている。


「この技術、どこで覚えたんですか?」


「長年の経験と、師匠からの教えだ」


 ダグマールが集中しながら答える。


「師匠?」


「ああ。俺の師匠は優秀な人だった。多くの技術を教わった」


 その時、ダグマールが何かを考えるように眉間に指を当てる仕草を見せた。


 あの仕草...どこかで見たような。


ーーーーー


 鍛造が続く中、私はアキトの魔核について分析を深めていく。


「リーネ、この魔核について何か知ってる?」


「フェニックスの魔核よ。アキトが昔、フェニックスの雛を助けた時にもらったの」


「フェニックス...それで成長する特性があるのね」


 フェニックスは死と再生の象徴。その魔核なら、使用者と共に成長する能力があっても不思議ではない。


「でも、なぜ今まで気づかなかったんだろう?」


「きっと変化が緩やかだったからよ。ダグマールみたいな熟練の職人でなければ、気づけなかったんじゃない?」


 リーネの推測は的確ね。確かに、長年魔核を扱ってきた専門家だからこそ、微細な変化を感知できたのでしょう。


ーーーーー


 「よし、完成だ」


 ダグマールが満足そうに宣言する。


 アキトが剣を受け取ると、明らかに以前とは違う輝きを放っている。


「軽い...いや、扱いやすくなった」


 アキトが驚く。


「魔力の流れを最適化した。これで君の成長に合わせて、剣もより強くなっていくはずだ」


 私は感動で言葉を失った。これほど高度な技術を目の当たりにするのは初めてよ。


「信じられない技術ね。どうやって魔力の流れを...」


「企業秘密だ」


 ダグマールが苦笑いする。


「でも、基本的な理論なら教えてやれる。興味があるなら」


「ぜひお願いします!」


 私は身を乗り出す。


ーーーーー


 ダグマールから基本的な理論を教わっている最中、工房のドアがノックされた。


「はーい、お疲れ様です!」


 明るい声と共に、シフォンが現れた。手には大きなバスケットを持っている。


「シフォンちゃん?こんなところで何を?」


 リーネが驚く。


「実は、グランハンマー街に新しい支店がプレオープンすることになって、経験者として応援に来たんです」


 シフォンが説明する。


「それで、街で皆さんを見かけたので、差し入れを持ってきました」


「わざわざありがとう」


 アキトがお礼を言う。


「いえいえ。こちらダグマールさんですよね?街で有名な鍛冶師さんだって聞いてます」


 シフォンがダグマールに挨拶する。


「俺のことを知ってるのか?」


「ええ。お客さんから『腕の良い職人がいる』って聞いてました」


ーーーーー


 シフォンがバスケットからサンドイッチとクッキーを取り出す。


「皆さん、調査お疲れ様です。何か分かったことはありましたか?」


「ええ、少しずつだけど」


 私が答える。


「特殊な鉱石について、ダグマールさんに色々教えてもらったの」


「そうなんですね。どんな鉱石だったんですか?」


 シフォンが興味深そうに聞く。


 その時、シフォンが急にふらつく。


「あっ...」


「大丈夫?」


 リーネが支える。


「すみません、ちょっと貧血気味で...」


 シフォンが小さな瓶を取り出し、中の薬を飲む。


「いつものことなので、心配しないでください」


 シフォンが苦笑いする。この人、時々体調を崩すのよね。


ーーーーー


 「ところで、皆さんはどんな鉱石を探してるんですか?」


 シフォンが体調を回復させながら尋ねる。


「人工虚核に使われている可能性のある鉱石よ」


 私が説明する。


「人工虚核...それは大変な問題ですね」


 シフォンが心配そうな表情を見せる。


「ダグマールさんは何かご存知でしたか?」


「いくつか候補は挙げてもらったけど、まだ確証はないの」


「そうですか...早く解決すると良いですね」


 シフォンが真剣な表情で言う。


 しかし、私には違和感があった。シフォンの質問が、少し詳しすぎるような気がする。普通のケーキ屋の店員が、そこまで調査の詳細を聞くだろうか?


 まあ、心配してくれているだけかもしれないけど。


ーーーーー


 しばらく談笑した後、シフォンは店に戻っていった。


「優しい人だな」


 ダグマールが感想を述べる。


「そうね。いつも私たちを気にかけてくれるの」


 リーネが答える。


 私はまだ微妙な違和感を感じていたが、特に問題はないのかもしれない。


「さて、鉱石の調査を続けましょうか」


 アキトが提案する。


「ああ。約束通り、詳しい人を紹介してやろう」


 ダグマールが立ち上がる。


 私たちは工房を出て、街の鉱石商人を訪ねることにした。アキトの剣の強化も無事完了し、調査も順調に進んでいる。


 早く犯人を見つけ出すんだ、タケルの時のような悲しい思いを誰かがしなくていいように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ