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鍛冶の街への道

 王国からの正式な依頼書を手に、俺たちは鍛冶で有名なグランハンマー街へ向かっていた。馬車の中で、セリスからの依頼内容を改めて確認する。


「人工虚核の材料となっている鉱石の出所を調査し、流通経路を特定せよ、か」


 俺が依頼書を読み上げる。


「王国も本腰を入れてきたのね」


 リーネが隣で呟く。


「そうね。この事態を放置するわけにはいかないわ」


 ティナが真剣な表情で答える。


「人工虚核の解析結果から推測すると、使われている鉱石は相当特殊なものよ」


 ティナが資料を見返しながら説明する。


「どう特殊なの?」


 リーネが尋ねる。


「魔力を蓄積しやすく、なおかつ安定性が高い。そのような性質を持つ鉱石は限られているの」


「つまり、産地も限られているということね」


 リーネが推測する。


「その通りよ。だからこそ、鍛冶師たちに聞き込みをすれば、何か分かるかもしれない」


ーーーーー


 ティナが資料を取り出す。


「事前に調べた情報だと、最近各地で鉱山への襲撃事件が多発してるのよね」


「襲撃?」


「ええ。大量の鉱石が盗まれているって報告があるの」


 俺は眉をひそめる。


「それが人工虚核の材料に使われているということか」


「可能性は高いわね」


 ティナが頷く。


「でも、具体的にどの鉱山のどんな鉱石なのかは分からない」


 リーネが言う。


「だからこそ、鍛冶師に聞き込みをするのよ。彼らなら鉱石の質や特性に詳しいはず」


 ティナが説明する。


「それに、もし人工虚核の製造に鍛冶技術が使われているなら、この街の職人なら何か知っているかもしれないわ」


 ティナの分析に、俺も納得する。


ーーーーー


 馬車が街道を進む中、俺は今回の調査について考えを巡らせていた。


 「アキト、何か気になることでもあるの?」


 リーネが俺の様子に気づく。


「ああ。人工虚核を作れる技術者がどれほどの実力者なのか考えていた」


「確かに。相当な知識と技術が必要よね」


 ティナが同調する。


「もしかすると、複数の専門家が協力している可能性もあるわ。魔法理論に長けた者と、鍛冶技術に長けた者とか」


「なるほど。それなら技術的な難易度も説明がつく」


ーーーーー


 その時、馬車が急に止まった。


「どうした?」


 俺が御者台に声をかける。


「すみません。道に人が倒れているようで」


 俺たちは馬車から降りて確認する。確かに、街道の脇に男性が倒れている。


「大丈夫ですか?」


 リーネが駆け寄る。


 男性は意識はあるようだが、かなり疲労している様子だった。がっしりとした体格で、手には鍛冶師特有の火傷の跡がある。


「すまん...道に迷ってしまった...もう三日も何も口にしておらん」


 男性が渋い声で答える。


「三日も?」


 ティナが驚く。


「俺はダグマール。グランハンマー街で鍛冶師をやっている」


「鍛冶師?」


 俺たちが顔を見合わせる。これは偶然なのか?


「とりあえず、水と食料を分けてあげましょう」


 リーネが提案する。


「恩に着る...」


 ダグマールが頷く。


ーーーーー


 水と携帯食料を分けてあげると、ダグマールはみるみる元気を取り戻した。


「助かった。命拾いしたな」


「どうしてこんなところで道に迷ったんですか?」


 ティナが尋ねる。


「完成させた武器を試したくてな、強力な魔物を探していた」


 ダグマールが渋い声で説明する。


「武器を試すために?」


「そうだ。俺は完璧な武器を作ることに人生を捧げている。だが、作っただけでは意味がない。実際に使ってみて、完璧かどうか確かめねばならん」


 その目には、職人としての強い意志が宿っている。


「それで道に迷ったんですか」


「情けない話だがな...それに、もっと強力な魔核も探していた。より良い武器を作るためには、より良い素材が必要だ」


 魔核...この男性は俺たちにとって有益な情報を持っているかもしれない。


「よろしければ、グランハンマー街まで一緒に行きませんか?」


 俺が提案する。


「そいつは助かる。礼を言う」


 ダグマールが頷く。


ーーーーー


 馬車に乗り込んだダグマールは、武骨だが礼儀を知る職人のようだった。


「あんたらも鍛冶師か?」


「いえ、冒険者です。少し調べ物があってグランハンマー街に向かっているんです」


 リーネが答える。


「調べ物とは?」


「特殊な鉱石について、詳しい方にお話を聞きたくて」


 ティナが説明する。


「鉱石なら、ある程度は分かる。職業柄、様々な素材を扱うからな」


 これは幸運だ。


「実は、人工的に作られた虚核に使われている鉱石について調べているんです」


 俺が率直に話す。


 その瞬間、ダグマールの表情が変わった。


「人工虚核...」


「ご存知ですか?」


「噂程度だが...最近、各地で不可解な虚核が発見されているとか」


 ダグマールが困惑した表情で言う。


「その技術に使われている鉱石の出所を調べているんです」


「すまんが、俺にはそのような高度な技術については...」


 ダグマールが申し訳なさそうに首を振る。


「いえいえ、無理を言ってすみません。ただ、特殊な魔力を持つ鉱石について何かご存知でしたら」


 ティナがフォローする。


「それなら、多少は」


 ダグマールはティナが持ってきていた人工虚核の欠片を観察し眉間に皺を寄せ考え込む。


 「この鉱石は、特殊な魔力適性を持つ石であろう」


 ダグマールが推測する。


「魔力適性?」


「うむ。魔力を蓄積し、なおかつ安定化させる性質を持つ鉱石のようだ」


 ティナが身を乗り出す。


「その通りよ。まさにそのような特性の鉱石を探しているの」


「であれば、いくつか候補がある。ただし、どれも非常に貴重で、加工も困難な代物だがな」


 ダグマールが説明する。


「加工が困難?」


 俺が尋ねる。


「うむ。そのような鉱石を虚核に加工するには、高度な鍛冶技術と魔法知識の両方が必要であろう」


 これで調査の方向性が見えてきた。グランハンマー街で、特殊な鉱石の加工技術を持つ人物を探せばいい。


「ダグマールさん、その技術を持つ鍛冶師に心当たりはありますか?」


 ティナが尋ねる。


「そうだな...何人か思い当たる奴がおる。街に着いたら、紹介しよう」


 これで調査が大きく前進しそうだ。偶然とはいえ、ダグマールに出会えて良かった。


 しかし、偶然にしてはできすぎだと思うのは考えすぎだろうか。

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