いってらっしゃい
テレビ、インターネットと主要メディアが移り変わっていく中で、ラジオの役割ってなんだろうか……。
僕は漠然とした疑問を持ちながら、ラジオのボリュームを上げた。ざらざらとした音質には味がある。
最近ではインターネットでラジオを聞くことができるけれど、音質がきれいで、こういった味のあるノイズはあまり聞かなくなってしまった。
ラジオのノイズは雨音のようで、ゆったりとした時間に合っている。朝食のコーヒーを飲みながら、僕が聞いたことのない曲に耳を澄ます。こういう曲が流行っているのか、はたまたDJの趣味なのかはわからない。知らないものとの出会いは新鮮だ。
インターネットでも「おすすめ」機能で新しいものを知る機会はあるけれど、ラジオで聞く知らない音楽は、もう少し人の気配がある。誰かの選んだ、誰かの好きな曲。その誰かについて、知っているようで知らない、不思議な距離感がある。
「それでは、いってらっしゃい」
ラジオから聞こえてきた声に「いってきます」と返して、僕はラジオの電源を消した。
急にしんとして、僕の声が部屋の中に響いた。靴を履いて玄関ドアを閉める。ゴミを出そうとしていた隣の住人と目が合った。小さく会釈する。ラジオのDJよりもよく知らない間柄だな、と僕はおかしくなった。もっとも、ラジオのDJは僕のことをまるで知らないだろうけれど。
ラジオのノイズのようなままならなさが、僕は嫌いじゃない。
重たい扉がゆっくりと閉まる音が、マンションの廊下にこだました。




