表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双剣使いのクズ冒険者、実は『最凶の”元”剣聖』~気づいたら、いつもトラブルに巻き込まれていますが、なんだかんだ人助けしちゃってます~  作者: 烏羽 楓
第二章 ギアブルグ王国篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/74

第65話「“元”剣聖は、作戦前夜に石で眠る」

 土煙がようやく晴れ、廃墟の中に静けさが戻った。


 割れた床、崩れかけた壁、そして焦げた鉄骨の匂い。

 爆風の余韻がまだ微かに残る中で、レイスは周囲に目を走らせた。


「……ん?」


 足元に、ぺたりと何かが落ちているのを見つける。


 黒い樹脂製のプレート。その端にはホログラムが浮かび、名前と所属、コード番号が記載されていた。


「IDカードか。アイツのだな、きっと」


 レイスが拾い上げると、ユインが覗き込んでくる。


「所属……ドットベル直属研究班。“深部指定研究員”って書いてありますね。……これ、使えるかも」


「ん?」


「これがあれば、研究所の内部に“正面から”入れるかもしれません。少なくとも、認証ゲートは通れる可能性が高いです」


 ユインが指先でカードを回しながら、少し笑う。


「いいねそれ! 面白そうだ」


 レイスがノリノリで返すと、ユインはため息をつきつつも頷いた。


「じゃあ、まずはそのための服を調達しましょう。……クラインさんのところに、もう一度行きますか」

 


 ◆

 


 その日の夜、再びギアブルグ中央区の塔を訪れた二人。


 応接室で待っていると、クラインが現れ、前回と変わらぬ几帳面な様子で頭を下げた。


「またお越しとは……何か進展があったんですね?」


「まあ、ちょっとした“散歩”のついでにな」


 レイスが笑いながらIDカードを掲げると、クラインの眉がピクリと動く。


「これは……! 例の研究所のIDカード……どこでこれを?」


「廃墟でちょっと剣を振ったら落ちてた。あんま深く聞かない方がいいと思うぞ?」


「……了解しました」


 クラインは深くため息をついた後、改めて姿勢を正す。


「それで、ご相談とは?」


 ユインが代わって説明を始めた。


「このカードを使って研究所に潜入するつもりです。なので、できれば研究員っぽい服を用意してもらえないでしょうか?」


「……お二人とも、本当に行動が早すぎます」


 クラインは呆れたように笑みを浮かべ、それでもすぐに頷いた。


「分かりました。すぐに手配します。少々時間がかかるので……明日の昼過ぎに、もう一度いらしてください」


「助かる。よろしく頼む」



 ◆



 宿へ戻る途中、日は沈み街は静けさに包まれていた。


 部屋に入って荷物を下ろすと、レイスが不意に呟く。


「なあ、ユイン。あの研究員……剣が通らなかった。胸元に、明らかに“何か”があった気がするんだが」


「……わたしも気づいてました」


 ユインはソファに座り、真剣な顔で続けた。


「あのとき、剣が当たる瞬間――ほんの一瞬ですけど、黒い光が胸のあたりで光ったんです。……防御魔法か、魔導装甲……?」


 レイスもベッドにもたれかかりながら、顎に手を当てる。


「魔法か……でも、発動詠唱も陣もなかった。仕組みがわからねぇな」


「明日、研究所の中を見れば、答えが見つかるかもしれません」


 ユインは立ち上がり、着替えを済ませながら言った。


「今日はもう遅いですし、早めに寝ましょう。明日に備えて体力は温存した方がいいです」


「そうだな……じゃあ、抱き枕お願いします」


「……は?」


 ユインが一瞬の沈黙の後、手を振ると魔力が集まり、空中に淡い光の粒が浮かぶ。


 数秒後――ごとんっ!


「ぐはっ!?」


 レイスの上に、見事な円柱状の石が落ちた。


 見た目より石は何倍も重く、レイスが石をどけようにも身体が動かせない。


「はい、どうぞ? おやすみなさい、レイス」


 そう言ってユインはベッドに入り、布団をかぶる。


「ちょっ! ユインさん!? まって? 寝ないで? ねぇ!」


 返事はない。


 部屋には、静かな寝息と、石の下敷きになって呻くレイスの声だけが残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ