表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双剣使いのクズ冒険者、実は『最凶の”元”剣聖』~気づいたら、いつもトラブルに巻き込まれていますが、なんだかんだ人助けしちゃってます~  作者: 烏羽 楓
第二章 ギアブルグ王国篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/74

第64話「“元”剣聖は、銃弾を斬り、白衣の闇に迫る」

 日が沈みかけたギアブルグの裏路地。

 サングラスの研究員は、人目を避けるように薄暗い通りを歩いていた。


 レイスとユインは、距離を保ちながらその背中を追っていく。


「どこに行く気だ、こいつ……ただの帰宅にしちゃ妙に警戒してるな」


 レイスが低く呟くと、ユインも小声で返す。


「研究所とは反対方向ですしね。寄り道……にしては、空気が重すぎます」


 やがて、男は人気のない区画――瓦礫と錆の残る工場地帯の一角へと足を踏み入れる。


 そこに建っていたのは、すでに稼働を終えた廃棄施設。

 鉄扉は錆び付き、窓は板で打ち付けられている。


 男は周囲を一瞥したのち、そのまま建物の中へと姿を消した。


「……ついてってみるか」


 レイスは剣の柄に手をかけたまま、物音を立てぬよう慎重に廃墟へと足を踏み入れる。

 ユインも無言で頷き、背後をぴたりとついてくる。


 だが――。


 その瞬間だった。


 廃墟内部の奥、闇に潜んでいた男がいきなり飛び出してくる。


 手には黒鉄の銃――否、魔力の気配をまとった魔導銃が握られていた。


「ッ……っち!」


 警告もなく、銃口から火線が迸る。

 火薬ではない。魔力の奔流が弾丸となって撃ち出され、金属の柱を容易く貫いた。


 レイスとユインは即座に左右へ跳び退く。


「ばっちり待ち伏せされてんじゃねぇか……!」


「誰かに見張られてた可能性もありますね……!」


 廃墟の柱を盾に、飛び交う銃撃をいなしながら応戦の隙をうかがう。

 男は一言も発さず、表情すら変えずに次々と魔導銃を撃ち込んできた。


 だが、どれだけ弾を連射しようとも――。


 「……あれ、弾切れか?」


 レイスの視線の先で、男が銃を傾け、弾倉に手を伸ばす。


 その一瞬を見逃さなかったのは、ユインだった。


「今です!」


 俊敏な動きで柱の陰から飛び出し、一直線に男へと突進する。


「待て、ユイン! まだ――!」


 レイスの叫びが響いた。


 だが、間に合わなかった。


 男の手が光をまとい、魔力が銃口へと再装填される。

 弾丸は物理ではなく、魔力で“再構成”されるタイプ――リロード不要の高等魔導銃だった。


 放たれた一閃――その先には、ユイン。


 「っ――!」

 

 レイスは即座に双剣の一つを抜き、斬撃を空間ごと斬りつける。


 魔力弾と剣気が交錯し、金属音のような軋みが空気を裂いた。


 風が唸り、魔力の残滓が宙を舞う中――ユインは無傷で着地する。


「……すみません、助かりました」


「おう、貸し一つな。最近、人肌恋しいから、今日抱き枕させてくれるってのでチャラな?」


「では、今度は私がレイスの“玉”を斬り落としますね」


「やめて!?」


 レイスが本気で後ずさると、ユインは無表情で剣を構え直す。


 その一瞬の隙をつき、男が背後の非常口から脱出を試みる。


「逃がすかよ……!」


 レイスは壁を蹴って一気に加速し、男の進路を回り込む。

 

 そのまま剣を抜き放ち、心臓めがけて突き刺す――!


 が。


「……は?」


 鈍い金属音。

 確かな手応えがあったはずの刃が、何か硬質なものに阻まれた。


 刹那。


「ッ……! くそっ、下がれ――!」


 男の体を中心に、爆風のような衝撃波が迸る。


 床がひび割れ、壁が軋み、レイスとユインの身体が吹き飛ばされた。


 土煙が廃墟全体に広がり、視界が完全に奪われる。


 立ち込める埃の中で、レイスは歯噛みした。


(今の、あの反応……生身じゃねぇ。何か仕込まれてやがる)


 だが、問いかける余裕も、追う時間も、すでに奪われていた。


 男の姿は、煙の中に、消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ