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双剣使いのクズ冒険者、実は『最凶の”元”剣聖』~気づいたら、いつもトラブルに巻き込まれていますが、なんだかんだ人助けしちゃってます~  作者: 烏羽 楓
第二章 ギアブルグ王国篇

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第56話「“元”剣聖、少女の行方に陰を感じ取る」

 ――数日後、ギアブルグの午後は、どこか独特な喧騒に満ちていた。

 

 金属の歯車が軋む音、蒸気の吹き上がる轟音。そして、鼻をつくのは油と熱に焼かれた鉄の匂い――整然と組まれた街路の上に、多種多様な種族の商人と客が入り混じり、騒がしくも活気のある声が飛び交っている。


 その賑やかな街を、高所からぼんやりと眺めている者たちがいた。


 場所は、街の中心部から少し外れた場所にある飲食店の二階テラス。

 木目を基調とした丸テーブルには、まだ湯気の立つコーヒーが並び、日差しを和らげる薄布が、さわさわと風に揺れていた。


「……なんで、一般人は塔に入れねぇんだよ」


 そうぼやいてため息をついたのは、レイスだった。椅子に身を沈め、視線をどこか虚空に向けたまま、もう何度目か分からない愚痴をこぼす。


「いっそ、剣聖であること明かすか……?」


 その言葉に向かいの席から声が飛ぶ。


「レイス、今は“元”剣聖です。なんなら今の肩書きは、どちらかといえば“犯罪者”ですよ? 入れるわけないじゃないですか」


「どっかの誰かさんのせいでなっ!」


 語気強めに睨みを向けるレイスに、ユインはきょとんとした表情を浮かべてから、わざとらしく肩をすくめた。


「私は正論を言っているだけです。むしろ、今まで表門に行っただけマシだったと思いません?」


 思い返せば、酒場で大男から話を聞いた翌日、二人は早速エクスマキナタワーの門へ向かった。だが、結果は――門前払い。あっさりと衛兵に遮られ、まともに話すことすら叶わなかった。


 それからというもの、手を変え品を変え、書簡の偽造から正規業者の尾行、果ては“権力者の落とし物を届けに来た善良な市民”という苦しすぎる芝居まで打ったが、どれも徒労に終わった。


「くそっ、あの鉄の門番ども……ちょっと斬ってもいいかな? 刃のサビ取りにちょうどいいだろ」


「ダメです」


 ばっさりと斬り捨てられ、レイスは再び深いため息を吐く。


 するとそのとき、テラスから見下ろした先――騒がしい通りの一角に、見覚えのある男の姿が視界に入る。


「……ん? あれって」


 身を乗り出して覗き込むレイスの視線の先。

 

 汗まみれの額を拭いながら、人混みの中をキョロキョロと右往左往している男――それは、どこかで見覚えのある顔だった。


「……ボルドさん、だな。なんか焦ってんな、あれ」


 声に釣られて、ユインも視線を落とす。


「スライちゃんを匿ってるスラムのボスですよね。何か……探してる感じ、ですね」


「声、かけてみっか。おーい、ボルドさーん!」


 通りの上から声を張り上げると、男がびくっと肩を震わせ、あたりを見回した後に顔を上げた。


 そして、レイスとユインの姿を見つけた瞬間――


「お、お前らかッ! すぐ降りてきてくれ! 頼む、急いでくれッ!」


 ただならぬ慌てぶりに、二人は思わず顔を見合わせる。


 レイスは眉をひそめながら、立ち上がるとボルドの元へと足を急がせる。


「何かあったのか?」


 レイスの問いかけに駆け寄ってきたボルドが発した言葉は、二人の心を一気に冷やすものだった。


「――スライが、いねぇんだ!」


 レイスの顔から、冗談めいた余裕がすっと消える。


 街の騒がしさだけが、皮肉のように耳に響いていた。

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