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双剣使いのクズ冒険者、実は『最凶の”元”剣聖』~気づいたら、いつもトラブルに巻き込まれていますが、なんだかんだ人助けしちゃってます~  作者: 烏羽 楓
第二章 ギアブルグ王国篇

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第50話「“元”剣聖、錆びた真実に違和感を覚える」

 翌日――。


 ギアブルグの朝は早い。工場の蒸気が空に昇り、街の喧騒が地面を揺らす前から、労働者たちの足音が路地裏を満たしていた。


 そんな中、レイスたちはスライの案内で街を巡っていた。


 錆びた金属音があちこちから鳴り響き、道路の脇では簡易的な機械部品の露店が並び、油にまみれた職人たちが忙しなく手を動かしている。目の前を走り抜けていった配達用のオート三輪からは、黒い蒸気がぼふりと吐き出された。


「……なんつーか、活気はあるよな、この国」


 レイスが目を細めて呟く。


「でしょ? おいらは生まれたときからこんな感じだったけどさ、外から来た人には珍しく見えるんだろ?」


 胸を張るスライの後ろ姿は、どこか得意げだった。


「なあ、スライ。一つ聞きたいんだが――この国の王、どうやって今のヤツに変わったんだ?」


 歩きながらレイスが問うと、スライは足を止めて振り返った。


「え? うーん……おいらも詳しいことは知らないけどさ。前のドワーフの王様、けっこう酷かったって話だよ? 税金は重いし、発言は独裁っぽいし、奴隷制度もひどくてさ」


「……ほう」


「んで、それを暴いたやつがいたんだよ。なんか証拠とかいっぱい見つけてさ。そのあと、しばらく国王がいない空白の時期があって……その間、元奴隷の人たちが団結して、ギアブルグを支えたんだって。今の国王はその時に、皆をまとめてた人らしいよ?」


 スライの言葉に、ユインが小さく目を見開いた。


「……まるで革命ですね」


「実際、英雄扱いされてるよ。前の王様が悪で、今の王様が救ってくれたって、みんな言ってる」


 その話を聞いていたレイスは、わずかに眉をひそめる。


(……妙だな、俺が知ってるあの王はそんな陰湿なことする人じゃなかった)


「ねぇ、レイスは前国王とは面識があったんですよね? そういう……暴政をするような方だったんですか?」


 ユインが隣で問いかけてきた。


「いや、全然違う。……俺の知ってるあの人は、むしろ人情味に溢れてた。労働者にも敬意を払ってたし、他種族への配慮もしてた。そんな奴が、圧政なんてやるわけが――」


「でも、おいらの父ちゃん、本当に苦しんでたよ」


 スライが口を挟んできた。


 その目は真剣で、何かを訴えるように揺れていた。


「工場で働いても、ほとんど稼ぎにならなくてさ……税金で取られて、病気になっても薬も買えなくて、母ちゃんも……」


 言葉の終わりが、かすれた。


 レイスは黙り込む。真実を知っているわけじゃない。だが、自分が見ていた“王”と、スライの語る現実には、確かに食い違いがあった。


 沈黙を破ったのは、ユインだった。


「……どうにも、この話には裏がありそうですね。まるで、前国王を“悪”に仕立て上げた誰かがいるかのような」


 彼女の言葉に、レイスも頷く。


「だろうな。だが――」


 レイスは空を見上げ、乾いた煙の向こうに見え隠れする太陽を見つめた。


「今この国がうまく回ってるんなら、部外者の俺たちが首を突っ込む話でもねぇさ」


 それが、今のところの結論だった。


 ――しかし。


「お? スライじゃねぇか。しばらく見ねぇから、死んだかと思ったぜぇ?」


 横道から声がかかった。


 見ると、身なりは一丁前だが、その笑みに浮かぶ牙のような雰囲気は、どう見ても街の“裏”を知る人間だった。

 

「……ひ、久しぶり、っす」

 

 スライが声を絞り出す。その肩がわずかに震えていた。

 

 明らかに怯えている。

 

「まさか、こんなとこでのうのうと生きてるとはな。ちょっと顔見せろよ」


 レイスは、スライの横顔を見つめ、目を細める。


(……さて。スライとどういう関係だ、こいつ)


 空気が、少しだけきな臭くなり始めた――。

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