第45話「“元”剣聖、別れの空に笑う」
――玉座の間に降り注ぐ、静かな陽の光。
さっきまで辺りを包んでいた光が晴れると、天井ごと吹き飛んだ空間から、青空が顔を覗かせていた。
レイスが放った一閃は、ユインやレオノールを巻き込むことなく、見事にグラディスの上半身と、その背後の壁を切り飛ばしていた。
断面から崩れ落ちた石材の隙間からは、城外の風景さえ覗いている。
「……派手にやりましたね」
ユインが呆れ混じりに呟いた声が、静寂に溶けていく。
レイスの身体は、ゆっくりと変化を終えつつあった。金に輝いていた髪は元に戻り、蒼の瞳も、あの怠惰を宿す茶色へと落ち着いていく。
そして、その背後にふわりと光が集まり、一人の少女の姿が形作られた。
アーサー――精霊王は、どこか満足げな顔を浮かべていた。
『さて、僕はもう行かないとだ』
その姿はすでに透けはじめ、指先は光の粒となって宙に散り始めている。
『僕のレイス、身体はくれぐれも大事にしておくれよ? 君が傷ついてるのを見るのは、僕も悲しいから』
「ああ、善処はするよ。アーサーも、お転婆しすぎて向こうの世界滅ぼすなよ?」
レイスの冗談めいた言葉に、アーサーは楽しげに笑った。
『ふふっ、善処するね。それじゃ、またね――』
光が散り、やがてアーサーの姿は空気に溶けるように消えていった。
こうして、アンレスト王国で起こった戦いは幕を閉じた――。
◆
――数週間後。
アンレスト王国では、街の復興作業が目覚ましい進捗を見せていた。
崩れた建物は徐々に修復され、広場には再び人々の笑い声が戻ってきている。そんな中、レイスとユインの二人は城下の通りを歩いていた。
「だいぶ、街の復興も進んだな。あの惨劇が嘘のようだ」
人々の営みを見渡しながら、レイスがぽつりと呟く。
「そこは流石、レオノール“王女”といったところでしょうか。人望も厚く、あの後すぐに復興が始まりましたからね」
「戴冠式の盛り上がりもすごかったからなぁ。いかにも人気者って感じだったよな」
「クズ冒険者のレイスとは大違いですね」
「ははっ、そのクズ冒険者がこの一連の戦いを終わらせた人物だがな!」
自慢げに鼻を鳴らし笑うレイスに、ユインがわざとらしく溜息をついた。
「そう言うなら、叙勲式に出ればよかったのに」
「めんどくさいことは嫌いなの!」
肩をすくめるレイスの横顔は、どこかすっきりとした表情を浮かべていた。
気がつけば、二人は城門の前に立っていた。旅の荷を背負い、門を越えようとするその時――
「やはり、行くのか?」
背後から、低くも優しい声が届いた。振り返ると、そこには城壁の影から現れたセリアの姿があった。
「ええ、私たちは“冒険者”ですから」
ユインが笑顔で答えると、背後から更なる声が響いた。
「レイスーっ!!」
ふり返ると、乱れた髪と裾をなびかせながら、レオノールが駆けてきていた。
「ったく、次から次へと賑やかだな、ほんと……」
レイスが微笑む。
ようやく追いついたレオノールは、肩で息をしながら、涙を浮かべて口を開いた。
「どうしてッ! どうして国を出るなら、言ってくださらなかったんですか!」
その言葉に、レイスとユインは言葉を詰まらせる。
「本当に……行ってしまわれるのですね……」
頷くレイスに、レオノールは声を震わせながら叫んだ。
「レイス。あの、あなたにお願いがあります。この国で……私の“騎士”として仕える気はありませんか!?」
驚愕がセリアとユインの顔に走る。だがレイスだけは、どこか淡々とした顔で答えた。
「っは。やなこった!」
ひらひらと手を振りながら、レイスは踵を返す。
「いくぞ、ユイン。”またな”、王女様」
それだけを言い残し、レオノール達の視線を背に受けながらレイスは歩き出した。
ユインもセリアたちに一礼すると、急いでその背に追いつく。
しばらく歩いた後、王都の姿が遠景に霞み始めた頃。
「まったく、最後くらいあんな言い方しなくてもよかったんじゃないですか? そんなんじゃ女の子にモテませんよ?」
横を歩きながら、ユインがからかうように言う。
「うるせーやい! いいんだよ、あれで。俺が守りたいのは――」
レイスの言葉が、吹き抜ける風にさらわれて消える。
「え? なんて言いました?」
「なんでもないでーす! ほら、いくぞ~」
「ちょ、待ってくださいよ! レイス、なんて言ったんですかっ!?」
アンレスト王国を後にし、今日も賑やかに旅を続ける“元”剣聖レイスと、その傍らに立つユイン。
彼らの旅は、まだまだ終わらない――。
了
完結となります!
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