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双剣使いのクズ冒険者、実は『最凶の”元”剣聖』~気づいたら、いつもトラブルに巻き込まれていますが、なんだかんだ人助けしちゃってます~  作者: 烏羽 楓
第一章 アンレスト王国篇

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第43話「“元”剣聖にして“天災”、いま覚醒す」

 眩い光の中から、静かに現れたのは――


 黄金に輝く、長く美しい髪を持つ少女だった。

 

 その姿はまるで、天から舞い降りた一振りの神剣のようで――どこか、現実離れした威容を放っていた。


 彼女はふわりとレイスの背後に降り立ち、穏やかな微笑みを浮かべながら、その瞳を開く。


『久しいね、レイス。……毎度君はボロボロじゃないか、そういう趣味なのかい?』


 透き通るような声が、玉座の間に心地よく響いた。

 

 それだけで、空気の緊張が一変する。

 

 凛とした声の響きが、魔力の残滓(ざんし)すら押し流すようだった。


「傷だらけの男ってのは、猛者って感じでかっこいいだろ?」


『ふふふ。僕はね、傷がない君の方が……ずっとカッコイイと思うよ』


 柔らかく笑った少女は、地に落ちたレイスの右腕にそっと手を伸ばす。

 

 その動きには、ためらいも、迷いもなかった。


 小さく息を吹きかけると、それは無数の光の粒となって宙に舞い――レイスの身体へと吸い込まれていった。


 そして。


「……っ」


 斬られた右腕が、何事もなかったかのように戻る。

 

 同時に、レイスの全身を覆っていた無数の傷が、一瞬にして消え失せた。


 それは回復ではない。“再構築”と呼ぶべき奇跡の現象。

 

 玉座の間の空気すら、彼の復活に合わせるように、澄み切っていく。


 その光景は、まさに“常識の外にある力”だった。


「な……なんなのだ、それはッ!」


 その異常な光景に、グラディスが目を見開く。

 

 血の気が引き、怒号は掠れて震えていた。


 恐れも、怒りも、戸惑いもない。ただ“理解不能”――その言葉だけが、彼の思考を支配していた。


「ユイン……なんなのですか、彼女は……」


 レオノールが震える声で尋ねる。だが、その視線は少女から離せなかった。


 ユインはゆっくりと頷き、静かに答えた。


「……あれが、レイスが“最凶”の剣聖と呼ばれた由縁です。存在そのものが“天災”となり得る、異質の体現者――」


 少しだけ、言葉を置いて。


「【精霊王アーサー】です」


「天災……。そんなのが本当に、味方……なのですか……?」

 

 レオノールの唇が戦慄き(わななき)、言葉がこぼれる。


 その場にいた誰もが、息を飲む。

 

 まるで玉座の間そのものが呼吸しているかのように、魔力が脈動していた。


「なんなのだと聞いている! 答えろ、剣聖ッ!!」


 苛立ちと恐怖を露わにして叫ぶグラディス。


 その声に、アーサーは一瞥をくれるだけで――指を、弾いた。


 ピン、と軽い音とともに、次の瞬間、空間に歪みが走る。


「ぐっ……!?」


 何かが通り抜けたような風とともに、グラディスの身体が吹き飛ばされた。

 

 直後、甲冑の胸部が大きく裂け、深い傷が走る。


 ――斬撃。


 それは、いつどこから来たのか誰にもわからなかった。

 

 だが、確かにそこに“あった”。


『うるさいよ』

 

 アーサーが冷たく言い放つ。


『僕がレイスと話しているんだ。邪魔をするな。……殺すよ?』


 鋭く、突き刺すような言葉に、場の空気が凍りつく。


 グラディスは壁に背を打ちつけながら、何が起きたのかを理解できないまま、荒い呼吸を繰り返していた。

 

 理屈が通らない。だからこそ、恐怖が染みついていく。


 だが、アーサーは興味を失ったように、ふわりと宙を舞う。


 レイスの背後にまわり、優しく首に腕を回して抱き着いた。


『それで? 僕のレイス。今回の“敵”は、あれでいいのかい?』


 耳元で、囁くように問う。


 レイスは、視線をグラディスに向けたまま――わずかに頷いた。


「ああ。力を貸してくれるかい?」


 その声は、静かでありながら、確かな殺気を帯びていた。


 アーサーは、優しくレイスの頬に手を添えた。


『もちろんだよ。君の為なら、僕の力で――』


 その唇が、狂気を孕んで笑みを浮かべる。


『“世界だって、滅ぼしてみせる”よ』


 黄金の髪が、光を纏いながら舞う。


 その笑顔は、天使のように美しく。

 その声は、死神のように甘やかだった。


 ――そして、玉座の間に、再び“殺意”が満ちていく。


 この瞬間、“戦局”は完全にひっくり返った。

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