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異世界怖い  作者: 名まず
9/30

*魔物怖い (前)

 教室にパーティーメンバーが集まると、さっそく、セネカの口からアヤトのアンデッド化について説明がされた。


おいおい、お前の口からするのかよ。との想いもあったが、


(俺の口からは言いたくなかったので、いいけど。)と、思い直す。


デュークもイシュカも同情の目を向けてくれていたが、シャロが、


「アンデッドって、こいつ、人を襲ったりしないのか。」


とか、失礼な質問をセネカにしている。セネカはもちろん、


「リッチなのでそういう衝動はありません。周りの邪気や魔素を取り込んでしまいますとその限りではありませんが、その時は私がちゃんと処分しますので安心してください。」


と、にっこりこっちに目を向けている。もちろん、


「・・・・・・・・・・・・・・・・。」


もちろんしないよね?。人を襲ったりも、・・・処分も。安心してもいいんだよね?。


「そうならない為にも夜の修業は頑張って続けてください。」


アヤトのテレパシーが通じたのか、セネカが言ってくる。


「ちなみに、さぼるとどうなるんだ。」 聞いてみる。


「全自動防御魔法のスキルが手に入ります。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


(はっ?、何言ってるんだ、こいつ。)


「アヤトさんが立っているだけで、怨霊が周りにいる敵を攻撃するようになります。」


「敵って、無差別攻撃みたいに聞こえるんだが・・・・。」


「気のせいです。

この前、あなたはリッチは強い、自分は強くないと言いましたが、あなたは十分強いですよ。

魔力だけなら高い魔力を持ってますし、ドレイン能力もあります。

使うとアンデッド化が進むので今は使えませんが、使えるようになれば、周辺の生きとし生けるもの生気を吸収出来るようになります。」


「嫌だ。」


いや、無双はしてみたいとは思っているよ。が、そんな邪悪な存在には成りたくない。


「いや、かっこいい(?)ですよ。立っているだけで周りの敵がバタバタ死んで逝きます。強いです。」


「いや、絶対、かっこいいなんて思ってないだろう。

この前から思っていたが、俺のこと、中二病だと思ってないか。

かっこいいとか、チートとか、言ったら誤魔化せると。」


セネカに凄むと、「思ってません、思ってません。」


いまいち軽い返事に、アヤトは試しに聞く。


「ちなみに、俺がもし本当にそんな存在に成ったらどうするんだ。」


「もちろん善良な一魔導士として討伐するに決まっているでしょう。

それはそれとして、・・・・他にも、」


それはそれとするな。それに他にもって、まだあるのか。


「第二の人格が発現します。」


(だから、さっきから何言ってんだよ!。)


「バーサーカー状態に成れます。どんな強い相手にでも喧嘩を売れる強いメンタルが手に入ります。」


「・・・・つまりはどういうことだ。」


「怨霊に人格を乗っ取られます。

アヤトさんが悪霊を倒した後、右腕が先生を攻撃した話しはしましたよね。

あんな風に見境なく人を襲うようになります。

あの時は、腰の聖石に手が出せず、力を使い切ったディレークト先生の聖石の方に襲い掛かっていたようです。

それにしても、生徒より、聖石の方に襲い掛かるなんて、よっぽどの恨みでもあったのでしょうか?。」


何となく分かる。聖石にではなく、こいつに恨みがあってのことだと思う。

怖いから口にしないけど。それより別のことを聞く。


「なあ、この腰の石、やっぱり聖石なのか。」


「はい。正確に言うと、あなたが持っているのは聖晶鉱石です。

それを加工して聖気を使いやすくした物が、ディレークト先生が使っていた聖気工石です。

どちらも聖石と呼ばれています。

魔素や邪気の浄化は人族にとって難しい技術なんです。

世界刻印魔法にも浄化の魔法はありますが、効率が悪いんです。

聖石は魔力や気を神聖魔力に変換してくれる働きを持つ石で、鉱石の方は扱いが難しいので、工石に加工して使用することが多いです。

ただし、工石は事前に魔力を蓄積、誰にでも使えて便利な反面、一度使い切ってしまうと再使用出来なくなる。ようするに使い捨てなんです。」


「神聖魔力ってことは、浄化魔法に特化した力を持つ石ってことか。」


「そうですね。その通りです。ただ、こっちの世界、浄化という言葉の持つ意味の定義が広いんで、浄化魔法全般に使えるとは言えないんですが。


治癒術の前に行う殺菌の魔法も浄化、

きれいな水(純水)をつくり出す魔法も浄化、

病気を治す時に使う魔法も浄化、

毒を解毒する魔法も浄化、

魔素を追い出す魔法も(退魔)浄化、

魔素を元から消滅させる魔法も(完全)浄化、

結界にも浄化結界とかがあります。


教会や神殿関係者が自分達の使う魔法に、何でも( 浄化 )と、名前を付けてしまうので、それが民衆にも広がっているんです。

綺麗にする魔法やイメージの良い魔法は、全て浄化と名付けて、どんどん言葉の意味が多くなって、本来の魔法や学術的な分類、微生物に対する理解が疎かになっているんです。


「確かに浄化の範囲が広いな。」


「ええ、本来は魔素を追い出す退魔浄化と、魔素を無くす完全浄化の2つを浄化と呼ぶべきなのですが。

ちなみに、こっち世界での浄化は退魔浄化の方が一般的です。

範囲浄化で魔物の素材を浄化したり、ターンアンデッドの魔法でアンデッドを成仏させたりします。」


「ん?、何でだ。完全浄化の方がいいだろう。」


「単純にエネルギーが足りないからですよ。

魔法因子は原子や分子より小さく、ニュートリノよりさらに小さいので触れることは出来ませんが、人の思念に反応します。

その魔法因子の持つ力のうち、人が使えるのは1~3割程度、それ以上エネルギーを引き出すと、反転させてしまい、魔素になる可能性が出てきます。

そうなると元の魔法因子の10倍以上の力を発生させる魔素になり、魔法因子の力の10割の10倍の力を発生させますが、それは人にとっては毒です。

魔物や魔族が強いのは、この魔素に耐性を持ち、魔素の高いエネルギーを扱えるからです。

また、魔素は肉体の変化、強化の力がとても強いので、自然と魔物は強くなるんです。

人の使った魔力や魔法のエネルギーも、天然回復力を上回る力が使われると、やがて周りの邪気や放出された力を吸収し、反転、さらに周りの力を取り込む。

魔素は魔素を引き寄せ、さらに負の力を増大させていきます。

そうやって、魔素は瘴気を生み、魔物を誕生させます。

魔素を浄化するということは、魔素に干渉し、10割の10倍になった力に、外部から力を送って正常な魔法因子の状態に戻すということなんです。

エネルギーを食う割には、得られるものが少ない。

それより、現出した魔物を倒せば、少し魔素を減らせます。

魔石も使わなければ、安定した結晶構造なので魔素を放出しません。魔素は増えません。」


セネカはそう言うが、アヤトには疑問が残る。


「今、こっちの世界って、魔石をエネルギーとして使っているんだよな?。」


「ええ、こっちの世界に石油や石炭などの燃料はほとんどありません。4億年弱の歴史の中で、ほとんど掘り尽されています。

魔石が一番のエネルギー源として活用されています。」


「魔物を倒したら( 少し )魔素を減らせるんだよな。」


「はい、少しだけ。ほとんどは瘴気という形で放出され、いずれまた魔物になります。」


「待て、どうやったら減るんだ。」 アヤトはつっこむ。


「大自然で正常な気を受け続けると、しまいに消えますよ。今の魔素の量だと、人間がいないと仮定して、数千年から1万年くらい放っておけば消えます。」


「そりゃ、つまり、消えないってことだろ。」


「ええ、そうなりますね。

魔素は精霊界の影響や龍脈の流れに乗って、溜まり、澱む。

魔素は魔素を引き寄せる性質を持つので、より、集まって魔物を生じさせたり、禍津地になったりします。

魔物に関しては、アヤトさんは特に気を付けてください。

魔素は簡単に力を引き上げてくれますが、一度魔素を取り込んでしまうと、浄化は至難の業です。

魔法使いの中にもいるんですよ。魔素を使って簡単に力を手に入れようとする人が、魔素の影響を自分が受けないようにする為に贄を用いる禁術なんですが。」


「ああ。」


誰がそんなもんに手を出すか!。ただでさえ呪いとか、怨念とかあるのに。

魔素なんかに絶対関わるもんか。


アヤトは誓った。



・・・ところで今回の集まり、一体何の為のものなんだろう?。






 町を出て3日、竜車の荷台で寝ることに慣れてきた頃、辺りの森が深くなる。


今回の冒険は魔素型の魔物を退治するというものらしい。


この前何か誓いを立てた気がするんだが・・・気のせいだろう。


竜車を降りると、竜車と竜を離し、近くの木に繋ぐ。


竜車の荷台の周りにテントを張って、拠点を作る。


一息つくと、食事となる。ここで最初に食べる食事は、乾パンと干し肉、冷たい野菜のスープ。


乾パンはスープに入れて軟らかくして食べた。干し肉も軟らかくはないが硬過ぎはしない。

固く冷たいが、不味くはない。まずまずの料理だ。


でも、「何で火を焚かないんだ。」 疑問を口にする。


「アヤトさん、ここには魔物を倒しに来たんですよ。

情報ではこの辺りにはゴブリンがいるそうです。

ここで火を焚くということは、ここに人間がいますよ。と、宣伝するようなものです。

ゴブリンは先に見つかると面倒ですから。出来ればこちらは見つからず、こちらが先に見つけて先制攻撃するのが効率的です。

魔素型の魔物であるゴブリンは、害獣型より攻撃心が強く、場合によっては自分の命を顧みず襲ってきます。

ハイゴブリンや特殊個体のゴブリンも厄介ですね。

確実に巣を見つけて叩きたいところです。」


「いるんだ。ハイゴブリン。」


「いますよ。

魔素型の魔物は同じ魔物でも襲います。勝者が敗者を喰らって魔素を吸収、より強くなっていきます。

時間を掛け周囲の魔素も吸収しますが、

人などを襲って、その肉だけでなく、魔力や邪気を喰らう。

魔素型は、基本殺せば殺すほど、喰えば喰うほど強くなります。

ただ、あなたが思っているような、食べた人間の力をそのまま取り込むということはありません。

あくまでも栄養にするだけです。

あなたが食事を食べた分、そのまま体重が増えないのと同じように。

むしろ強い人間より、邪悪な心を持つ人間を喰べた方が強くなるようです。」


「そうなんだ。そんな強いのとは当たらないといいな。」


「今回の獲物はゴブリンです。

シャロさんが探索、アヤトさんもそれに続いて一緒にゴブリンを探してください。

私とデュークさん・イシュカさんは拠点を整備しつつ情報を待つ。周囲の魔物にも警戒してください。」


「俺も行くの?。」


唐突に自分の名前を出されて戸惑うアヤト。

出来れば俺も、待っている方がいい。


「俺もです。

あと魔素や気の動きを感じて、自分なりに探索してください。

では、これからゴブリンの探索開始、他の魔物が居ないかも注意して探索してください。」


セネカの有無を言わせぬ笑顔に、アヤトは、「はい。」と、項垂れた。




 シャロと同じく柔らかい革の靴に履き替え、後を追う。


すごい、同じ靴のはずなのに、自分と違って全然音がしない。


聞くと、足底の着地面への力の入れ方や体の重心の位置に気を付けていれば、音なんか出ないそうだが、・・・まったく分からない。


まず、足元にも注意するが、周囲を俯瞰的に見て動くこと、下半身を鍛え体幹をしっかりするように言われた。


一応理屈は分かるのだ。腐っても現代人、耐圧分散し、一か所に力を集中させない。

針の上を歩くのは無理でも、剣山の上なら歩くことが出来る。

そのように歩けたら音は立ちにくい。問題はそれをどうやるかが分からない。


こつとか、「どうしたら覚えられますか。」と、聞いたら、


「セネカに言ったらすぐに身に着くぞ。」と、言われた。


詳しく聞くと、この前セネカに教わって(?)いた学生冒険者のパーティーは、2週間(10日)でましになったとのこと。


その学生冒険者は、どことも知れない森に放り込まれ、音を立てたり気配を出すと、セネカに魔法で攻撃されたり、レイピアで刺されたりする。死なない程度の罠もあちこちに仕掛けられていたという、そんな簡単な修行だったそうだ。


索敵を馬鹿にしていたそのパーティーメンバーは、わずか10日で索敵や偵察のイロハを覚え、その素晴らしさを理解したという。

そのことに感謝してか、今でもそのパーティーは、セネカを見ると直立不動で迎えるそうだ。


う~ん、絶対に嫌だ。


確かにパーティーメンバーのデュークとイシュカは、セネカの修行を受け、毎日走ったりしている。


実はシャロ、前から不思議に思っているらしい。


セネカがアヤトに課している修行は、夜寝る前の瞑想と、パーティーメンバーが集まる教室での、気を整えたり魔力を練ったりする指導だけ。


これはセネカにしては、ずいぶん軽いものらしい。


( この扱いで軽いのか。)


そう思って口にしたら、セネカはスパルタで、


その前もある学生が、木の上で寝るなんて無理だ。と、言うと、降りられないほど高い木の上に連れて行かれ、眠るまで放っておかれたとか。


野蛮人とかではなく、必要があるから出来るようになるんですよ。

と、にこやかに指導していたとか。


他にも、剣の修行では、平気でレイピアで刺す。

大丈夫、大事な臓器は避けていますし、真っ直ぐに刺しているので治りも早いんです。後でちゃんと治しますので、それより集中を切らさないでくださいね。と、真剣で(に?)剣を教えてくれるとか。


「いつか、絶対、碌でもない修行をやらされるから気を付けろよ。」


と、言われた。


何でそんな奴と、「シャロは何でセネカと一緒にいるんだ。」


と、聞いたら、返ってきた答えは、


「面白いから。」 だった。


セネカの周りでは面白いことが起こるし、面白い奴ばっかりらしい。シャロは笑いながら、


「デュークやイシュカを見てると分かるぞ。」と、言っているが、


その面白い人の中に俺は入ってないよね?。アヤトは疑問を飲み込み、出来るだけ静かにシャロに付いて行く。


武器はナイフだけなので心許ない。


あの悪霊との戦い(?)で右腕を怪我(?)した後、セネカに、


「あなたは近距離で戦う鉈より、少し距離を取って戦う槍の方が向いているのかもしれません。」


と、言われ武器を鉈から槍に替えた。


ただの槍ではない、槍と魔法の杖、両方の用途に使える優れものだ。中古でいい物があったらしい。


決して、あの悪霊に殴り掛かったことを揶揄されてのことではない。


「将来は死霊魔術士として杖を使用する予定ですから、似たような武器の方がいいでしょう。」


そういうわけだ!。 セネカにしみじみと言われたが。


とにかく、せっかく槍を手に入れたが、偵察に長物は向かない。


今回は槍は拠点に残し、ナイフだけを所持している。


他は、革の篭手や脛当てといった軽装なので、今、戦闘になると心許ない。


急に前のシャロが止まる。少し緊張すると、シャロに、


「ここからは、喋るなら、もっと声を落とせ。」と、小さな声で言われた。


2人はさらにゆっくり歩きだす。


15分ほどして、シャロが指で合図をする。合図なんか決めていなかったが、シャロの指の先、茂みの向こうに1匹のゴブリンがいる。


今まで見てきた害獣型のゴブリンに比べ、緑の色が黒っぽい。


ゴブリンはこちらに気付いた様子は見せず、さらに向こうの茂みへと入っていく。


シャロはそれを確認すると、アヤトに身を寄せ、


「ゴブリンは目と耳がいい、鼻はそれほどでもないが、血の匂いと腐臭には敏感だ、あと、魔物は総じて魔力に敏感だから魔法は使うな。」


と、注意された。


アヤトが頷いたのを見て、シャロが茂みの方に進む。


回り道をしたり、別の茂みの陰に入ったり、ゴブリンからは見えない位置の木に体を隠したりと、慎重にゴブリンを追っていく。


キョロ、キョロ、キョロキョロ。


「あのゴブリン、周りを気にしてる。ありゃ、上位種が居るかもな。」


不審な動きをするゴブリンに、シャロが呟く。


「上位種って、ハイゴブリンとか?。」


「ああ、あと呪いを掛けたり、魔法を使ったり、剣使いや槍使いのゴブリンなんかがいる。」


シャロの言葉に、アヤトは首を捻る。魔法使いは分かるんだけど。


「剣使いや槍使いって、何なんだ?。」


害獣タイプにも剣を持っている奴はいた。それとの違いが分からない。

シャロはそんなことかという顔で、


「ああ、あいつら、生まれつき、剣とか槍とか持ってるんだ。扱いは今までのより、こっちの奴の方がうまい。」


「なるほど。」 つっこみたいが、無理やり納得する。


「ゴブリンはあまり群れが大きくならない。

役割分担が出来ないから、各自が好き勝手動いて、まとまらない。

仕事もしない。

ただ、強い奴がいると、力で言うことを聞かすから、役割分担が出来るし、仕事もする。

群れも大きくなる。」


「ハイゴブリンってどんななんだ。」


これから会うかもしれないから、ぜひ情報が欲しい。


「まず違うのは身長だな。普通のより大きい。そして重くて硬い。

身長は少し背が高いかな?程度の奴から2メートル以上ある奴までいるし、

体型も人間みたいなのからムキムキの奴までいる。

頭は悪い奴が多いが、たまに良い奴もいる。

気を付けることは、ただのゴブリンとは比べ物にならない筋力と重い一撃。

並の剣では歯が立たないほど厚く硬い皮膚。

動きも見た目に反して速いから、舐めてかかると普通に死ぬかな。」


と、言われた。


「わ、分かった。」


シャロは軽い調子で言ってくるが、舐めないから、それ聞いて舐めたりしないから、アヤトは神妙に頷く。


前を行くシャロが、どういう基準かは分からないが、時折、クネクネと遠回りしながらゴブリンを追って歩く。


やがて、前方に崖が現れる。


ゴブリンは崖に入って行く。


よく見ると崖の岩肌に黒い部分、洞窟が見える。


周りに木が多く、いかにも見つけにくそうな場所だ。


あれがあのゴブリンの巣穴らしい。


シャロは茂みの中でさらに姿勢を低くして、楽な格好でゴブリンを観察しだした。


アヤトもそれに倣う。1時間ほど観察し、数匹のゴブリンの出入りを確認すると、「戻るぞ。」と、セネカ達の元へ、もちろん帰りも気を付けながら歩いている。


ここで音を立てたり、ゴブリンに見つかっては、今までの苦労は水の泡だ。


そうして、やっと拠点に着くとほっとする。


「お疲れさまでした。ほら、食事も出来てますよ。」


大きめの石に座り込んだら、深底の木の皿を渡される。


意外なことに持つと温かい。


「火を焚いたのか。」と、聞いたらセネカに呆れられた。


「いえ、さっき火を起こさなかった意味がなくなりますので。」


そう言ってセネカは、旅人や冒険者が使う( 熱の粉 )という品を見せてくれた。


灰色の粉で、適量の水を入れると熱を発するという物で、地球のカイロや石灰を使って熱を発生させる物と似た原理らしい。


「これで料理を温めたんです。」


この料理には見覚えがある。


町を出る前の店で買ったものだ。鳥が丸々1羽入っており、野菜や薬草と一緒に長時間煮込んだ物だそうだ。


この町特産の薬草の効果で、傷みにくく日持ちする。冷えるとゼラチンが固まり運びやすい。町の名物とのことで、街を出る冒険者や旅人・商人に、熱心に売り込んでいた。


木のお椀は熱くはない。少し冷めてしまっているのは、待っていた3人が先に調理して食べていたからのようだ。


待っていてくれても良かったのに、と、思ったが、温かいのは正直嬉しい。


「では、話しを聞かせてください。」


どうやらお椀を渡したのは、食べながら話せと言うことらしい。


なんて行儀の悪い奴だ。ゴブリンの情報なんて急がなくていいのに。


一方、シャロは食べながら流暢に喋りだす。


「ゴブリンの巣を見つけた。数は分からんが、中規模程度の数はいると思う。

確認してないが、少なくとも1匹は上位種が居るかな。

下っ端はそれなりに働いていた。」


次いでセネカはこっちに目を向ける。


「アヤトさんは何か気が付きましたか。」


「え~と、特には・・・・・・。」


すまん、付いて行くのがやっとで、何も気が付かなかった。


「まあ、初めてですから。

巣穴の位置は特定出来たようですし、何かの拍子にこちらが見つかる前に、さっさっと攻撃を仕掛けます。

デュークさんとイシュカさんは待機、拠点の防衛をお願いします。

残りの3人で巣穴に向かいます。

私とシャロさんでゴブリンの注意を引きますので、アヤトさんはファイアーボールの魔法を準備、魔法攻撃後、敵が混乱しているところを一気に叩きます。

アヤトさんも、少なくとも数匹は退治してくださいね。」


セネカの視線が槍を見ている。


「ああ。」


アヤトは顔を逸らすと、セネカが念を押す。内容は、


必ず槍を使って攻撃し、直接魔物に触れないこと。


使い方は分からんが、ドレイン能力は使わないこと。


修行の効果は出てきているとはいえ、アヤトはまだ、気の浄化や、邪気を吸収しない術、自分の気や魔力の把握、自然の気と魔素や邪気の区別がついていない。

今はまだ、聖石の力とセネカの魔法で周りの気の方は何とかなっているらしいが気を付けること。


ただ、ドレイン能力は別で、下手に直接、魔素を吸い込むと、浄化や結界は効果をなさず、そのままアンデッドになる可能性もあること。


それらを説明され、


「魔素の塊である魔物にドレイン能力は禁止です。」


と、くどいくらい言うセネカに、


「なあ、俺、魔物との相性悪くないか?、戦わない方がいいんじゃ?。」


と、疑問をぶつける。セネカはあっさりと、


「まあ、あまり戦わない方がいいのは確かですよ。

ただ、こっちの世界は魔物と戦わないで生きるのは無理です。

それよりあなたの場合、積極的に関わって魔素に慣れないと。

自分で魔素を吸収しないようにしたり、浄化出来るようにならないと、将来は魔物になる可能性・・・・・・・。」


そこでセネカは口をつぐみ、「ところでこの料理、味付けは私がしたんですよ。鳥もしっかり煮込んであるので骨まで柔らか、おいしいですよ。」


おい、続き言えよ。急に話題、変えるなよ。怖いだろうが。心の中でつっこむ。

だからといって、言ってほしくもないけど。


「料理はおいしかったよ!。それで、魔物になる可能性とかいうやつを、もう少し詳しく話せ。」


「あくまで可能性の話しです。そうならないように魔素と接し、まず、魔素を判別、続いて吸収しないよう修業を積むのです。

あなたの世界の言葉で、デッド・オア・モンスター、と、いうやつです。」


「ねえよ、そんな言葉!。」 つっこむ。


それを言うなら( 生か死か )だ。 アライブは何処いった。


アンデッドかモンスターが選択肢なんて涙しか出ない。


「アヤトさん、とにかく今はゴブリン退治です。

出来ることからやっていきましょう。

魔素型の魔物と言ってもゴブリンはゴブリン。

害獣型と大した違いはありません。

現出した時点で、基本は生物と一緒、その形に囚われるので弱点は同じです。

首を切ったら死ぬし、心臓を貫いても死にます。

今まで倒してきたゴブリンと変わりません。

 違うところと言えば・・・、

魔物は肉も食べますが、魔素や魔力、邪気といったものが主要な食事なので、害獣型と比べて、魔力や人の感情に敏感です。

今のアヤトさんは、私の結界に守られているので大丈夫ですが、結界が無くなるとおいしそうな餌に見えるので気を付けてください。

あと、魔素型の魔物は進化します。

普通にも進化しますが、

その魔物の負の感情が急速に高まったり、周りでたくさんの魔物が殺されたり、周囲の魔素が濃かったりすると、急速に魔素を取り込んで一気に進化することがあります。

傷を負ってもすぐ治ったりと、油断ならないところがあるので注意してください。」


違うところばっかじゃん。と、口にする間もなく、セネカとシャロは巣穴に向かって歩き始めた。


俺の返事は?、心の準備の時間をくれよ。


魔物化の話しの後では、・・・足を前に進めるのは緊張する。


アヤトは槍を持つ手に力を込めた。





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