##学園祭のお化け(前)
カノヴァの学園の学園祭の開始合図は、祝砲や音の魔法で派手に告げられる。
カノヴァの街の人や、学園祭を目的に各地からやって来た人々・生徒の家族・社交や情報収集目的の貴族、・・・大勢の人達が見学に来ているし、生徒の方の熱気もすごい。
人気のイベントには長蛇の列が出来ている。
場所取りならぬ、上流階級の者が入場する為に、使用人を列に並ばせるの何て ごく普通の光景だ。
( 王族などで、特別な招待状を持ってないと、貴族でも並ばないと入れないのがカノヴァの学園際の出し物だ。
ただし、武闘大会などはお金を出して、良い席を取ったり、並ばずに入れるチケットはある。)
俺には馴染みがないから、使用人がずらっと列をなすのは違和感がある。
まさかこんなに並ぶとは・・・怖いもの見たさだろうか?。
並んでいる人の中に、「魔王が・・・・・・」とか、「いつかこの手で・・・・・・」とか話ししているが、気のせいだろう。
お化け屋敷の入口の所には、
・これより内は結界内、魔法の使用を禁止します。
・武器の使用は禁止です。
・中のアンデッドに触れないでください。
・中のアンデッドに攻撃しないでください。
・係員の指示には従ってください。
・同時に入れる人数は最大で7人までとさせていただきます。
・男女ペアで入ることを推奨しています。
などの文言が並んでいるが、日本のお化け屋敷と違うのは、武器の携帯がOKなところである。
それは学園祭でも同様で、こっちの世界、貴人に護衛が付くのは当たり前のことである。
貴族とは、基本 自分の身は自分で守るものだ。
王の御前や公共の場など以外は、武器を持ち込んでも問題ない。
明らかに身分が高い人に、「入場は2人までなので、護衛の人は入れません。」などと言っていては、お客さんは誰も来なくなる。
そもそも、基本、貴族は自分では動かないものだ。
雑事は使用人の仕事、主人に複数の使用人が付いて来るのは、常識なのである。
学生が、学校内に武器を持ち込みOKなのは、カノヴァの学園くらいで、常識ではないらしいが・・・。
お化け屋敷は大盛況だ。
貴族にしても商人にしても、もの珍しいものが好きだし、貴族とかお金持ちは、この手のイベントや怖いものが好きだ。
地球でも、魔術やオカルトに手を染める貴族はけっこう居たらしいし・・・。
残念ながら男女で入るケースは、熟年夫婦や学園内公認カップルくらいしかいなかった。
こんなイベントの最中でも、こっちの世界では、男女2人きりになるのはハードルが高いらしい。
・・・時代を先取りし過ぎたか。
一方、死霊魔術に手を染めているアヤトは天手古舞だ。
比喩でなく、死霊の手や複数のスケルトン・霊と繋がっているうえ、夕方になって客が帰るまで、休憩がない。
実際、アヤトの意識は踊っている。
意識はグルグル、視界はめまぐるしく、頭の中で複数の手が手舞ねいている・・・どんな刑罰だ、と、いう状況。
食事を摂らなくていいので、食事休憩も トイレ休憩さえない。
「さすがアヤトさん!。 皆も、アヤトさんの献身に報いる為にも頑張ろう。」
フレド。 そういうのはいいから・・・休憩をくれ。
おい、後ろの、微笑ましいものを見る目で頷いてないで、こいつらを止めろ。
この学園祭、5日間続くのだが、1日目が終わっただけで死にそうだ。
ちなみにお化け屋敷でのアヤトの配置場所は2か所、迷路中央の偉そうな椅子に座ることと、骸骨達の待機場所の棺桶の中で横たわること。
この2つが持ち場だ。
ただし、棺桶で休む場合は、お化け屋敷の雰囲気を壊さない為、骸骨の姿で休むように言われた。
俺にも羞恥心はある。 骸骨姿は嫌だ。
実質 休めない。
半日ずっとこの椅子に座っていろ、と言うことだ。
何 この鬼畜仕様。
ブラック企業もまっ青だ。
改めてここが異世界、・・・労働基準法が無い世界だと実感した。
「アヤトさんお疲れ様です。」
「おい黒企業、これ明日もやるのか。」
言外に無茶だという意味を籠めて言う。
「何を言っているのですか・・・まだ1日目ですよ。
大丈夫、私の計算では だましだまし 100日でもいけると出ています。」
それは、だましだましではなくて、確実に俺が騙されているのでは?・・・。
2日目、3日目と、日が過ぎる毎に、アヤトの目に生気が亡くなる。
アンデッドだからという意味で無くて、マジで!。
この迷路の中央の椅子、お化け屋敷全体を包む結界の基点になっていて、此処からアヤトが、ほぼ全てのアンデッドに指示を出したり 動かしている。
此処は負の気に溢れているので、あまり人は寄って来ないが、それでも攻撃をしてきたりする迷惑な客もいる。
最終的にはセネカに頼るが、なかなか帰らない人もいるし、お化け屋敷で気絶したりする人もいる。
丁寧に救護室に運んでも、「スケルトンに人が攫われている。」と、騒ぎになることもあった。
・・・うん、それはそうだ。 俺でも通報する。
4日目の夕方の客も、
「後ろにずっとついて来るんです。」
ふらついて倒れそうなご婦人に、スケルトンの1体を通して声を掛けたら、そんなことを言ってきた。
恐怖で大分精神をやられているらしい。
気持ちは分かるが、そんなに怖いなら、初めからお化け屋敷なんか入らなければいいと思う。
「まあまあ、奥さん、落ち着いてください。」
使い魔のスケルトンの姿で、そんなセリフを言っても説得力はないが、取り敢えず 刺激しないよう宥める。
「フレド、一緒に行ってくれるか。 俺1人では無理そうだ。」
現場の使い魔だけでは対応できない。
直接行くことにする。
ただ、骸骨の親玉の俺だけでは心許ないというか、余計騒がれても困るので、貴族の子息であるフレドにも付いて来てもらった。
面倒事だが、少し嬉しくもある。
やっとこの椅子から離れられる。
魔力を吸われるこの椅子に、ずっと偉そうに座っているのは苦痛だった。
結界の中心のこの場に負の気が集っている限り、少しぐらい離れても、お化け屋敷の維持に問題はない。・・・はずだ。
いくら悪霊の館のボス役とはいえ、朝から夕方まで缶詰はやりすぎである。
人権侵害だ。
「ずっと足音がして・・・歩いてくるんです。 付いて来てるんです。」
本体が現場に向かう間にも、女性はどんどんヒートアップしている。
スケルトンの耳から、自分の歩く足音が聞こえてきた。
アヤトとフレドが現場に到着した時、女性はうずくまって震えていた。
近くに寄り、その女性の姿を目におさめると既視感が、・・・嫌な気に 思わず目を フレドの方にやる。
「これ。」
「間違いありません。」
霊感のないフレドにも分かる嫌な気。
あの時の奴だ。
俺の右腕を骸骨にした怪獣のような悪霊。
「何でここに居るんだ。 あの時消えたんじゃ。」
「アヤトさん、あの時の奴は分体・・・本体から分けられた影のようなものです。
分体は兄さんが封印しましたが、本体は姿を現さず 逃げられたそうなんです。」
相手の魔力を探ると、何故か悪霊とアヤトの間に魔力の糸のような・・・こう何と言っていいか、パス的な何かが繋がっているのを感じる。
目(?)があうと、
「返せ。喰わせろ。入って来るな。」
との思念が入ってきた。
返して欲しいのは俺の方だ。 お前のせいで俺の右腕は・・・。
アヤトは杖を構える。
「フレド、お客さんを此処から外へ誘導してくれ。」
まだ周囲に、数人のお客さんや案内役の生徒が居る。
「アヤトさんは。」
「こいつの足止めをする。」
逃げたいが、この場をフレドに投げるわけにもいかない。
それに逃げても追ってきそうだ。
こいつと霊的な何かが繋がっている。
ぼんやりした影みたいのから目が、はっきりこちらを見ているし・・・。
「皆さん、新たな悪霊が現れましたが、この会場内は結界になっていますので、お客さんに危害はありません。
ただし、霊が活発化しているので、一旦ここから離れてください。」
フレドは、お客さんや学生を誘導していたが、
「来る。ほら、そこに!。」
うずくまっていたご婦人が、急に立ち上がって、そのまま後ろに倒れる。
( 危ない。)
後頭部から床に突っ込んでいく。
慌ててアヤトはご婦人の背を支える。
より一層黒い霧が、ご婦人の体の中から出てくる。
「フレド!。」
アヤトは魔力を注ぎ、鎧の浄化の効力を上げる。
ご婦人の体を床に置き、フレドに任せる。
杖から槍の刃を出し、悪霊に向ける。
その瞬間、前の悪霊が消え、いつの間にか アヤトの後ろに居る悪霊の、怪獣のような手で殴り飛ばされる。
今 移動したのが全く見えなかった。
思考加速の魔法を更に加速する。
また傍に現れる。今度は左横。
こいつ、空中から現れている?。
前と同じように気の集合体みたいな奴で、霧状にした体が集まって実体化しているのか?。
なら、こいつの体は軽いはず、そう思って殴ったが、相手の体が全く動かない。
あの時の事は何となくしか覚えてないが、前みたいに拳が 体の中に沈んだりしない。
今の俺の腕力(骨力)は、前の比ではない。
もう骨になる心配はないし、思いっきり殴ったのだが、手応えがないとか そういうのではない。
腕に伝わる感触は、岩でも殴っているかのように硬く・・重い。
こいつ、前とは違うぞ。
怪獣の悪霊の手が、がら空きになったアヤトの脇腹の左右を掴む。
離せ!・・ない。 何て力だ。
アヤトは悪霊を睨む。
一瞬 怪獣の姿がブレたと思ったら、アヤトの首と左肩に強烈な痛みが走る。
噛みつきやがった。
マネキンの鎧に歯が食い込み、ひしゃげて中の骨が折れる。
「ぐっ・・。」
骨の体になって、痛みの感覚は鈍くなっているはずなのに・・・この痛み。
左肩の骨が折れても、みしみし、と、更に食い込んでくる悪霊の歯。
( いい加減にしろ。)
ここまで近づかれたら、どうせ杖は使えないが、さっき殴られら時に落としてしまっている。
アヤトが、両腕に渾身の力を入れ、怪獣の口をこじ開けようとするが、全く動かない。
こいつ気の集合体ではなくて完全に実体化している?。
体の物質感というか 圧がヤバイ。
このままじゃ マジでヤバイ。
ビキビキィ、マネキンの鎧の砕ける音、ついに肋骨にも罅が入ったのが分かった。
カッと、体の奥底からグチャグチャになる感覚が湧き上がる。
バキン、ついに肋骨が折れた音が聞こえた。
さっき以上の強烈な痛みがアヤトを襲った瞬間、視界が真っ赤になる。
ぐあぁぁぁ~。
悪霊が仰け反り、たじろぐ。
アヤトの左肩から赤い何かが噴き出す。
それが悪霊に覆いかぶさる。
アヤトの砕けた鎧の肩や胸の穴から4本の腕、真っ赤な手が悪霊の体を掴み、アヤトの方へ引き摺ってくる。
「血!?、なんだ。?」
呆気にとられるアヤトを余所に、赤い手に引っ張られ、悪霊がアヤトの肩の中に消えていく。
いや、人間(?)首を動かしても 自分の肩や胸元は見えにくい場所なので、正確に何処に行ったか見てなかったが、何処に消えたんだ?。
俺の鎧の中しかないのだが・・・消えたよな。
いや、多分、気のせいだと思うが・・・。
そもそも、あの赤いのは何なんだ。
ぼとっ、ぱさっ、何かが落ちる音。
今度は何だ。
アヤトは怒る。
怒って音のした方を見ると、床の一部が白い。
左の肩を中心にマネキンの鎧がボロボロと剝がれていく。
床に当たっては砕ける鎧の部品。
やがて、アヤトのマネキンの鎧の全てが崩れる。
粉のようにサラサラと。
暗い床一面に、お白いの色が挽かれていく。
今度は また違う音がして、粉が舞い散る。
バサッ、アヤトのローブが体から離れ、ワイバーンの姿に形を変えていく。
周囲の気温が下がり、アヤトに掛かっていた認識阻害の魔法が解除される。
アヤトの後ろから 髪の毛の塊りのようなものが抜け落ち、女のような姿を取る。
こいつが離れると、俺に髪の毛があるように認識させている魔法が解けてしまう。
こいつら・・・、こいつらがお化け屋敷に出る予定はなかった。
広いとはいえ、室内にワイバーンが飛び回り、新たに現れた髪の長い女の霊が徘徊する。
そして、新たに出現した骸骨お化け。
つまり俺・・・。
さっきの怪獣のような悪霊が出た後、立て続けに起こる怪事。
「さすが、リッチのお化け屋敷、怖いですね。
さて、今日の所は時間がきましたので、本日のお化け屋敷はこれで終わりにしたいと思います。
また、明日もよろしくお願いします。
・・・さあ、皆さん、誘導 お願いします!。」
手を叩いて強引に、生徒と入場客を動かすフレド。
その口上は無理があるだろう。・・・お前の顔 引き攣ってるし。
しかし、今のアヤトに それをつっこむ余裕はない。
その場で上に飛び、窓を覆う暗幕の1枚を引き千切って 身体に巻き付ける。
足早にその場を立ち去る。
早く服を、鎧を着なければ・・・。
それしか考えられなかった。
倒れたご婦人に年配の商人風の男が駆け寄る。
「マーガレット、ああ良かった。
ありがとうございます。
妻が急に走り出し、慌てて追ったのですが見失って・・・。」
男は何度もフレドに謝るが、アヤトは出て行ってしまったし、周囲は騒ぎで それどころではない。
夫の方はアヤトの去った方も見ていたが、結局 声は掛けなかった。
それはそうだろう。 骸骨姿だし・・・。
生徒の方もどうしたらいいか分からず、近寄ってなかったし、追ってもいない。
一介の生徒が、あれを追うのはハードルが高い。
フレドは、後から来た別の生徒に 商人とその奥さんを任せ、その場の収拾に奔走した。
妻が心配だ。
騒ぎが大きくなる前に、此処を立ち去らないと・・・。
ただ、男1人の力では、妻の体を支えるのは大変なので、お化け屋敷側の生徒が1人 妻を運ぶのを手伝ってくれた。
助かる。
最近 力仕事は店の者に任せっきりなので、腕力は大分落ちているということになっている。
「ありがとうございます。 テルセルさん。 さあ、行きましょうか。」
商人の男は、妻を連れてその場を後にした。




