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異世界怖い  作者: 名まず
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##学園祭の出し物


 寝ようとしたがさっぱり寝られなかった。


寝返りを打つが余計に目が覚めたので、起きて部屋の中をウロウロと歩く。


やがて、自然と足が止まった鏡の前には、確かに寝られなくなりそうな顔(?)が映っている。


寝れないという事はつらいことだ。


当たり前のものだったから、そんなこと考えたこともなかった。


大切なものは失ってから気付くと言うが、本当にそう思う。


 寝れないことに初めて気付いたのは、クレムクレファスのダンジョンから、学園ここに帰って来るまでの旅の時だ。


はじめはリッチになったことで、神経が高ぶって寝れないのかと思っていた。

・・がっ、何時いつまでっても眠れず、眠くもならない。


思い切ってセネカに聞いてみたら、

「リッチとはそういうものです。

アヤトさんも寝なくてもよくなったのでしょう。」

と、眠気を吹っ飛ばす発言をしてくれた。


今は理解はしたとはいえ、重くこたえる。

 

寝れないので、鏡の前で、ボーっと、現実逃避しながら魔力を練る。


ちなみに、寝れなくはなったが、ボーっとするのは得意になった。


それこそ何時間でも、何日でも、・・・・・はっはっはっ、そんな特技は欲しくなかった。


勉強もし放題だ。

いざ無くしてみると、睡眠時間というのは長い時間だと分かった。

いくらでも勉強出来る。

やっぱり嬉しくなかったが、・・・・・したくもないし。


 クレムクレファスのダンジョンからカノヴァの学園に帰って来てから、この部屋の天井の染みを数える夜を過ごし、森の中では夜が過ぎるのを待つ日々を越え、世間では暑さも落ち着く季節、秋の夜長じゃないが、もう8月になった。


この国では、8月は暑さが落ち着きはじめる頃であり、9月にはカノヴァの学園の最大のイベントの一つである学園祭がある。


カノヴァ公国自体が大亀に乗って動いている為、この国に雪はほとんど関係ないが、取引がある周辺国が雪で身動きが取れなくなる時期をけたり、色々あってこの月になったらしい。


それが決まったのは、ずいぶん昔の事なので、今では状況は変わってきているらしいが、学園祭の時期をいつにしても、誰かしらかの不都合は出るし、クレームも出てくる。

下手に変えるより、決まっている事ならば、守られるのが伝統というものだ。


よって、カノヴァ公国では、9月と言えば学生の祭りの季節である。

それに向けて学生達も動き出していた。


 カノヴァ公国では1月が年初めである。

公官庁や国の行事も1月から新年が始まる。


それに伴い、民間も1月から動き出す。


そういう文化と言えばそれまでだが、おかみに合わせることは、下の者からしても仕事がやりやすい。

合わせられないようでは、商売もうまくやっていけない。


人事に関しては、人が辞めた時に代わりの人を補充したり、仕事が出来た時に必要な人員を雇ったり、実力のある者を即戦力で雇用する場合もあるので、必ずしも新年から組織に属するとは限らない。


だが、一般的に、決められた時期にまとめて雇った方が効率はい。

不定期では予定が立てにくい。

役所や組織というものは、予定が立てられないことを嫌う。


それは、新人の教育を考えると分かりやすい。

毎年、同じ時期に採用して、おんなじように教育する。

中途採用で1対1で教えていくより効率的。

『長年の慣習』という組織内マニュアルが出来上がっているので、その方が楽なのだ。


カノヴァ公国の新人職員採用時期は、新年が始まるのと同じ1月である。


 こっちの世界では在学中に就職活動をしない。


在学中は勉強するものとされている。


もちろん例外はいっぱいある。

貴族の跡取り息子や商人の跡継ぎなど、生まれた時から道が決まっている人もいる。

親のコネで卒業後の就職先が決まっている場合もある。

在学中にスカウトされて、仕官先が決まっている学生はいる。

取り巻きとかの活動も、就職活動の一環の場合もある。


学生の活動でも、カノヴァ公国が関わっている仕事を選んで受けて顔を売るなどしている者もいる。


ただ、カノヴァの学園は国際的な学校である。


カノヴァの公国内で就職するつもりならそれでいが、生まれた国で仕官するつもりの場合、距離が離れているので活動できない。(実際は、親が根回しなどをしている場合がある。)


こっちの世界は、移動手段が発達していないので、気軽に帰ることも、日帰りで行き来することも出来ないからだ。


そもそも、国によって新年が始まる月も、新人の採用をする時期も違う。

雪が解けた春からの国もあれば、寒くて仕事が少ない冬前に新人を入れて冬の間に教育する国もある。(お役所仕事は少ないが、新人には雪掻きという楽しい仕事がまっている。)


よって、仕官先を探すのは、卒業後にするのが普通だ。


卒業、つまり、学位を取ってから、その資格を持って就職の武器とする。


そうでないと、学位も持たず、勉強を途中で放り出してきた非常識な者として門前払いされる。


カノヴァの学園の学位はどこでも通じる資格とはいえ、出世コースに乗れるようなポジションに就きたい、将来有望な仕官先に勤めたいなど、狭き門を希望するなら万能の手形とは言えない。


こっちの世界での就職は、コネや後ろ盾がものを言う。


それは、信用を確保できないからだ。

情報のせいどがないから、見ず知らずの人を信用できない。


人を雇っても、それが泥棒目的だったり、家に入り込んで財産を乗っ取るつもりかもしれないし、他国のスパイかもしれない。


どこの馬の骨か分からない人物を、国家の重鎮じゅうちんえたりする国はない。


コネや後ろ盾というものは、悪いものという印象が強いが、悪いことばかりではない。


それは保障という側面だ。


紹介状を書いてもらった人に迷惑は掛けられないし、顔見知りの方が信用できる。

それに、後ろ盾ということは、紹介された者が不正を働いた場合、後ろの人に責任を問える。


それが無い人間となると、信用がないということである。


自分で自分の信用をつくらなくてはならない。


これがとても難しい。

信用といった目に見えないものは、簡単にはつくれない。


地道に実績を積み、信用を築いていかなくてはならない。


ところが、世の中例外とか、特別とか、特効薬というものがある。


名前が売れていたり、実績があると、面倒な就職活動をしなくても、向こうからスカウトに来てくれる。


コネが無くても、優秀な人材を求めて、向こうから有利なポジションを提示してくれる。


向こうが勝手にこちらを調べて信用を高めてくれる。


そんな機会はなかなか無いが、学生にとっては、大きな武術大会や品評会・発表会・カノヴァの学園祭で大きな成果が出せれば、充分な実績になる。


よくある、「あれは誰だ。すぐに調べさせろ。」と、いうやつである。


実績を上げるのは、別に卒業前でなくてもいい。


人によっては、中等部とか高等部在籍のうちから、「学園を卒業したらうちに来ないか。」と、声が掛かる。


むしろ、卒業間近まで実績が無いようでは、本来は駄目である。


カノヴァの学園の卒業式は年2回、初等部や専門科が5月と10月、基礎科は4月と9月に行われる。


ちなみに、大学は年に1回で、10月に卒業式をやる。


ついでに言うと、カノヴァの学園は名門であるが、一般的にカノヴァの学園卒と言えば、大学卒の人を指す。

院の方は、大学を卒業してないと入れないし、ほとんど有名無実というか、称号というか、研究職の人の行くところなので、あまり学生はいないらしい・・・。

初等部などは卒業しても『カノヴァの初等部卒』で、『カノヴァの学園卒」とは言わないそうだ。

・・・細かい。


公国内で、卒業後すぐ就職することを考えているなら、10月に卒業、1月入社(?)のギリギリのライン。


そうでなくとも、カノヴァの学園の学園祭は、公国をはじめ、各国のスカウトも大勢見に来る有名イベントだ。


たとえ初等部の新入生でも、ここで目立っておけば、唾を付けられ、やがてスカウトが来る可能性もある。

そうなれば、将来の安定は約束される。


余所の国の留学生では、カノヴァの学校を卒業した時には、勤めたい国の就職活動の時期が終わっている事は普通だ。


だが、余所の国でも、就職活動の内容に大きな差異はない。


まず学位を取り、国に帰る。

人脈を頼って仕官活動したり、挨拶回りをして顔を売る。

自分の実力を示すために活動し、実績をつくる。

紹介状を書いてもらい面接を受ける。


・・・こっちの就職活動は気長にやるもののようだ。

仕官が決まるまで数年掛かる場合もあるそうだ。


だが、気長にやれない人もいる。


具体的に言うとお金だ。


学校に通うのにもお金が掛かっている。

そのうえ、就職活動にもお金は必要だ。

汚い服で面接を受けるわけにはいかないし、挨拶回りで目上の人に会ってもらって手土産なしとかありえないそうだ。

・・・賄賂を贈るにも足りないものが出てくる。


「お金が無い。」・「早く親に楽させたい。」・・・「すぐに就職したい。」と、切実な人もいる。


その点、カノヴァの学園祭で実績を上げていれば、仕官先はすぐ決まる。


カノヴァの学園の学園祭は、絶好のアピールの舞台、手っ取り早く実績が欲しければ、この学園祭で活躍することである。


それでなくとも、カノヴァの学園の学園祭は有名で、わざわざこれを見る為に9月前に入学する生徒がいるくらいだ。


はなは武闘大会だが、魔法の実演や研究発表、歌や劇、美術品や魔道具の製作発表も人気が高い。


学生の皆の熱気も上がるわけである。



 去年、それを見ることも出来なかったアヤトだが、何もセネカは意地悪で参加させなかったわけではない。


学園祭は、外部から人が入って来るので防衛面に心配があるし、外部の目にもまりやすい。


あの時はまだアヤトを目立たせるわけにはいかなかった。


突発的に手を出されて、不測の事態になることは避けたかったのだ。


でも今年は大丈夫、これ以上変わりようがない。・・・変わったとしても、せいぜい角や腕が一本・二本増える程度のことだ。


セネカはそうなことを考えていたし、・・・・・・アヤトにとっては不幸なことに、セネカは本気でそんなことを思っていた。






 カノヴァの学園祭では、クラスや講座単位でも出し物を出せる。


学園内パーティーで屋台を出したりも出来るし、友達グループで演劇をすることも可能だ。


さて、8月の初めは、学園祭に出るかを決める時期としては遅いが、ぎりぎり間に合う時期である。


「お前達も何かやるんだったら・・・」と、先生から話しを振られたクラスメイトは、はじめ戸惑っていたが、「死霊魔術講座でも何かやろう。」という雰囲気になった時、アヤトは蚊帳かやの外にいた。


何といっても、先生とフレド・テルセル・レイチェルの3人以外、生徒の誰とも面識がなかったからだ。


この講座は早ければ半年で受講が終了し単位を取れる。


はじめの時に居た生徒は、無事単位を取って次の講義に進んでいる。


アヤトは、ろくに授業も出ず、休みまくっているのだから、置いて行かれるのは当然である。


ただ、クラスメイト達、あまり付き合いはなかったとはいえ、顔ぐらいは認識していた。

置いて行かれるのは寂しい。


今 この場に居る死霊魔術講座のクラスメイトのみんなは、最近入学してきた学生ばかりだ。


居場所もない。


アヤトが学園に入学したのは10月、もうすぐ2年・・・学生にとって2年は長い。


・・・・・・ところで、お前らはなぜここに居るんだ?。


3人組に聞いてみる。


3人とも判を押したように、「 試験に落ちた。」と、答えたが、アヤトは疑いの目を向ける。


他の講座は、全て一発合格していることを知っている。

そもそも、中等部に上がっている。


死霊魔術講座ここだけ落ちるとは考えにくい。・・・基礎・・講座のここだけ。


さすがに今回は、レイチェルさえも目を逸らした。

が、彼らからすると、別に不自然なところはない。


彼らはこの学園に勉強する為に来たのだが、同時にコネや人脈をつくることを目的に来ている。


リッチの魔王であるアヤトと一緒にいることは、彼らにとってメリットがあることだ。


それぞれの思惑で、そんな事はおくびにも出さなかったが・・・。



 アヤトにとって突然の先生の発言、

「今年は、学園祭はどうする。 何かやるなら申請を出しておくぞ?。」


入って来て早々の言葉に教室内がざわめく。


去年学園祭に参加していなかったアヤトは、どうしていいか分からずにいたが、フレド達もクラスメイトもその話しに乗り気である。


カノヴァの学園に来ている学生にとって、いつかは、自分が学園祭に出て活躍、良い仕官先にスカウトされ、出世コースに乗るのが、一度は頭に思い描くことだ。


ただ、此処に居るのは、入学して間もない基礎講座の受講生。

実際に、自分が参加することは、考えていなかった生徒が多い。


まだ、学園祭は参加するものではなく、見るものだと思っている。


それが、先生の一言で変わる。


先生の視線がずれ、目がかたる。


最初は戸惑う雰囲気だったが、徐々に熱気が上がっていき、いつのまにか死霊魔術講座クラスで学園祭に出ることに決まっていた。


学園に来たばかりの学生がメインのクラス、いきなりの大きなイベント参加に初めは戸惑っても、やると決まると、クラスの士気は高い。


この学園に来るぐらいだから、皆、向上心が強いし、学園祭に参加して早いうちから名前が売れれば、卒業後の進路が有利になるので、やる気も上がる。


失敗して失うものも無い。

失敗も、『将来の予行演習』・『いい経験』、そんな言葉わかさがカバーしてくれる。


さっそく、何をやるかという話しになった。


せっかく死霊魔術講座で出し物をするのだから、ここでしかやれないことをやろうという話しになる。


・・・それで何故か、『お化け屋敷』をやることになった。


( 文化祭の定番だな。)とは思ったが、それでも( この異世界で何故にお化け屋敷?。)と思う。


誰が案を出したか知らないが、斬新な取り組みらしい。


こっちの世界、お化け屋敷はない。


もしかすると何処どこかにあるのかもしれないが、少なくとも一般的ではない。


それはそうだろう。

現場に行けばいいのだ。

アンデッドや化け物がいる世界で、お化け屋敷をしても流行はやらない。


( 成功するのだろうか?。)


アヤトは日本のお化け屋敷を想像してそう思っていたが、そこには クラスメートとの認識の齟齬そごがあった。


死霊魔術講座の学生は、怖がることを面白がるお化け屋敷ではなく、怖がらせることで自分達をアピールする場として、お化け屋敷のことを考えていた。


もちろん、その目玉商品は『アヤト』である。


幸か不幸か、アヤトはそのことに気付いてなかった。






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