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異世界怖い  作者: 名まず
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#エルフの里(4)


 セミの魔物は、アヤトが近付いても反応もしない。


ただし、近づくだけで不快感がある。


セネカが言うには、羽を動かしていなくても、お腹の巨大な筋肉が動くことで周囲の空気を振動させる為、他の生物にとっては近くに居るだけで不快になるとのこと。


簡単に言えば、三半規管を揺らされることによって起こる、乗り物酔いの症状だ。

たいていの敵は、これで逃げて行くそうだ。


長い間、敵がいなかったせいか、魔物としては珍しく野性が失われているようだ。


魔物は普通、邪気の影響で人間を見ると無差別に襲ってくる。

そこが野生の獣と魔物が違うところだ。


熊や狼などの野生動物は、飢えや子供を守る為など、よっぽどの事がないと人を襲ってこない。

むしろ、人の気配を察知して逃げる。

人が獣を怖がるように、獣だって人間が怖いのだ。


ただ、魔物は違う。

例え、一見いっけんかわいらしいウサギの魔物でも、自分よりずっと大きい人間に襲い掛かる。

これは、動物がしない行動だ。


 邪気とは、・・・人間に限らないが・・・人間の負の感情が、魔法因子と結びついたものらしい。


負の感情は、人間が生きていく中で切っても切り離せないものである。

日本に居た頃、ネットの掲示板を覗くとマイナスのコメントはザクザク出てきたし、それが、心の中で想っている事となれば、もっとドロドロとしたものが出てくるだろう。


普段、抑え込んだ暗いもの・鬱憤・ストレス、そういった膨大な感情のエネルギーは、魔法として表に出ることはなくとも、邪気として魔素に吸収され魔物にも影響する。


殺人・搾取・病気・イジメ・争い・理不尽、恨み・妬み・猜疑心・・・・・・、人間が抱く、他人ひとへの負の感情は際限がない。


誤解される前に言うが、ほとんどの魔物は人の思考を理解していない。


ただ、感情のような・・・破壊衝動・暴力性を持つのが魔物という存在もので、特に、人間に対しては、執拗なほど攻撃性を持つ個体ものが多いらしい。


魔物それを見上げる。


膨大な魔素の塊のような存在・・・・・・。

まあ、敵がいなくなるのも分かる。

魔物は、自分より魔素量の多い魔物あいてには攻撃しないというし、普通の生き物は多分 一目散いちもくさんに逃げて行く。


俺も逃げたい気持ちでいっぱいだ。


近付くたびに気持ち悪くなる。


三半規管なんて無いのに、どうして気持ち悪くなるのだろう?。


本当に、いろいろ理不尽だ。


山のような虫の化け物、こんなのと戦う奴はバカだ。


普通の神経を持っていたら、これに立ち向かおうとは思うまい。


それでも、アヤトはそっと忍び歩く。


どうせ やらなければならないなら、気付かれるのは遅い方がい。

俺にわざと攻撃を受ける趣味はない。


槍の届く距離に近づいてから、アヤトは出来るだけそっと、杖に魔力をめる。


それに合わせてセネカが魔法を唱え、水界を介し、この辺り一帯に水の結界が展開される。


事前の説明では、森の延焼を防ぐとともに、振動の影響を抑える効果を持つ結界とのこと。


水界とは、魔法エネルギーの一形態の一つで、水のような性質を持つ魔法世界のこと。

そこに自分の魔力を浸透させ、自分の支配する魔法の水を操ったり、水の性質を持つ結界を張ったりすることが出来る・・・らしい。


辺りの森が結界に包まれていく。


その時になって、ようやく蝉の魔物がゆっくりと動き出したが、・・・もう遅い。


大蝉の腹部右側面に、黒い槍の刃を深々と入れる。


「どうだ。」


「これが失敗したら、蝉が死ぬまで、蝉と一緒に暮らしてもらいます。」

セネカに微笑んで言われた、あの時の恐怖に比べたら、お前なんか怖くない。

結界の中での生活はもう嫌だ。

アヤトは必死の表情で、槍を持つ手に力を籠める。


ミュィ~イン、ミュィ~イン。


鳴き方は可愛いが、音量は最悪、脳が歪みそうな鳴き声が降ってくる。


蝉の羽が大きく広がり、上下を始める。


突き刺した槍が高速でブれている。


蝉の魔物のお腹が振動し、上で、目で追えないくらいのスピードで上下する羽。


更に超振動で槍が震える。


熱い。


これ、魔力の刃だからまだいが、前の槍のように刃が直接繋がっているタイプだったら、かなり熱くなって持っていられなかったんじゃ?・・・。


それでも耐えて、手を離さず力と魔力を籠めて持つ。


槍を強く握る右腕を中心にマネキンの鎧に亀裂が走り、骨伝導の音で脳内がきしむ。

骨に複数のひびが入っていくのが分かる。


身体からだが熱い。


周囲の空気が熱い・・・周りの木が・・草が一斉に水蒸気を上げ、一部は燃えている。


怖い。


体の中の空気が熱い感触をどう言い表せばいいのだろう?。


鎧の中が熱されると、俺の体はどうなるんだ?。

骨だから大丈夫なのか・・・それとも内臓は弱いから駄目なのか・・・臓器ぞうきがどうなるか、そんなこと考えたこともなかった。


( これ、本当に大丈夫か。)

少なくとも、このままでは腕がバラバラになる。


( イシュカ、早くしてくれ。)


祈るようにイシュカが動くのを待つ。


祈りが通じたのか、はたまたイシュカの優しさか、アヤトの目の端にイシュカが映り、蝉の魔物の背中に飛び乗ったイシュカの炎槍えんそうが、大蝉の背中をつらぬく。


学園で修行前の走り込み以外でイシュカが走り回るところを見たことがなかったが、かなり軽快な動きだ。


森が・・空気が更に熱くなるが、イシュカは意に介さず、槍からも手を放さなかった。


イシュカの白い服が炎をまとって淡く光っている。


赤い髪に、白く光る炎の服、その姿はとても綺麗だ。


イシュカの魔力がどんどん高まる。

槍を中心に渦巻く熱気。


俺まで熱いが・・・・

( ここが執念場だ!。)


アヤトも、大蝉の腹に刺さった黒い刃の槍に、更に力を入れる。


蝉の腹が槍を中心に虫食むしばまれていく。


それに呼応するように蝉の魔物の体が一気に燃えていく。


周囲に振りかれた爆音と超音波も、空に向かって消えていく。


合わせてセネカの結界が薄くなる。


結界の消失とともに、森の火も消えていた・・・飛び火や残り火の気配もない。

さすがセネカ、性格の方はともかく、魔法の腕の方は信用出来る。


跡に残ったのは、焦げた森と吹き飛ばされた自然、・・・あと、でかい魔石と魔炭、何かカマキリの卵のような物。


「珍しいですね。・・・本当にアヤトさんには何かいているのでしょうか。」


「やめてくれ!・・・・何だこれ?。」

本当に何だこれ。


「蝉のお腹の筋肉です。

滅多に出てくる物ではないのですが・・・。」


 周囲を浄化をするついでに、セネカが新たな結界を張り、その中に荷物を置く。


さっそく、今回の戦いの影響を調べたり、他に魔物はいないか、パーティーメンバーで周囲の森を探索することになった。


今日はこの後、里に戻るというハードスケジュールだが、蝉の魔物の退治が どれだけ掛かるか分からなかったので、それなりの荷物を持って来ていた。


前にもべたが、冒険で難しいのが荷物の確保や採取した素材を運ぶ運搬手段の手配、食料確保や装備の準備などの兵站へいたんだ。


軍事においても、兵站を軽視する軍勢は、たいてい負ける。

冒険者は自己責任、軽視しているとまじで死ぬ。


それだけではない。

此処ここに他の冒険者は来なさそうだが、狩場かりばで荷物を置きっ放しにしたり、見張りを置かずにいると、荷物を持っていかれてしまう。


冒険者ギルドは犯罪に厳しいが、それは、冒険者にそういうヤカラが多いからだ。


「こんな所に置いておく方が悪い。」

そんな言い訳で、荷物を持って行ってしまう。


人間だけでなく、ゴブリンとかも油断がならない。

あいつらは一瞬の隙があれば盗っていく、たちが悪い。


また、こんな森奥から人がいる所まで重い素材を運ぶには、馬や荷車・人手がいる。

食料を用意していないと、森で自力で確保するのは、よっぽど慣れた人じゃないと難しい。

ボロボロになったアヤトの革鎧の服の替えなど、装備の準備をおこたると、いざという時に困ったことになる。

ちなみにローブは、蝉と戦う前に脱いでいたので無事だ。


アヤトは、真新しくなった革の服の堅さを、体(マネキンの鎧)に馴染ませつつ森を探索する。


蝉の魔物との戦闘後の疲れた体で、日が傾くまで森の調査をしてから、エルフの里に戻った。


その時には、荷物はけっこう増えていた。


持って来た荷物や手に入れた素材を、皆で運ぶ。


持てない程ではないが、蝉や他の魔物の素材やら採った薬草やらで、量がそれなりにある。


「もう少し荷物が多いと魔法で運んだのですが・・・・・・。」

とか言ってるが、お前の荷物が一番多いんだぞ。


手付かずの自然が残り、マナの多いこの森は、貴重な薬草もたくさん採れるそうだ。


それでも、これはちょっと多かった。


エルフの森は、セネカのように知識がある者にとっては、まさに宝の山。


アヤトの背に乗る薬草も、パっと見は『草』だが、同じ重さの金より価値があるそうだ。


知識が有る者に金がいき、金が有るから知識が入る。


こんな物に金貨を出すなんて・・・・。

知識がない者にとっては ただの雑草。

価値が有る物の区別がつかない。

だから貧乏人は貧乏人のまま・・・クスン、ひがんで何てないからな。


もちろん、この森に住むエルフには知識が有るだろうが、エルフが必要としていない薬草もある。

あまり人と交流しないエルフは、採って売ったりもしない。

そもそも、ロンゴウルイとルババィの2里のエルフは、必要な量以上の物は取らない。


薬草王に、俺はなる。

アヤトも張り切ったが、どれが高いか分からない。

みんなを応援することにした。


セネカの独壇場どくだんじょうだったので、此処ここでの採取を任せていると、いつの間にか荷物は増えていた。


「重い。」 そうセネカに文句を言おうとしていたら、


「アヤトさんも魔法使い志望なのですから、薬草の知識ぐらい・・勉強しようとする姿勢を見せてください。」


藪蛇やぶへび、こっちに飛び火した。


帰ったら、薬草の知識を叩きこまれることになってしまった。






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