#対価の依頼(後)
2人居た門番は、1人はフィオーラに拳を見舞われ、もう1人は腹にグーを突き付けて黙らせる。
庭の門も家の扉も、アルセンテが氷のハンマーで大破した。
門番のいない門を、鍵の開いた玄関の扉を、躊躇なく吹き飛ばす。
扉が、竜巻にあったわけでもないのに宙を舞う。
白昼堂々、突然巻き起こった騒動。
周囲はざわついたが、どこからか出て来た地味な男達が、建物の塀を取り囲むように並んで、集まった市民に事情(?)を説明していた。
それを後目に中へ突入する。
セネカの、「右です。」「左です」の声に、( すっかり内偵は終わっているんだな。)との感想が・・・、出て来た人間を片っ端から無力化していく。
ただ騒いでる使用人や逃げ惑う人々もいるが、関係のない下働きや逃げる者は無視する。
時間もないし、犯罪とは無関係に働いている人を殴るのは気が咎める。
どうせ外は囲まれている。
外を塞いでる連中も、まったくの素人でもないだろう。
なので、共犯者が紛れていたとしても、逃げられる事はないという判断だ。
邪魔にならない限りは放っておく。
屋敷の奥の広い部屋・・・建物の中央近くに着くと、「此処を壊してください。」
とのセネカの言に、アルセンテが床にハンマーを叩きつける。
床が抜ける・・・というか、地下の入り口が壊れる。
即突入、地下はそれなりに広かったが、賊の人数自体は少なく、こんな地下で魔法をぶっ放すバカもいなかった。
抵抗する暇も与えられず、賊はほとんど何も出来ず全て倒される。
全員で7人、もちろん相手は玄人、弱くはなかったが、Sランク冒険者を入れた3人に襲い掛かられたら ひとたまりもない。
セネカが取り出した縄で、一人一人縛っていく。
その過程で見つかったもの・・・。
( 良かった。)
地下に在った牢獄に捕らわれた、攫われたと思われる人々。
良くはないのだろうが・・・。
もし、彼らが居なかった場合、この街にある本物の牢屋に入るのは建物襲撃犯である。
鉄格子の向こうの人達は俺達の自由の保証人であるし、足元に転がっている人達は俺達の代わりに衛兵の話し相手になってくれる大切な人なのである。
セネカが魔法で牢屋の鍵を開ける。
それを見ながら、グレガテは捕まっている人々を確認する。
地下の牢獄の中に居るのは、浮浪児が多いが、明らかに一般市民と思われる人もいた。
( おかしい。)
市民まで攫うなんてリスクがでか過ぎる。
衛兵は、市民権を持たない浮浪児が攫われてもなかなか動かない。
そもそも、浮浪児が街の中にどれだけいるのか、誰が居るのかも把握していない。
だが、市民は違う。
戸籍があるし、税金を納める市民が攫われて衛兵が動かないようであれば、誰も税金を納めなくなってしまう。
まあ、貴族などのお偉いさんやお金持ちの商人の家族が居なくなった場合に比べると、その捜索は「一応調べました」程度のものだが、それでも調べられるし、リスクは上がる。
それに、こういう違法な組織の場合、上の方に賄賂を渡していたりするものだが、自分が治める領地の治安が悪化すれば自分の評価にも関わるので、あまりにひどい悪事は止めに入る。
( それにしても・・・・・・・。)
上に見える地下への通路に目がいく。
扉はもう閉まらない。何故ならもう無いから。
門といい、玄関や各部屋の扉といい、・・・こいつらは『入口を破壊しないと通れない呪い』でも掛けられているのだろうか?。
「場所が分かってるなら、何も壊さなくても・・・お前なら魔法でスムーズに開けられただろう。」
グレガテが至極もっともなことを口にする。
セネカは至極まっとうな口調で、
「そんなことをしたら、これが仕組まれた捕り物のように映るじゃないですか。
無理矢理 押し入ったように見える方が良い時もあるのですよ?。」
「・・・さいですか。」
仕組まれたようにって、・・・もう段取りも根回しも終わってるよな?。
口にはしないが胡乱な目。
「そうです。
私達は攫われた人達の関係者から依頼を受けた正義の冒険者です。
偶然このような悪逆非道を見かけて、義憤の心で勢いのままに突入したのです。
そんな裏工作しませんよ?。」
(( 実際、セネカは孤児から「最近姿が見えなくなったの仲間を探して欲しい。」との依頼を、銅貨1枚で受けている。
その支払われた金は、その出来事の少し前にセネカのポケットから落ちた物であるが、・・・あくまで偶然である。))
セネカは微笑んでいる。
目は口ほどに物を言う・・・一点の曇りも無い目をしている。
えらく胡散臭い正義の味方だな。
グレガテはそんなことを思いながら、攫われた人々を牢から助け出した。
自然な仕草で書類をめくるセネカの姿に思わず呆れる。
まるで、自分の部屋で本を読み、くつろいでいるように見える。
だが、此処は勝手に入った敵施設の一室で、書類は勝手に漁って読んでいる。
外では衛兵と魔術集会の職員が揉めている。
そんな喧騒が嘘みたいだ。
セネカの他の仲間も地下に降りて来ていたが、すでに手持ち無沙汰になっている。
「おいおい、そんなことは此処の衛兵か、国のお偉いさんにでも任せておけよ。」
「そういうわけにはいきません。
世の中には出すべきではない情報も存在するので、チェックはしないと。
グレガテさんも、そこら辺の書類で何か有益そうな情報があれば、こっちに持ってきてください。」
「お前が見ているんだからいいだろう。」
・・・まあ、取り敢えず目を通す。
毒を食らわば皿までだし、こいつには借りがあるし、・・・正直、こいつのことは、俺でも怖いと感じることがある。
流れるこいつの噂の数々は、俺でもドン引きするものだし・・・。
グレガテは一番手前にあった紙を読む。
( 何だこれ、名前か?。)
住んでいる所や家族構成、健康状態、貴族や有力者との繋がりはないか、などが記されているようだ。
( これは・・・・・攫う人物がリストアップされているのか。)
何気なく、5枚目6枚目と書類に目を通していくと、枚数を重ねる毎に、さぁーっ、と、顔が青褪めていくのが解る。
「おい、セネカ!、これはどういうことだ。」
「急に、何ですか。」
「ここに書かれている名前、俺の嫁や子供の名前が書かれているのはどういうことなんだ!。」
「いえ、私に聞かれても・・・。
そこに書かれているのは、攫う予定の人達のリストですよね?。
なら、そういうことでは?。
あなたの血を色濃く継いでいれば、いい実験体になりますから。
普通の子供なら一発で死ぬような危険な薬品にも身体が耐えられる可能性がありますし、優秀な兵士になる可能性が高いと思われているのかも。」
「お前、この事を知っていたな。
知っていて今回、俺を呼んだだろう。」
「いえ、まさか。
私もここまで危ない組織だとは・・・。
まあ、後はここの領主に任せて、私達は帰りますか?。」
「おい、今の話しの後にそれは無いだろう。
それに、これは・・・たかが一領主の権限じゃ解決は無理だろう。」
「まあ、今回の件の裏にいるのは、この国の軍閥貴族の一派で、ここの領主も一枚噛んでいるようですし、シルディさんもこの国の組織の人間のようですしね。」
「シルディ・・・?。」
グレガテから出た声、よく在る名前だ。
フィオーラが、「誰です、それ。」と、聞いている。
セネカは当たり前のことのように、
「グレガテさんの愛人の一人です。
この国の諜報機関の人間なのですけど、今回はここで働いているようです。
まったく、偶然とは恐ろしいものですね。」
喋らないグレガテに代わり、アヤトがセネカに質問する。
「そのシルディさんが、何でこんな組織に?。」
「何でも何も・・初めからそのつもりで愛人になっているんですから。
彼女は国の機関から送り込まれた人間です。
うまく子供が出来ていれば、発覚する前に別れて、隠れて生めば、子供の存在に気付かれることはありません。
そのまま軍の施設か何処かで育てて、ある程度大きくなってから実験体に出来れば、リスクもなく良かったのでしょうが・・・。
子供は出来なかったので、やむなく他の女の子供を攫って手に入れる方法を検討していたのでしょう。
グレガテさんは子供が出来にくい体質ですので仕方がないとは言え、よくやるものです。
まあ、Sランク冒険者を敵に回す危険性を考慮すれば、実行は出来ないでしょう。・・・万が一 失敗すると後が怖いですから、機会を窺っていただけだと思います。
グレガテさんが死んだり、大きな怪我でも負えば、どさくさに紛れて・・・とかは、考えていそうですね。
家族から離れて、長期で家を空けるような機会でもあれば、その時は狙い目・・・なんて、私は、思っていませんよ?。
学園在学中に学生の家族に手を出すなんて、カノヴァの学園が動くかもしれないのに、普通はそんな危険冒しません。
今 グレガテさんの家族に手を出される可能性は少ないです。」
アヤトが、
「いや、自分の生んだ子供を実験体になんて、いくら何でも・・・。」
「何でですか。
元々そのつもりで、そういう指令を受けてグレガテさんの元に行ってるのですよ?。
それに彼女は暗部の人間です。
命令は絶対ですし、そういう風に教育を受けているんです。
自分の子供だろうが、まして、他人の子供なんて簡単に差し出します。
まあ、もちろん、喜んでかどうかは知りませんよ。
ただ、下の者は上の者に逆らえないんです。
やれと言われれば、そうするしかないんです。」
「でも・・国の機関がそんなことするか?。」
「割としますよ。
Sランク冒険者に近づいて、身体の関係になる。
何かあれば、近づけた女を通じて難しい依頼も受けてもらえますし、子供が出来れば軍の人間として育てる。
うまくすれば強い兵士になりますし、うまくいかなくても普通に兵士として使えます。
孤児として厳しい訓練が課されますので、普通に、国に忠実な優秀な軍人になります。
別に暗部の女の人じゃなくても、貴族の子女、特に3女より下の貴族の娘が高ランク冒険者に寄って来るのは、関係を持てばそれがコネになり、領地で強い魔物が出たりした場合に安く依頼を受けてもらえるなど何かと頼りになります。
何より、この方法は費用が安上がりです。
貧乏貴族や子だくさんの貴族の場合、お金が掛からず かつ 効果が高いので、よく使われる手です。
政略結婚の駒に使えなかったり、側室の子だったりする女性の扱いは雑ですから。
女性の方も、
下手に下の身分の男性と結婚させられたり、
金持ちの狒狒爺と結婚させられたり、
権力者の何十番目かの愛人だったり、
する・・・よりは、扱いも、己のプライド的にも良いので、高ランク冒険者は、お相手として悪い相手ではないです。
女性だけでなく男性も、貴族の3男以降の子供もそうなのですが、使い道の無い貴族の子供は、部屋住み扱い、肩身が狭いですから・・・。
むしろ男性の方が、後継者争いの火種になり、政略結婚の道具に使えない分、居場所は無いといえます。
その分、兵士や役人・冒険者など 自分で道を切り開くことは出来ますがね。
軍では上官が、貴族は家長が決めたことが絶対だったりします。
特に女性はその傾向が顕著です。
家長の命令で動いている事ですので、例え 男に捨てられても後の面倒は見てもらえます。
逆に逆らうと貴族籍を剝奪、家との縁を切られてしまいます。
子供が出来れば、男の子なら寄領の貴族の養子に出す。
女の子なら側室として跡継ぎの子供と結婚させるか、寄領の貴族の子供と結婚させる。
そうすれば、優秀な血をその家に取り込めますから。
冒険者や魔法使いで、有名になればモテるのは、そういう輩が寄って来るからというのもあります。
まあ、そうでなくてもSランクの『血統書』は人気がありますから。
庶民は夢を見、貴族は利用する。
ハニートラップと言うほどのものでもありません。
そういうものです・・・割とよくあるやつですよ。
あっ、子供の方も気を付けた方がいいですよ。
あなたの血を取り入れようと、国や貴族が狙ったりすることもありますから。
結婚とかの手段で、合法的に狙われたりします。
でも、貴族なんてかわいいものです。
国が裏でどんなことをしているか・・・。
国の公的な機関はそんなことをしない・・・ではなく、むしろ、国だから、そういう手段を使うのです。」
「・・・怖いな。」
アヤトが、世の怖さに恐れ慄いている。
骸骨だけど人の方が怖い。
話しはまだ続いているが、グレガテは会話に加わらなかった。
いや、加われなかった・・・・・・放心してて。
( こいつは何を言ってるんだ?。)
「それにしても、シルディさん居ませんね。
此処に突入する前に、外でシルディさんぽい人を見かけましたが、ひょっとして、あの人がそうだったのでしょうか?。」
はっ!・・。
その発言で、ようやくグレガテの頭が動き出す。
「やっぱり、初めから解ってて俺を誘っただろ!。」
返事を待たず、この場から去る。
それから、一度家に帰るべく、必要な物品や馬車の手配、冒険者ギルドへの伝令や根回しなどに奔走した
慌てて帰って行ったグレガテを見て、セネカが呟く。
「ゆっくりしていってくれればいいのに・・・。
せっかく遠くの街に来たので、観光とか一緒にしたかったです。
グレガテさんはこの街に来たことがあるようなので、案内もして欲しかったですね。
それに、せっかくですので一緒に帰ろうと思っていたのですが・・・アヤトさんも、せっかく仲良くなったのに残念ですね。」
アヤトとしても、グレガテは良い人だし、一緒に帰れないことが残念なのは確かだが、そんなセリフに同意を求められても困る。
自分の子供が、人攫いに狙われていたのを知ったのに、のんびり街で観光するとか ありえない。
奥さんや子供の無事を自分の目で確認もしたいはずだ。
それに、拠点にしている街の領主に会ったり、冒険者ギルドと話し合ったり、Sランク冒険者として国と交渉したりと、やることがたくさんあるそうだ。
散々不安を煽っていたのはセネカだ。
その人物の観光のお誘い。
グレガテは、セネカには感謝しているらしいが、セネカのセリフには辞退の言葉を返した。・・・笑顔に青筋を浮かべて。
殴り掛からなかったのは、
「あなたの街の領主は今回の件とは無関係ですよ。」
とか、
「あの軍閥貴族の一派の行動は、魔術協会も監視の目を強めていますから、すぐに奥さんや子供がどうにかなるという危険は少ないですよ。」
とかの、情報提供があったからこそ。
そうでなかったら、言った瞬間にセネカの笑顔は潰れていた、・・・かもしれない。
結局、アヤト達は図太く、この街の観光をしてから学園に帰った。
グレガテに悪い、と思って、あまり楽しめなかったよ。
「私達に出来ることはありませんよ。」
セネカは、達観していたが・・・。
楽しめなかったと言えば、突入した敵施設に居た人間がどうなったかと言うと、この街の衛兵に突き出される事はなかった。
押収した証拠の書類と一緒に、魔術集会が用意していた馬車に乗せられて行った。
当たり前だ。
この街の領主がグルなら、彼らを引き渡しても揉み消される。
ついでに言えば今回の突入、この活動は魔術集会の合法な活動だが、世間的に見るとこの取り締まり自体が完全に違法だ。
領主には自治権があり、国の法律や王様の方針に反しない限り、領主の裁断で領地を治めることが出来る。
此処は彼の街であり、取り締まりの権限も領主にある。
権力者 イコール 警察官のトップ、自分の悪事を捕まえるのに許可を出すはずがない。
当然、司法権も領主が持っている。
中世封建社会では三権分立なんて思想はない。
権力者 イコール 裁判官、この街では彼が法律だ。
なので犯人は引き渡さない。
証拠の書類と捕まえた敵施設の人間の証言を盾に、直接国と交渉するのだそうだ。
後で聞かされたが、証拠を押収できなければ、こちらが危なかったとのこと。
そういう事は、もっと早く言え!。
さて、その魔術集会に捕まった彼らがどうしているかというと、何でも、国から役人が派遣されて来るまで、魔術集会が用意した最高級の部屋で過ごしてもらっているそうだ。
何泊でも宿泊OK、窓も自由もないけど、安全安心(出られない)保証付き、しっかりボディーガードもついた、ワンランク上のお部屋とのこと。
話しを聞いて、絶対にそこには泊まりたくないと思った。
宿を出て、城門を潜ってからセネカに聞く。
「で!、今回の件、どこまでがお前の計画なんだ?。」
「計画って、まるで私が仕組んだようじゃないですか。
私はただ、ある村からスライムの討伐依頼が出されたのを冒険者ギルドを通じて知ったのと、私とアヤトさんの情報をほんの少し学園内に流しただけです。
まさか、Sランク冒険者様が、あんな与太話のような噂を頼りに来てくれるとは・・・思ってもいませんでしたよ?。」
嘘つきだ。
嘘つきが此処に居る。
アヤトはそう思ったが、賢明にも口にはしなかった。
俺も学習するのである。




