#スライム討伐(4)
あの溶解液の中にあって溶けない身体もすごいが、アヤトの気が触れたスライムの体の方が湯気を上げて消えているようだ。
見ているだけで呪われそうだ。
スライムは、獲物を身体に取り込んで、ゆっくりと溶かして捕食する生き物なので、溶解液に触れたからといって、すぐ溶けるわけではない。
誤解されることが多いが、スライム相手で一番多い死因は窒息死だ。
スライムが、一瞬で人間を溶かせるようなモンスターだったら、最強の魔物の一角として、冒険者に恐れられていたことだろう。
本来スライムは、臆病な性格で、森などで隠れて暮らしている。
食事も、動物の死骸などを捕食する為、魔物化していない限り 生きているものを襲うことは少ない。
人間に会ってもすぐ逃げることから、冒険者からは弱い魔物として認識されているそうだ。
実際 小さいスライムは、魔物化していても弱い。
剣では切りにくいが、踏み潰せば倒せる。
溶解液の方もイメージとは逆、すぐに溶けたりしない。
本来は、ゆっくり時間を掛けて捕らえた獲物の栄養の全てを取り込み、食べた後はしばらく食べなくても大丈夫、という、コスパの良い生物で、自分の体積の半分くらいの獲物を食べると、その後、1年は食べなくてもいいくらいエネルギー効率の良い生き物らしい。
今回のは、魔素型のスライムの魔物で、溶解液という特性が強く出ていたが、それでも肌が焼ける程度(?)だった。( 注:今回のスライムの場合、普通の人間は腕が使い物にならなくなります。)
核を貫かれたスライムが溶けていき、魔石と魔炭が残る。
あの核も、スライムの大きさが、あれくらいのになると、核の硬さはダイヤモンドくらいあるはずだ。
どんだけ切れ味が良いんだよ、あの禍々しい槍。
「アヤト、体の方は大丈夫か。」 思わず声が出る。
「俺のことより、グレガテさんの方こそ大丈夫ですか。」
「ああ、もうほとんど治っている。」
腕を見せる。
右腕は赤い膜のようなもので覆われ、真っ赤になっている。
アヤトは、その血の色のような腕に引いているが、話している間にも赤い膜のようなものが消えていき、腕が治っている。
「それどうなってるんですか。」
「ああ、・・これは、こういうものだ。
時々居るんだよ・・・こういう体質の奴が、俺のもそれだ。」
説明になっていないが、それ以外説明のしようがない。
生まれた時からこうだし、どうなっているかなど俺にも分からない。
学園に来て、色々調べて知ったんだが、古い文献や昔の冒険者の日記の中にも、傷が赤く光って瞬時に治ったとか、古き赤き血の力で竜を撃退したとか、この赤いのを思わせる記述はけっこう出てくる。
そうなのかと、アヤトが目を向けると、セネカは、
「はい、そうですね。
古代種族の遺伝子を取り入れた強化人種の一種、その先祖返りでしょう。
人間に古代種族の遺伝子の因子を取り入れる研究は昔から行われています。
詳しく調べてみないと分かりませんが、シャガルノティア文明の時代に生み出された強化人種の血を引いているように見えます。
あの赤いのは【ナノベート】といって、幾つかの古代種族が生まれつきその身に宿しているナノマシーンの生物版のようなものです。
体の中に特殊な器官があり、そこを介して血液の中を巡っています。
怪我をしたりすると傷を塞いだり、治したり、毒の分解を助けたり、病気の原因と闘ってくれたりします。
他にも、身体の回復を早めたり、酸素の取り込みを補助したりと、色々な働きをします。
グレガテさんの言う時々居るとは、古代文明期の強化人間の血を色濃く受け継いだ人や、その子孫・隔世遺伝の人間、時々現れる特殊体質の人のことを指すのでしょう。
グレガテさんの力の強さと驚異的な回復力も そこに起因します。
グレガテさんも冒険者として努力してきたでしょうが、努力以上に元々の生物としての強さが桁違いです。
筋肉の質からして普通の人間とは違いますから、・・・同じ筋肉量でも力に5倍以上の差がでます。
その分、食事量が増え食費や食料の確保が大変だったりしますが、力が強く病気にもかかりにくいなどメリットも大きいです。
戦士タイプのSランクの人の中には、案外そういう人は多いんです。
特殊体質とか、古代人種の血が濃く出ているとか、強化人間の遺伝子が隔世遺伝でとか、そういう人が、・・・そうじゃないと、ドラゴンを素手で殴ったり出来ないでしょう。
なんと言っても、古の魔法技術で戦闘用に遺伝子操作された強化人間の血を色濃く残していますからね。
あの時代は、古代文明同士の戦争や巨人族・竜族との争いが激しかったそうですから・・・それに対抗する為の兵が強いのは当たり前です。」
「へ~え、そんなのもいるんだ。」
( さすが異世界。)
と、アヤトは、ある程度思考を放棄して、素直に感心する。
だが、関心があった話しを、急に聞かされたグレガテの方は、セネカに詰め寄った。
「おい!、以前俺がこの体のことを教えてくれ、と、言った時は、何も答えなかったよな。」
「そうでしたね。
別に教えるメリットもありませんでしたし、集会に所属しているわけでもないあなたに教える義理もありませんでしたから。
あくまでも、アヤトさんに教えるついでに話しただけです。
・・・・・・ついでだから教えておきますが、あなたの子供に死産が多いのも、子供が生まれにくいのも、そのことが原因です。
遺伝子という人間の設計図が普通の人間と離れている為、子供が生まれにくかったり、奇形などになりやすいんです。」
グレガテの雰囲気は剣呑だ。
どうなるのかと、アヤトはハラハラしながら見守る。
セネカとグレガテはしばらく睨み合っていたが、やがてグレガテが目を逸らして、その話しはそれでお終いとなった。
終わったのは良かったが、この微妙な空気の方も、何とかしていって欲しかった。
家族はたくさん居た。
ただ、自分は一人だった。
家族仲が悪かったわけでも、虐待を受けていたわけでもない。
ただ自分は、家族の誰とも違っていることは、幼い頃から解っていた。
家族の方も、それは分かっていたのだろう。
家族で俺一人違っていたから、注目されていたし、特別に思われてもいたが、家族の一員と想われていたかと言うと微妙だ。
血は繋がっていたし、嫌われてもいなかったが、内心では怯えもあったんだと思う。
そりゃ、父親より力が強い子供なんて、怖くて当たり前だ。
少し遠巻きな温もり、・・・自分は、自分と同じ目線で接してくれる家族が欲しかったのかもしれない。
それから時は過ぎ、自分の家族をつくった。
有名な冒険者にもなればモテる。
それも、尋常でなく。
家族も増えたが、満たされているとは思えなかった。
冒険者をやっていた時は、あまり女や子供にかまっていたとは言えない。
高ランク冒険者は、各地を飛び回る職業だし、子供なんて勝手に育っていく生き物だ。(こっちの世界観ではそうである。)
金さえ稼いでいれば、女からも、誰からも文句を言われることはない。
だが、・・・今は家族との時間を多く取るようにしている。
あいつに言われたからだ。
家族はつくるものだ、と。
人は、子にも親にもれるけど、家族になるには、家族を作らなければ成らない。
関わって、心が通っていなくては、自分はそれを家族と呼べない。
そうでなければ、金を出す存在、世話をする人、支配してくる大人、になってしまう。
それは私の過去で、家族としての一側面ではあっても、私の未来の一部にはしない。
面倒を見てくれた家族という言葉以外の意味を持たない存在。
決して心から消えなくても、心の中から消し去り、記憶に浮かべないような存在。
そんなものは欲しくない。そんなものは無い方がいい。
私が母を亡くした時、一番に思ったことは、「やっと解放される。」だった。
表では泣きながら、裏の心の中ではほっとしていた。
嬉しくて涙が出た。その絶望に安堵した。
それからは、母のことを思い出さないように、存在を無かったことにして生きてきた。
母は、教育も教養も与えてくれたが、家族でいては貰えなかった。
私の中に家族という知識はあっても、それは家族ではなかった。
家を出たあの日から、家族のことを本当に思い出さなかった。
と、あいつは泣いていた。
それを、あいつが死んでしばらくしてから思い出した。
きっと、幼い頃の自分もそうだったのだろう。
たくさんの兄弟姉妹、あまり思い出せない両親の顔。
もちろん、今の両親の顔は分かっている・・・だけど、子供の頃の両親の面影はひどくうろ覚えだ。
子供の頃から力が強く、親から手を出されることはなかった。
兄達と喧嘩することもなく、兄弟姉妹からも遠慮されていた。
冒険者として成功したことを誇りに思われることはあっても、心から家族と思われているのだろうか。
だからこそ、今は自分のことを知りたかったし、だから今は、家族を作ることを己に課したかった。
グレガテは話しもうまく、昔の冒険の話しも面白おかしく話してくれた。
セネカが冗談で言っていたドラゴンを殴る話しも、武器が折れたので、止めに、腕がおかしくなるほどの力で殴り殺したことがあるらしい。
実話 かよ。 冗談かと思ってたよ。 週刊誌もびっくりだよ。
素直にすごいと思うが、真似したいとは思わない。
そのグレガテの話しに出て来た中で一番多かったのが、シャラさんという女性のパーティメンバーの話しで、強力な魔物を退治した際に、自分を庇って亡くなってしまったらしい。
パーティー結成当初の頃は、一人だけ強さが抜きん出ていた為、浮いて無茶をしていたこと。
それで怪我の治療でお世話になったり、軋轢のあったパーティーの仲間との間に立ってくれたこと。
シャラさんとはよく喧嘩になったことなど・・・・・・。
「まあ、あいつとは色々あったが、俺のことを心配するからこそ、口煩く言っていたんだろうな。」
シャラさんという人はツンデレさんだったのだろうか?。
しんみりしているグレガテさんに影響され、アヤトも、つい同情的な気分になってしまう。
「良い話しにしてますが、何を言ってるんです?。
アヤトさんも、簡単に騙されないでください。」
「えっ!、今の話し、・・嘘なの?。」 セネカに問う。
「噓ではありませんが・・・。
シャラさんは、もう何年も前に冒険の依頼で知り合った学者さんと結婚していますよ。
確かにグレガテさんとは恋仲だったような時期も僅かにあったようですが・・・それとなく良い雰囲気になった程度で終わったようです。
途中、グレガテさんが何人もの別の女性に手を出した所為で振られています。
今現在は3人の女性と結婚、子供は3人、付き合っている女性は10人以上いるでしょう。
身体の関係を持った人は何人になるか。
シャラさんはとっくの昔にあなたのことは吹っ切っています。
もう何とも思っていませんでした。
シャラさんが、あなたを命を懸けて守ったのは、あなたがパーティーの仲間だからです。
実際に他人を、命を懸けて守れる人は少ないです。
そんな女性を亡くして未練があるのは分かりますが、事実を捏造しないでください。
アヤトさんも、他人の一方的な話しを、素直に信じないでください。
確かに嘘はついていませんが、綺麗な思い出を、言われた通り信じるようでは先が思いやられます。」
冷めた目でグレガテを見ると、
「おいおい、そこは黙っていてくれるもんだろ?。」
と、言った。
反省の色は無かった。
・・・色々台無しだよ。




