#染魔人の樵(2)
木漏れ日の樹のパーティーは、どんどん森の奥に入って行った。
人が滅多に入らない森の奥だからか、やたらゴブリンが多かった。
パーティーメンバーは積極的にゴブリンを狩っていく。
それこそ、アヤトの出番がないくらいに・・・。
まあ、すぐに殺された数以上のゴブリンが押し寄せて来たので、アヤトも戦う羽目になったが・・・。
一般にゴブリンは『弱い』ことで知られている。
一方でゴブリンは『厄介』なことで知られている。
どちらが正しいのか・・・どちらも本当のことである。
ゴブリンは強いのだ。
力が・・・ではなく、数の暴力というやつである。
どんな強者でも相手の攻撃には対処しなくてはならない。
爪・牙の攻撃を、人の生身の体で受けることは出来ない。・・・雑菌も怖いし。
ゴブリンは道具も使うので、人間から奪ったり盗んだ刃物を使う個体もいる。
いくら力が弱くても、刃物に刺されて耐えられるほど、人の筋肉や皮膚は強くない。
皆さんも試しに、知り合いのプロレスラーに、
「あなたの筋肉の強さが知りたいです。
あなたの力こぶに斧を叩きつけるので、筋肉を締めて防御してもらっても良いですか。」
と、尋ねてみるといい。
きっと断られるだろう。
自分の筋肉で斧の一撃を耐える自信があれば、刃物を振るOKを出してくれる・・・はずだ。
こっちの世界では、魔法で結界を張ったりする事が出来る。
魔力で一時的に体の防御力を上げることも出来る。
だがしかし、ずっとその状態を保てるわけではない。
賞味期限の長い日本のお菓子とは違うのだ。
勘違いされやすいが、気や魔力それ自体が体を守ってくれるわけではない。
以前セネカに言われた。
気とは、文字通り空気のようなものである。と。
魔力も同様だ。
強い空気を出したところで攻撃は防げない。
あれは、
細胞一つ一つを【気】で強化することで、総合的に体の防御能力を上げる。
魔力の流れを、特定の流し方で体に流し、一種の魔方陣を構築して表面を結界化して防ぐ。
体に魔法の効果を付与して、物質を一時的に固く変質して防いでいる。
・・・だけなのだそうだ。
それが出来るというだけで充分すごいが・・・・・・。
いくら身体から放出させても、魔力それ自体に防御能力はない。
ただ力を外に垂れ流すだけ。
長年修業した熟練の使い手とかだと別だが、長時間、防御を維持するのは難しいそうだ。
なので、数で押し切られると、相手が弱くても対処できなくなってしまう。
いつかは、数に飲まれてしまうのだ。
では、そうならない手立て・・・数で押してくるゴブリンに対処する方法として、良いのは何か。
一番いい答えは、こちらも同じだけ数を揃えることだ。
そして、最も一般的な答えは、パーティーを組む。
陣形を組み役割を決める。
複数で連携して対処することである。
そうすることで自分より多い数の敵や格上の魔物と戦える。
パーティーは、その為に組まれる。
一人で全部出来るなら、誰もパーティーなんか組んだりしない。
難しい人間関係に悩んだり、得た素材や金の配分で揉めたりすることもない。
あまり良い方法ではない答えが2つ。
一つは、常に動き回り相手の攻撃を受けないこと。
もちろん攻撃力が相手より強いのが前提だ。
そして、もう一つの答えが、防御を固めること。
ゴブリンは、単体では弱く、攻撃力も低い。
防御を固め、向こうの攻撃が届かなければ、こちらは一方的に攻撃し放題である。
数の脅威に怯える必要もなく、一匹一匹確実に屠っていけばいい。
その点、デュークは素晴らしい。
本来、防御を固めて1対複数の相手をする場合、歩けないほど重い全身鎧で挑まなければならないが、デュークは魔力で体を結界化できるらしく、攻撃が通らない。
デュークは、攻撃魔法のように魔力を自分の体の外に向かって出すことが苦手だそうで、「体を堅める程度の魔法しか使えない。」と言っていたが、体を鉄壁の堅さに出来るうえ剣術の腕が高いので、それで充分だと思う。
特攻や自爆攻撃、・・・自分の身を気にせず、相手の攻撃をものともせず切り込んでくる敵は、厄介だ。
それが味方だというのは素晴らしい。
ナイフが刺さらず、逃げようとしていたゴブリンとは対照的に、ケガの一つも負うことなく、躊躇なくゴブリンの群れに切り込むデューク。
素晴らしくないのはセネカで、アヤトにデュークと同じ働きを求めてくるのだ。
「その鎧の防御力は優秀です。もっとガンガン攻めてください。」
そんな、ゲームのオートで動くキャラクターに出すような指示を出されても困る。
現実はゲームではない。
まあ、実際、ゴブリンの攻撃で傷は負ってないので、もっと前に出ることを要求されるのも、理解は出来る。・・・頷けはしないが。
辺りは血の海、あまりに凄惨な光景に、あの中に入って行きたくない。
それに・・・・・・。
こっちの攻撃は効くが、向こうの攻撃は効かん。
ある意味、無双状態だと言える。
・・・が、血塗れのゴブリンの中に立つアンデッド、は、・・・絵面がやばい。
善良な村人に見られたら山狩りされるレベルだ。
マネキンに見える肉厚の鎧(文字通り)や革鎧型の服のおかげで、大分ビジュアルは緩和されているとは思うが、ゴブリンの血の色遣いや臓物のネックレスは【オシャレ】の言葉で誤魔化しきれるものではない。
殺しても殺しても湧いてくる敵を、ひたすら切り続けるのも・・・心が病む。
血の雨、止むことなく、我が心病む。許してくれ、矢のように責められては、こうするのは止むを得ないことなんだ・・・。
「・・・っていうか、こいつら何でこんなに襲って来るんだ!?。」
現実逃避の言葉遊びなんかしている場合じゃなかった。
死んでも死んでも、次が来る。
勝てないのは、最初の数分で分かったはずだ。
それでも、雲霞の如く襲って来る。
疲れたアヤトは愚痴る。
「いわゆる縄張りを取られない為ですよ。
この森は大きな森ですが、それでもこの数のゴブリンは多すぎです。
すでに飽和状態です。
ゴブリン一匹が一日に食べる食料、繁殖に必要な肉、この数のゴブリンを養うには、この森の動物だけでは足りません。
人海戦術で狩りつくし、共食いをして、何とか今の数を維持しているのでしょう。
このままでは、やがて均衡は崩れゴブリンが近くの町に押し寄せます。
スタンピードの前兆というやつです。
ここで私達に縄張りを奪われると、この群れは、群れを維持できず飢えて死ねでしょう。
だから必死なんですよ。」
押し寄せるゴブリン。
「・・・・・・・・」
確かに、こいつらの雰囲気は殺気立っている。
「あとは、この森自体に食べ物が少ないんです。
木の実などは少量しか実らず、周囲の草木にも活力が無い。
そのせいで、植物を食べる動物も減っているようです。」
そんな森の中を何処に行こうというのだろう。
「というか、俺達どこに向かっているんだ。」
そろそろ目的地に着いて欲しい。
そして、目的を果たし、早く帰りたい。
斧もスコップも重いし、この森は草が多くて歩きにくい。
蔦が足に引っかかって、ゴブリンとも戦いにくかった。
・・・早く目的の薬草を採取して、依頼とやらを終わらせたいものだ。




