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異世界怖い  作者: 名まず
34/60

#鏡の前の(前)


 目の前に骸骨がいる。


こんなのを見たら、回れ右して逃げるところだが、そんな気は起きない。


目の前にあるのが鏡で、見える化け物の姿が 鏡に映った自分だとわかっているからだ。


ちょっと 何言ってるか分からないが、・・・俺も分かりたくない。


鏡の前でしゃがむ。

蟻の行列を覗くような姿勢で、床に『のの字』を書く骨格標本。


アヤトはこの世界【グラン・グルン】に異世界召喚された。


まだ、この世界に来て1年と半も経ってない。


だが、すでに日本人としてのアイデンティティは崩壊しそうになっている。


人間の体を構成する物質ものは、半年ほどの間で入れ替わるという。


食べた物は吸収され、栄養は新しい身体からだの材料として再構成される。

物質的に・・半年前の自分と、今の自分では全く別の人間だと言う。


それが本当だとしたら、こっちの世界に来てからすでに1年半、こっちの世界の物を食べてきたアヤトの身体からだは、すでに『メイド・イン・アース』では無い、のかもしれない。


それでも・・・・・・。


顔を上げて正面を見る。


うん、骨だ。・・間違いない。


鏡に映るのは、・・・どう見ても純地球産の生物には見えない。


でも俺は、メイド イン アース!、地球人だ。

そうだ、俺は人間だ。

リッチは人間の魂を持ったまま不死者アンデッドになった存在だという。

だとするならば、情報的に・・俺は充分人間と言えるのではないだろうか?。


うん、やっぱり人間だ。


ただし、心配事もある。


もし、他に日本人がこっちの世界に異世界召喚されたとしよう。

はたして今の俺を見て、同じ日本人の仲間として認めてくれるだろうか。


『メイド イン グラン・グルンの魔物』として認識されないだろうか。

召喚されたのが一般人ならダッシュで逃げられ、それが勇者なら即行で襲ってきそうでへこむ。


日本に帰れたとしても同様だろう。


もしかしたら、迎え入れてくれるかもしれない。

・・・研究室に、実験用のモルモットとして・・・なら。


考えれば考えるほど、否定的な考えばかりが浮かんできて落ち込む。


自然と顔が下を向いている。


指が、再び床に文字を書く行為を再開する。


他にすることがない。

正しくは、落ち込んでいるので何もしたくない。


ついに、全身が骨になってしまった。

アンデッド・・・アンデッドである。

そりゃ・・・落ち込みもする。


何時いつかはこんなことになる・・・かもしれないとは思っていた。


でも、こんなこと現実に起こるはずがないと思っていた。・・・何とかなると。


夢落ちを期待して寝たが、どんなにベッドにしがみついても眠れなかった。

ある人物に相談したら、

「アヤトさんって面白い人だったんですね。

すでにやすんでいるのに休むなんて。」

って言われた。

俺は冗談じょうだんは好きだ。が、・・・これは洒落しゃれで言ったんじゃねえ!。


暴食でストレスをまぎらわせることも出来ない。

すでに普通の食事は必要でなくなった。


食事や栄養面から体の構成が変化する事は無くなった・・・。

が、残念なことに、アヤトの体は今も変わり続けていた。






 1年くらい前のことになる。


セネカに、ある物をプレゼントされた。


小さな手鏡と大きな姿見すがたみ、それと絵姿えすがただ。


手鏡はてのひらに収まるものだし、傷や衝撃に強く冒険に持って行っても耐えられる物だ。

セネカはこういうのにお金を惜しまないので、しない。

凝った造りで、俺もけっこう気に入っている。

が、大きい姿見の方は、アヤトの姿がすっぽりと入る大鏡。

部屋の家具の中でも特別な存在感を誇っている。


アヤトはファッションや美容に興味があるわけでも、ナルシストでもなかったので、( 正直邪魔だ。) ( いらない。)と、思った。


ただ、それ以上に必要いらなかったのが姿絵の方だった。


だって、等身大の肖像画なんだぜ?、・・・それも、気味が悪いくらいのリアルな絵画かいが


正直セネカの正気をうたがった。


( こんな物を貰って嬉しがる奴はいねえ!。)

とさえ思ったが、こっちの世界では肖像画を描いてもらったり、残す文化が根付いていて、部屋に飾ったりするのは普通の事だそうだ。


地球でも、昔のヨーロッパとかでは、そんなだった気がするので、そんなものかと思うが、俺は、(そういうのは貴族だけでしてくれ) 興味がない。


当時は、何故俺にこんな物を、と、思ったものだが、今ではアヤトも肖像画を部屋に飾り、毎日拝んでいる。


毎日鏡を見るのも忘れない。


美容に目覚めた・・・・・・わけではない。


こんな姿になった後、あらためてセネカから、これらの道具は、自分に対する認識を意識する為の物で、立派な修行の道具だということを教えられた。


自分が自分であるという認識。

アヤトのような存在は、それがあやふやになりやすく、あやふやになると姿形まで不安定になる。


例えば俺が、自分にはかっこいい角が付いていると思い込んだとしよう。

そう想い続けていると、自分の中の認識が変わり、数十年後には本当に角が生えてくる。


例えば、俺の物忘れがひどくて、自分の顔を思い出せなかったとしよう。

するとアヤトの顔は、のっぺらぼうのようになったり、顔の形が日々わったりする。


そのように変化する。


やがて、姿だけでなく記憶もわり、自身ではそのことをへんだとさえ認識できなくなる。

・・・と、いうことだってあるそうだ。


何それ!、怖すぎる。


肖像画は過去にんげんの自分を、鏡は今の自分を、見つめ直し、自分が『自分かられない』ように観測する・・・観測し続ける。


アヤトを定義するのはアヤトである。

それを他人ほかまかすと、自分ではない化け物になるそうで、そこは自分で修行を続けていくほかない。

と、厳しくさとされた。同時に、


「ただ、もしどうしてもダメだと思ったら、その時は私に任せてください。」

と、優しく声を掛けられたが、それは反射で断った。


なので、修行の一環として、俺の精神の安定の為にも、・・・毎日 鏡と自分の肖像画を見ている。


そんじゃそこらのナルシストにも負けないおがみっぷりだ。


決して、怪しい骸骨の神様に礼拝れいはいしているわけではない。


美形だと信じれば美形にもなるそうだが、認識を誤ると自分をたもてなくなり、やっぱり化け物になるそうだ。


すでに化物アンデッドだと言う『つっこみ』は無しだ。


( この姿が俺だ。)


あまり気は乗らないが、・・・がいこつを見て心に刻む。


まじで祈った。・・・・・これ以上化け物になりませんように!、と。


フリじゃないよ。


フリじゃないからな。






 フレドには仲の良い同級生や友達がたくさんいるが、同級生か先輩か、後輩か、よく分からない友人がいる。


その人は、よく分からない人だが、偉大な人だというのは分かっている。


その人が今 授業を休んでいる。


心配だ。

月に何度か同じ講座をやるので、進級や勉学に問題はないが、それでも心配になる。


アヤトさんの受けている授業の状況を知っているが、進捗しんちょくかんばしくない。


そのうえ、あの時からずっと授業に出て来ていない。


あの状況で、色々あったのだろうが、・・・このままでは進級が遅れる。


フレドも念の為、他の授業はともかく、この講座だけ試験を落としている。


大丈夫だろうか。

死霊魔術士は不遇職なので、学歴はちゃんと取っておいた方がい。

有ると無いで信頼値が違う。


それに、学園できずく人脈は、人生の財産かてになる。


まあ、人脈で言えば、あの魔王が居るので、すでに問題はないのかもしれないが、人脈があの魔王だけでは、人生は厳しいものになるだろう。


レイチェルのように素材を狙うやからもいるし、きっと、他にも同類はあらわれるはずだ。


ドラグ様が引き篭もったのも、不死を望むものが群がったのが原因の一つだ。


心配してしまうのは仕方なかった。



 先日、そのアヤトがさらわれそうになった件だが、その後すぐに学園側から、「大丈夫、解決した。」と、伝えられた。


実際、2週間ほどしてセネカが無事帰っていて、学園同様「アヤトさんは大丈夫です。」と、言っていたのだが、肝心のアヤトは講義にも顔を見せなくて、部屋からも出た形跡はなかった。


それから7日、ようやく姿を現したのが今日、ただ・・・・・・。


「アヤトさん、どうしたんですか?、その姿は・・・。」


久しぶりに見たその姿は、手袋にマフラー、顔には仮面が付いている。


「・・・・・・フレド!、聞くな。」

有無を言わせない口調だ。


「・・・・はい。」

息を吞んだフレドは、それだけしか返せなかった。


外はまだ暑く、室内にもかかわらず、真冬のような服装、隙間なく着込んだ『おしゃれ』に執念しゅうねんを感じる。


( やっぱり何かあったんだ。)

フレドは確信する。


行動も心も遠慮するフレドだが、早速、顔に手を伸ばして仮面をごうとするレイチェル。


引く。

レイチェルの性格を分かっていても、さすがに・・・これには引いた。


仮面は、よほどしっかりくっ付いているらしく、アヤトの顔から離れなかったが、レイチェルも離れない。


フレドが、アヤトからレイチェルを引きはがす。


アヤトは何も言うことなく、無言で教室を出て行った。


授業も受けずに、ふらふらと教室から出て行く幽鬼のような姿。


「レイチェルが失礼なことをするから・・・。」


フレドは心配そうに、レイチェルは名残なごりしそうに、テルセルは会話に加わることなく、その姿を見送った。






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