**リッチと仲間?(中)
なんで俺はここに居るんだろう。
6人の後ろを付いて歩きながらジェイソンは考える。
分かる。
原因を探る為にもダンジョンに行かなければならない。
この町の問題だ。
魔術集会の人間だけでは駄目だ。
クレファスの町からも、誰かがダンジョンに行かなければならない・・・のは確かだ。
こういった事態に冒険者ギルドの人間が動くのは至極当然のこと。
それは分かる。
ギルドマスターは、町の避難や領主・役場との調整、冒険者への指示・・・・・・しなければならないことはたくさんある。
それも解る。
副ギルドマスターとは連絡が取れていない。
あの副ギルドマスターのことだから、避難誘導していたとか言って、この町から逃げたのだろう。
アンデッドが蹴散らされていく。
自分が居る意味があるのだろうか。
自分は弱くはない。
これでも、パーティーでのランクだが、ランクはCだったし、Bの端っこに入れそうくらいには実力があった。
ただ、この6人の戦いを見る限り、自分は戦力としてはいなくていい。
冒険者ギルド側の人間として、中で起こっていることを確認して上に報告する義務はあるし、証人は必要だ。
そうと分かっていても溜息しか出ない。
緑の女が、鎧を着た身長が3メートルはありそうな骸骨を、棒一本で上下二つにしている。
もう一体の巨体スケルトンの頭を、銀髪の女がメリケンサックで粉々に殴打している。
凄まじいの一言だ。
この魔術集会の6人のパーティーで、先頭を走るこの2人の女の力が突出して目立っている。
女と言ってもまだ若い。
20に成ったか成らないくらいに見える。
冷気に耐性があるレイスが凍って粉々になる。
棍の一撃でスケルトンがまとめてバラバラになる。
散らばった骨から、白い湯気のような冷気が漏れている。
攻撃に氷の属性の魔力が籠められているのだろう。
2人とも見るからに氷に適性がある魔法使いだ。
他の4人も強い。
わずかにこっちに来るアンデッドも瞬殺される。
全員ギルドのランクで、個人でAランク以上は確定だ。
これが魔術集会、魔王を名乗る魔術師が何人もいるという組織。
細目の男とは交渉役として数度会ったが、他の5人はその時の職員ではない。
戦うのが専門の人間、多分、うわさに聞く魔術集会の懲罰部隊というやつだ。
違法な魔法の実験や禁術の使用者・組織を罰する集会の実行部隊。
禁術を使う魔法使いや違法な実験によってつくられた魔法生物と戦ったりする職務上、所属する奴らはヤバイ奴しかいないとか、相対すれば必ず殺されるとか噂に聞くが、そういう評価がなされるのも納得の強さだ。
自分にこいつらを止める力はない。
ギルドマスターは参加を認めたが、早まったか・・・。
まあ、どっちにしてもこいつらがいなかったら被害は拡大していたから、遅かれ早かれ応援は要請していたか。
途中から慣れてきたのか、氷の飛礫で作業のように処理されていくアンデッドの姿。
これが上級冒険者相当の実力者か。
呆気にとられながら、荒野の中、後ろをついて進む。
やがてダンジョンの入り口があった辺りに辿り着いたが・・・ひどい。
周りの岩壁が脈打っている。
「これはひどい。
一部異界化している。
これ・・・中には入れないぞ。」
6人の会話に内心頷く。
吐きそうだ。
鈍くなったとはいえ元冒険者の感が警鐘を鳴らしている。
体がこの中に入ることを拒否している。
「取り敢えず此処に結界を張ろう。」
そう言って、水晶に金属の針金と爪が付いたような物を置くと、薄い光の幕のようなものがダンジョンを塞ぐように覆う。
結界の魔道具か、羨ましい。
あんな高い物、小さな冒険者ギルドでは、なかなか予算が下りない。
その後、しばらく様子を見たが、状況は変わらなかった。
結局、諦めて引き返すことになった。
城壁の下が騒がしい。
骸骨どもが、壁を前へ進もうと無駄に歩き、ガツガツ、ガシャガシャ、音をさせ、偶に浮いたレイスが嘆きの声を響かせる。
荒野の方にも複数体のスケルトンやレイスがウロウロとしていた。
アンデッドは達はダンジョンからあまり離れられないようで、その範囲内にあり、かつ、生きている人間がいるこの町を当面の目的地としてたむろしている。
町の城壁内にいたアンデッドは全て退治したので、ここに立て籠もって、外から来るアンデッドを迎え撃つのが一番いいと判断された。
何故かレイスが弱いのも幸いだ。
レイスは本来、もっと厄介な存在なのだが、普通より弱いうえ、時間とともに力を失っているように感じる。
今では魔力を込めて払うだけで、どこかに行ってしまう。
それに、アンデッドの数が少なく、小さいのも救いだ。
ダンジョン付近で数体確認した3メートルクラスのスケルトンはいないし、あのダンジョン入り口から見えた大量のアンデッドを見た後だと、30体程度はたいした数じゃないように感じるから不思議だ。
結界も張ってあるし、あのでかいのは、しばらくは出て来ないと思いたい。
あそこに居たのが全部出て来たら、大きな街の冒険者ギルドの応援か、国の軍が派遣されないと勝てないだろう。
果たして来てくれるか。
こんな小さな町、見捨てられるかもしれない。
それでなくとも間に合うか。
大きな組織ほど動くのが遅い、来るとしてもいつになるか。
腕の立つ冒険者個人の善意に期待する方が、ましかもしれない。
集会の6人には、客人として町への滞在をお願いした。
その6人が前触れもなくギルドまで押し掛ける。
宿を飛び出して来た様子で、嫌な予感しかしない。
「外が変だ。見てくる。」
と、それだけ言って、緑の髪の女は1人、外に向かって走り出す。
ギルドマスターの相槌という無言の命令で、ジェイソンは追いかける。
視界の先で女が城壁をトン・トン・トンと、ジャンプで昇って行った。
ジェイソンが息を切らせて階段を上り追いつくと、険しい顔でダンジョンの方を睨んでいるアルセンテという名の女の姿が目に入る。
「すごい魔力。
負の魔力が渦巻いている。
あそこで何か起きてる。」
「そうですね。何か変化があったな。」
いつの間にか城壁の上に来ていたフィオーラと名乗る女が、同じようにダンジョンの方を見ている。
「どう思う。」
「行けば分かります。」
2人の女は頷き合う。
やっぱり嫌な予感がして、その予感通り2人は伝言を残していった。
後から集会の4人も来たが、
「ダンジョンを見に行くって、2人で行ってしまいました。」
としか、ジェイソンは答えられなかった。
「さて、・・・どうしましょう。」
向こうもこっちも困惑している。
深い溜息が出る。
「今からでも追いかけましょうか。」
一応ジェイソンは提案したが、首を横に振られた。
まあ、今から追いかけても邪魔になるだけだろう。
「我々は、ここで防衛に徹しましょう。」
少し同情気味に声を掛けられた。
ジェイソンは溜息をついたが、今日何度目の溜息か・・・もう忘れた。
二人はスピードを上げて走る。
ぐんぐんスケルトンの姿が近づくが、足は落ちない。
すれ違いざまに砕く。
後ろに散ったスケルトンはまだ動いていたが、最早脅威ではない。
立ち止まらない。
まばらに現れるアンデッドを一蹴しながら進めた足を止めると、すでにダンジョン入口は正常に戻っていた。
正常どころか、むしろ静か過ぎるくらいだ。
出口の結界を消して、中に突入するが、入り口付近にアンデッドがいない。
中もただの岩のようで、先ほどのように異界化もしていない。
ダンジョン内にあったはずの負の魔力も驚くほど感じない。
ただ、変化が急すぎる。
これほど早く、あれだけの負の魔力が消えるわけがないし、下から嫌な感じがする。
「何だと思う。」
「さあ、でもどうせアンデッドだろ。
どんなのが来ても蹴散らせばいいだけです。」
それだけ決めると、スピードを緩めず突進する。
一気にダンジョン3層まで降ると、白い蠟を固めたような物質で形成された異様な空間に、一体のスケルトンが現れる。
ものすごい異質感、強い負の魔力が漂う。
こいつは地上に出してはいけない存在だ。
「死ね。このアンデッド!。」
アルセンテは瞬時に判断する。
瞬時に相手の懐に飛び込んで、氷のハンマーをアンデッドの胸に叩きつける。
その際、何か小さく光るものも消し飛んだが気にしない。
吹き飛んでいったアンデッドは、肋骨に何本かひびが入ったが『死んで』はいない。
本気で打ち込んだんだが、あれでひびしか入れられないとは・・・。
だが懸念はない。
飛んだ先で、両拳を構えているのが見える。
ダァン。
足が地面を叩く重い音の後に、鉄と氷で覆われた拳がスケルトンの頭に直撃する。
骸骨は独楽が回るように方向を変えるが、首が少々曲がっただけで、頭蓋骨にひびも入っていない。
急激に嫌な気配が増す。
物理法則を無視する動きで起き上がったアンデッドの暗い目に自分の姿が映る。
寒気がする。
アイコンタクト、目が合って頷くと2人同時に魔法を放つ。
前後から氷雪と氷晶がスケルトンを襲うが、当たる直前に球状の結界がアンデッドを守り、魔法の余波で氷の壁が出現する。
「そこまでです。」
聞き覚えのある声に、2人が一斉にそちらを見ると、アンデッドの上に浮いて、頭を痛そうにしている人物が見える。
「「セネカ!。」」
「その【人】は味方です。
新しくパーティーのメンバーに入った仲間です。
仲良くしてくださいと言う前に嫌われるようなことをしてどうするんです。」
気絶したスケルトンを見て、頭を悩ます。
(トラウマになってなければいいんですが・・・、)
セネカが、ピクリともしない骸骨を運ぶと、アルセンテが、「私が運ぶ。」と、言ってくれたので任せる。
セネカは、アヤトを魔法の水で包んで何か調べた後、すぐに魔法を解いて、2人と一緒に此処から出るべく歩く。
上にはもうアレが着いている。
ここでの作業も終わったし、処理は早めに終わらせよう。
ダンジョン1層に着くまで2体と擦れ違う。
「セネカあれ。」
「ええ、例の物を搭載したゴーレムです。
3体あるので充分でしょう。」
目を覚ましたアヤトは、緑の髪の女性にお姫様抱っこされていた。
緑の瞳と目が合うが反応が微妙だ。
自分もそうだったのだろう。
混乱していたし、状況が理解できない。
「おや、目が覚めましたか。」
目が覚めても、お姫様抱っこから降ろされなかったので、「降ろしてくれ。」と、口にする。
女性は視線をやり、セネカが頷くとアヤトを下ろし、手を引っ張って立たせてくれた。
( この顔どこかで見たような・・・。)
混乱した記憶を探るが・・・頭が痛い。
胸も強烈に痛む。
痛みを堪えて歩くうち、すぐダンジョンの入り口が見えてきた。
そこで、何かすごいゴーレムと擦れ違う。
「セネカ、あれは何だ?。
それと、俺の体・・どうかなってないか。
何か違和感があるし、あちこち痛い。
なんか見え方も微妙に違うような気がするんだが・・・。」
アヤトは低い声で言った。
「あれはゴーレムです。
それより、話しは後でいいですか。」
と、言いおき、セネカは緑の髪の女性に、
「アルセンテさん、その今着ているローブを貰ってもいいですか。」
女性が、脱いだローブをセネカに渡す。
「アヤトさん。このローブをしっかり装着してください。
フードもしっかり被ってください。
この騒ぎで【目】も厳しくなってます。」
「外は荒野だろう?。
さっきも、人っ子一人居なかったただろう。」
居たのはレイスとスケルトンだけだった。
「ことはそう簡単ではないんです。
それより準備が出来たら少し急ぎましょう。
もうすぐこのダンジョンは消えて無くなります。
巻き込まれないうちに此処から離れた方がいいです。」
なんか物騒なことを言っている。




