**リッチと仲間?(前)
アヤトが早足で広い洞窟を歩いていると、出合い頭に2人の女性、目が合う。
どちらも美人だったと思うが、一瞬のことで顔の詳細までは分からない。
「死ね。このアンデッド!。」
そんな言葉で、いきなり目の前に現れた緑の髪の女に、ハンマーのような物で胸を叩かれ、身体を後ろに飛ばされる。
気付いたら後頭部に衝撃が走っていた。
何か銀色のものが目の端に映ったような・・・・・・。
クレファスの町はこれと言った特徴のない町だが、強いて特徴を上げるとすれば、町の近くにダンジョンがあることだろう。
見つかった当初は冒険者で賑わったのだが、死霊系が多く厄介だったり、あまり素材を残さなかったりと、旨みの少ないダンジョンだと分かると冒険者は他所に行ってしまった。
冒険者ギルドが定期的に討伐依頼を出して中の魔物を減らすぐらいで、取り立てて目立つこともなかった。
それが、いつの頃からか国の管轄に変わっていた。
入り口も封鎖されて、その存在は町の人々の記憶からも薄れていた。
クレムクレファスダンジョンが強く意識されるようになったのは、ついさっきのこと。
町で2番目に大きな建物、魔導協会のギルドからスケルトン騎士やレイスが出て来てからだ。
昼日中に、突然そんな存在が出てくれば、町中がパニックになる。
この町の冒険者ギルドの規模はそれほど大きくない。
突然の事というのもあり、対応出来なかった。
( まさかあの話しは本当のことだったのか?。)
男は考える。
1年ほど前からこの町の冒険者ギルドにある話しがきていた。
魔術集会を名乗る魔術ギルドから国と魔導協会が違法な魔法実験をしているので、冒険者ギルドの方で調査・抗議してほしいとの内容だった。
が、そんな話しは田舎の冒険者ギルドの職員の手に余る。
だいたい、証拠も無く、話しの内容も骨董無形だ。
ギルドマスターにも相談したが、結論は出なかった。
上に報告を上げて判断を仰ぐことになった。
返事は来なかったので、上でも棚上げになったのだろう。
悲鳴が聞こえ、擦れ違う人と肩がぶつかる。
そんな考察は後だ。
今は現場で対応する時で、考えても仕方ないことを考えている時ではなかった。
人の流れに逆らい、揉みくちゃにされながらも男が駆けつけた時、ギルド前の大通りの状態はひどいもので、周辺には多くの住民が倒れていた。
あのスケルトンの鎧、アンドルス公国の鎧に似ているような?。
あの国の地下組織のテロという可能性もある。
「ぎゃあぁ。」
叫び声に、考えるよりスケルトンの前に出る。
相手の数の方が圧倒的に多い。
自分の周りに冒険者はいるが、2人だけだ。
もう間もなく応援が来るだろうが、ざっと見ただけで50に近い数のスケルトンやレイスに対して出来ることは少ない。
倒す事よりも、足止めに重きを置いて戦う。
数はまだ増えそうだ。
例えこの町の冒険者が全て集まっても、あれだけの数には勝てない。
何よりの問題は、圧倒的に聖職者や浄化魔法を使える魔法使いが少ないこと。
( せめて普通のスケルトンだけだったら・・・。)
スケルトンは物理攻撃が効きにくいが、全く効かないわけではない。
その存在の核になる部分を傷付ければ弱るし、徹底的に潰せば消滅させることも出来る。
【普通】のスケルトンなら、魔法を使わなくても対処出来る。
動きが単調なのだ。
例えば城壁のある場所でも、門を探したりせず、ただまっすぐ進んだりするのがスケルトンだ。
ただ、【武器持ち】は魔法や浄化に対する『抵抗』の力が強い傾向があり、動きも少し知能が感じられる動きをする。
体が覚えているのか戦闘技術があったりする。
出て来ているのは全員武器持ちのスケルトン。
【普通】のより圧倒的に、強い・・・それに、堅い。
アンデッドは死体と、そのものが強く刻み付けた想いを核に、自然の気や邪気・魔素が集まって出来るという。
『元』になった存在が『普通』に剣や鎧をイメージ出来る存在なら、アンデッドになった時、自然に武器や防具も形づくられるそうだ。
つまり元、兵士や戦士・冒険者で、その戦闘技術を持つ場合がある。
例え技術の一部でも、覚えていれば十分脅威になる。
アンデッド【核】の場所も厄介だ。
個体によって様々で、恋人と繋いだ手だったり、父母に撫でられた頭だったりするが、基本的には心臓や頭が多い。
それが鎧や兜で覆われていたり、武器で守られると、倒しにくい。
魔法も届きにくいし、効きにくい。
そのうえアンデッドは疲れない。
こっちだけ憑かれる。
人間は動き続けると疲労がたまる。
体は動かなく、思考は鈍く、魔力は尽きる。
アンデッドは消えるまで動き続けるし、レイスに触れられると生気が失われ、精神を削られる。
場合によっては錯乱し、精神を乗っ取られることもある。
アンデッドは嫌われている。
それこそ、ゴブリンと同じくらい嫌われている。
それにはもちろん理由がある。
気味悪さというのも、もちろんある。
戦いにくさというのもある。
家族や知り合いの遺体だったり、個体によっては喋ったりする。
やりにくい相手だ。
延々と生者を呪い、殺すことを諦めず、理屈が通じない。
物理攻撃が効きにくく、個体によっては全く効かない。
空を飛ぶレイスなどは剣が届かない。
精神攻撃に対抗することは難しく、そのくせこちらの精神は削ってくる。
厄介な相手だ。
魔法を使える人口は、戦士に比べると圧倒的に少ないので、苦手意識が持たれやすい魔物だ。
あんな数、どこから現れたのだ。
普通これほど似たタイプの同じ魔物が、複数体同時に出てくることは考えづらい。
元来、アンデッドというのは、そうそう生まれるものではない。
そう簡単に発生するようなら、この世はアンデッドだらけになっている。
死体や物に、恨みや呪い・強い想いが残り、更に時間や強い魔力が無いと生まれない。
可能性があるとしたらダンジョンしかないが、だとすると魔術ギルドにダンジョンに通じる通路があることになる。
もちろんダンジョンに隠し通路をつくるような行為は禁止されているし、通常そんなことをするなんて考えつかない。
少しずつ冒険者が集まっているが、どうにもなっていない。
この光景を見て、回れ右をしていく奴もいる。
あいつは仕方がない。
新人冒険者パーティーに、この場は荷が重い。
正しい判断だ、が、・・・あいつらはベテラン、お前らは留まれよ。
こういう時、個人の資質が問われる。
冒険者は自由で、逃げるのも自由だが・・・。
責任も自分に返る。
これが無事解決すれば、あいつらのランクは絶対に下げる。
それも、生きて帰れればの話しだが・・・。
元冒険者のギルド職員というのは、けっこう損な役回りなのだ。
「まともに戦うな。外に広げないことに注力しろ。」
「住民が避難できる時間を稼ぐことが優先だ。」
「打撃武器で足を潰せ!。」
「魔法使いと浄化魔法を使える奴は、上のレイスに集中しろ。」
「魔法を使っている奴に、敵を近づけるなよ!。」
本来自分が命令を出すべきでない。
今、矢継ぎ早に指示を出しているが、それは仕方がない。
ギルドマスターも別の前線で戦っているのだ。
誰かが指示を出さなければならない。
冒険者は向いていないから辞めたのに。
戦いが苦手で、接近戦なんてもってのほかだった。
強くないから頭を使って何とかしてきた。
それも限界かな、という時分にギルド職員に誘われた。
( 自分にこういうことは向いてないんだ。)
不安定な冒険者から脱し、安定した生活をする為にギルド職員になったが、向いてない。
これが終わったら、田舎で畑でも耕そう。
現実逃避気味の思考に大声が直撃する。
「おいジェイソン!。そろそろ撤退するぞ。ここはもうヤバイ。」
「ギルドマスター!。
せめてもう少し、今私達がここを離れたら、住民の半分も逃げれません。まだ避難が進んでないんですよ。」
もうあっちの前線が崩れたのか。
ギルドマスターが此処に来たということは、そういうことだ。
「って言ってもな。
ここにいる奴らまでやられたら、それこそ誰が住民を守るんだ。
この町にも衛兵はいるが、軍なんて無いんだぞ。
っていうか衛兵はいつ来るんだ。」
「今来てないってことは、領主様の所でしょう。
ここにいる冒険者で、せめてもう少し保たせないと!。」
どうせ来ない衛兵を待っていてもしょうがない。
さっきから緊急事態を知らせる町の鐘が鳴り続けているが、町の喧騒の感じからすると、まだ避難は終わってない。
「クソ!、クレソンが足をやられた。
誰か、ポーションを持って来い、浄化のポーションもだ。
おい、ジェイソン、やっぱり無理だ。
今すぐこの場を撤退するぞ。
このままじゃ全滅だ。
逃げれる奴だけでも逃がすしかねえ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
クソッ、分かってはいたが、さっきから事態が良くならない。
せめてもう少し状況を整理する時間が欲しい。
「うわっ。」
知ってる誰かの声。
「駄目だ。
スタックのパーティーはすぐに下がれ。
他の奴もだ。
前線が崩壊するぞ。」
ギルドマスターがそう叫んだ瞬間、影がジェイソンの前を通り過ぎ、ドォン、という衝撃で、一番前のスケルトンの集団が氷漬けになる。
結晶のように伸びた、いくつも氷の魔法が貫き、レイスもまとめて消滅していく。
スケルトンの行く手を塞ぐように突然できた氷の壁。
( 一体何が?。)
ジェイソンが周囲を見回すと6人の見慣れない男女がいる。
見慣れてはいないが、知っている人物が1人。
あれは確か、去年来ていた魔術集会の職員だ。
細目の30歳ぐらいに見える男が、ギルドマスターの元に紙を差し出す。
周囲の状況が分かっているのかと問いたいぐらい『日常』に見える。
「我々もこの戦いに参加してもよろしいでしょうか。」
【協力要請書】
書類だ。
ギルドマスターの側に自分も寄るが、こんな時に書類なんて書いている暇があるのだろうか。
そんなに顔に出ていたのか、細目の男は困ったように、
「私達集会は、この国に歓迎されていませんので、冒険者ギルドからの正式な依頼という形をとらないと動きにくいんですよ。
後で問題になっても困りますので、ここはひとつ。」
ぎしぎし、がしゃがしゃと、前の凍り付いたスケルトンの塊を乗り越え、後ろからスケルトン達が押し寄せようとしている。
生者を殺すという思念はあるが、障害物を避けるという思考はない。
アンデッドの御しやすいところではあるが、逆に言えば厄介さの象徴、決して諦めることはない。
ギルドマスターが素早くサインを終えると、緑の髪の女が前に出て詠唱を唱える。
棍の先に、氷が固まり巨大なハンマーになる。
ただの鉄の棒だと思っていたが、魔法具のようだ。
叩いた一撃で地面に穴が開き、十数を超えるスケルトンが吹き飛んだ。
地下に通じていると思われる通路を塞ぐ扉はもうない。
スケルトンの物量によってと思われるひしゃげた鉄の塊。
長い詠唱の炎の魔法の一撃の後、門だった場所からほんの短い時間消えたスケルトンだったが、すぐ、闇の奥から次が出てくる。
次々と、きりがない。
その骸骨達が氷の飛礫の嵐に押されて穴の奥に戻される。
緑の髪の氷の飛礫の魔法の後、銀の髪の長い詠唱で地下へと続く穴の入り口が数メートルにもなるであろう分厚い氷で埋め尽くされる。
アンデッド達が来る様子はない。
ようやく落ち着いて、今は氷に覆われた、穴のあった場所を見る。
「何なんだ、此処は。」
返答は期待していない。
だが・・・。
「予てより集会は、このダンジョンで違法な魔法実験が行われていると言っていたはずですが・・・。
証拠は掴めませんでしたが、私達の調べでは、アンドルス公国の元兵士の捕虜1万人以上が、ここで魔法の実験体として殺されたと推測しています。
何の実験をしていたかは分かりませんが、今の状況を鑑みると実験は失敗したのでしょう。
通路は・・恐らくダンジョンに続いているのでしょう。」
( やっぱり・・・)
「・・・・・まさか、町からダンジョンに道を作ったのか。」
そんな危ないことをするとは思いたくなかった。
町中にダンジョンがある所も多いが、それは冒険者や兵士が頻繁に中に入り、脅威を減らしているからこそ出来ることだ。
ここのように、普段、人が入らないダンジョンは危険があるので、出入り口に兵士を見張りにおいたり、衛兵や冒険者が備えたりしている。
そんな状態のダンジョンに通じる道をつくる。
わざわざ危険を招くようなものだ。
「実験施設に行くのに、外から行くのでは目立ちますから・・こうして秘密の地下通路をつくったのでしょう。
生贄を使うような魔術師が、町の人間が少し死ぬくらい、どうも思いませんよ。
国にしても、住人の命より国家機密の方を優先します。」
細目の男が達観したように言う。
何の感慨も無いというより、感情が抑えられているような声。
何か言おうとしたが、何も言わず魔導協会の建物から出た。
ここに入る為に組んだ6人と6人のメンバーは、そのまま冒険者ギルドの方に向かう。
アンデッドどもは大体倒したが、まだ数体町の中にいる。
広げた町の地図を見返す。
「あともう少しだ。」
全然思ってもいないセリフだ。
仲間を鼓舞しながら、今後の問題に頭を悩ませた。




