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異世界怖い  作者: 名まず
29/60

**はじまりのダンジョンへ(前)

 「実験データはもうありませんよ。

もう国の方に提出しましたから。

薄々気付いるとは思いますが・・・。

国が本腰を入れて調査に乗り出したのですから、今さら何をしても無駄です。」


セネカの並べたセリフに、縛られた黒ずくめ全員に緊張が走る。


アヤトは呆けている。

意外な話しがあったからだ。


「アヤトさん、心配しましたよ。

こちらに、いきなり怪しい男達が乱入して来まして、一緒に居たお友達はアヤトさんが連れて行かれたっていうし、私のような善良な人間には襲撃を受けるような心当たりはないので、探すのも苦労しました。」


「何を言うか!。

お前が我らの拠点を潰し、国に圧力を掛けるから、我らがこのようなことをすることになったんだろうが、魔王セネカ!。」


「もう一度訂正しておきますが、私は魔王ではなく【準魔王】です。」


アヤトが再起動する。

「ちょっと待て!、・・・・・俺が準魔王とはどういうことだ。」


「今しますか?、その話し。

後で説明しますから、空気を呼んでください。」


何とかしぼり出したアヤトの言葉を、セネカは流す。

流れたことは、黒ずくめの男達から暴言を引き出した。


「嘘を吐くな。

すでに魔王になることが決まっている奴が魔王でなくて何なのだ。」


準魔王というのは集会において保護対象と聞く。

強い魔力を持つが、自分で力を制御出来なかったりすると集会がその人物を保護するのだとか。

こいつは決して保護される側ではない。


「私は魔王候補者にも入ったことはありませんよ?。

それに、今現在私が【魔王】ではないのは確かです。

か弱い学生を捕まえて魔王とは失礼な人達です。」


「それこそ何の冗談だ。

こっちにはお前を殺しに行くといったきり、行方ゆくえが分からなくなった実力者が何人もいるのだ。」


「いや、そんな自分達の犯罪を宣言をされても・・・・

拠点が潰されるのは自業自得です。

あなた達があのダンジョンで違法な人体実験をしていたのは事実です。

証拠もあります。

国に無断で武力行使しましたが、魔術の適正な利用を推進すいしんする集会としては正当な活動です

おとなしくさばかれてください。

あなた達の活動のおかげで、真面目に生きてる魔法使いが迷惑してるんです。」


「え~と、やっぱり、こいつらって、もしかしなくても・・・。」


歯切れ悪く聞くと、セネカがきっぱり、

「はい。

アヤトさんを捕らえていた人達と同じ組織の人です。

彼らの組織【輝天の夜明け】は魔導協会の一派閥であるトリトギスタン派の連中が協会から独立してつくった組織です。

魔導協会ファウルトは今でも大きな組織ですが、数十年前まではもっと大きな組織でした。

ただ、組織が大きくなり過ぎたこともあって、派閥間の争いがひどくなり、統制がとれていない状態だったんです。

やがて一つの派閥が暴走しました。

それが、【トリトギスタン派】。

一人のカリスマが現れ、あっという間につくりあげられた一大派閥です。

創始者はトリトギスタン、大魔導士と呼ばれ、魔法の発展の名の下に禁術や人体実験にまで手を出していました。

トリトギスタンはかなり優秀な魔術師で、その元に集まった魔術師も、魔王レベルが何人もいる一大勢力でした。

彼を慕って多くの優秀な魔法使いが集まっていたのです。

色々な国の中枢に入り込み、貴族から庶民まで幅広く金を搾取さくしゅしたり、違法な実験を繰り返していました。

協会も止めようとはしたようですが、聞く耳を持たず、止まることはありませんでした。

それどころか、協会からの独立を宣言、秘密結社化して地下に潜ってしまいました。

一方、当時ならず者の集まりの【魔王集会】から、魔術士の保護や力の保持者の保護、魔法使い同士の互助会としての機能強化、魔法の研究機能強化、文化や過去の記録の保全、そういう魔術ギルドとしてまっとうな活動をする【魔術集会】へと改革を進めていた集会は、協会と対立、協会に何度も違法な活動をめるように警告・争っていましたが、当然の結末として小競り合いでは済まなくなり戦闘に発展しました。

結果として負けた輝天の夜明けは、更に地下へ潜り、このような犯罪に勤しむ集団に成り下がっているのです。」


「元はと言えば、貴様の父親のせいだろうが・・・。

やつがトリトギスタン様を殺したりしなければこんなことには・・・。

今だってお前が、我ら組織の拠点を執拗しつように潰して回っている。」


「当然です。

かつて多くの無辜むこたみや魔術士・私の父も命を落としました。

敵の組織を潰すのは当然の行動です。

数々の違法な人体実験、他の魔法使いの研究成果を奪ったり、貴族や商人を騙してお金を巻き上げたりするような組織は、私達集会じゃなくても、いずれ誰かに滅ぼされたでしょう。

それでも反省せず、今でも国をだまし資金や実験用の人間を集めて、戦争用の魔法や兵器を作るとか本気で言っているような団体を潰すことに躊躇ちゅうちょはありません。」


「何を言うか。

そもそもお前の父親が死ぬわけないだろう。

あの悪夢の魔王、災厄喰い、あれが死んだりするものか。

どうせどこかに隠れて暗躍しているに決まっている。」


「お前の親父、随分嫌われてるな。

本当に本物の魔王なのか。」


「こいつの父親が極悪非道な魔王なのは間違いない。

弟子のくせにそんなことも知らんのか。

・・・まあいい、こいつの父親は異世界から来た魔術士を名乗り、いきなり協会にケンカを売ってきたのだ。

さんざん悪辣あくらつな手段を行使、盟主めいしゅは殺され、我らも地下にもぐらなくてはならなくなってしまった。

それもこれも全てやつのせいだ。

お前の父親さえ異世界から来なければ、こんなことにはならなかった。

我らの研究がとどこおることもなかった。

だからこそ、やつに対抗する為に異世界の研究だって進めていたのだ。」


弟子って何のことだ。

それより・・・ここまで聞くと、さすがのアヤトも想像がついた。


「なあ、・・・、」

アヤトが声をひそめると、セネカが盗聴防止の結界を張る。


「・・・以前言っていた異世界から来た魔術師って、お前の父親のことなのか。」


アヤトは呟く。

こちらの世界に召喚された際、アヤトが魔法が使えないことがわかるとがっかりされた理由。

あいつらは、異世界の人間であるアヤトから、異世界の魔法技術を聞き出したかったのだ。


「確か以前、一人だけ異世界から来た魔法使いが居たと言ってたよな。

あれってお前の親父のことか。」

セネカに聞く。


「あれ?、言っていませんでしたか?。」


「聞いてねえよ。

・・もしかして俺が召喚された理由って、お前の父親のせいってことにならないか。」


疑惑は、良い笑顔で否定される。


「そんなことはありません。

あの人達がやったことは、あの人達の責任です。

まったく、自分達の犯罪行為を他人のせいにするとは、迷惑な話です。」


・・・・・ここまできっぱり言われると逆に感心するしかない。


ただ、これは・・・こいつらもしかして、それだけの為に俺を召喚したのか?。

ただ、異世界の魔法を聞き出す為に、その実験の為にまずアヤトが呼ばれたと?。

確かこういう場合、まず小動物・・・ネズミとかから始めるはずだ。

そういうのはちゃんとやったのだろうか?。

もしかして俺がそれ・・だとか?。

この黒い奴ら、他人ひとには偉そうに何か言っているが・・・納得ができねえ。


さっきの感覚がよみがえる。


ざわざわとローブが騒ぎ出す。

ついでに髪の毛も少しうねうねする。


「まあまあ、アヤトさん落ち着いて・・・。」


ローブがうごめいている。

魔力で押さえつけるが収まらない。

セネカの方に振り返る。


「そうだ。そのローブは私が預かっておきます。

元々の素材に加え、アヤトさんの負の魔力でゾンビ化しかけていたのを魔法で抑えていたのですが、さっきので封印が不安定化しています。

封印魔術の再調整をしなければ・・・。」


「そうだ!。

これ何なんだ。人を喰ったぞ。」


こんなものを着せていたのか。

と、文句を言いたい。


「ワイバーンの革でつくったローブです。

アヤトさんの力で少し革がゾンビ化していますが、大したことではありませんよ。」


「少しというか、勝手に動いていたんだが・・・・・・それに・・・。」

その先は言葉にならない。


「レイチェルさんのマントもケモノ化していたでしょう。

普通のことですよ?。」


「ほう、こっちの世界では革製品は動くのか。」

そして人を・・・。


「さすが魔法のある世界、不思議なこともあるものです。」

しれっと言う。


準魔王のことといい。

父親が異世界から来た人間だと言わなかったことといい。

色々重大なことを聞いてない。


いろいろ納得がいかねえぇぇ。

それが、アヤトの本心だった。






 あらためて今回の襲撃の事情説明を受けるアヤト。


セネカが言うには、集会は、かつては協会と争っていたが、今では和解しているとのことだ。


トリトギスタン派は、協会から縁を切られて久しく、協会から取り締まられる対象だという。


ただし・・・今も協会内部にトリトギスタンの信奉者が多くて、トリトギスタン派に通じている【隠れ】トリトギスタン派も多いのです。とのこと。

なので集会は、和解はしても、協会に対して警戒は解いていないという。


今回の件も、組織の人間だけでは人手が足りず、潜伏せんぷくしている協会内の人材も使ってことを起こしたようだ。


ことの発端ほったんは、匿名とくめい資料しりょうの存在。

親切な魔術士より提供された情報の真偽しんぎを確かめるべく、国が調査に乗り出した。

結果、ダンジョン内は死霊であふれかえり、ダンジョンブレイクの兆候ちょうこうが見られた。


原因は国の支援の下、秘密裏に行われた彼らの組織の実験の失敗ですが、溢れかえった死霊に邪魔され調査は難航しています。


このままでは、ダンジョンから死霊が出て来て、近くの町はおろか周辺の町にも甚大じんだいな被害が出ることが予想されます。


分かりやすいよう実験データの一部は外国にも公開しておいたので、そんなことになれば、周辺国からの非難はけられないでしょう。


あそこの研究所で行われていた実験は、組織の中でも秘密の実験だったらしく、彼らも中で何が行われていたか知らされてなかったようなので、組織もいきなり国から調べられて混乱しているようです。


私が・・・・集会が持つ、押収された実験記録さえ破棄すれば、組織が関わった証拠は無い、うやむやに出来る、と、思いたいようですが、さすがにそれは無理でしょう。


国としては、今回の件、この人達の組織の暴走として処理し、自分達の責任を回避するつもりです。


いまだに町に避難勧告さえ出さずに、上層部で責任を押し付けあっています。


それはこの人達もわかっているでしょう。

やぶれかぶれというやつです。


このままでは、フェムストファナ帝国に所属している組織の魔術師は、あの国にいられなくなるでしょう。


組織の影響力も今は見る影もなく、自分達の将来も暗い。


この人達は、勢力争いに負けたのを認められず、現状をどうにかすることも出来ず、現状に納得出来ずに暴れているだけの人です。


魔法の研究者・学者・賢者・・・・・・・本人は真理の探究者のつもりのようですが、今はただの犯罪集団・テロリストです。

宮廷魔術師にもなれず、地下で隠れて研究するか、汚れ仕事をするか・・・・・研究の発表をする場もない。


かつて、魔導協会ファウルトのトリトギスタン派、秘密クラブ、輝天の夜明けに所属している魔導師と言えば、魔術師達のあこがれの的だったんですが・・・魔法使いのエリート中のエリートだったんですよ?。


この人達はそのかつての栄光が忘れられないようです。


今の【輝天の夜明け】は、当時と比べると残りかすのようなものですから・・・・。


「それにしても、集会だけで解決できれば楽なんですが、さすがに学園に引き渡さなければならないでしょうから骨が折れますね。」


言外ごんがいにお前達は大したことがないと言われた人達は気色けしきばんでいるが、セネカの興味は薄そうだ。

水の塊や水の縄のようなもので身動きがとれなくなった黒ずくめの集団、自分の言葉で騒がしくなった男達の様子に辟易へきえきしている。


( ああ、さっきから無駄に話しを伸ばしていると思っていたが、学園の人間が来るのを待っているのか。)






 学園側の人間が来ると、セネカは軽く事情と話し、状況を説明する。


犯人を引き渡し、学園側の人間が、襲撃犯を縄で縛ったり逃げられないようにしている姿を横目に、アヤトを見る。


セネカは、声が周りに漏れないようする為の消音結界を張る。


アヤトが、あらたまって何かと身構えていると、唐突に、


「アヤトさん、これはもう行ってしまいましょう。」


「?、行く?、行くってどこに・・・。」


「クレムクレファスダンジョンです。

アヤトさんが初めて来たダンジョン。

フェムストファナという国にあるダンジョンです。」


( あのダンジョン、そんな名前だったのか。)

「あのダンジョン!・・・・・・嫌だよ!!。」

思考より早く口が動き、・・行くのを拒否する。


「そうは言われましても・・・そうも言ってられなくなりました。

先ほども少し話しましたが、彼らがここに来たのは、あのダンジョンで死霊が溢れ、ダンジョンブレイクが起きようとしていることが原因です。

国が調査に動いているんです。

元凶である彼ら自身、何故そんなことが起こったのか原因も分かっていないようですが、匿名の善意者が彼らの非道を訴えたこともあり、国も彼らの組織に責任を取らせようと動き出しています。

まあ、誰かに責任を取らせなないと、国が責任を追及されますから。

そして、彼らが高いリスクがあるにもかかわらず、学園にいるアヤトさんを襲ったのは、実験データを回収して証拠を隠滅、ほとぼりが冷めるまで地下に潜伏するつもりだったのでしょう。

ここに問題があるんです。

組織は逃げ隠れするつもりでした。

この事態に対処するつもりも、能力も無いんです。

国もです。

国に出来るのは、被害が出てから対応することです。

このままダンジョンから死霊が溢れると、まず近くの町を滅ぼして、次にこちらに向かって来ます。」


「何で!?。」


「もちろんアヤトさんを狙ってです。

あなたは、死霊達から見ると目印のようなものであり、恨みを向ける先です。

自分達は死んだのに一人だけ生きています。

あなたを召喚する為に自分達は死にました。

そして、死霊とあなたは魂の糸のようなもので繋がっています。

あなたの世界の言葉に直すと、運命の赤い糸というやつです。

何処までも追ってきます。

詳しく調査されて困るのは、私達もなんです。」


こっちに来るって・・・・そんなにたちが悪いのか。

あと・・その言い直し・・いらなかったよな?。

とにかくつっこむ。

「それを言うなら、運命のどす黒い糸だよ。」

それは、こいつのような奴に繋がっている糸の名だ。


「とにかく、そういった事態になると、更に問題になります。

アヤトさんが目立つことになります。

押し寄せる死霊、あいつは何者だ。という声、調査に乗り出す各勢力・・・。

それを考えると、こちらから行く方がまだましです。

今行かないと、もっと面倒臭いことになりますよ。」


セネカは、今すぐ彼らが乗って来た走竜に乗り、そのままダンジョンに向かうことを提案する。


必要な荷物や食料は、お金さえあれば、途中の町で調達すればいいですから。と、熱心だ。


明らかに怪しい。

急がせ過ぎだし、胡散臭うさんくさい。

笑顔で宗教の勧誘を進める近所のおばさんを彷彿ほうふつとさせる。


「せめて、仲間に相談を・・・フレドでもいいから。」

必死に抵抗するアヤト、


「それが少し難しいんです。

イシュカさんは落ち込んでいますし、暗殺者のせいでデュークさんも情緒不安定です。

シャロさんは、出来れば2人のそばに置いておきたいので・・・。

それに、どうやら本当に時間がなさそうなんです。

あのダンジョンまでの距離を考えると、今から向かわないと間に合わなくなります。

張った結界がもう限界です。

破れれば、大勢の死人が出ます。」


真剣な目に押されるように了承りょうしょうしてしまう。


果たしてあれは真摯しんし眼差まなざしか、うまい投資話があると購入をうながす詐欺師の目か、人生経験の少ないアヤトには判別がつかなかった。





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