**意外な事実
視界が空けて明るくなる。
急に霧が晴れて光りが眩しい。
「これ、外か?。」
離れた場所に大きな亀の姿が見える。
相変わらずサイズがでか過ぎて距離感覚がおかしくなるが、ここが外なのは確かで、しかも距離がずいぶん離れている。
どうやったかは分からないが、部屋から直接亀の外に飛ばされたようだ。
ドタバタとうるさい音がこっちに向かって来る。
走竜に乗った男達が見える。
あっという間にアヤトの周りを囲まれた。
「実験データはどこだ。」
改めて聞かれる。
正直に知らないことを伝えたが、
「とぼけるな。お前が持っているのは分かっているんだ。」
と、取り合ってくれない。
そんなことを言われても、本当に知らない。
「お前はあの悪魔の弟子だろう。」
と、イチャモンを付けてくるが、あっちもこれ以上ここで話していても埒が明かないと思ったのか、男達は拉致の続きを実行する。
そう、拉致だ。
縄を取り出し、言う。
「おとなしくしてろよ。」
そんなことを言われても無理だ・・・嫌だ。
走竜に乗せて運ぶつもりなのだろうが、これ以上学園から離れるのはヤバい。
拉致監禁は二度とごめんだ。
【筋力強化】 【思考加速】
準備していた魔法を発動する。
フレドもテルセルもいないし、この革服型の鎧は刃を通しにくい・・・と聞いた。
多分大丈夫・・・・な・・はずだ。
まず一番近くにいた男の肩を右手で掴んで、そのまま男の肩の骨を砕く。
距離を取り、両腕を上げ、こっちに対抗手段があることを示し牽制する。
この両腕ならナイフだろうが剣だろうが弾ける・・・と思う。
霊体の手で、近づいて来た男の足を取る。
転ぶ男。
「こいつ魔法が使えるぞ。」
「死霊魔法が少し使えるだけで、あとは素人同然と聞いたぞ。」
情報が古いんだよ。
わざと派手に炎の魔法を出し威嚇する。
魔法の打ち合いなら向こうに軍配が上がるだろうが、はったりにはいい。
俺は魔力だけは高いらしいし・・・。
だが男達は、セネカほどではないが全員強い魔術士のようだ。
それに多勢に無勢、今度は3人同時でアヤトを確保しようと動く。
じりじりと押されている。
「おい、あまり手荒に扱うなよ。
大切な実験対象だ。
あいつらが何の研究をしていたのか。
集会の連中に研究所ごと潰された今となっては、こいつの体が唯一の手掛かりだ。
せめて実験に使えるだけの状態で残せよ。」
大学からの帰りに買い物に行って好きな物を買う。
バイトは別にやりたくなかったが、趣味の物・欲しい物を買うにはお金が必要だ。
親や兄弟は特別に好きというわけではないが、嫌いではない。
今まで育ててくれて感謝してるし、うまくいっている方だと思う。
友達が多いわけでも、人生イージーモードだったわけでもないが、それなりに楽しくやっていた。
こんな訳の分からない所に連れて来られて捕らわれて、人体実験のモルモット程度の認識しか持たれない。
耐えられない。
許せない。
我慢できるわけがない。
日常を、家庭を、人生を壊された。
国を、家族を、妻を、娘を奪われた。
何も無くなった。
それでも、全て奪っても、まだ足りないと毟られる。
全て奪われる。命を奪い、踏みにじられ、殺し、また殺される。また奪われる。今も・・・殺そうとしている。
こんなことが許されていいのか。
何度も理不尽に耐え、それでも守る為に耐えた。
それでも足りないと奪いに来る。
許せない。許さない。殺す。取り返す。絶対に殺してやる。
男のその発言を聞いた瞬間、頭が沸騰する。
アヤト達の怒りが湧く。
いきなり男の首が無くなる。
アヤトの顔に多量の血が掛かるが、テレビ画面を見ているようで、実感が湧かない。
「えっ?。」
誰の声だ。
自分の声だと気付かず、自分の声に驚く。
自分の、アヤトのローブの首の後ろぐらいから何か生えてる。
鳥に似た生き物の首だが、見ると、目が合った灰色の目の瞳孔は縦長だ。
黒ずくめの魔法使い達の驚いた声がする。
「ワイバーンゾンビ!?。」
そのワイバーンゾンビとやらが頭を天に向け、男の首を飲み込む。
フードが人を喰っている?。
血を噴く男の体から、首から上が無くなっていた。
ワイバーン?・・・・・・この白いのが?。
何だ、フード食べる?、ワイバーン・ゾンビ、革のフード・・・・・!、こいつ死霊か?。
もしかしてこれ、レイチェルの黒豹と同じような存在なのか。
ゾクッとする。
急に寒くなってくる。
周りが薄っすら白くなり、いつの間にか自分の髪の毛が伸びている。
手を伸ばしてきた男の首に巻きついている。
( 次から次にどうなっているんだ?。)
自分の後ろに何かいる。
自分の髪の毛にしがみつくように浮かぶ女の姿。
長い長い髪の毛が宙を這い、男達に襲い掛かる。
男達の動揺と悲鳴が響く。
こいつは・・・この姿は見覚えがある。
以前部屋の天井から出て来た奴だ。
幽霊的な何かは、髪をなびかせている。
フードが体から浮き上がり、羽を広げ始める。
完全に外套の形から逸脱し、ワイバーンの姿になろうとしている。
( 何だ。本当にどうなっている?。)
人が死んだ。
俺が殺したのか。
それともこいつらが勝手に?。
実感がないが、自分が殺したのだと、心が囁く。
気持ち悪くなる。
自分の魔力が使われている感覚はあるが、こいつら勝手に動いている。
死ね。全員死んでしまえ。
さすがに人殺しはちょっと・・・。
殺してとり返す。
制御が効かない。
アヤトは必死に自分の魔力を操ったが、どれが自分かも分からなくなってきていた。
アヤトに見送られ、フレドとテルセルは、部屋から移動させられる。
黒ずくめの男達は、すでにフードや服の一部を外し、黒ずくめではなくなっている。
若い男は認識阻害の魔道具で顔を隠したままだし、魔法のせいか顔が分かりにくい人もいるが、顔を晒している数の方が多い。
一見一般人に見える。
だが、男達は袖に隠してナイフを持っているし、明らかにプロだ。
偶に他の生徒とすれ違うが、下手に騒ぐと巻き込んでしまう可能性がある。
足早に動く。
下手に逆らわない方が良い。
学園側か、あの男が動くのを待った方がいい。
フレドとテルセルを合わせて9人の少し目立つグループ、しかも、大人の方が多い。
服装も真っ黒ではないがよく見ると怪しいし、学園内でこんな集団がうろついていたら、先生達や生徒会のメンバー、保安員が直に駆け付けるだろう。
この学園はこういうことに慣れている。
男達も分かっているはずだ。
だからこそ急いでいるのだろう。
目的の部屋の扉の前に着くと、
「開けろ!。」
男達が、フレドに扉を開けるように命令する。
背中にナイフが迫っているので、命令ではなく脅迫だろう。
この扉の向こうは、フレドも入ったことがないが、アヤト達パーティーのメンバーがいつも集まっている教室だ。
意を決して扉を開ける。
扉を開けた途端に水が、目の前から迫ってきた。
一瞬のうちにフレドやテルセルを含めた9人全員が水の塊に捕らわれる。
フレドは、いきなりのことに空気を求めて暴れていたが、ふいに、ぽいっ、と、水の外に出された。
しゃがんだ状態で咳き込んで口や鼻の中の水を吐き出す。
ようやく一息つけ見上げると、水の中で自分以外の8人が、まだもがいている。
「あの、テルセルも中で、もがいているんですが!。」
「ん?、そうでしたか。」
笑顔で首を傾げている。
「はい。・・・早く出してあげてください。」
「まあ、大丈夫です。
あと数分くらい息が出来なくても人間死にはしません。
それより、招かれざる客を何とかしなくては。」
そう言うと、息が出来なくてもがいていた男達が急におとなしくなる。
死んではいないようだが、そんなことが出来るのなら、もっと早くすればいいのに。
苦しませることなく気絶させることも・・・殺すことも出来たのだろう。
( この人やっぱり怖いよ。)
フレドは、セネカの噂を頭に浮かべながら、そう思った。
イシュカの顔が真っ青になっている。
困るんですが・・・セネカは誰ともなしに呟く。
イシュカの傍にはデュークが付き添っている。
イシュカさんが不安定になると、デュークさんも不安定になる。
それでも、今ではデュークさんも落ち着いてきているので、緊急性が高いアヤトさんの方に集中すべきだろう。
シャロがセネカに聞く。
「これ、例の奴か。」
「ええ、多分。
二度と手を出さないと約束したはずですが・・・・・・懲りない人です。
それに、こんな依頼を受ける人達がいるとは、今度はどこの団体でしょう。
圧力を掛けてもいいのですけど、そうするとイシュカさんが変に注目されることになりそうで、嫌なんですよね。
学園側に介入されるのも、うまい手ではありませんし・・・。
普通は、学園に所属している者に手を出さないし、私の近くにいる時点で襲っては来ないのですが・・・・。」
考えながら、男達を縄で縛る。
少しきつく縛り過ぎたが死にはしないだろう。
「シャロさん。イシュカさんとデュークさんのことをお願いします。」
大大丈だろうが念の為だ。
黒ずくめの青年を一人抱えて、教室を出る。
さて、アヤトさんは外ですか。
抑えも外れているようなので、少し急いだ方が良いですか?。
そう考えて、セネカはゆっくりと歩き出した。
残っていた黒ずくめの男達はセネカに捕らえられた。
後ろから声を掛けられてから一瞬のことだった。
何故かアヤトも捕らえられたが、魔法で色々されると、アヤトの状態も落ち着く。
さっきの何なんだったんだ?。
心がグチャグチャした。
セネカが連れてきた青年、フードは外されているが、その顔は協会のルー何とかの取り巻きの青年リックだった。
「こいつら協会の魔術士なのか。」
そんなのの勧誘を受けていたと思うとぞっとする。
「いえ、彼らは【輝天の夜明け】という組織の一員です。
この国の中枢に入り込んで暗躍している組織です。
彼らの組織は昔、協会の一派閥だったので、今でも協会内に影響力が残っているんです。
ああ、安心してください。
ルーヤファーレスさん・・・あの熱苦しい人は、今回の件とは無関係です。
彼は正道派の人間で、協会を良くしようと努力をしている人なので、協会では珍しくまっとうな良識派です。
彼の語った言葉に嘘はないと思いますよ。
・・・取り巻きのリックさんは、彼の父親がトリトギスタンの信奉者で、彼自身も隠れトリトギスタン派に所属しているようなので、アヤトさんを協会に入れたら、ルーヤファーレスさんにばれないよう、そのまま組織に引き渡すつもりだったようですが・・・。」
セネカはリックを前に突き出し、言う。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ぞっとした。
その言葉のどこに安心できるんだ?。
縛られた黒ずくめの男達は口汚くセネカを罵っている。
その中に気になる言葉が・・・。
「この魔王め、お前ら魔王集会が余計なことをするから、我らもこんな無茶をしなければならなかったのだぞ。」
「・・・・・・・・・お前魔王なのか?。」
「いいえ、違います。
私は魔術集会所属の魔術士で、【準魔王】として登録されています。」
「魔王集会とか言ってるが・・・?。」
「魔術集会は、数十年前まで魔王集会という名前でギルド活動していたんですよ。
集会のはじまりは、強い力を持つ魔法使いが、国の圧力から身を守る為に集まって協力しあったことです。
それが組織になったんですが、在野の強い魔法使いが集まっただけの集団だったので、組織的には勢力が弱かったんです。
それが数十年前から勢いを増し、力をうまく扱えていない魔法使いの保護、違法な魔法の行使の取り締まり、強大な魔力・魔道具の管理、古代遺産の管理・研究など幅広い分野に力を入れ、ギルドとしての勢力を拡大させているんです。
その為、今も魔術集会では、最上位魔術師は【魔王】を名乗っているんです。
「お前は違うのか?。」
そう聞くとこいつは魔王にぴったりだ。
「はい。
その為に留年してまで学生をし・・・・・・・・・・・・
私の力が足りないばかりに、試験に落ち、魔王にもなれず、【準魔王】として勉学に勤しんでいるのです。」
はっきり言った後、言葉を付け足す。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
いや、だから・・・・・もういいや。
溜息をつく。
「何か?。」
「でも・・やっぱり普通の人間じゃなかったんだな。」
アヤトはしみじみと言う。
「何を他人事のように言っているんですか?。
アヤトさんも、私と同じ魔術集会の【準魔王】ですよ。」
「はっ?。」
「ちゃんと登録されているでしょう?。
証のメダルも首に下げています。
そうじゃないと、アンデッドが狩られもせずに学園に通えるわけがないじゃないですか。
集会が、保護しているから無事でいられるんですよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
へっ!?、・・・・・何それ。」
( ・・・聞いて無いんですが!。)
いつの間にか【構成員】?。
異世界の魔術ギルド、怖い。




