**ダンジョン怖い(後)
2日目の3層は魔物が少なかった。
昨日大分狩ったというのもあるが、今日はシャロやデューク・イシュカが積極的に狩ってくれているのが大きい。
木の幹に張り付いたヤモレオンを槍の穂の先で仕留める。
それで油断していたのか、下から飛び出てきた鰐猫に対処出来なかった。
アヤトは体を捻り、槍を持ったままの左手で鰐猫の大きな口を受ける。
とっさに右手を槍から離し、拳をつくる。
鰐猫の首の付け根に思いっきり叩きつけて、ようやくアヤトの左腕から顎が離れる。
一度噛みついたら、なかなか離してくれないのがこの鰐猫だ。
ギュュゥウゥ・・。
鰐猫はすぐに襲って来ないが、鳴き声が変わる。
アヤトは警戒したが、攻めてこない。
今のうちに右手の指で左腕の噛まれた痕を確認する。
その間も槍の穂は鰐猫に向けたままだ。
この服型の革鎧の素材も堅い。
傷やへこみ・歯形は見られるが、穴などは空いてない。
その下のマネキンの鎧にいたっては、傷の一つも付いていない。
革越しにも相当な力が掛かっていたし、手首などの服の隙間は、爪や牙など引っかかっていたのだが・・・。
何で出来ているんだ?、このマネキン、本当にドラゴンの骨とか使っているんだろうか。
急に鰐猫が苦しみだし、暴れる。
呆気にはとられたが、思わず槍で止めを刺す。
腰は少し引けていた。
本当に何で出来ているんだ?、これ!。
毒でも塗ってあるんじゃないだろうな?。
鰐猫が消えた跡を指さす。
後ろで護衛をしてくれているセネカを振り向くと、きょとんとしている。
「呪われただけですよ?。」
軽い感じで言っているが・・・全然軽くないからな!。
さらに詰め寄ろうとしたが、さらに2匹の鰐猫、1匹はセネカの水の刃で切り裂かれたが、もう一匹はもう目の前なので、上から首根っこを押さえる。
魔物は、何としても嚙みつこうという勢いだ。
すごい力、筋力強化魔法の魔力を上げる。
前脚の爪で何度も引っ掛かれるが、アヤトの腕に傷が付いた様子はない。
( いける。)
さらに力を入れて首をへし折る。
魔石を拾ってその場を離れる。
このマネキンの鎧、筋力強化の魔法が付与されているのもだが、浄化魔法が付与されているので、魔物でも遠慮なく触れるのは助かる。
そうでないと、多めに魔力を纏ったり、浄化の魔法を掛けてないと、魔素の毒で触れない。
ただ、直接、手を下さなくてもいいよう、もう少し手伝ってくれても良いと思う。
少し恨めし気な目でセネカを見てしまう。
「ほら、早く食材を集めますよ。」
もちろん取り合ってくれない。
アヤトはマンゴーのような赤い果物をさけ、ザクロのような青い果物に手を伸ばす。
セネカめ、呪いについては後で絶対、詳しく聞かせろよ。
パーティーの仲間がいるので長物の短所を補ってもらえるが、ダンジョン内1層・2層の洞窟のような場所では、槍は使いづらい。
広い空間をもつ3層に来て動きやすくなった。
ただ、この3層でもヤモレオンのような小さい魔物を前にすると、鉈があったらな、と思う。
セネカが言うには、鉈はこっちの世界でよく使われている武器の一つだそうだ。
その利点は、手入れのしやすさにある。
普通の剣は、鉄を鋳型に入れてつくられるので切れ味は鈍い。
切るよりも、叩き切ることに重点が置かれている。
剣もまっすぐなのが多い。
それは、つくるのが簡単で大量生産がしやすいからだ。
つまり、安くつくれる。
こっちの世界にも当然、鉄を叩いてつくったり、湾曲した刀身で刃を滑らせて切るタイプの剣、日本刀のような刀など、その他様々な剣がある。
それらが広く普及していないのは値段が高いからだ。
人間同士が相手の傭兵の場合は、リーチの長い槍や取り回しがいい剣を持つものが多い。
それは、人間同士の戦いの場合、当てれば勝ちだからだ。
刃が有ろうが無かろうが、当たれば倒せる。
人間同士なら一撃入れれば、それでたいていの勝敗は決まる。
騎馬している場合、馬から落ちただけでも戦えなくなる。
なので、攻撃力より操作性の高い、当たる武器の方が重宝される。
一方、冒険者は斧や大剣を武器にする者も多い。
それは操作性より一撃の威力が大事だからだ。
魔物によっては、生半可な攻撃では傷も付けられない相手がいる。
大型の魔物になるほどその傾向は顕著だ。
その場合、盾役や軽戦士が魔物を引き付けている間に、魔法使いの魔法や戦士が重い一撃を入れて倒す。
それを可能にするのが、鋭利な刃に鉄の塊の質量と遠心力を乗せて、重い一撃を繰り出すことが出来る武器だ。
魔物の硬い体にぶつけても打ち負けない肉厚の武器が人気なのも、戦いの最中に折れる心配がないからだ。
鉈や人切り包丁と呼ばれる肉厚の剣などの類いは、剣と斧の長所を取り合わせた武器で、冒険者の間での人気は高いらしい。
ちなみに棍棒やメイスも人気がある。
これも高い攻撃力とお手入れの簡単さからだ。
一方、貴族達の間では人気がない。
鉈やこん棒は敬遠される傾向がある。
貴族に人気がある鉄を叩いてつくる美しい剣や刀は、手入れが面倒で維持にお金が掛かる
細く・軽く・強く・切れるが、研ぎに出したり、専用の油で磨いたり、軸が曲がっていないか職人にみてもらったりと、とにかく維持費が高い。
刀で鉄を切る斬鉄という技がある。
ただ、これ、実はやりたがる人は少ない。
斬鉄をやると多くの場合、刀の内部がボロボロになり、剣として使い物にならなくなるのだとか。
剣の道場の弟子の勧誘に斬鉄を実践する人物もいるが、表面上は澄ましていても、心の中では泣いていたりする。
高い武器が、見世物の技の一度で使い物にならなくなれば、弟子集めの為とはいえ、それは泣くだろう。
上位の魔物も同様で、その一匹を倒すのに高い武器が必要で、一度の戦闘でその高い武器は使い物にならなくなるか、メンテナンスに莫大な費用が掛かる。
それはミスリルやオリハルコンの剣でも同様だ。
鉄をはるかに超える強度と耐久性、魔力伝導性を持っていようが、いつかは刃こぼれするし、軸が歪みもする。
相手が強ければ強いほど武器に掛かる負荷も強くなる。
それをメンテナンスするには、より専門性を持った職人が必要で値が張る。
必然、そういう物を持てるのは貴族や大商人・稼げる高ランクの冒険者ということになる。
前線にいる普通の冒険者に縁はない。
頻繁に手入れが必要になるような武器を手に入れることが出来るのは、貴族か上級冒険者になってから、というのも頷ける話しだ。
世知辛い話しである。
アイテムボックスがあったら、鉈を手放さないで済んだのに・・・・。
まだ未練がある。
・・・が、ナイフは持ってるし、ミスリルの槍を貰っておいて贅沢は言ってられない。
この槍を大事に使うことにした。
物は使ってこそ大事にするということである。
少しくらい、芋を掘る際に使用しても、使わないよりも良いはずだ。
誰かに後頭部を殴られた。
近くに誰もいないはずなのに。
クソッ、セネカか。
辺りを見回したがやっぱり誰も見つけられなかった。
ある程度人間に益のあるダンジョンは、領主や国などによって管理されているし、そうでなくても道が整備されている場合が多い。
このダンジョンと町との間にも、それなりに立派な道がある。
それは、ダンジョン産の素材や道具、鉱物などが富を生むからだ。
町にとっては大きな収入源になる。
だいたい全ての城塞都市は、町の中心か高台などの防御がしやすい場所に領主や貴族の館、その周りに商人や裕福や住民の住む地域、さらにその周りに庶民が住む地域が広がり、更にその周りには畑が広がっている。
門から町の中心部まで続くメインストリートに商店が並ぶが、商業ギルドが町の中心近くにあるのに比べ、冒険者ギルドは門近くにあることが多い。
これは、町の中心部に獣や魔物の解体場をつくることが難しいことと、獣などは傷む前に解体する必要があるので、門に近い方が良いからだ。
それに・・・町の中心に動物の死体を持ち込まれても困る。
こっちの世界、外は魔物がいて危ないので、町は城壁で覆われている。
畑なども城壁の中にある。
ただ、そうなると家畜を育てることが難しい。
スペースが少なく、畜産が大規模にはなりにくいのだ。
大体どこでも、畑の合間に数頭の牛や豚を飼う程度になる。
それか、国や貴族が馬などを育てるかだ。
なので肉は、壁の外で狩りをして確保するのが一般的だ。
狩りをする狩人も冒険者のくくりになっている。
理由は壁の外に出るからだ。
町から出て魔物がいる所で戦う人は、冒険者という扱いだ。
冒険者の定義が大分緩い。
ダンジョンでは、魔物の死体がすぐに消えるし、魔炭も取れない。
その代わり、外よりも魔石が大きい傾向があり、素材も残りやすい。
つまりダンジョンの方が稼ぎが良い傾向がある。
宝と呼ばれる、人間にはつくれない道具、鉱物や宝石などが産出されるのも大きい。
人間には毒となる魔素や瘴気といったものも、すぐにダンジョンに吸収されて無い為、浄化する必要がない。
つまり、魔物の処理が楽なのだ。
当たり外れはあるが、一発当てれば『でかい』というのも、ダンジョンが人気の理由だ。
何より良いところは【継続性】にあるという。
ダンジョンにはそれぞれ特性があり、そのダンジョンで取れる物は似通る傾向がある。
このダンジョンでは、ウロコや薬の材料、このダンジョンでしか産出されない宝石など。
同じような素材が継続的に採取されるのは、商業がやりやすく、職人も定着しやすい。
このウロコの場合、鎧などの材料にされる。
自然の狩場の場合、狩り過ぎればウロコは取れなくなり、鎧をつくる職人は路頭に迷うことになる。
それが無いというのは大きい。
それに、ダンジョンごとに特徴が違うということは、ここでしか手に入れられない物があるということだ。
それを求めて商人が寄って来る。
ここでは、鱗や革、肉や豆・葉・〇〇が取れ、豆の鞘や植物の蔓さえ利用できる。
セネカは説明する。
今回の目的は、アヤトさんがダンジョンに慣れること。
もう一つは、アヤトさんにダンジョン産の食材を食べてもらうこと。
後ろで調理を進めながら、いい笑顔で肉を出すセネカ。
「アヤトさんが、まだ味が分かるうちに食べてもらいたいので。」
これは恐る恐る食べた。
余談だが、肉はおいしかった。
良くなかったが、この時までは、まだ良かった。
言い忘れていたが・・・このダンジョンの3層、少ないけれども虫もいる。
一つは、緑色の木の葉の形をした虫で、大きさも葉っぱサイズだが、葉っぱの淵の部分が刃物のように切れるので、注意してないと皮膚が切れてしまう。
戦闘中にうっかり触れて切ると、パニック注意だ。
戦闘後に、気付いたら血が出ていたとかもあるらしい。
もう一つが〇い芋虫だ。
これも緑色の葉っぱに紛れて見つけにくい存在だ。
数も少ないそうだ。
「漢方?、高級食材?、ですよ・・・・・健康の為です。」
明らかに適当な、健康食品を売りつけそうなトークを並べている。
体が動かない。
「来るな・・・・・・。」
止めてくれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・ 話しは飛ぶが、この青い芋虫、
「ゲテモ・・・・珍味好きの食通や、薬・錬金術の材料として高値で取引されているんですよ。」
とのことだ。
高いからどうした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
絶対、ゲテモノ料理って口にしてる、よな?。
串に刺さっているのは、青い芋虫を焚き火の火であぶった(食べ)物、俺の心にもトラウマの苦史が刺さる。
アヤトは渾身の力で魔法を操ったが体は動かなかった。
死霊魔術の修行を頑張ろうと心に誓う。
鈍いがセネカの言葉を心に刻んだ。
「アヤトさんは死霊魔術の修行をもっと頑張らないと。
今のアヤトさんの体は、外部からの魔法の干渉を受けにくくなっているので、本来は操られたりすることはありません。
普段から頑張っていれば、このように操られても【抵抗】出来たんでしょうが・・・。」
ネタネタした何かを噛みながら・・・恨めしそうに睨む。
うっうっ・・・怖い。
・・・・・・思い出したくない。
ダンジョン怖い。
やっぱりダンジョンなんか、来たくなかった。




