**ダンジョン怖い(前)
洞窟の前に2人の門番(?)が立っている。
近くには小さいが詰所もあり、笛を吹けば応援が来るそうだ。
大きくて有用なダンジョンだと、ダンジョンの周りに町がつくられたり、城壁が築かれているそうだが、ここのように小さいダンジョンでは、門番が立つ程度だ。
門番は、ダンジョンに異変があれば上に報告する為に居るが、一番の目的は中に入る人からお金を徴収することだ。
アトラクションじゃないんだし、自然にあるものに入るだけでお金を取るなんて、世知辛い世の中、いや、異世界だ。
入場料を取ってない所もあるし、管理されていないダンジョンもたくさんあるそうだが、ここでは取っている。
自分がお金を払うわけではないが、何か納得がいかない。
ここは領主によって管理されているダンジョンで、管理されるダンジョンはある程度稼げるダンジョンか、危険なダンジョンである場合が多い。
まあ、取れる素材や宝など、外れの多いダンジョンで入場料を取っても、冒険者は集まらないだろうから納得は出来る。
納得出来ないのは、ダンジョンに入らないといけない今のアヤトの現実の方だ。
町を出て歩くこと1時間・・・。
「この先にダンジョンがあるので、今日はそこを冒険します。」
いきなり言われても心の準備が出来ていない。
アヤトはそのことを訴えるが、
「どうせ、いつまで経っても心の準備は出来ませんので大丈夫です。
いつかは入らなくてはいけないので、諦めて今日入ってください。」
セネカはにべもない。
仲間(?)に目を向けると、シャロは手を振り、デュークとイシュカは目を逸らした。
「いや、俺は暗いところが苦手なんだ。」
いいわけをする。
ウソは言っていない。
以前、洞窟に囚われていた影響で、暗くて狭い場所は、入れないほどではないが、嫌いである。
長い時間は居たくない。
「大丈夫、パーティーの皆もいるので、ここで克服しておかないと一生入れなくなります。
このままではデュークさんのように、無理矢理放り込まないとならなくなります。
あそこは縦穴型の迷宮だったので、上から落とすだけで済みましたが、これから行くダンジョンの場合、アヤトさんを眠らせ縛って放置するのは気が咎めます。」
ん?、何か前提がおかしい。
咎める前にお前が罪を科められろよ。
それに、デュークはすでに放り込まれたかのように聞こえるが?。
デュークとは目が合わなかった。
イシュカはセネカの方を睨んでいる。
再びセネカの方に視線をやると、門番にお金を払っている。
やっぱり納得がいかない。
「ほら、すでにお金を払ってしまいましたし、今さら入るのを止める気はありませんよ。
一人でダンジョンの奥から帰って来るか、みんなでダンジョンを冒険するか、選んでください。」
セネカは本気だ。本気で最厭だ。
マジに起きたらダンジョンの中というのも有り得る。
しぶしぶ足を前に出す。
最後の抵抗に、
「俺だって言ってくれたら、少しは心の準備をしたのに・・・。」
「事前に話してたら逃げてたでしょう。」
セネカは呆れたように言う。
「もちろんだ。」 アヤトは胸を張って答えた。
「アヤトさんも、こっちの世界に来て1年が過ぎているんですよ。
そろそろこっちの世界に慣れようとしてください。
このダンジョンも、ごくありふれたダンジョンですので、危険も少ないです。
まず、ここでダンジョンに慣れてください。
このまま変にダンジョンを意識して、トラウマになってしまっても困るので、サクサクと行きましょう。
歩きながらですが、ここのダンジョンについて説明します。
アヤトさんは先頭を歩いてください。」
しぶしぶ前を歩き出したアヤトは、前に突き出した槍を左右に振りながら進む。
少し挙動不審だが、怖いものは仕方がない。
「ダンジョンには罠があることがあります・・・」
セネカの言葉。
アヤトの足が止まる。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・ですが、ここのダンジョンは、罠がほとんど無いことで知られています。
このダンジョンが、それなりに人気がある理由の一つです。
新人やソロ冒険者でも入りやすいです。」
「・・・・・・・・」
わざとやってやがる。
何でも罠があると盗賊や罠の知識がある人を連れて行かないと危ないらしい。
パーティーのメンバーに盗賊がいれば問題ないが、いなければ雇うか、自分で
勉強するか、どちらにしてもハードルは上がる。
歩くこと数分、直現れたのは魚人みたいな二足歩行の生き物だ。
顔はカワハギのように魚っぽいのと、口はやけに大きく尖った歯が目立つ。
手足の爪は鋭く、体はウロコで覆われている。
けっこう素早い動きで迫って来たが、ずっと気を張っていて準備は万全だったのと、出て来たのが一匹だけだったので、渾身の力で前に出した槍の一撃で終わった。
倒すと死体が消えていくので心理的にはましだが、人型を殺すのは嫌だ。
「このダンジョンの浅い階層にいるのは魚人もどき、何故もどきかと言うと顔は魚ですが、特徴は爬虫類だからです。
鱗はそれなりに硬いので剣が効きにくく、それなりに厄介です。
まあ、ここの人は普通に魚人と呼んでいるそうですが。」
そういう説明はモンスターが出る前に言え。
アヤトはさらに警戒を強めて湿った洞窟を見回す。
ここの洞窟は以前閉じ込められていた洞窟より明るい。
洞窟自体が淡く光っているような感じだ。
後ろのパーティーメンバーはゆっくりと付いて来るが、もう少し手伝う素振りをみせてくれてもいい気がする。
「ダンジョンにはそれぞれ特徴があります。
出る魔物や素材、宝など・・・・・・あと、水や食べ物です。
今回、目的地で何泊かしますが、食べ物は持ってきていないので現地調達します。」
「おい!。」
聞いていない話しが出て来た。
元から、ここに来る話しも聞いていなかったが・・・。
「それと・・・基本、ダンジョンの物は口にしないでくださいね。」
「いや、言っていることが矛盾してるぞ。」
「まあまあ、もう少し進んだところで詳しく説明しますよ。
それより早く前を進んでください。
今回、私達は付き添いのつもりなので、アヤトさんが進まないと、いつまで経ってもこのダンジョンから出られません。」
アヤトは諦めて先に進む。
アリの巣のようなダンジョンにいる魚人は、ゴブリンより体が大きく、皮膚というか鱗が硬いので手強いが、複数と遭遇した場合はパーティーメンバーが手伝ってくれるので、思ったより問題がなかった。
槍で切ると一撃では倒せないが、傷は付けられるし、傷を負った魚人は、距離を取る為に離れてくれる。
槍を突くと、当たり所が良ければ一撃で倒せる。
横穴から出て来た時は焦って槍の刃を滑らせてしまったが、それ以外はおおむね順調だ。
問題は、この魚人がゴブリンと同じく人型ということだ。
あまり慣れたくない。
大分、人間の姿からは外れているが、それでも、これを嬉々として殺せる自分にはなりたくない。
魔石とウロコを拾いつつ、そんなことを思った。
魚人の顔を殴る。
次の魚人から顔を離さず、腰を落として地面の槍を拾う。
急に接近され、どうしても駄目だったので、槍を離し直接殴ったのだ。
倒れた方の魚人の顔は崩れ、すぐには襲ってこない。
両腕が骨になってから、腕力・握力はかなり増した。
そのまま下から上、下に振りかぶった槍を叩きつける。
倒れた魚人が消える。
爪を受けた左腕にも、右の拳にも傷は無さそうだ。
このマネキンの腕の良いところは、生身の腕と違い、攻撃を受けても平気なところだろう。
自分の骨の腕だと折れそうで怖いし、自分の骨と魔物が直接触れたり、傷が付くのは気分が良くない。
このマネキン鎧、本当にドラゴンの骨から出来ているかは分からないが、恐ろしく頑丈だ。
これなら遠慮はなくはないが殴れる。
槍は取り回しが悪い。
再びしっかり槍を構え、突く、払う、駄目なら逸らす。
洞窟の中は槍を振り回すのに向いてないが、パーティーでの活動なら仲間がフォローしてくれるので、何とでもなる。
いざとなれば、槍で牽制して足で蹴る。
靴は厚い革製だし、脛の部分には頑丈な革の素材が当ててあるので、相手の爪や突起が当たっても平気だ。
槍を横薙ぎすると、魚人が体をしゃがめて、飛び掛かってくる。
アヤトは左手でわざと大きく槍を外に振り、空けた右手で魚人の首を掴む。
グギュ。
首がへし曲がる。
「うへぇ~。」
握力も上がったが、霊体の手を重ねて握る力を強化している。
死霊魔術の、招く手、を習得してから出来るようになった技だ。
感触が嫌なので、出来るだけやりたくないが、攻撃を直接受けるよりはましだと我慢する。
魚人の爪で服が何か所か破けているが、革鎧の服の部分は破損はない。
傷は受けていない。
それにしても、全身骨になってしまったら、攻撃も効きにくくなるんだろうか?。
こっちの世界に来た時よりも強くなっている気がするが、強さの方向が違う気もする。
俺の予定では、かっこよく異世界無双するはずだったんだが・・・・・。
あの洞窟でうつ・・・・・・夢見ごちになっていた時の話しだが・・・。
このダンジョンに入って半日くらいで、
「アヤトさん、もうすぐ3層に出るので、その前に少し休みましょう。」
ようやく、代わり映えのしないこのアリの巣のような洞窟に変化が起きるらしい。
パーティーメンバーと水筒の水を飲む。
何か固形物を口に入れたいが、食料は本当に何も持ってきていないらしい。
思わず、アヤトの表情が苦くなる。
その顔を見てセネカは笑った。
「3層では皆で食料を探しますね。」
目の前にあるのは森だ。
空の景色は薄い紫で、明るい。
太陽のような明るさではないが、蛍光灯で照らしたくらいには明るい。
昼に思える。
( どうなってんだ?、ダンジョンの中は?。)
空気は熱く、湿気はきつい、森は熱帯雨林系だ。
獣道がいろんな方向に広がっている。
人の手が入っていないジャングルに見える・・・広い。
さっきまでジメジメしていたのに、今度はムシムシした空気に戸惑いながら後ろを見ると、セネカが口を開く。
「ここでは食料を探すのを優先します。
ここは川や泉もありますが、水は飲まないでください。
青い色の、固まった溶岩のようなもので出来た岩場に、湧き水が湧いているので、そこから水を汲みます。
食べ物も青い実や青い蔓・葉を探してください。
青い蔓は、根元を掘ると青い芋のような物が採れます。」
「青いって、それ食えるのか。」
「食べられます。
逆にいうと、それ以外は食べられません。
おいしそうな赤や黄色、オレンジの果物もありますが、それら全ては毒か、食べると化け物になります。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
いや、何それ、怖すぎるんだけど。
「あなたの世界の黄泉平坂や冥界のお伽話にも、そこの物を食べると二度と地上に帰れなくなったり、その世界の住民になってしまうという話しがあるでしょう。
それと似たようなものです。
このダンジョンでの食べ物に関しての特徴は、青い色をしている物は食べても安全ということです。」
「何でなんだ?。」
アヤトが不思議がっていると、
「簡単です。
一種の生存戦力です。
遺跡型や創出型のダンジョンとは違い、これらのダンジョンは生きています。ダンジョン自身が一つの小宇宙、生きた別世界のような存在です。
「別世界って異世界なのか。」
アヤトは少し期待する。
「違います。
この世界の中に内在する小さな別の世界のようなものです。
生きた世界、空間型の魔物のような存在です。
その特性は、
・魔物のように核があります。
これはダンジョン核と呼ばれています。
・物を食べます。
ダンジョン内に生活する虫や入って来た動物、冒険者が餌です。
龍脈の気や魔素、人間の感情もエネルギー源にしますが、中で死んだ人間や動植物の体や魂などが好物だと言われています。
それらを取り込んでダンジョンは成長します。
・物をつくります。
存在している空間から物質を集めて鉱物や宝石をつくったり、ダンジョンの持つ不思議な力で剣などの道具・罠・魔物をつくります。
ダンジョンを的確に表現すると植物が近いといえます。
つくるのは作物ではありませんが・・・・つくった物はまあ、餌を呼び込む疑似餌ですね。
動物なんかは、水や食べ物など環境を用意すると勝手に集まります。
それでも、一番集めやすい餌は、やはり人間ですね。
金目の物を置いておくと、うじゃうじゃ寄って来ます。
ダンジョンと似た存在に、怪獣がいます。
違うところは動くところです。
ダンジョンの動物バージョンのようなものですね。
怪獣も核を持ち、再生能力が異常で、だいたい巨大です。
能動的に動いて他の存在を食べてしまいます。
まさに、動くダンジョンです。
こちらの方の説明は今はいいでしょう・・・いずれ。
話しを戻しますが、ダンジョンにはルールのようなものが存在します。
このダンジョンに関しては、ここの食べ物は食べてはいけないが、青い物は食べても安全という風に。
どれを食べればいいか区別がつかない。
食べれそうな物を口に入れたら死んだり化け物になるような場所なら、人は怖がって近づかなくなるでしょう。
ダンジョンも食べないと死んでしまいますから、人間が入って来なくなると困るんですよ。
太陽の光ではなく魔力を、養分として人間を・・・必要としているのです。
その点、青い色は大丈夫と知識があるだけで、大分入りやすくなるでしょう?。」
「・・・・・・・・・」
全然入りやすくないわ。
怖いわ、ダンジョン!。
異世界のダンジョン怖い。




